『バーミキュラ ライスポット』の愛知ドビー社長・ 副社長に直撃「どうして炊飯器にこだわったんですか?」

2016年、これまでにない「究極の炊飯器」として注目を集めた、『バーミキュラ ライスポット』。鋳造メーカーの愛知ドビーが生み出したという経緯もあってか、一躍話題のプロダクトとなったこの製品だが、その開発にはどのようなエピソードが秘められているのか。同社の社長である土方邦裕さんと、開発担当でもある副社長の土方智晴さんに、知られざる『バーミキュラ』開発ヒストリーを聞いた。

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繊維産業が衰退し、ドビー機(自動織機)の製造が減少。経営難に陥った会社を2人の兄弟が引き継ぎ、こだわりを捨てずに起死回生の『バーミキュラ』を開発。その原点が最高の炊飯器へと継承された。

最高の美味しさは“火加減”が産み出す

愛知ドビー再生のきっかけとなったのが鋳物ホーロー鍋『バーミキュラ』の開発だった。

愛知ドビー再生のきっかけとなったのが鋳物ホーロー鍋『バーミキュラ』の開発だった。

名古屋市にある町工場から、日本初の鋳物ホーロー鍋『バーミキュラ』が誕生したのは、2010年2月のこと。密閉性と蓄熱性に優れたその鍋は、瞬く間に料理愛好家やプロから多くの支持を集め、注文してから届くまで1年以上待つという希少価値の高い鍋となった。

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愛知ドビー
社長
土方邦裕さん

それから6年──。次に挑戦したのが、ごはんを簡単に、美味しく炊ける炊飯器である。鍋から炊飯器へ。その飛躍のきっかけを同社社長の土方邦裕さんと、『バーミキュラ』などの開発も直接担当している副社長の土方智晴さんに聞いた。

「バーミキュラは、『世界一、素材本来の味を引き出す鍋をつくろう』という思いから産み出しました。野菜を美味しくするために、熱の伝わり方を考えて開発したんです。このお鍋がオーナー様の手に渡ったときに、『ごはんが、どんな炊飯器よりもおいしく炊けるよ』という声をたくさんいただきました。とはいえ、ごはんを美味しく炊くのは、正直一筋縄ではいきません。一方、その頃、私たちはまったく別の課題に直面していました。バーミキュラで『素材の味を引き出して、少ない調味料でおいしい味に決める』ためには、火加減が非常に大切なんです。そこで、バーミキュラに最も適した理想の熱源を開発したいと考えていたんです」(智晴さん)

ごはんが美味しく炊けるが、火加減調整に手間が掛かるという声、そしておかず調理のときも火加減ひとつで味が大きく変わるという事実。素材の味を引き出す鍋だからこそのシビアさが求められた。そこで智晴さんは熱源開発に本腰を入れ始める。最初はあくまでおかず調理のための熱源を考えていたが、だんだんと、ワンタッチで最高に美味しいごはんが毎日炊けたらいいなという思いが生まれていった。

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愛知ドビー
副社長 開発責任者
土方智晴さん

しかし、炊飯器となるとこれまでのように使用者はずっと側にはいない。このため、吹きこぼれが許されないという課題が生まれた。

「鍋に関しては吹きこぼれないようにするのが一番の課題でした。最終的には蓋にフローティングリッドという凹みをつくることで、鍋の中に圧が貯まったときだけ蒸気が逃がせる仕組みを作りました。いろんなアイデアがあったのですが、ギミックを付けていくと、それは『道具』じゃなくなるなと考え、『鋳物』の形状でできることだけのことを解決する手段を考え続けました」(智晴さん)

それはバーミキュラの特徴である密閉性を確保しながら、同時に吹きこぼれないという相反する要素を両立させるための挑戦だ。さらに鍋底のリブ形状も同様に改良した。ごはんを返しやすくするために、リブをなくしたりもしてみた。しかし、それでは肝心の味が美味しくなくなる。ゴールが全く見えない中、ごはん返しがしやすく、美味しさをキープするためにはどうしたらいいか? 20パターン以上のリブ形状を考え出し、時には試作品まで作り、実際に鍋を作って、ごはんを炊いてみたという。

ごはんの美味しさを追求する過程で内ぶたの裏側の造形も変化。中央のリングがあることで、ごはんがベチャつかなくなる。

ごはんの美味しさを追求する過程で内ぶたの裏側の造形も変化。中央のリングがあることで、ごはんがベチャつかなくなる。

開発期間は1年以上。ゼロからの作り直しも

それでも鍋は比較的、早く完成した。一方、『バーミキュラ ライスポット』を開発する上で大変だったのが、熱源のポットヒーターだった。

「過去の実験によると、ガスの直火だと22cm径の鍋で5合が美味しく炊けることが分かっていました。ところが、IHだとどうしても炊きムラが出てしまう。これは火力の問題ではないんです。ガスの火は周りの空気も温めているんです。それに対してIHは鍋底だけを温めている。つまり、平面加熱と立体加熱の差であることに気がつきました。だから、最終的にはIHでありながら、ガスと近い熱分布にするために、コイルの巻き方や配置にまでこだわりました」(智晴さん)

最初はすぐに完成させられると考えていたポットヒーター。しかし、炊きムラがあったり、安定性にも大きな課題があり、開発は難航した。また、ごはんは炊けてもおかずが美味しくできないといった、新たな問題も発生する。その結果、『バーミキュラ ライスポット』は実は発表から1年間発売を延期することになる。それが昨年秋の出来事だ。

試作した数々のポットヒーター。細かな部分がそれぞれ異なっており、進化がわかる。

試作した数々のポットヒーター。細かな部分がそれぞれ異なっており、進化がわかる。

「個人的には、家電メーカーのように、ひとまず発売した後、どんどん改善していくという商品にあまり魅力を感じません。うちの会社では、一度出したらそれがロングヒットになるような商品を作りたい。そういうモノづくりを大切にしています。だから、すべてにおいて中途半端なものは発売するわけにはいかない。今年買って、来年もっといい物がでる、そんなモノ作りはしたくないんです」(邦裕さん)

また、さらにユニークな特徴として、『バーミキュラ ライスポット』は、これまで『バーミキュラ』で作っていた、さまざまなおかず調理もすべてできる点が挙げられる。

「開発中に、例えば熱源の強さの関係で、炒め調理まではできなくてもいいんじゃないかな……と思ったこともありました。でも、これまで『バーミキュラ』でできる料理が、熱源が違うからってできないというのは、やっぱり納得が行かなかったんです。あくまでも家電ではなく、調理道具を作っているので、そういったこだわりは大切にしたかったんです。当然、低温調理も簡単にできますよ。ボタンを押して温度を選ぶだけです。一流のプロの方でも、自宅で使ってみたいな、簡単に出来るなと思ってくれたらいいなと思っています」(智晴さん)

鋳物ホーロー鍋としての存在感と生み出される最高の料理、その両方にこだわり続けた。その結果、最高のごはんが炊ける炊飯器であると同時に、最高の“調理道具”としても新たな進化を遂げたのだった。

背面のデザインも試作1号機と完成品では大きく異なる。普段は見ないところのデザインまでまとめられているのがさすがだ。

背面のデザインも試作1号機と完成品では大きく異なる。普段は見ないところのデザインまでまとめられているのがさすがだ。

文/コヤマタカヒロ 撮影/大久保惠造

※『デジモノステーション』2017年1月号より抜粋

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