本誌2010年11月号(2010年9月24日発売)掲載
ウェブ掲載日:2010年10月20日



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BDという高品質メディアを通じて"映画における音の表現"をチェックしてきたこの連載も、いよいよ今回でひと段落。せっかくなので最後は、話題の3D作品を取り上げてみたいと思います。ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』。現在のところBDで観られるのは2D版のみですが、映像と音楽の関係について改めて考えるにはやはり最高の素材じゃないでしょうか。
主人公のアリスは19歳。幼い頃"不思議の国"で遊んだ記憶も既になく、現実世界で気の進まない結婚を迫られています。つまりこの物語は、誰もが知ってる『不思議の国のアリス』の後日譚。さらにディズニー映画の文脈で見ると、ウォルト・ディズニー自身が1951年に製作した名作アニメーションの"実写版続編"とも言えるわけです。
この古典中の古典を、はたしてどんな風に再解釈しているのか──。3Dという手法も含めて、映像的にはまさにティム・バートンらしい奇想天外な世界観が展開されています。ジョニー・デップ演じる「マッドハッター」を筆頭に強烈なキャラクターが次々と登場し、最初は頭がクラクラしたくらい(笑)。ただ、とびっきりアバンギャルドな映像とは裏腹に、音楽的には極めてオーソドックスな作りになっている。そのバランス感覚が、僕にはとても面白かったんですね。

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まず、使われてる音楽の量が圧倒的に多い。全編109分にわたり、ほぼ隙間なく楽曲が敷きつめられています。それも、例えば怖いシーンには不安感を煽るゆっくりとした旋律、主人公のアリスが何かを決断するシーンならドラマティックな楽曲で感情の盛り上がりを表現するという風に、映像と音楽をぴったりシンクロさせている。近年のハリウッド映画で、絵と音をここまで丁寧に合わせた作品は、おそらくなかったんじゃないかな……。
この安定感。実は往年のディズニー映画にそのまま通じる気がするんですよ。『白雪姫』『ピノキオ』『ふしぎの国のアリス』などは、どれもアニメーションという手法を駆使したミュージカルのような趣きがあるでしょう。1940年に公開された『ファンタジア』のように、そもそもクラシックの曲に合わせてミッキーマウスを演技させるという発想から生まれた傑作も存在する。今回のバートン版『アリス・イン・ワンダーランド』も、その遺伝子をきっちり受け継いでいます。
特に鮮烈だったのは前半、パーティーから逃げ出したアリスが穴に落ち、地下の世界で冒険に巻き込まれていくスピード感。これは圧巻でした。実写で緻密に再現した19世紀のイギリス社会から一気に3DCGの領域へとなだれ込むことで、観客をグッと引き寄せてしまうんですね。しかもその際、シニカルでダークな色合いの映像をクラシカルな音楽がシルクのように包み込んで、作品にある種の落ち着きと風格を与えている。そんな印象を強く受けました。音楽の律儀さに比べると、音効(SE)の当て方には多少粗く感じる部分も正直あったけれど……。こういうガチャッとした感覚も、もしかしたらバートン作品の味なのかもしれませんね(笑)。
映画のストーリーテリングにおいて音楽がいかに重要な役割を果たしているか、本作を観るとよくわかります。映像と音楽とが寄り添うことで、台詞で説明できない登場人物の心理を表現したり、観客の感覚を研ぎ澄ましたり、あるいは映像より先にビジョンを喚起したりもする。2年間"映画を聴く"連載を続けてきて、映画表現の半分は音楽なんだとつくづく感じました。もちろん作品によって多い少ないの違いはあります。でも、そこに音楽が使われている限り、映像と音は相思相愛のイーブン関係。2Dが3Dになってもこの基本は揺るがないはずです。
映像、台詞、音響、そして音楽──映画はその1つでも欠けたら成り立たない総合芸術。だからこそ最高のエンターテインメントじゃないかって僕は思うんです。これからも読者の皆さんがBDでしっかり映画に耳を傾けてくださることを願いつつ、ひとまずこの連載は終了。また近々お会いしましょう!
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インタビュー/大谷隆之 撮影/島田香 ヘアメイク/川竹靖 スタイリスト/熊谷章子
バックグラウンド/ BACKGROUNDS FACTORY TOKYO
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