秋の夜長は、復刻版名作BD『ハロルドとモード』。

すっかり秋ですね。
映画祭シーズン真っ最中だというのに、
DVD&ブルーレイ買い→お家で鑑賞が
やめられない、止まらない状態の映画担当鈴木です。
というのも、ずーっとソフト化を待ちわびていた名作が、次々と復刻版パッケージとして発売してくれるので、嬉しい悲鳴と出費が続いています。
昨年やっと待望のDVDが出たので、小躍りしながら2本買って、さらに先月ブルーレイが出て即買いしたのが、『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』。

blog20131011_1

映画『ファイトクラブ』(1999)の元ネタとも言われている、1971年製作のアメリカン・ニューシネマの伝説的な作品。だのに、昨年まではDVDにすらなっていなかったカルト映画だったので、BD化は本当に助かる。ありがとう、パラマウントさん!!

自殺ごっこで母親を驚かせるのが趣味の孤独な少年ハロルドは、ある日、明るくてパワフルなおばあちゃんモードと出会う。アンバランスかつ年の差60歳(!)の小さな恋の物語……。いわゆる“童貞捨て映画”ですが、設定はかなりへんてこな話。((C)町山智浩さん)なのに、老若男女問わずファンが多いっていう不思議な作品です。さらにブラックな笑いが満載だったりもするので、気軽に万人にお薦めできる作品ではありませんが、私の中では、人生ベスト3に入る大好きな作品。男子の繊細さは、この映画で学んだ気がします。(すみません、今回完全に趣味に走ってます)

blog20131011_2
▲盗んだバイクで走り出したりしますが、さすがに虹は渡りません。

金銭的には何一つ不自由していないお坊ちゃんのハロルドは、
生きている実感が感じられず、”死”に強烈に引き付けられている。
もはや日課になっている”自殺ごっこ”の特殊メイクはかなり本格的で
居間でロープで首を吊ってゆらゆらしたり、拳銃で自分の頭をブチ抜いたり、
日本刀で”ハラキリ”したり、その方法も多彩。
さらに母親からプレゼントしてもらったジャガーXKEを霊柩車に改造するというイケすけない19歳。
「そんなに死にたいなら、軍隊へ行け!」と言われるかのように
軍隊の叔父さんのもとに送られたりする。
(もうその痛々しさといったら童貞感もあいまって、直視できないものもあります)
知らない人の葬式に行くのも趣味で、
そこで、ハロルドはモードおばあちゃんに出会うんですね。

観ていて何が楽しいって、このルース・ゴードン演じるモードおばあちゃんが、やんちゃでおちゃめでキュートで、最高に魅力的!なんですよ。
よく女の子が「可愛いおばあちゃんになりたい」と言ったりしますが、そういう人畜無害な“ほのぼの感”はなく、少しの毒とアナーキーさを併せ持つ、
ちょっとダークなメアリー・ポピンズという感じ。
無表情で顔色が悪くて陰鬱なハロルドとのコントラストが笑える。

その行動もはちゃめちゃ。無免許のくせに、悪びれもせずに人様の車を盗んでは暴走を繰り返すだけでなく、「枯れている街路樹を助けなきゃ」と言って、木を引き抜き森に移植してしまう。途中でパトカーに止められても、きゃっきゃ言いながら巻いてしまう。破天荒キャラなのに、浮きもせず嫌味にもなっていないのがキャスティングの妙だなあと感心。(『ローズマリーの赤ちゃん』で怪しい隣人役を演じてアカデミー助演女優賞に輝いた女優さんです)

ハロルドは、そんなモードおばあちゃんに振り回されながらも「やっと自分と同じ仲間に出逢えた」と感じたのか、次第に失っていた生気を取り戻していく。モードと一緒にいたずらしながら、だんだん子供返りしつつ、大人になっていくハロルド。自殺願望にとりつかれていたハロルドの「死にたい」は、実は「生きたい」だったんだなぁと思っていると、衝撃のラストに。

blog20131011_3

生きる幸せを見つけると、それと同時に生きていく悲しみも重さが増していく。そのどうしようもない表裏一体を、鮮やかに描いたラスト15分。キャット・スティーブンスの音楽が染み入ります。

この2人の“壊れ方”の背景には、その時代の戦争の影響が多分にあることがあちこちで示唆されている反戦映画で、それが作品の持つ力だったり、世代を超えた共感につながっているのですが、ただ、あまりにその描き方が渋すぎで抑え気味なので、ぼーっとしてると見逃してしまうほど。(それでブルーレイで何度も観たくなるっていう…)
でもあくまで映画のテーマは、「戦争や理不尽な事件に翻弄されたとしても、自分まで不幸になるのはまっぴら。私の人生は私だけのものよ。楽しまなきゃ」というモード自身の“底抜けに明るいニヒリズム”に焦点を当てて、そこからブレてない。映画『ファイトクラブ』が暗黒版なら、こちらはファンタジー版。無気力になってきたなと思った時に、“生きる感覚を取り戻す” ための、二本立て作品。

「毎日何かひとつは新しいことをしなくちゃ!そのために生まれてきたんだから」など、“モードおばあちゃんの知恵袋”的な台詞の数々は、忘れた頃にまた聞き直したいです。自分の中の、10代の自分の背中を押してくれます。

『ハロルドとモード 少年は虹を渡る』(1971)

BD 2500円、DVD 1500円
パラマウント・ジャパン
監督 ハル・アシュビー
脚本 ハル・アシュビー /コリン・ヒギンズ
出演 バッド・コート、ルース・ゴードン ほか
(C) 1971 Paramount Pictures and Mildred Lewis and Colin Higgins Productions, Inc. All Rights Reserved. TM, (R) & Copyright (C) 2013 by Paramount Pictures. All Rights Reserved.