第1回 押切蓮介(1979年9月19日生まれ)その2
氷河期世代でもあるポスト団塊ジュニア(1975年4月~1980年3月末生まれ)のあの人に、子供として過ごした1986年から1991年頃までの日本が好景気に沸いていたいわゆるバブル時代について、同世代が聞くインタビュー連載。第1回は格ゲーブームの90年代を舞台にしたコミック『ハイスコアガール』を『月刊ビッグガンガン』で連載中の漫画家・押切蓮介さんです。
<プロフィール>
1979年9月19日、東京都生まれ、神奈川県育ち。1997年、『週刊ヤングマガジン』にて『マサシ!!うしろだ!!』でデビュー。以降、ホラーギャグ、ホラー、アクション、ラブコメディなど、さまざまなジャンルの作品を発表。現在、『ゆうやみ特攻隊』(講談社/『月刊少年シリウス』)、『ハイスコアガール』(スクウェア・エニックス/『月刊ビッグガンガン』)、『ツバキ』(講談社/『ネメシス』)、『焔の眼』(双葉社/『漫画アクション』)を連載中。
ー押切さんの作品には『ピコピコ少年』や『ハイスコアガール』のような、ゲーセンを舞台にした自伝的な作品がありますが、ゲーセンにはいつ頃から通っていたのですか?
小学生の頃から通ってましたよ。僕の場合は勉強もできず、家に自室もないので、ゲーセンが唯一の居場所だと思ってて(笑)。
ー友達と一緒に行っていたのですか?
そう。ゲーセンに通ってたことで友達に不自由することもなかったし、仲間はずれにされることもなかった。
ー当時はケータイもなく、連絡もとりあってないのに、なぜかみんな同じ時間に集まってましたよね。
行けば誰かいるというか、不思議と気の合う仲間が自然と集まる、一種のコミュニティの場みたいなものでしたね。
ー放課後に学校から直行していたんですか?
そう、学校が夕方4時ぐらいに終わって、そこから夜7~8時ぐらいまで。
ー学生だと怒られるんじゃないですか?
だいたい学生は6時までで追い出されるのですが、僕たちは、まずブレザーをカバンに隠して、白いワイシャツでプレイしてました。
ー見た目でバレるでしょう(笑)。
当時はバレてないと思ってましたよ。白いワイシャツだから周りのサラリーマンに紛れてるつもりだったんですが、でも見た目が童貞丸出しの顔してるのでバレバレ(笑)。
ーそれで遅くに家に帰ると母親に家の鍵を閉められてるんですね?
めちゃくちゃ怒られましたね。何度かは家に入れてもらえなくて、そのままゲーセンに後戻りしたり(笑)。
ー昔のゲーセンというと、薄暗くてタバコ臭いというイメージでしたが、通ってたところはどんな感じでした?
よく不良に追いかけられてましたね(笑)。あとゲームの筐体にタバコの火が押し付けられてて真っ黒になってたり。でも自分が行ってたところは比較的広くて綺麗なところでしたよ。『UFOキャッチャー』から筐体ゲームまで、色んなゲームが置いてました。
ーどんな筐体ゲームにまずハマったのですか?
最初は筐体ゲームよりも、メダル落としゲームから入ったんです。子供の僕らから見て、メダル落としゲームがものすごく魅力的で。ゲーセンにハマったきっかけはメダル落としゲームなんですよ。
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ーあまりメダル落としゲームについては描かれてないですよね?
僕の漫画は筐体ゲームの話が多いですが、初めに興味を持ったのはメダル落としゲームのほう。メダルを入れて物理的にメダルを落とすだけのゲームですが、メダル15枚で300円、30枚で500円という、今考えるとものすごいボッタクリですよね(笑)。500円あったら10回も50円ゲームができるのに。
ーあれって何かと交換できるんでしたっけ?
何も交換できないですよ。パチンコじゃないんだから。でも毎回必死に遊んでた。
ーメダルを預けるシステムとかありましたよね?
そう、預けることもできましたが、うちのほうでは二カ月に一度預けたメダルが無効になるシステムもありやがって……。
ー二カ月に一度の持ち物検査みたいな?
まさにそれ! 預けてたメダルが0枚になった時の絶望感ときたらもう……。僕にとっては貯金と同じなので、このあと生活どうするんだぐらい落ち込んでいた(笑)。
ー僕はビー玉で似たような思いをしました。
メダルが1枚しかなかった時の100枚はものすごく多いと思えるのですが、その後、メダルが1000枚に増えて、そこからまた100枚に減った時の絶望感も覚えてますね。「あいつには1万枚あるのに、俺には300枚しかないから、俺は劣ってるんだ」と思って勝手に凹んでたり。
ー子供の頃って仲間内だけの変な競争心ってのがありますし。
そう。だからそいつに勝つには筐体ゲームしかないと思って対戦しても、結局、僕は筐体ゲームでも負けちゃうんです。要領のいいやつはメダル落としゲームもできるし、筐体ゲームもうまい。
ー学校の偏差値と同じですね。
ゲーセンの世界でも優秀な奴とダメなやつははっきりしていた(笑)。僕は完全にダメなほうでしたが、それでもメダル落としゲームが楽しくて毎日通ってましたね。
ー子供はお金をあまり持ってないからメダルが輝いて見えましたよね?
黄緑色や赤のカラフルなセロファンにメダルが20枚ぐらい包まれてて、その色といい、存在感といい、薄暗いゲーセンの中で光ってるあのメダルが、自分には宝石のように見えたんです。筐体ゲームは一回15分ぐらいで終わるけど、メダル落としゲームは長く遊べる。ゲーセンに長く留まれる理由は、メダル落としゲームで遊んでいたからなんです。
ーそれでまた帰りが遅くなったり(笑)。
お金がなくてずっと眺めていると今度は店員に目を付けられて追い出されたりね。それでしばらくはメダル落としゲームに夢中になっていたわけですが、その後、中高生の時に、例の“格ゲー”ブームがやって来るんです。
インタビュー・文/瀧佐喜登(1977年3月18日生まれ)
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