『PS4』を考える~E3 2013を終えて~

PS4

 6月10日にロサンゼルスで開催されたソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の「プレイステーション E3 2013 プレスカンファレンス」と、それに続く世界最大級のゲームイベント「E3(Electronic Entertainment Expo)」で本格的にお披露目された『PlayStation 4』(PS4)。カンファレンスやイベントの模様そのものは、既にさまざまなメディアで詳しく紹介されているが、改めて『PS4』について考えたこと。

カンファレンスの熱狂を生んだもの

 カンファレンスの盛り上がりについては、報道されている通り。2月のニューヨークでの発表会はコンセプト中心の説明だったが、E3という性格上、今回はゲームに軸を置いた発表になった。シェアやクラウドなどについて詳しく語られなかったのが残念ではあるが、ゲームイベントだからゲームを見せる、というのは至極当然。
 2月の発表会と今回のE3でのカンファレンスを通して感じるのは、『PS4』の展開がとても正攻法で、力強い正面突破の姿勢を貫いていることだ。自信に満ちあふれた迷いのない王道路線なのが、ユーザーやメディアに好感を持って受け入れられた理由だろう。据え置き型の次世代機を渇望している欧米では、『PS4』は間違いなく横綱相撲ができるのだ。
 クローズアップされた中古問題の発表については、その後のSCE関係者のインタビューなどでも語られているように、そもそも争点ではなかったはず。マイクロソフト(MS)がそれに触れたから、じゃあちょっとついでに言っておきますか的なノリだったのではないか(E3後、MSは中古対応やオンライン認証について訂正発表済み)。「中古問題って、そんなに関心が高かったんだ」と思われたかもしれないが(限られたお金でたくさんのソフトを遊びたいユーザーには確かに切実な問題だけど)、あの会場の盛り上がりの理由は、洒落っ気の効いた挑発的な発表の仕方にこそあった。「言ってくれるじゃん、ソニー」という思いが、会場を支配していたのだ。なにしろ歓声とともに、爆笑が会場を包んでいたのだから。
 本体の価格発表や中古問題、大作の矢継ぎ早のプレゼンなど、ネタが盛りだくさんで充実したカンファレンスだったが、密かなハイライトは、インディーズゲームのクリエイター8人がステージにズラリと勢揃いした瞬間だった。複数タイトルのクリエイターたちが舞台に並ぶのは珍しいこと。2月の発表会で、作りやすいハードでクリエイターとともに歩んでいくことを宣言したSCE。言行一致、初志貫徹。『PS4』が進んでいく方向性を改めて明瞭に打ち出した、すばらしい瞬間だった。
 ブレのない攻めの姿勢こそが、熱狂を生んだのだ。

本体デザインはどうなの?

 カンファレンスでスクリーンに本体写真が映し出された瞬間、正直言葉に詰まった。なんとも微妙な感じ。それは私だけではなかったはず。会場を一瞬「どうなのよ?」「ここは褒めるところなの?」感が支配した(という気がしたのは私だけかもしれないけれど)。
 デザインというのは、好みの問題でしかないので、正しい・正しくないという基準は存在しないが、カンファレンスで映像を見た(会場は広いので、客席からでは舞台上の実機は正直よく見えないのだ)個人的な感想は、限りなく「微妙」だった。これでも、できるだけ言葉を選んで控えめに書いてますが。
 ところが、翌日にE3会場で実物を見て驚いた。写真よりも実物のほうが明らかにスマートでカッコいいのだ。ソリッドな形状はもちろん、正面から見ると若干横長の綺麗なシルエット、グロスとマットの塗り分けの質感などは、ガジェット好きな男性の物欲レーダーに間違いなくヒットするはず。
 映像で見た時の微妙な感じの原因は、『PlayStation 2』(PS2)の既視感だった。かつての『PS2』のオフィシャルフォトと同じようなアングルなのだ。『PS4』のデザインについては「『プレイステーション』のDNAを継承している」との主旨のコメントもあったけれど、オフィシャルフォトまで『PS2』に似せる必要はあったのか。デザインポリシーとは別の話ではないか。
 あとは、縦置きスタンドの三角形がどうにもカッコ悪い。邪魔。スタンドが最小限のスペースで安定させるための実用的な形状なのはわかるが、オフィシャルフォトからははずしてもいいんじゃないのか。せっかく新しい『PS4』本体のシンプルな形状を見せるのに、よぶんな要素を追加しなくても。SCEに問い合わせたらたぶん、「縦置き時には推奨だから、誤使用を招かないために」という優等生な答えが返ってきそうだけど、コントローラーだって実際にはありえない角度で立ってるじゃん。あくまでもイメージってことなら、縦置きスタンドは写真にはなくていいんじゃないのか(SCEで写真制作に携わった方々、散々な書き方ですいません。これは好みの問題ですからね。なんでもかんでも、スタンドまで褒めるわけにもいかないので)。
 ともあれ、実物はとてもカッコいい。一刻も早く、日本でも実機展示をして、ユーザーに見てもらいたい逸品だ。

399ドルという価格のインパクト

 『Xbox One』の499ドルに対して100ドル安い399ドルの『PS4』。『PlayStation Camera』をあえてオプションとして外した英断で実現した100ドル差。確かに必ず使うわけではないものなら、オプションで十分だろう。ただし、あとでカメラだけを売り直すのに苦労するかもしれないが。ソフトメーカーがカメラをいかしたソフト開発に躊躇するのでは、という危惧もあるけれど。
 実際には、後述する有料会員制のこともあるし、同梱版などのアイテムも出てくるだろうから、一概に100ドル差とは言えないかもしれないが、イメージの差は大きい。『Xbox One』との比較だけでなく、次世代機はつねに高いもの、という先入観を覆すだけのインパクトもあった。安ければそれだけで勝ち、というわけではないけど、「いいものは高くても売れる」という時代でもないので。
 これも、値段以上に“安くする”というSCEの姿勢がユーザーに評価されたように思う。

変わっていくソフト

 『PS3/360』という表記がすっかり定着した昨今。ソフトメーカーがマルチ展開するのはやむを得ないことだ。特に『PS4』がCellから脱却してPCベースの開発環境に移行することで、『Xbox One』との同時展開になるのは必然的な選択だろう。むしろ、一方に開発を絞るリスクがないぶん、マルチ展開でソフトを潤沢に供給できるのであれば、結果的にどちらのユーザーにとっても歓迎すべきことかもしれない。特に国内メーカーの大作はほぼ全て『PS4/One』。そんな中、海外タイトルで独占や時限独占、DLコンテンツの差別化など、ソフト争奪戦が繰り広げられているのは、欧米ではソフト1本がまだまだ大きなビジネスになるからだ。
 ド肝を抜くスケールの『Destiny』、他のデバイスとの連携が面白そうな『Watch_Dogs』、殺伐としたシューターが多い中で『プレイステーション』らしい明るいアクションが楽しい『KNACK』、刺激的な映像表現や哀感漂うすばらしいテーマ曲、シリーズを通して揺るがないテーマ性など、さすがの一語に尽きる『METAL GEAR SOLID V THE PHANTOM PAIN』など、興味深いタイトルが数多く発表された中で、個人的にちょっと面白かったのは、たぶん誰も取り上げない『Ray’s the Dead』というインディーズゲーム。SCEブースの隅っこで地味にプレイアブル展示していたのだが、ゾンビを集めて連れ歩きながら、そのゾンビに攻撃させてさらにソンビを増やしていく、ソンビ版『ピクミン』みたいな、よくも悪くもチマチマした小品。『ピクミン』がチマチマした小品、というわけではないけど。『PS4』で発売する必然性は皆無な気もするが、アイディアひとつでPCベースで開発されたソフトが簡単に移植されて出てくるようになりそうなのが、『PS4』の面白さでもある。
 ハイクオリティな『PS4』オリジナルのゲームだけでなく、PCゲームからの参入こそが、実は『PS4』の隠し球になっていくのかもしれない。
 『MGS』の小島秀夫氏の言う「映画ではなくTVシリーズ」という手法を、ソフトの発売そのものにも当てはめていくやり方もあるのではないか。同じシステムを使った連作ゲームのようなものを配信していく考え方だ。DLコンテンツでの追加シナリオや追加ステージの配信が定着しつつあるから、「ソフトの完成形」の定義も変わっていくかもしれない。
 いずれにしても、開発環境や市場の問題だけでなく、ゲームがクラウド化していく流れの中で、デバイスを選ばない時代になっていくと、実はソフトの取り合いでもあったこれまでのハード戦争自体の意味合いも変容してくるだろう。

『PlayStation Plus』の普及こそが土壌に

 SCEが展開している会員制のオンラインサービス『PlayStation Plus』(Plus)。『PS4』ではオンラインマルチプレイで、この『Plus』が必須になる。実質有料プレイになることについて、SCE幹部のインタビューでは「『PS4』のオンライン施策には大きな投資が必要なので、ユーザーにも若干の負担をお願いしたい」という非常に正直なコメントが出されている。これも、これまでのソニーらしくない潔さだ。既に『Xbox 360』ユーザーにはゴールドメンバーシップという有料会員制が浸透していることもあり、特に欧米では違和感なく受け入れられるのではないか。もともと日本のユーザーに羨ましがられるくらい、欧米の『Plus』のコンテンツは充実しているのだ。
 ここにきて、国内の『Plus』も拡充されつつある。『Plus』は『PlayStation 3』(PS3)や『PlayStation Vita』(PS Vita)でも共有できるサービスだから、わざわざ『PS4』で会員になってもらうのではなく、今のうちに既存ハードで、いかにして『Plus』会員を増やしておけるか、が勝負どころだ。今のところ「懐かしいゲームがフリープレイ(無料)で遊べる」ことに力点が置かれているようだが、ユーザーが求めているのは、やっぱり新しいソフトだろう。期間限定でもいいから、発売からさほど時間を置かないタイミングでバンバン投入できれば、国内の『Plus』も定着していくはずだ。「バンバン投入」が非常に難しいのはわかっているけれど、懐かしゲーやプレゼントキャンペーン的なものだけでは、ちょっと弱いかも。年末に向けて一番頑張りどころなのが、この『Plus』だ。『Plus』の普及で場が暖まっていれば、『PS4』はスタートを切りやすい。

日本での発売は?

 さて、日本での発売について。
 E3では圧倒的な支持を得た『PS4』だが、国内に目を転じると、安閑とはしていられない。欧米と日本のゲーム市場の温度差には、もはや埋めがたいものがあるからだ。
 今回、欧米での価格と発売時期が発表されたが、日本国内(アジアを含む)については、しかるべきタイミングで改めて、と先送りされた。これはかつてのE3ではなかったことだ。
 2月のニューヨークでの発表会は、SCEA(ソニー・コンピュータエンタテンメント アメリカ)による米国市場に向けたもの、で納得できたが、E3はアメリカで開催されているとは言え、世界規模のイベントだから、「欧米向け発表を優先」というのは少々苦しい。
 『Xbox One』は、早々に「日本発売は来年以降、時期は未定」と発表している。日本では『PS4』に競合はないように思えるが、それでも欧米と同時に発表できないのはなぜか。
 価格については欧米の「399ドル/399ユーロ」が基準になるだろうから問題はないだろう。まさかアベノミクスで円安が劇的に進むのを想定してレート換算を控えている、なんてことはないはず。
 やはり問題なのは発売時期。これには「国内のローンチタイトルの遅れ」「あるだけ欲しいであろう欧米との供給バランス(爆発的に注文が集まることが想定できる欧米に必要な分だけ突っ込んだら、日本の割り当てが足りなくなるのではないか)」などが、複雑にからんでいるように思う。
 ローンチタイトルについては、欧米は『Killzone Shadow Fall』や、先日ローンチ発売であることが明らかになった『Call of Duty: Ghosts』などの大作があれば充分だろうが、日本ではそうはいかない。いまのところ国内タイトルでローンチが匂うものがないのは苦しいところだ。
 日本の年末商戦より少し早い11月中旬のホリデーシーズンに欧米で先行発売、12月3日には日本でも発売、というあたりが一般的な予想だろうが、受注期間を考えたら9月のTGSでの発表がギリギリではないか。海外と同時期に発売するのであればTGS発表もあり得るが、万が一遅れるようなことがあるなら、もっと早く発表会を開くだろう。東京ゲームショウ(TGS)会場で「発売が先になります」なんて言ったら暴動になるだろうし。
 これだけは、わかりません。

海外発のゲームをいかに日本で浸透させるか

 今回のE3で目立ったのは、大作ゲームの充実と、インディーズを含むアイデア勝負のゲーム群。問題はその中間である。伝統的に日本のゲーム市場を支えてきた、いわゆるジャパニーズゲームがポッカリ抜け落ちていることだ。ここには、ソーシャルゲームの台頭が暗い影を落としている。市場からカジュアルゲーマーだけでなく、これまで普通にゲームを遊んでいた層まで消えつつあることで、ソフトメーカーがソーシャルゲームに軸足を移してきていることが大きな要因だ。
 欧米では大作ゲームが途方もない本数を叩き出すけれど、日本市場は大作ゲームだけでは成立しない。大作、中堅クラスのゲーム、野心的なアイデア勝負のゲームなどがバランスよく出てこないと、なかなか市場は盛り上がってこない。また、新しいハードだから新しいIPでいいじゃないか、とはいかないのも難しいところだ。
 これを機に、欧米で高い評価とセールスを獲得する大作が、なぜ日本市場では売れにくいのかも、しっかり考える必要があるように思う。
 かつて洋ゲーというのは不親切で粗いゲームの代名詞だったが、いまや海外のゲームは圧倒的な技術力で日本のゲームを凌駕している。ただ、情報の見せ方・伝え方だけは相変わらず不器用だ。
 海外ゲームの情報の出し方は、ストーリーとキャラとスクリーンショットを出したあとは、プレイ動画をドーン! あとはプレイすればわかる! 的な大雑把さ。それに対して日本のゲームは、丁寧に素材を小出しにし、クリエイター自らが語り、それをゲーム誌で少しずつ深堀りしてもらうことで興味を煽り、持続させている。この“興味の持続”が海外のゲームには不足しているのだ。日本のゲーム誌の旧来の手法がベストかどうかは別にしても、海外ゲームのあまりに大雑把なメディア露出については一考すべきではないか。きちんと理解してもらって売っていくには、国内のゲームのような丁寧な露出や細かい演出も必要だと思う。
 アイデア勝負のインディーズゲームについては、この何年かで定着してきた配信という手があり、パッケージでの在庫リスクを回避してほしい人に確実に届けることができるはずだが、ここでも露出の問題がある。ゲーム誌やメディアでは、ダウンロードゲームが紹介されにくい。ちょっと面白いゲームがあっても、なかなかユーザーに存在が伝わらないのだ。広告宣伝費が限られている、という現実的な問題もある。ゲーム誌は商売上、大きなセールスが期待できる(=情報を欲しがる読者の多い)ゲームを重視せざるを得ないから、これは情報発信の仕方自体、変えていかなければいけないだろう。

『PS4』が目指す“ゲーム”のカタチ

 ゲームの遊び方を変えていくであろう「シェア」や、運よく(?)あまり争点になっていないように思える互換性の問題を補填する『PS3』ソフトの「クラウド」について具体的な言及はほとんどなかったが(2014年から北米でクラウドサービスを開始することは公表済み)、『PS4』の鍵を握るのはこの部分だ。
 例えば『PS3』や『PS Vita』も、フォトやミュージックやビデオ、チャットといった機能を実装してはいるが、「ゲームと写真」「ゲームとビデオ」という関係性からは抜け出せていない。なぜなら、それらの機能をゲームと同時に成立させる必然性がないからだ。それが『PS4』では、「ゲームで写真」「ゲームでビデオ」になっていく、ということだろう。わざわざ2つのことを「つなげる」のではなくて、普通に「つながっている」ことと、それじたいが遊びになること。それが『PS4』でのコミュニケーションなのだろうと思う。
 デバイスを超えたクロスプラットフォーム展開では、『PS Vita』の存在が俄然いきてくる。スマホやモバイル端末でもいろいろな連携が可能になっていくだろうが、ゲーム機としての入力を備えた『PS Vita』の操作性は、他のデバイスを圧倒するだろう。『Plus』に対応し、ネットワークを介したコミュニケーション機能も備えた『PS Vita』は、『PS4』の完全なる姉妹機として連携してくるはずだ。特にインディーズゲームから、従来のオンラインマルチプレイとは違う、『PS4』と『PS Vita』の特性をいかした斬新なコミュニケーション提案が生まれてくるであろうことに期待したい。
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 重要なのは“Breakthrough”する意志だ。突破していくこと、突き抜けていくこと。ゲーム市場の閉塞感、据え置き機の限界、他のデバイスの台頭。そういった壁を確信を持って正面から突破していくこと。E3での『PS4』の力強い発表に、その意志の片鱗を見てとることができた。
 “U”が“you”であるならば、“4”は“for”だ。“プレイステーション for XXX”。『PS4』が『PS Vita』や携帯デバイスと連携し、クラウドを活用しながらゲーム的な遊びを拡げていくことで、新しい“for XXX”がどんどん生まれてくる。“プレイステーション for XXX”の楽しさ全てが、これからのゲームのカタチになっていくのだと思う。

「ハイパープレイステーション」
創刊編集長 岡村尚正