本誌2010年4月号(2010年2月25日発売)掲載
ウェブ掲載日:2010年3月12日

オーディオテクニカの『ATH-ES10』は生まれることが運命づけられていたヘッドフォンである。大げさな言い様と思われるかもしれない。しかし、チタンハウジングを採用して究極の音質を追求したホームユースのフラッグシップモデル『ATH-A2000X』が誕生してから、次はポータブルでその高品位な音を再現しようとするのは、ごく自然な成り行きであったと言っていい。
「一昨年末にA2000Xが完成したことで、ES10の開発がスタートしたんです」と両モデルの開発に携わった小澤博道は語る。
「最高の音を掲げるART MONITORシリーズの音質を受け継ぎ、スーツをまとったビジネスマンにもフィットするEARSUITシリーズのフラッグシップモデル。そのコンセプトを実現するには、やはりチタンは欠かせませんでした」
音イズムを語る

株式会社オーディオテクニカ
技術部
六課マネージャー
小澤博道
入社より19年間ヘッドフォン一筋で開発に従事。独自の音響理論で、同社ハイエンドヘッドフォンのドライバーユニットから筐体に至るまで全ての開発に携わっている。
ポータブルタイプの最高音質を求めて
『ES10』の原点「ART MONITOR」シリーズ
オーディオテクニカのヘッドフォンにとってのリファレンスモデルであり、同社の基準となる最良の音を鳴らす最上位機。高剛性チタンハウジング、φ53mmドライバーを搭載。その高音質はもちろん、3D方式ウイングサポートによる快適な装着感もずば抜けている。
ATH-A2000X
価格:7万7850円/実勢価格:6万4800円
成形加工が難しい金属素材チタンが生み出す音

ゴルフクラブなどに用いられる高剛性チタンをハウジングに用いるためには約20工程にも及ぶ加工が必要。手作業が中心で、高い技術力が求められる。チタンを採用することで不要な振動を抑制、メリハリの効いたクリアな再生が可能。
最大口径φ53mmのドライバーをスマートに収納

ポータブル機では最大級のφ53mmドライバーを搭載。大型ヘッドフォン並のサイズながら、直径約65mmのコンパクトなハウジング内のスペースを最大限に使用して収容。バッフルには剛性に優れたグラスファイバーを配合して、透明感のある中高域を導き出している。
制振性、音響特性、剛性に優れるチタンの質感をいかしたヘアライン仕上げが耳元でさりげなく主張。その高い品質を獲得するため『A2000X』と同様に、ほぼ全ての加工が手作業で行なわれているという。
「チタンを絞って成形。それを磨いて、ヘアラインを入れて、そのあとにレーザーを当てたりと全部で20工程くらいありますが一つ一つ手作業でやっています。エッジの凹部の磨きも、ヘアラインの加工も熟練した職人さんがいなくては成し得ません。特にヘアラインはあるご夫婦にお願いしているんですが、体調を崩された時は3日ほど生産が止まりました。代わりにお願いできる技術を持った人がいませんので」
まさに工芸品と呼べる外観だが、『ES10』はその美しいフォルムにふさわしい精細で見通しの良い音を奏でる。情報量が多く、密度の高い再生力だ。
「常々言っていますが、音が良いのは音響メーカーとして当たり前。その上でいかに格好良くて、装着感が優れたものができるかが評価される点だと考えています。A2000Xでは軽量化にとことんこだわりましたが、今回は重量よりもφ53㎜のドライバーユニットをポータブルサイズのイヤーカップに収めることを重視しました。そこが一番苦労した点でもありましたが、大きなユニットを使ったからサイズも大きくなったというのでは言い訳に過ぎませんから」
屋内使用を想定した大型ヘッドフォン並みのユニットをポータブル機に。『A2000X』を屋外で使用している人を見かけた時、その思いは強まっていったと言う。しかし、ハウジング内に大小2つの部屋を設けるだけのスペースがある『A2000X』とは違い、耳を一回り大きくしたくらいのサイズにユニットを搭載しなくてはいけない。これは難問だったと小澤は振り返る。
「本来ならユニットとハウジング部は別付けにするんですが、そうすると縁に1.5㎜のスペースを設けなくてはいけなくなり、合計で3㎜必要となるんです。その3㎜を削りたいために、ユニットを直接接合しました。たった3㎜と思われるかもしれませんが、アームの部分とのバランスを考えると、その3㎜だけで大きく見栄えが変わってくるんです。そうしたシェイプアップの積み重ねで、ようやくφ53㎜のユニットを収めることができました」
音の傾向としては「ART MONITOR」シリーズ直系だけあって、混じりけのない原音追求の印象。低域の量感も十分で、大型並のレンジ感だ。
「うがった言い方をしますが良い音源はより良く、悪い音源はそのままに聴こえるヘッドフォンだと思います。圧縮音源を聴いた時に物足りないと感じるかもしれませんが、その点も考慮した上での音作りなんです。あくまでも自然な鳴り、原音で聴くことの喜びを感じていただければうれしいですね」
常に良い音質を、それも妥協なき外観で追求する。“満足というよりも通過点”とも小澤は語ったが、その言葉には現時点での最高のものを作り上げたという自負が込められていた。

オーディオテクニカ | EARSUIT ATH-ES10
価格:4万7250円 実勢価格:3万9800円
新開発のφ53mmドライバーを採用した密閉ダイナミック型のポータブルヘッドフォン。強度の高い金属であるチタンをハウジングに採用しながら約200gと軽量で屋外でも手軽に高品位なサウンドを楽しむことができる。
密閉ダイナミック型
重量200g
ドライバーφ53mm
SPEC
出力音圧レベル:102dB/mW | 再生周波数帯域:5.40000Hz | 最大入力:2000mW | インピーダンス:42Ω | コード長:1.2m
ATH-ES10×CD Review
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聴いているような深い満足感。
『ATH-ES10』が原音再生の
すばらしさを語りかける。
Reviewer DJ YouKnow
音楽にこだわるけれどヘッドフォンにもこだわるDJ歴15年の音楽ライター。最近はPCでのDJが主流ですが、未だに7インチ盤でやってます。
木村カエラ | 5years
発売中
2700円(通常版)
Columbia Music
曲が持つ情報量を増減なく忠実に再現
デビューから現在までのシングル曲や代表曲を網羅し、新曲も収めたベスト盤。「BANZAI」に代表される生楽器特有の躍動感やエレクトリックなサウンドが持つ高揚感がスピードを伴って向かってくるビートチューンから、「Butterfly」のように声のニュアンスを瞬時も逃さないボーカル曲まで、解像感の高い音がくっきりと曲の輪郭を描き出していく。繊細な音を得意としているが、ダンス・ミュージックのように全体で聴かせるジャンルの音も十分に満足できる再生力だ。
コリーヌ・ベイリー・レイ | Sea:あの日の海
発売中
2300円
EMI Music Japan
匂い立つ品のある低音に酔いしれる
2006年発表の前作がグラミー賞の主要三部門にノミネートされた英国の女性シンガー・ソングライターによる2ndアルバム。オーガニックでふくよかなソウル・サウンドに包まれるようにして響く歌声の表情をしっかりと捉えてはいるものの、過度な脚色は一切なし。マイクを通していないようなナチュラルな声が楽曲による感動をより一層のものにしている。中高域よりも低域が若干勝っているように感じられるが、曲全体のイメージを変えるほどではなく、むしろ上品な印象を与える。
パット・メセニー | オーケストリオン
発売中
2680円
Warner Music Japan
底知れぬポテンシャルを秘めた再生力
オーケストラの複数の楽器を同時に演奏可能な19世紀末の装置を現代に再現することをコンセプトに、さまざまな楽器を同時演奏させながらメセニーがギターを演奏する実にユニークな作品。まさに解像感の高い『ES10』の本領発揮といったところで、変化に富んだ多彩な音を、その距離感や強弱を精細に描き切っている。深いニュアンスをたたえたギターの音色に、ただ酔いしれるばかり。ジャズやフュージョン、クラシックにおいて、底知れぬポテンシャルを発揮する。
文/油納将志 撮影/松浦文生















