CEO石田宏樹氏に聞く。ツタヤのスマホ「TONEモバイル」誕生秘話、そして将来像

オリジナルの道を模索する、悩めるビジネスマンのヒントになるかも。

スペック競争が行き着くところまで到達した感のあるスマホ市場。iPhoneを含め端末の性能に差が見られなくなった近年では、格安スマホを中心とした「MVNO」が、数百もの事業者による熾烈な戦いを繰り広げています。

そんな環境下で、あえてラインアップを常に「一機種一プラン」に絞り、端末開発からサービス、販売までを完全に垂直統合するという、国内外を見まわしても例のない独特のMVNOサービスを提供しているのが、TSUTAYA傘下の「TONEモバイル」。めまぐるしく変化するモバイル市場にあって、他社の動向に惑わされずにオリジナルの道を切り開くことで得られたものとは何なのか。同社CEO石田宏樹氏にインタビューしてみました。

10年前からあったスマートフォン構想

——ツタヤのスマホ、TONEモバイル(トーンモバイル)というのは、一体どのような経緯で誕生したのですか?

石田宏樹氏(以下、石田)「もともと僕は、出井伸之さんがソニーの会長だった時代からずっと、ITアドバイザーをさせていただいていたのですが、そのときにソニーの持っているモノ作りの姿勢とか、モノを含めたあらゆる物事を統合していくこととか、そういうことを経験させていただいていたんです。そんな環境のなかで、2002年に出井さんが“これから携帯電話というのはスマートフォンと単機能のものとに二極化される”という予言をされていて。いわゆる“i-mode”のような中間的なものはなくなる、と」

TONEモバイル CEO 石田宏樹氏

TONEモバイル CEO 石田宏樹氏

石田「つまり出井さんが言っていたのは、いろいろ垂直統合された産業で強みを発揮していた日本だけれど、今後統合が解体されて水平になったときに負けていくということだったと思うんですよね。だからこそ、ドコモがインフラから端末、サービスまでを垂直統合して作り上げた当時世界一のモバイルデータ通信サービス“i-mode”も統合を崩されて水平になり、じきに負けていくと」

——いまになって振り返ると、たしかに出井氏が予言した通りになりました。

石田「そんななかで、出井さんは次の時代を狙ったスマートフォンを作ろうと考えたんですね。当時のソニーには“CLIE”という、PalmをベースとしたPDA事業があって、それをやっていた担当者を携帯電話事業に配置したのです。当時、まだ世間に「スマートフォン」という言葉はおろか、今のようなかたちになるという概念自体なかったのですが、その頃から出井さんははっきりそう言ってました」

—-石田さんは、まさに出井さんの先見の明を目の当たりにしていた、と。そういうことですね。

石田「ええ。さらに出井さんは、“スマートフォンや携帯電話も、かつての自作PCのように誰でも作れるようになる”とも予見していました。それを聞いて“そうするとスマートフォンというのは、もっとも人間にとって身近なコンピュータになるんだろうな”と思ったんです。それからはムーアの法則にのっとってスマートフォンが一般的になる時期を予測し、2002年から2013年までスマートフォンに向けて動いてきた結果として、ついにTONEの前身であるfreebit mobileが誕生したんです。実に11年の歳月をかけてきたということになりますね」
 

【トーンモバイル創業期こぼれ話】

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インタビューのなかで、石田氏はFreebit時代からの歴史とも言えるさまざまなハードを見せてくれました。ハードウェア作りを内製化するために“エグゼモード”という会社を買収したという逸話も。

Freebit時代からの歴史を感じさせるデバイスの数々。

Freebit時代からの歴史を感じさせるデバイスの数々。

ちなみに、最初に作ったのはフォトフレーム。次はクラウドフォトフレーム。次にスキャナやイメージデバイス。動画を撮影できるポケッタブルなデバイスも。そうした試行錯誤の末、タブレットが作れるようになり、ある時にはWindows搭載のプロジェクター内蔵セットトップボックスも作ったのだそう。

 
石田「そして、ようやくスマートフォンが作れるようになって、記念すべきはじめての端末を作ったんです。それはまさに、11年かけた血みどろの歴史でした。これらのハードウェアのノウハウにマーケティングを組み合わせてモバイル事業に移ったというわけですね。ちなみに最新の端末である“TONEm15”は、チッブ自体もソフトウェア的にアップデートできるという珍しい技術も搭載しています」

freebit mobileとして初のスマートフォン端末『PandA』

freebit mobileとして初のスマートフォン端末『PandA』

石田「そして、2013年にMVNO(仮想移動体通信事業者)への参入コスト低下、自分たちで作ったインフラ機器が稼働できたこと、そして端末の調達が可能になったという、3つの要素が揃い、11月にfreebit mobileをスタートしたんです。最初からリアル店舗での販売を想定していたので、オンラインだけじゃなくて、店舗も今までの常識をひっくりかえすような、インターネットテクノロジーを使ったものにしたくて。そうしたことから、LTE通信とIP電話を使ったインカムを作ったりしましたね。問題が起きたときには他の店舗のスタッフ含め、みんなでインカムからの音声を聞いて、誰でも対応ができるようにしました。この仕組みはいまでもイベントのときなどに使っていますよ」

TONE独自のアプローチ、デザイナー原研哉氏から得たヒント

——TONE独自の1機種ワンプライスというのは、初めからそういう構想があったんですか?

石田「それは過去の、たとえばアップルが30機種以上を4機種に整理したというような例を参考にしたりしました。結局、携帯電話市場って、ラインアップが飽和した状態でキャリア同士がユーザーニーズを超えた勝負をする世界になっていたので、その複雑ささえなくしてあげれば、かならず市場のある一定のパイは取れると予想していました。ニッチを狙うつもりはないんですが、蔦屋書店などのデザインをしているデザイナーの原研哉氏の話で“これ『が』欲しいとか、これ『が』いいって言う『が』には強い指向性があるけど、これ『で』いい、という『で』にはいつくしみとか美しさがある”というのがあって。だから僕も妥協のない“これ『で』いい”の世界を作れないかと、原先生の本とか読んで考えてたんです」

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石田「今、パソコンをスペックで買ってる人ってほとんどいないと思うんですが、スマホの世界でもやがてはスペック競争に無理が生じるのでは? と考えていました。かつてのパソコンなど、いろいろな歴史を学んだ結果として、最初から“シンプルな1機種1プランで、かつ、それが子ども向けになったり初心者向けになったりとダイバーシティを持てるように”と、絞り込んだ技術開発をすることに決めたのです。特に子どもに安心なスマホとして大変ご好評いただいています」

——1000円という通信料や端末の価格設定には、なにか理由があったのでしょうか?

石田「これは非常に単純で、freebit mobileをはじめた当時、端末と回線を合わせて月々の支払いを2000円にしたかったからです。トラフィックコストに関しては、ドコモのMVNO卸値がだんだん下がっていくという読みと、事業全体の通信量に応じて発生するトラフィック料が上がっていくことを見込んで、ちゃんとアプリケーションコントロールをしていれば一定に保てるだろう、と。ということで最初から月額利用料1000円というのは決めていました」

独自販路が必要だった理由

—-ところで、ツタヤを通じた独自の販路はなぜ必要だったのですか?

石田「スマホ以前に手がけていた様々なプロダクトの経験と、出井さんからの教えもあって“販路は自分で作らなければいけない”と考えていました。量販店で売ると、スペックとマージンだけの勝負になってしまって、どんなにいいものを作っても、見かけ上のスペックだけで比較されてしまう。そうなると、スペックアップを目標にハードウェアを作るようになって、やがてはユーザーニーズとは関係ない次元でのスペック勝負に巻き込まれていく……。つまり、かつて日本の家電メーカーがダメになったのと同じ構造に陥ってしまうわけです。だから、競合製品とは違う独自の販路を持たないと長期的には勝てないと思っていました。短期決戦ならいいのかもしれないですけれどね」

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石田「そういえば、販路を開拓するなかで、テレビショッピングの有名なプロの方からも“1機種1プランでシンプルだから、テレビで売っても売れるんじゃないか?”と言われ、やっぱりセールスポイントとしては間違ってないと確信しました。販売から端末、通信サービスまでの垂直統合による一貫性と、独自の販路を持っているということが、TONEの大きな特徴ではあるんですね。なにしろ、TONE販売のためだけの専任スタッフがツタヤにいるくらいですから」

—-最後になりますが、この事業がツタヤと結びついた経緯について教えてください。

石田「僕たちが独自で店舗を開いてきたのは、もとはと言えばフランチャイズモデルの開発のためだったんですね。そのフランチャイズモデルとして、1つのお手本としていたのが増田さん(カルチュア・コンビニエンス・クラブ代表取締役社長兼CEO・増田宗昭氏)が作ったツタヤのシステムだったんです。われわれのフランチャイズシステムは2014年の11月に完成して、それを発表したところカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のほうから連絡をいただいたんです。それで、CCCの持つTSUTAYAやTポイントなどのカルチュア的なインフラと、今まで培ってきたfreebit mobileの技術が融合したら、もっと大きなことができると思い、TONEが生まれたんです」

考察

石田氏の動きで重要な役割を果たしていると感じたのが、出井伸之氏や原研哉氏、増田宗昭氏といったメンターとも言える先輩の存在。今回のインタビューからも、そうした人々から考えやヒントを学び、導かれている様子がうかがえます。また、歴史を学び、「この場合はこうなる確率が高い」といった予測を立てることで無意味な消耗戦を避け、うまく市場のブルーオーシャンを見つけているようです。それでいて、現実に目の前に直面する問題に対してはさまざまなプランを立て、解決していく。まさに戦略、戦術に長けた「知将」とも言える人物であるように感じられました。

撮影・文/一条真人

関連サイト

TONEモバイル

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