ハイエンドオーディオの“高ければ高いほどいい音”はホント?評論家に聞いてみた

「10万円以上のヘッドホンが、スペック面では数ランク下のモデルと違いが見えない」というような一見してわからない高級オーディオの価値について、オーディオ評論家の野村ケンジ氏に詳しく説明してもらった。

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まず、スピーカーやヘッドホンの価格差と音質差がなぜ生まれるのかについて説明したい。ヘッドホンもスピーカーも、ドライバーユニットと呼ばれる電気信号を音波に変換するパーツが使用されているが、実はこれ、80年以上も基本構造が変わらない“枯れた”技術だったりする。特にヘッドホンで使われているダイナミック型ドライバーは、定番のセオリーやノウハウがほぼ決まっていて、その上でいかに「さらにいい音を生み出すか」が、各メーカーの命題となっている。

そんな、ある意味で研究し尽くされたジャンルゆえに、廉価モデルと高級モデルで、スペック的、構造的な違いはそれほどなかったりする。では何故、両者は音質的に大きな差があるのだろう。また、価格的にも大きな違いが出るのはなぜだろう。

一言で言えば、それは素材と作り方の違いだ。高音質を求めようとすると剛性の高いレアメタル系の素材に手を出さざるを得なくなる。そのため部品コストが高くなる傾向があるのだ。一方で製作方法の違いもある。ヘッドホンは大量生産できる工業製品のため、安価に作り上げることも可能だが、理想値に近い性能(この場合は音質)を発揮させるには、1/100mm単位の設置精度が必要になる。

このため、高級モデルはほぼ手作りになり、精度の調整にも手間がかかる。工業製品というよりも、工芸品に近くなるのだ。インピーダンスや再生周波数帯域などのスペック値は大差ないのに何倍もの価格差が出るのは、こういった理由による。

次にデジタルオーディオを楽しむ際に肝になるDACについて。そもそもDACとは、デジタル音声データをアナログ音声信号に変換する役割を担うもの。デジタル to デジタルの変換とは異なり、変換前後でイコールにならないため、ことオーディオ用途に関しては、変換精度の高さ(歪み感の少なさ)と変換のセンスが問われるのだ。

まず、精度についてはある程度コストで解決できる。回路設計には高い技術力が必要だが、データ変換をする目的は変わらないので、コスト(回路のサイズや製作機械に求められる性能)よりも精度を重視した回路を組み、実際の個体の中から理想値に近い精度を持つ個体を選別すれば良い。ただ、この行程でスタンダード製品に比べて数倍、場合によっては数10倍にコストが上がる。

もう一つ、最新のハイレゾ環境では、例えばDSD(ダイレクト・ストリーム・デジタル)をネイティブ再生できるかなど、再生できる音源がDACで決まるので、そういった仕様を知るためにもDACの型番チェックは重要となっている。

しかし一番の問題は、やはりアナログ変換に関してのセンスだろう。デジタル音声データから「本来はこういう音に違いない」という予測変換ができて初めて、魅力的なサウンドを作り上げられる。

例えば『AK240』などに搭載されている、シーラス・ロジック『CS4398』は、そういう音楽表現の巧みさの部分で好評を博している。DACには、このセンスが巧みに加味されていなければならないという、センシティブな問題があるので、DACの種類が音質の全てではないが、重要なポイントとなっているのは確かだ。

次に、単品コンポはなぜ高級機ほど単機能になるのかについて。ヘッドホンなどで重要となってくる作り込みの精度の高さや、DACで重要なポイントとなるデジタル to アナログ変換の精度やセンスなど、オーディオ機器にはいくつもの重要なポイントとなる部分があるが、その一方で、オーディオ機器にとって最大の課題は、究極的には「振動と電気ノイズをいかに回避するか」という一点に絞られていく。

現代のオーディオシステムは、DACなどのデジタルパートが必須アイテムとなっており、さまざまな機器に搭載されているが、これが高周波ノイズの発生源となり、アナログオーディオ回路に悪影響を及ぼす原因となる。さらに言ってしまえば、屋内配線の電源自体も、さまざまな電化製品が接続されているためノイズまみれなのだ。あくまで極論だが、その状態を放置すれば十分に音質に悪影響を与える要因となる。

そういう電気ノイズの問題から、より上質なサウンドを求めようとすると、それぞれの機能を担うパートを分割し、別々の筐体に収めることが俄然有利となってくる。それが単品コンポが内包する考え方。そのように機能をセパレートすることで、互いが悪影響を及ぼすことを防ぐのだ。そのため、オーディオ製品は高級モデルになっていくに従って、単機能化していく傾向が生まれる。中でも、デジタル部とアナログ部、プレイヤー部とアンプ部をセパレートすると効果が大きいため、パッケージコンポは存在しなくなる。

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仕組みはほぼ決まっているスピーカーやヘッドホン。振動板素材や、ドライバーの構造に変化を付けて音質の向上を図っている。


【野村ケンジ】
ヘッドホンからピュアオーディオ、ホームシアターまで、A&V機器に関して幅広いジャンルをフォローする評論家。年間に試聴するヘッドホンは300機種以上。PCオーディオなどのハイレゾジャンルにも詳しい一方で、ヴィンテージオーディオにも造詣が深い。