香港のSIMロック解除業者「秘密アジト」へ潜入!【山根康宏のケータイ西遊記: 第9回】

【香港で見かけた気になる1台】

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ノキア5800(販売価格:不明 ※200台セット)
ノキアがiPhoneの対抗機として作ったフルタッチスマートフォン
香港の怪しいロック解除屋で山積みされていた、当時のノキアの人気モデル。いったいどこから流れてきたのだろう。

 
ケータイ西遊記 -第9回- 香港/新界編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

 

世界のスマホの貿易港
最新機種が集まる香港

今回の舞台は自分の居住する香港である。自分はひょんなことから駐在員として生活を始め、気が付けば独立して日々携帯電話やスマートフォンを追いかける生活を送っている。香港は長らくイギリスの植民地であったことから、金融や貿易を主産業としていた。もちろん100万ドルの夜景に代表される観光業も盛んだ。人口約700万人の都市国家に、その人口の約4倍もの訪問客が毎年訪れているのである。

▲ 香港といえばきらびやかな夜の街のネオンが思い浮かぶ

▲ 香港といえばきらびやかな夜の街のネオンが思い浮かぶ

そんな観光客の中には、携帯電話やスマートフォンを買い求める来訪者も多くいた。今では世界中どこへ行っても各メーカーの最新モデルを買うことができるし、国によっては2年契約販売などで定価の半額以下でスマートフォンを買うことも出来る。だがiPhoneが登場する以前はキャリア縛りの割引販売はあまり一般的では無く、香港やバンコクなどにある“携帯ビル”へ行って安く端末を買うという人々がいたのだ。

日本やヨーロッパではスマートフォンにSIMロックをかけて販売することが一般的だ。特定のキャリアのSIMだけを使えるよう“ロック”する代わりに、端末を格安で販売するわけである。ロック解除するには一定の期間を置いたり、追加料金を支払う必要がある。だが、そんなSIMロック端末のロックを解除する専門業者があり、どこぞの国で格安で販売されていた端末をかき集め、ロック解除したうえで転売することも、実は日常的に行われているのである。

▲ 携帯電話・スマートフォン販売の“聖地”とも言われる「先達廣場」

▲ 携帯電話・スマートフォン販売の“聖地”とも言われる「先達廣場」

香港の携帯ビルとして有名なのは、ショップが百店舗以上も集まる「先達廣場」だ。今では空き店舗も目立ち、輸入品のiPhoneが定価よりわずかに安く売られるくらいで、訪れる外国人客の数も減ってしまった。しかしiPhoneが爆発的な人気になった数年前は、ここ香港に世界中からiPhoneが集まり、「先達廣場」の中はiPhoneを買い求める外国人で毎日のように混みあっていた。

▲ 山積みされるiPhone。世界中からの輸入端末が集まる

▲ 山積みされるiPhone。世界中からの輸入端末が集まる

もちろん香港に住む人たちも最新のスマートフォンが大好きである。これは香港が自由貿易港であり、携帯電話の輸入に関税がかからないことと関係がある。スマートフォンがまだ世の中に無かった十年以上前から、香港には世界中から最新の携帯電話が輸入され、集まってきたのである。前述したようにそれらはSIMロックがはずされ、どの国のどのキャリアのSIMカードを入れても動く状態で「先達廣場」などで売られていた。イギリスで出たばかりのパナソニックの最新折りたたみケータイが、発売の翌日には香港ではもう売られていた、なんてこともある。そして香港からさらにアジア各国へと再輸出もされていたのだ。

もちろんそれらの輸入端末に保証は付かない。しかしそれを持つことは、いわば「国内未発売の外車に乗る」ようなものなのだ。誰よりもいち早く最新モデルを手にして、香港の街中を颯爽と歩く。それは情報と財力を持ったモノのみに許される特権だ。超人気製品を持っていれば、道行く人からの視線が痛いほどだ。例えば、モトローラが2003年に発売した「モトレーザー」は、それを持って通話しているだけで周りの人の動きを止めてしまった、と言われたほど。それほどまでに発売直後は入手困難で、定価の倍出しても買えない状況だったのだ。

スマホ大好きな香港人
輸入端末は香港で“浄化”される!?

そもそも香港は植民地時代が長かったため、人々は国の保護に頼ることができず、自分たちの生活は自力で切り開いていく、というライフスタイルが一般的だ。1分1秒も無駄にせず、お金になることがあればどんどん手を出す。副業も当たり前であり、そのためにはいつでもどこでも連絡が取りあえる携帯電話が手放せないのだ。日本ではようやく最近になって携帯電話の料金プランに通話定額が生まれたが、香港では10年も前から「無料通話1000分」など、毎日電話をかけまくっても十分なほどの無料通話が含まれていた。

そんな香港だからこそ、人々はファッションアイテムとして、あるいは仕事のツールとして携帯電話を自由に選んでいた。世界中から輸入された携帯電話を自由に選べる香港は、「携帯電話天国」とも言える場所だったのだ。そして世界各国でSIMロックのかかった最新端末が格安で販売されれば、それが香港に次々に輸入されていたのである。

自分もそんな世界中から集まる携帯電話を毎日見ているうちにマニアになってしまい、気が付けば駐在員をやめて携帯電話研究家として独立してしまった。そして輸入されてくる海外製品が気になりだすと、1日でも早く最新端末を入手したいと思うようになっていた。特にSIMロックのかかった端末は、香港に輸入されてから業者がロックをはずし、問屋経由で携帯ビルの店頭に並ぶ。ならばそのロックをはずす業者のところへ行けば、まだ店にも並ばぬモデルを入手できるはずだ。

とはいえSIMロック解除はグレーな行為である。そもそも海外ではメーカーが販売する端末に通信キャリアがSIMロックをかける。つまりロック解除とは元々のメーカー販売製品に戻す行為である。とはいえ、それらの製品の入手経路に問題がある場合もある。いずれにせよSIMロックを外す業者に、一般人がコンタクトを取るのは簡単なことではない。

だが様々なルートを通じてようやくとある業者の場所をつかむことができた。それは2010年頃だっただろうか。そこには毎日のように大量の携帯電話が持ち込まれていたという。ということは大規模な工場か、あるいは場末の倉庫のような建屋に違いない。ところが住所を調べると普通の街中の、外見はただのマンションだった——。

「秘密アジト」は普通のアパートの一室
ドアを開ければ別世界

▲ 香港のどこにでもある高層マンションの1室で、日夜のロック解除作業が行われていた

▲ 香港のどこにでもある高層マンションの1室で、日夜のロック解除作業が行われていた

どこから見てもこのビルの中で携帯電話のロック解除が日々行われているとは思えない、そんな場所に事務所を構えるのは一種のカモフラージュなのだろうか。その事務所を訪問したのは夜7時頃だった……。呼び出しベルを鳴らし、1分ほど待つとドアが開かれ、男性が出てきた。こちらを一見して何か察したのだろう。「今日はノキアのあれが入っているよ」と男性は言った。

ここは店ではなくロック解除を専門に行う事務所だ。そのためあらゆる製品が置いてあるのではなく、特定の機種が大量に持ち込まれ、解除作業されているようだ。訪れるのは顔見知りの客か紹介客だけなのだろう。ところがドアを開けて中に入ってみると、そこは普通の会社の事務所のように机が置かれており、携帯電話の類は一切置かれていなかった。よくよく見るとドアは二重になっており、しかも監視カメラで外が見えるようになっている。ということは、ここはちょっとヤバイ所なのだろうか?

とはいえ男性の対応は丁寧だ。「ノキアか、それともサムスンか? 奥にあるよ」と指をさされた方向には、壁にあとから付けたようなドアが埋め込まれていた。室内を改造して二部屋にわけたかのような構造だ。そのドアを開けてみると、そこには驚きの光景が広がっていたのだ。

ドアを開けると、すぐ目の前には鉄格子が設置してあった。奥の部屋には自由に出入りできないのだ。その鉄格子の向うには「NOKIA」「SAM」などと書かれた大きな段ボール箱が大量に積まれていた。開封された一つの箱の中身を遠くから見てみると、ちょっと前のノキア製スマートフォンのパッケージが大量に詰め込まれているではないか。携帯電話マニアなら卒倒してしまうような光景がそこには広がっていたのである。もちろん自分もその一人であり、体中からアドレナリンが一気に噴き出してきたような感を覚えた。

これらの携帯電話はどこかの国でSIMロックがかけられ販売されていたもの。それをここでロックを外す作業をしているのである。ではどんな作業を行っているのだろうか? 本体をドライバーで開け、はんだごて片手に改造作業でも行っているのだろうか?

ところが檻の奥をみると、昼間はOLをしていたような女性たちが5名、退屈そうな顔をして机の前に座っている。机の上にはノートパソコンがたくさん置かれてあり、そこからケーブルが伸びている。彼女たちは足元に積み上げたノキアの箱を開けると端末を取り出し、電池蓋を外してケーブルを接続。そしてパソコン画面のリターンキーを押していた。1台ずつでは時間が無駄になるので、1人あたり4〜5台のノートパソコンを操作しているようだ。画面になにやら「OK」のような文字が表示されると、端末からケーブルを抜いて箱にしまい、次の端末を接続。その操作は流れるようだ。

しかも彼女たちは片手で自分のスマートフォンを操作しながら、チャットしたり動画を見ている。表情には生気は無く、けだるく、仕方なく仕事をしているようにも見えた。しかしそれでも仕事をしているということは、よほどいいバイト代が出ているのだろうか。片手間な作業にも見えるのだが、彼女たちの作業無くしては輸入端末市場は成り立たないのである。

さて自分が気になったのはノキア初のタッチパネルスマートフォン「5800」の箱が、檻の中の片隅に積み上げられていたこと。思わず男性に「いくら」と聞くと「二百台全部なら売るよ」との回答。しかも現金だけだという。完全に業者御用達というわけだ。さすがに自分は商売をする気はない。こんな世界がマンションの一室で繰り広げられているという事実を知るだけでも満足だった。

こうして手作業で“浄化”された端末が市場に流れているという事実、これはなにも闇の話ではなく、世界各国で行われていること。堂々と“SIMロック解除”という看板を掲げた修理店は、それこそアジアに行けば街の至る所にある。しかしそんな作業はきっと地下室で怪しい風貌をした男たちがこっそりやっているというイメージがあるのではないだろうか。少なくとも檻の中にいた笑顔の彼女たちの姿とはオーバーラップしないものだった。

その後、自分は事務所を出てから付近の食堂に入り、いろいろな思いを胸に夕食を取ることにした。店内で食事している客の中には香港未発売のスマートフォンを使っている人もいる。その端末も、もしかしたらさっきの事務所を経由したものなのだろうか?

▲ 香港で食事と言えば飲茶だ。通常は昼に食べる。かわいい創作飲茶の店も多い

▲ 香港で食事と言えば飲茶だ。通常は昼に食べる。かわいい創作飲茶の店も多い

などと思っていると、さっきまで檻の中にいた女性のうちの一人が店に入って来たではないか。しかも横には人のよさそうな、見るからに好青年と思えるボーイフレンドを連れていた。二人は夕食をどれにしようかとメニューを見ながら和気あいあいとじゃれている。その彼女の表情には、檻の中にいたけだるい顔つきは一切なく、幸せそうな笑顔であふれていた。二人は今度の休暇に南の国へ一緒にいくのだろうか? 旅行雑誌のページを二人でめくるその姿は、どこにでもいる普通のカップルにしか見えなかった。

質素な服装に身を纏ったボーイフレンドの男性は、日々一生懸命働きながらお金を貯めて彼女との旅行資金を貯めているに違いないと思えるのだった。しかし彼女が机の前に座って数時間マウスを操作するだけで、恐らく彼の1日の給料分くらいを稼いでいるに違いない。彼ははたして彼女の裏の仕事のことを知っているのだろうか?

▲ 家電量販店では最新スマホも値引き販売している

▲ 家電量販店では最新スマホも値引き販売している

今ではSIMロックを廃止するキャリアが増えてきたことや、2年契約でスマートフォンを購入すれば割引価格で買えることもあり、輸入端末を買い求める客の数は大きく減っている。香港では定価販売の強要が廃止されたこともあり、家電量販店に行けば定価よりも安く、正規販売されるスマートフォンが買えるようになった。あの檻の中でマウス操作片手にけだるい時間を過ごしていた彼女たちは、今は何をしているのだろうか? そしてあのマンションの一室は今どうなっているのだろうか? もしかすると自分が見た檻の中の光景は、一瞬の夢の中の光景だったのかもしれない。

文/山根康宏

※『デジモノステーション』2017年2月号より抜粋

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1400台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

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