あのコロに、胸キュン。第92回『大滝詠一』

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大滝詠一さん急逝――。
2013年暮れに飛び込んできた、突然の訃報だった。

「音楽界に衝撃!」の言葉がメディアで飛び交っていたが、何を言ってるんだ「俺たちに衝撃だよ」と突っ込んだのは、長兄(49歳)・次兄(45歳)、そして末弟の筆者(43歳)も。三男にして両親と二世帯住宅のわが家は事実上の実家。家族が集う賑やかな大晦日のリビングは、やはり同世代の義姉さんたちをも巻き込む追悼集会の様に……。

第61回『ロング・バケイション』(2011年11月号本誌)でも書かせてもらったが。32年前の夏、高校生の長兄の部屋から聴こえてきた「君は天然色」の音色は、10歳の音楽チェリーボーイにとっては、まさに、処女的衝撃(ヴァージンショック)! 毎日が♪ブギ浮ぎ I LOVE YOUだった僕にとって、“ロンバケ”はまさにポップス開眼に相応しい“大人のサウンド”だったのだ。

今でも名曲「雨のウェンズディ」を聴くと、激しい胸キュンに。夕立で濡れたアスファルトの匂いを想い出すから。夏のプールの帰りか、部活の帰り道かは、分からない。理屈抜きの過ぎ去りし夏の日のBGMなのだ。

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1981年に発表されたアナログLP盤
『A LONG VACATION』
CBS・ソニー(当時)

「君は天然色」「雨のウェンズデイ」を含む大滝詠一の『A LONG VACATION』は、1981年3月にアナログLPとカセットでリリースされた。

ロングセールスを続け、発売から2年後の1983年の夏に日本音楽史上5番目のミリオンセラーアルバムに認定。記録にも、記憶にも刻まれる80’sアイコンとなったのだ。LP、カセット、各種CDを含む累計セールスは200万枚以上とも言われている。

●ミリオンセラー認定アルバム(達成順)

タイトル アーティスト名 発売年月日 オリコン認定年月日
1 氷の世界 井上陽水 1973.12.1 1975.6.2
2 起承転結 松山千春 1979.11.21 1981.1.26
3 SOLID STATE SURVIVOR Y.M.O. 1979.9.2 1981.2.23
4 リフレクションズ 寺尾聡 1981.4.5 1981.6.8
5 A LONG VACATION 大滝詠一 1981.3.21 1983.8.29

 

永井博のイラストによるリゾート気分満載のジャケットにかかる帯に載ったコピーは、“BREEZEが心の中を通り抜ける”。文字通り、70年代歌謡界を経て、来るべき80年代をノックするような洗練された“シティ・ポップ”だった。

最先端ポップ・ミュージックと人気を博しながらも最新技術に頼ることのない古き良き音の構築が最大の特徴。アメリカン・ポップスの教科書とされるフィル・スペクター・サウンドへのオマージュ。重ね録りを重視して“音の壁”を作る、いわゆる“ウォール・オブ・サウンド”。分厚い音の中を瑞々しいメロディが通り抜ける。
セルフレーベルから命名された“ナイアガラ・サウンド”は、追随を許すことのない、もはや唯一無二の専権。
誰も大滝詠一にはなれなかった。

他のアーティストへの提供曲も秀逸だった。

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 松田聖子「風立ちぬ」
作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
(1981年10月7日発売シングル/オリコン1位)

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 森進一「冬のリヴィエラ」
作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
(1982年11月21日発売シングル/オリコン10位)

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 薬師丸ひろ子「探偵物語」
作詞:松本隆/作曲:大瀧詠一
(1983年5月25日発売シングル/オリコン1位=7週間)

大滝詠一“三傑”提供曲の(署名原稿につき異議認めません!)絶対的な存在を意識したのは、偶然にも訃報を聞いた、大晦日の夜だった。

2013年の最後を締めくくる『NHK紅白歌合戦』には奇しくも“三傑”歌手が出場。これって、もしかしたら……何か奇跡が起きるんじゃないかな? 『絶対に笑ってはいけない』を観たい甥、姪、子供達の大ブーイングに横目に、大晦日夜のテレビ前を陣取る長兄&義姉さん、次兄&義姉さん、自分&妻のオーバー40s。

まずは、森進一。
「あ~やっぱり『襟裳岬』かぁ~」(長兄)
薬師丸ひろ子は『あまちゃん』特別コーナーで、劇中キャスト“鈴鹿ひろ美”としてステージに上がり、キョンキョンのバトンを受ける形でドラマを再現する「潮騒のメロディ」を熱唱。彼女の出場じだいがサプライズだったこともあり、
「ニアミスだね……。これはこれで良いでしょ!」(次兄)
というか『あまちゃん』好きなため、全員納得。そして最後の期待は聖子ちゃん。
「そういえば昔、聖子さん取材した時に、大滝さんとのレコーディングは忘れられないって言ってたよ」(著者)。
「へぇ~そうなんだぁ~」(上義姉さん)
「なにエラそうなこと言ってんだ!“ロンバケ”をお前に教えたのはオレだぞ」(長兄)
「聖子のアルバムのお前に伝授したのはオレだな」(次兄)
永遠の末弟を甘んじて受け入れながら聞き流す。

画面の中では、聖子ちゃんが、自作の最大ヒット曲「あなたに逢いたくて」を歌い始めた。
「え~今年はジブリの『風立ちぬ』もヒットしたのに」(下義姉さん)
……無関係。笑いが起きる。和む時間。懐かしい気分。一人の偉大な音楽家の悲しいニュースは、意外なことに胸をキュンとさせるあのコロの“茶の間”を演出してくれた。

僕らに音楽の素敵な贈り物を遺しながらきっと「さらばシベリア鉄道」に乗って、ロング・バケイションに入った大滝詠一さん。

心からご冥福をお祈りします。
あ、今春は『EACH TIME』で再会させて頂きます!

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 大滝詠一
『A LONG VACATION 30th Edition』
発売中(2011年発表)
2625円(2枚組)
Sony Music Records
http://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/discography/SRCL-8000

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 大滝詠一・佐野元春・杉真理
『NIAGARA TRIANGLE VOL.2 30th Edition』
発売中(2012年発表)
2625円(2枚組)
Sony Music Records
http://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/discography/SRCL-8002

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 大滝詠一
『NIAGARA SONG BOOK 30th Edition』
発売中(2013年発表)
2625円(2枚組)
Sony Music Records
http://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/discography/SRCL-8004

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 大滝詠一
『EACH TIME 30th Edition』
2014年3月21日発売予定
Sony Music Records
http://www.amazon.co.jp/EACH-TIME-30th-Anniversary-Edition/dp/B00HHDWGB4/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1390533695&sr=8-1&keywords=each+time

追記:
デジモノステーション2006年11月号から懐かしいエンタメを極私的LOOK BACKし続けてきた小生執筆の連載“あのコロに、胸キュン”。足かけ9年目にして印刷本誌を卒業(気分は斉藤由貴ver.)。今月から装いも新たにWeb版にて、スタート・ミー・アップ(祝ストーンズ来日!)。よろしくお願いします!

文●安川達也(デジモノステーション編集部/エンタメ担当)……1970年10月生まれ。43歳。横浜出身、逗子在住。コーヒーもロックもアメリカン。心はいつでもニュージャージー。