「バブル期そだち」第4回 石黒正数(1977年9月8日生まれ)その4

氷河期世代でもあるポスト団塊ジュニア(1975年4月~1980年3月末生まれ)のあの人に、子供として過ごした1986年から1991年頃までの日本が好景気に沸いていたいわゆるバブル時代について、同世代が聞くインタビュー連載。第4回は、『それでも町は廻っている』で2013年の第17回メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞された漫画家・石黒正数さんです。4週にわたり公開していきます。
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<プロフィール>
1977年9月8日、福井県生まれ。2000年、『アフタヌーンシーズン増刊』にてアフタヌーン四季賞秋の四季賞を受賞した『ヒーロー』でデビュー。以降、SF(すこし・ふしぎ)テイストを根底に、日常コメディ、ミステリー、青春ドラマ、ホラー、ギャグなど、さまざまな雑誌媒体で作品を発表。現在、第17回メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞作の『それでも町は廻っている』(少年画報社/『ヤングキングアワーズ』)、『木曜日のフルット』(秋田書店/『週刊少年チャンピオン』)、『別冊 木曜日のフルット』(秋田書店/『別冊少年チャンピオン』)を連載中。ほか、主な作品に、『外天楼』、『ネムルバカ』などがある。


90年代に青春を過ごしたバブル期そだちの人なら、「80年代=ダサい」と感じる人が多いはず。しかし石黒さんはむしろ90年代がダサくて、80年代のバブル期に憧れを持つという。自らのクリエイティブ性に影響を与えたという、80年代への熱い想いを聞いた。

―僕がこれまでインタビューしてきた漫画家とかアーティストの方は、小さい頃に何かトラウマ的な衝撃を受けたり、ショッキングな事件を体験してたり、あるいは童貞こじらせたりしてるような、個人的なコンプレックスを原動力に作品を生み出してる方が多かったんです。でも、石黒さんの話を聞いてると、頭が良くて、絵も音楽も才能もあって、彼女もいて、友達も沢山いてと、あまりコンプレックスがないように思えるのですが、そのクリエイティブさの根源はどこから来ているんですか?

多分、小学校時代にあらゆる面で神童と持てはやされた自分が、中学時代に絵以外は全部失ったというのがトラウマになってるのかも。人間誰しもそういう経験があって、それがトラウマになるのは、人一倍それを覚えていただけじゃないかと思う。俺もそうだったし。彼女がいた反面、周りにすごく冷やかされたという面もあったり、先生に贔屓されて友達から妬まれたという負の部分もありましたから。

―では、漫画家になろうとしたのはいつ頃なんですか?

小学生の頃には漫画家になりたいと思ってました。具体的なビジョンは持っていなかったんですけど、中学生の頃にさまざまな道が閉ざされて。これは漫画家にならないとえらいことになるっていう危機感がありましたね。

―元・神童なりの不安感ですね(笑)。

漫画家を目指そうと明確に思ったのは90年代だと思うんですけど、でも実は俺、90年代の絵はあまり好きではないんですよね。

―どういうところが?

なんというか、目が縦に潰れて大きくなって、タヌキ顔になっていったじゃないですか。特に女の子の顔はどんどん小さくなって逆に髪のボリュームが増して。どこか世間に迎合しているというか、男がどうにでもできそうな幼稚なキャラにデフォルメされていったような気がする。

―今でも嫌いなんですか?

そうですね。それはデザイン的なことですけど、どちらかと言うと90年代のカルチャー全般が苦手なんですよ。

―それは音楽に対しても?

90年代の音楽はあまり……。今もやっぱり80年代の音楽が好き。当時はあまり好きではなかったですけど。あ、でも「たま」はよく聴いてました。
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―懐かしい! ランニングシャツの。

『さよなら人類』がすごく好きで、そこから同じ人の違う曲を聴こうってなって。

―またそのパターン(笑)。

俺、いつも好きなものだけを掘り下げるんですよ。『お経』とか『牛小屋』とか、たまの歌ばっかり口ずさんでいる中学生でしたね。

―『さよなら人類』以外の曲がスラスラ出てくる人は、僕の周りにはあまりいないですね(笑)。

友達に1人だけ、たま仲間がいたんですよ。そいつとアルバムの中から好きな曲順に並べ替えたカセットテープを聴かせ合ったり。

―マイ・ベスト!  僕も曲名とかの文字をレタリングシートをこすってカセットレーベルを作ってました。

普通は流行歌でまとめるんでしょうけど、俺の場合は、たまだけのマイ・ベスト(笑)。大学生の時に、昔聞いてたカセットテープが出てきたことがあったんですけど、ほとんどがたまだった(苦笑)。

―90年代ソングのどの辺が苦手なんですか?

どこってわけではないんですけど、一番商売的にブイブイ言わせてた時期じゃないですか。当時の俺は根っからのサブカル野郎で、流行りものが大嫌いだったんですよ。あの『COUNT DOWN TV』は、「今、俺が何を嫌えばいいのかがわかるランキング」として観ていた。

―90年代に青春を過ごしててなぜ嫌いなんでしょう? 恥ずかしくて見ていられないみたいな?

そうですね。感覚的な問題ですけど。80年代の音楽だと、戸川純とかKERAとかあがた森魚とか、80年代にニューウェーブと言われてた音楽がいまだに好きですね。90年代のアイドルとか、ロックな格好は恥ずかしくて見てられない。完全に個人的な意見ですけど。

―戸川純はどういうところが?

戸川純は大人になってからハマったんですけど、あれは完全に曲が良かったからです。

―あのヤンデレ感じゃないんですか?

それはないです(笑)。本人のトリッキーさは特に好きではなくて、できればもっとまともな人であってほしかったとさえ思うぐらい。

―石黒さん自身の80年代の思い出が良すぎて、90年代に入ってからあまりいい思い出がないとかが関係しているんですかね? 当時の自分の嫌な感情が残ってて、振り返るとその苦い思い出まで蘇るような。

うーん、どうなんですかね。ただ単に90年代を生きていた自分が嫌なんですよね。裾に行くほど細いズボンを履いてたり。

―ツータック、スリータックとか、僕も履いてました。

あれも嫌なんですよ。あと、前髪を半分だけ下ろすようなファッションも流行ってたじゃないですか。当時ああいうのがイケてると思ってた時代ごと恥ずかしい。

―でも80年代にも似たようなものはありました。

うーん、なんなんですかね。80年代はもっとこう、自分が漠然と生きていたからこそ、どこか憧れがあるんですよ。あらゆる文化に対して手が届かなかった。知らないところで全てが作られていたような。
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―バブル期が憧れの時代だと。

なんて言えばいいんだろう、この感じ。『ビックリマン』とか『ネクロスの要塞』とか『ファミコン』とか、確かにいろんなものが流行ってましたけど、子供だから誰がどうやって作っているのかわからなかったんですよね。だから憧れたのかも。当時の俺はそういうものに刺激を受けて、『ファミコン』ゲームも作りたいと思ってたし、『ビックリマン』みたいなキャラシールも、『ネクロスの要塞』みたいなものも自分で作りたいと思ってた。だから、その欲求を絵に描いて表現していたんだと思う。

―クリエイティブな心を刺激する時代の熱みたいなものがあったんですね。

みんなが同じ方向を向いていたんですよ。どの会社も『ファミコン』のゲームを作ってたし。

―確かに出版社もレコード会社もテレビ局、映画会社も、今思うと意外なメーカーから『ファミコン』ソフトが沢山発売されていましたね。

どこもかしこも作っていたから、今でも中古ショップに行ったら、知らない面白そうな『ファミコン』ソフトがどんどん見付かる。やっぱりみんなが同じ方向を向いていたあの時代の感じが好きだし、だから憧れるのかもしれない。俺が『20世紀少年』の“ともだち”だったら、世界を80年代の日本に作り変えると思う(笑)。

―石黒さんの作品に出てくる子供たちが80年代にあったような遊びに夢中になっているのは、そんな思いがあったからなんですね。まさにバブル期そだちな子供たちが生き生きと描かれている。

今の時代はみんなバラバラで、『艦これ』をやってる人もいれば、『キャンディークラッシュ』をやってる人もいる。でもあの頃は誰かの家に行けば『ファミコン』があって、みんなで同じゲームをしてたんですよ。今みたいにSNSでつながるのとは全然温度が違う。だから願いが叶うものならば、80年代の大人になって、こういう遊びの世界を作ってやりたいと今でも思ってる。それができないから、『それでも町は廻っている』の作中に全部作ってしまったんですよ。俺が作った架空のゲームとか、架空のカードとかが流行っている世界っていう自分の願望を元にして描いている。俺は今も昔も同じで結局、絵でしか欲求を叶えることができないんですよね。

おわり

インタビュー・文/瀧佐喜登(1977年3月18日生まれ)


Information

石黒正数主要作品発売中!

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『それでも町は廻っている(12)』
定価:本体533円(税別)
発行:少年画報社
http://www.amazon.co.jp/dp/4785951745
メイド喫茶でアルバイトをする探偵志望の女子高生・嵐山歩鳥と周りの人びとが巻き起こす、SF(すこし・ふしぎ)日常群像劇の最新12巻。2010年10月期のアニメ化作品。『ヤングキングアワーズ』にて連載中。
©石黒正数/少年画報社

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『木曜日のフルット(3)』
定価:本体419円(税別)
発行:秋田書店
http://www.amazon.co.jp/dp/4253216129
半ノラネコのフルットと飼い主の鯨井先輩が送る、心がほっこりするダメな日常を描いたショートギャグ漫画の最新3巻。『週刊少年チャンピオン』『別冊少年チャンピオン』で連載中。
©石黒正数/週刊少年チャンピオン

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『外天楼』
定価:本体700円(税別)
発行:講談社
http://www.amazon.co.jp/dp/4063761592
増改築を繰り返したマンション「外天楼」で起こる出来事の数々。少年たちのエロ本探しから始まった物語の行き着く先は――。石黒さん曰く、漫画のミステリー手法を突き詰めた作品。
©石黒正数/講談社(KCDX)

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『ネムルバカ』
定価:本体552円(税別)
発行:徳間書店
http://www.amazon.co.jp/dp/4199500758
冴羽女子寮の同室である、ミュージシャンを目指す先輩と目標のない後輩。2人の日常をゆるくも切なく描いた大学生の青春ストーリー。関連作の『響子と父さん』も好評発売中。
©石黒正数/徳間書店