悲劇を招いたデジタル遺品の実例【正しいデジタル終活術:第1回】

2015.12.19

ネット資産で遺産がチャラに、思い出のブログが荒れ放題に──。

人が死ぬと、この世には思い出とともにその人の遺品が残る。遺品は法律に則って引き継がれるものと破棄されるものに分けられるが、なかには気づかれないまま放置されてしまうものもある。その典型例ともいえるのがデジタルで存在する遺品──「デジタル遺品」だ。スマホの中やネット上に遺されたままになっているデジタル遺品は、遺された人々と故人の名誉にどんな影響を与えるのだろうか。

故人が遺した最後の言葉が厳重なセキュリティ構造に阻まれる

デジタル機器やインターネットの使用頻度は人によって差があれど、老若男女問わず、いまの日本でこれらをまったく使わずに生活するのは至難の業だ。家族写真といえばいまは紙焼きよりもデジカメ写真が普通で、それらはスマホやパソコンなどのデジタル機器に保管されていることが多い。SNSには近づかなくても大抵の人はショッピングサイトや会員向けサイトを利用しているし、ネットでしか受けられない行政サービスも増えてきている。

「デジタル遺品」というとなんだかサイバーチックでニッチな存在と思えてくるが、実はほとんどの人が遺しうる持ち物(あるいは痕跡)だ。ありふれた存在でありながら、普通の物質的な遺品と違って本人以外の人には気づかれにくい特徴があり、それが悲劇の引き金になることもある。

まずは筆者の身近で起こった事例をひとつ採り上げたい。

【ケース01】スマホに遺したメッセージや写真、連絡先が闇の彼方へ

メーカーに勤めるAさん(39)は、闘病の末に亡くなった母が遺していったスマホにアクセスできずに悩んでいた。そこには危篤に陥るまで頻繁に撮っていた日々の写真や動画が入っており、生前の母の口ぶりから家族ごとに何かしらのメッセージも保管しているらしかった。しかし、スマホのパスコードがどうしても分からず、それらのデータにいまだ触れられていない。近しい人への連絡先も詰まっているはずだが、葬儀前に開けられなかった。micro SDカードは挿していないので、すべてのデータは本体の中だ。

何度かパスコードを試しても一向に開かず、Aさんは四十九日が過ぎた頃に断念。キャリアショップに相談しても、対応してくれるのは契約の解除と、端末を初期化したうえでの承継(故人から引き継ぐこと)のみだったので、いまは諦めて押し入れにしまったままにしているそうだ。

 

次は筆者がライフワークとしている、亡くなった方が遺したサイトの追跡調査の一例をとりあげたい。拙著『故人サイト』(社会評論社刊)の掲載事例だ。

04

コメント欄がスパム業者による自動書き込みで埋まり、遺族や友人の追悼コメントが埋没している事例は枚挙にいとまがないが、人の手による荒らしはさらにやっかいだ。

【ケース02】飲酒運転と誤解されたまま世に残る未成年のツイッター

2014年当時高校3年生だったBさんは彼女とバイクで走行中、前方不注意で右折してきた対向のワゴン車にぶつかって命を落とした。事故のニュースはまもなく複数の新聞社系サイトに上がり、報道された氏名から、Bさんが実名で登録しているツイッターアカウントが紐づけられるようになる。そこに飲酒や喫煙をほのめかすつぶやきが残っていたことから、野次馬の格好の餌食となってしまった。

最初に貼られた「飲酒喫煙した未成年」というレッテルは、まもなく「飲酒運転の末に事故で命を落とした未成年」という誤解に悪意をもって歪められ、事情を知らない野次馬をさらに呼び込んでいった。生前からBさんを知る友人がいくらいっても勢いは数日間止まず、1年経った現在もその焼け跡を残している。

 

パソコンの中の不倫ファイルがすべてをブチ壊す

さらに遺族に直接的な実害を与えた事例もある。日本セキュリティ・マネジメント学会で常任理事を務める萩原栄幸さんが、著書『「デジタル遺品」が危ない』(ポプラ社刊)で採り上げた以下の事例が象徴的だ。

01 02+
2015年10月にポプラ社から刊行された『「デジタル遺品」が危ない』と、著者の萩原栄幸さん。情報セキュリティの専門家だが、終活カウンセラーという顔を持っている。

【ケース03】真面目な亡夫のパソコンにあった禁断のファイル

Cさん(60)は、心臓発作により61歳の若さで急死した夫の葬儀や納骨を取り仕切ったあと、寂しさから夫婦の思い出の写真を求めて夫が遺したパソコンを開いた。写真は日付ごとにきちんと分類されていたが、そのなかに「シークレット」というフォルダを発見。気になって開いてみると、夫婦旅行の後に同じ場所を訪ねたとみられる夫と誰か知らない女性の写真が大量に保存されていた。結婚して35年。真面目で愛妻家だった夫の姿が霧散し、Cさんは2週間寝込んでしまったという。

 

「ここまでかっちり記録している例は私もあまり見たことがないですが、男性はこの手の写真を捨てられない質の人が多いので、類似のケースはそう珍しくありません」と萩原さん。

【ケース04】夫急死の当日に、FXで1500万円の損失が発覚

Dさん(62)は、67際の夫を交通事故で亡くした当日に、FXの取引会社から連絡を受けた。電話口の男性は、いきなり亡夫が1500万円の損失を出したことを伝えてきたという。FX口座を持っていたことすら知らなかったDさんは大いに驚いた。しかし、これは詐欺電話でなかった。その日は2015年1月15日。後にスイスショックと呼ばれる相場が大きく揺れた日で、すでに死亡している夫の取引はその影響をもろに受け、ロスカットが間に合わずに大損失を被ることになってしまったという。現在Dさんは弁護士に相談中とのこと。

 

遺族には相続放棄という手段が使えるため、この借金を丸々背負わされることはなさそうだが、相続放棄すると他の財産も引き継げなくなる。Dさんの案件の結果はまだ出ていないが、家や不動産が夫名義の場合はそれらも手放さなくてはならなくなる公算が高いだろう。家族に内緒で取引していたFXによって、家族に相続すべき財産のすべてが無になってしまうわけだ。

類似の事例を多く目の当たりにしてきたという萩原さんは「あなたが稼いだお金はあなたのものじゃありません。あなたが亡くなった後に家族が安定して暮らせるための財産です。そういう意識を持たないと危険です」と警鐘を鳴らす。

 

上記の4つの事例は、ケース01と03が端末内部の出来事、ケース02と04がインターネット絡みの出来事という分け方ができる。すなわち、オフラインとオンラインだ。この区分は、デジタル遺品を考えるうえで重要だ。次回はオフラインとオンラインに分けて、対処すべきデジタル遺品の性質を整理する。

 

文/古田雄介

関連記事

「正しいデジタル終活術」連載一覧


この記事が気に入ったら
いいね!しよう

DIGIMONO!の最新情報をお届けします。

おすすめ記事

AUTHOR

  • 古田雄介

    古田雄介

    1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。2015年12月に、書き手が亡くなった103件のサイトの事例を紹介した書籍『故人サイト』(社会評論社)を刊行。