ネットに残された悲劇の遺構めぐり「ネットのダークツーリズム」は可能か?

世間を騒がせた連続殺人事件
被害者ブログに心の機微が残る

結婚を匂わせて中年から高齢の独身男性に近づき、貢がせるだけ貢がせたのちに殺す。そんな連続殺人事件が発覚し、木嶋佳苗容疑者(当時)が逮捕されたのは2009年8月。最後の犠牲者とされ、事件を白日の下に晒すきっかけとなった「トーマシールド」さんのブログは、いまもネット上で公開されている。

氏はプラモデルの世界で知られた存在で、2007年8月にスタートしたブログでは、得意とする装甲戦闘車両の模型を中心に制作過程を細かく紹介している。内容はほぼプラモデル一色で、プライベートや仕事のことにはほとんど触れなかった。

そんな硬派な空気が変わり始めたのは2009年7月のこと。完成した作品に洋酒の瓶を添えて見せ方を工夫するなど、にわかに色のある演出が見られるようになった。

2009年7月6日の戦車模型完成日記。それまでは作業机の上に置いた完成品を撮るだけだったが、ここで初めて洋酒を添えるといった演出が入った。通して読むと、日記の文章にも色が差しているのがわかる。

2009年7月6日の戦車模型完成日記。それまでは作業机の上に置いた完成品を撮るだけだったが、ここで初めて洋酒を添えるといった演出が入った。通して読むと、日記の文章にも色が差しているのがわかる。

その3日後の日記では私生活に言及し、これまでのようなペースで制作できなくなるかもともらし、8月5日には決定的な告知を打った。

「実は41歳のトマちゃんは婚活中でしてw つか今日相手のご家族と会うのです。ここ最近ずっと相手と新居を探したり新生活のことを話し合ってるんです。今夜から2泊3日で相手と婚前旅行に行きます。」

彼が埼玉県の駐車場にあった車両内で発見されたのはこの翌日。死因は車内で焚かれた練炭による一酸化炭素中毒だった――。

故人の考えを深く知るのに
インターネットは有利に働く

ダークツーリズムという概念がある。歴史的な悲劇の舞台となった遺構に足を踏み入れ、その悲しみに肌で触れて学ぶというものだ。ポーランドのアウシュビッツ収容所やウクライナのチェルノブイリ原子力発電所などが有名で、毎年世界中から集まってくる訪問者を受け入れている。日本では2013年7月刊行の『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド 思想地図β Vol.4-1』(著・東浩紀氏、津田大介氏ら)をきっかけに、ここ数年で改めて広まっている感がある。

このダークツーリズムのスタンス、インターネットの世界にも持ち込めるのではと日頃から思っている。

もちろんスケールの違いはある。現実の遺構に匹敵するほどの大規模なものはオンライン上にない(今後もあってほしくない)。が、その代わりに、ネットには個人を高解像度で記録し続けるという特性がある。狭くて深い。たとえば、トーマシールドさんのブログを読み進めると、日記の内容や更新頻度から彼のまめで几帳面な性格が読み取れる。そして、彼の気持ちが揺らぎ、優先順位が変動し、行動がコントロールされたといった過程が残酷なほど生々しく浮かんでくる。

最後の投稿となった2009年8月5日の日記。新たな戦車模型に着手したばかりだった。誰でもコメントが書き込める状態になっており、2016年以降も新規の投稿がみられる。その数は2000を優に超える。

最後の投稿となった2009年8月5日の日記。新たな戦車模型に着手したばかりだった。誰でもコメントが書き込める状態になっており、2016年以降も新規の投稿がみられる。その数は2000を優に超える。

誰もが無料で発信の場を持てる時代、今後もこうした悲劇の遺構は生まれ続けるだろう。そこをダークツーリズム的な姿勢で訪れることは、闇雲に否定すべきではないと思う。

管理者も監視者も不在の旅先が
何十年も存続するのは難しい

一方で、ダークツーリズムの旅先として個々のサイトが残り続けるのはかなり難しいとも考えている。

ひとつは訪問者の問題。ネットの世界は姿が見えないので、世間の目を気にせずに立ち振る舞えるところがある。悲劇を学ぶも、肝試し的に訪れるのも、荒らしていくのも訪問者のモラルに委ねるしかない。

もうひとつは管理の問題。故人のサイトの大半は管理者が不在になっているので、荒されても防ぐ手立てがない。多くは運営側がサービスを終了したら幕を下ろすことになる。最近は耳目を集めた事件の犠牲者のページが運営側の判断で公開停止となる例も増えている。

そして、関係者の思いもある。現実のダークツーリズムでもそうだが、悲劇を思い出してほしくないという関係者の思いが伝わる場合は、配慮する必要があるだろう。

ネットのダークツーリズムは狭くて深くて、命が短い。が、意味がある。

文/古田雄介

※『デジモノステーション』2016年12月号より抜粋

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  • 古田雄介

    古田雄介

    1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。2015年12月に、書き手が亡くなった103件のサイトの事例を紹介した書籍『故人サイト』(社会評論社)を刊行。