もはや死生観も語れない!? なんでもアリだったインターネットの「死」

終末期医療の現場で患者に寄り添う宗教者のことを臨床チャプレンという。キリスト教圏では一般化しており、修道服を着た人が病院内を歩く姿は珍しくない。家族にも話せない死への恐怖をケアする専門家として、こうした文化圏では広く認知されている。実は日本でも30年以上前から活動していて、現在もじわじわと普及が進みつつあるところだ。宗派宗教問わず、多くの宗教家がこうした活動を行っている。

通常の臨床チャプレンは、患者の信仰や死生観に寄り添うので、患者が別の信仰を持っていたり、無神論者であったりしても対応できる。患者の考えや疑問に耳を傾けて、患者自身が納得したり安心したりする道筋を探ることに全力を注ぐ。答えを求めているわけでなく、ただ聞いてほしいという場合も、きちんと真意を察して対応してくれる。

もしこれが、空気を読む気がなくて自分の信仰を押しつけるタイプの人間だったら厄介だろう。死後を信じていない人に対して、天国や地獄が存在することを前提にしたテーマで話し込んでしまったり、天国への行き方に悩んでいる人に輪廻転生を説いてしまったり。患者そっちのけで家族への勧誘に精を出しはじめた日にはもはや最悪だ。

「インターネットの世界がそんなやっかいな空気に満たされたら嫌だな……」と、そんな懸念が私には少しある。

前回はグーグル翻訳の進化により、他言語文化圏の死生観にぐっと触れやすくなる将来を夢想した。しかし、外部との壁がなくなると、異文化交流が進む一方で、他者を拒絶する動きも出てくる。実際、最近は複数の宗教を信仰する動きと原理主義化の動きが、世界中で併行していると言われる。

原理主義的な立場をとるにしても、それを本人が自分で考えているだけなら構わないが、他人の考えにまで干渉してくる場合は面倒くさい。翻って、いまのネットの世界では他者への干渉がトレンドになっていると言えなくもない。

象徴的なのが、米Yahoo!(Altabaに改名)だ。2005年4月、イラクで殉職した海兵隊兵士の遺族が、彼の残したウェブメールの提供を米Yahoo!に求めたところ、同社は「アカウントを相続対象にしない」という当時の利用規約に従って、遺族の要望を拒否。後ほど特例措置としてメール内容を保存したCD–Rを提供したものの、メールの内容は第三者に一切公開しないという姿勢を貫いたことで世間の注目を集めた。

だが、それから10余年が経った2016年10月には、ユーザーのメール内容を監視できる仕組みを自社開発していたことが世間に伝わり、同社は強烈な批判を浴びることになる。米Yahoo!はNSAやFBIの求めに応じてこの仕組みを作ったことを認めており、法に則った行為だったと弁明している。仮に主張のとおりだったとしても、以前のポリシーを知る人々が失望する声を止める力はなかったようだ。

その一方でFacebookは2016年12月、ニュースフィードに流れるニュースの真偽を確認する第三者機関を設置したと発表した。ユーザーの通報を受けて精査し、偽ニュースと判定された記事は警告文を添えて表示順位を下げる措置がとられる。偽ニュース対策はかねてから論じられてきたが、同社は「SNSはメディアではない」という立場から積極的な介入を控えてきた。が、世間からの要請に抗いきれなくなった格好だ。

米Twitterも同年11月に、不適切なツイートの報告項目に「人種、宗教、性別、考え方などを誹謗中傷または差別している」という項目を追加するなど、サービス内自治の強化を図っている。

インターネットの影響力が無視できないほどに増している昨今、偽ニュースや誹謗中傷も、ただ見過ごしたままで済ませることはできない。インターネット企業による対策の動きは必然といえるだろう。ニッチだから、サブカルチャーだから、と許されてきたグレーな領域は、陽の光が強く当たるほどに汚れが誤魔化せなくなっていくし、輪郭もぼかせなくなる。

ただ、こうした動きがまともに機能するには、冷静な大人の判断力が欠かせない。魚を埋めたスケートリンクが批判に晒され、中止だけでなくお祓いまでしてみせたテーマパークのような過剰反応をしてはいけない。これからはクレーム熱に流されずに是々非々で対応する硬派なモラリストが求められる。そうでなければ“叩き得”な空気が生まれて、場はどんどん窮屈になっていくだろう。多様な死生観が表に出ることも望めない。

臨床チャプレンの品質はその人そのものにかかっている。インターネットも同じだと思う。

文/古田雄介

※『デジモノステーション』2017年3月号より抜粋

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  • 古田雄介

    古田雄介

    1977年生まれのフリー記者。建設業界と葬祭業界を経て、2002年から現職。インターネットと人の死の向き合い方を考えるライフワークを続けている。2015年12月に、書き手が亡くなった103件のサイトの事例を紹介した書籍『故人サイト』(社会評論社)を刊行。