4人の識者が語るデジタル15年史、そして未来とは?

創刊15周年を迎えたデジモノステーション。歩んできた15年の歴史は即ちデジタルグッズの歴史でもある。その歴史を振り返ることで見えてくる国内家電市場の“これから”を、デジタル業界の識者に語り合ってもらった本誌1月号の巻頭座談会を誌面未公開部分も含め完全掲載する。今、デジタル市場を切り拓くために必要なものとは――?
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■座談会参加者
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麻倉怜士(デジタルメディア評論家)
デジタルメディア評論家、津田塾大学講師(音楽学)。1950年生まれ。専門分野のオーディオ&ビジュアルを始めとして、広くデジタル技術全般に造詣が深い。雑誌、新聞、Webメディアなどに数多く執筆するほか、テレビやイベントなどへの出演も多数。

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石川 温(ケータイジャーナリスト)
「日経トレンディ」記者などを経て2003年に独立。携帯電話業界を中心とした執筆活動を開始する。現在は新聞、雑誌などのほか、ラジオ「スマホNo.1メディア」のパーソナリティとしても活躍中。有料メルマガ「石川温のスマホ業界新聞」も好評配信中。

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石野純也(ケータイジャーナリスト)
出版社勤務時代に数々のケータイ関連誌を立ち上げた後、ケータイジャーナリストへ転身。雑誌やWebなど多くのメディアで端末からサービスまで幅広い記事を執筆中。今秋は電子書籍「ソーシャルゲーム市場の最新トレンド!」(KADOKAWA)を上梓した。

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西田宗千佳(フリージャーナリスト)
PC、デジタルA&V、生活家電、そしてネットワーク関連など、「電気かデータの流れるもの全般」が研究対象。新聞、雑誌、Webメディアにて幅広く活躍中。年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。小寺信良氏との合同メルマガも発行中。

PCから始まった現代“デジモノ”史

――15年前、デジモノステーション創刊号の“主役”はPCでした。この頃の読者にはデジタル=PCという人が多かったように思います。そこでまずはPCの歴史について振り返るところから始めさせてください。
西田 PCの歴史上、この15年で最も大きな革新だったと言えるのが2003年にリリースされた「Pentium M」。これを中心とした「Centrino」対応PCの登場でモバイルノートは一気に実用的なものになります。メインマシンとしてモバイルノートを使う人が増えたのもこの時期です。
――この頃の誌面を振り返ると確かに2003年ごろを境にデスクトップPCとノートPCの主従関係が逆転していますね。
西田 そして重要なのは、このことが後のスマホブームに繋がっていったということ。好きな場所に持ち歩けるモバイルノートを体験したからこそ、よりコンパクトで、しかも自分で通信までできるスマホが欲しいと思えるようになったのです。いつまでもデスクトップPCが主役のままだったらこんな現象は起こらなかったでしょう。マルチメディアもインターネットも“机の前で楽しむもの”になっていたかもしれません。
石川 モバイルノートの活用が活発化した背景には2008年頃にモバイルWi-Fiルーターが登場したことが挙げられます。それまではUSBスティック型とかPCカード型とかとにかく接続性の悪いものが多かったのですが、モバイルWi-Fiルーターなら、たいていの機器が繋がりますし、ドライバのインストール等も不要。しかも複数台をまとめて接続できるということもあって、一気にユーザーを増やしています。
西田 『PSP』や『ニンテンドーDS』(共に2004年末発売)など、インターネットにつながる携帯ゲーム機の普及で複数台同時接続のニーズも高まっていましたね。
石野 同時期にイー・モバイルやUQ WiMAXなどのモバイルデータ通信専業キャリアが登場したことも大きかった。低価格でしかも高速。当時はこんな速度を一体何に使うんだろうと思ったほど。あっという間に慣れてしまうんですが(笑)
――家庭内でのブロードバンド回線が常識になったことも合わせ、この頃からインターネットを使ったコンテンツ配信が一気に伸びてきますよね。まずは音楽配信だと思うのですが、このあたり何か転機と言える出来事はあったのでしょうか?
麻倉 MP3やAACなどのローレゾ音源に関しては、アップルが2005年8月に国内スタートした「iTunes Music Store(以下、iTMS)」の影響が大でしょう。“オンラインで音楽を買う”という文化を定着させた功績は無視できません。音質的にはまったく評価できないレベルでしたが(笑)、実のところ私も音楽の授業のため、短期間にたくさんの音楽を聴かねばならない時などは「iPod」を持ち歩いていました。
――音質については最近やっとハイレゾが本格化してきましたね。
麻倉 そう思うでしょう? でも「e-onkyo music」がハイレゾ音源のインターネット配信を開始したのはiTMS開始と同じ月なんですよ。当初は配信コンテンツの充実に苦労していたようですが、今では皆さんご存じの通り。この先見の明はアップルと同じくらい高く評価されて良いものでしょう。何にせよハイレゾとローレゾの双方にとって2005年は重要なスタートの年だったと言えます。
――そこから足かけ10年。今ではフルHD映画や電子書籍など、あらゆるコンテンツが高品質に配信されるようになっていますね。
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ハイビジョンの登場が全てのデジタルを変えた

――ではここで話題を変えて、今度はホームA&Vについて。麻倉先生、この15年で最も大きな出来事といったら何でしょうか?
麻倉 それはもう「ハイビジョン」に尽きるでしょう。MUSE方式(1982年~)などこれまでも何度かチャレンジされてきたのですが、2000年~のBSデジタルと、2003年~の地デジでやっと成功にこぎ着けました。そしてこれによって、その後の全てが「ハイビジョン」化していったことが最大のポイント。レコーダーやビデオカメラ、そしてゲーム機など、テレビに繋ぐ全てのものがハイビジョンテレビに合わせた形に進化することを求められました。2000年からの10年間は、まさにその移り変わりの10年だったと言えるでしょう。
西田 ちなみにこの現象を支えた技術の1つがHDDの大容量化・低価格化。レコーダーはこの時期にHDDを記録装置として採用し、高画質と使い勝手を両立させる方向へと進んでいました。もし、この10年でHDDがこれほどまでの進化をしていなければ今日のように便利で快適なA&V環境は実現しなかったかもしれませんよ?
――ちなみに2001年4月に発売された業界初のハイブリッドレコーダー『RD-2000』のHDDは30GB。最新のハイエンドBDレコーダーは3TBのHDDを搭載していますから、この10年で何と100倍もの大容量化を果たしたことになりますね。しかも価格は半分以下ですから驚かされます。
麻倉 HDDは驚異的な大容量と、好きな場所から再生できるランダムアクセス性を備えた、現時点では最も理想的なメディア。全録なども含め、その後のA&Vの楽しみ方を根本から変えてしまいました。
西田 既に始まりつつありますが、その“次”に来る次世代メディアはインターネットと言うことになるのでしょう。実質的に無限のコンテンツを好きなように再生できるのですから凄まじい。まさに究極の大容量&ランダムアクセスメディアです。
石川 そう考えるとなぜワンセグが地デジの一端でありながら元気がなくなっていったのかが分かりますね。震災後に再評価されたりもしましたが、これだけ通信速度が向上していく中でランダムアクセス性を持たないというのは痛かった。だったらYouTube観るよ、みたいな流れになってしまいました。
石野 残念ながら最近ではスマホでもアンテナ外付けという製品が増えてきてしまいましたよね。
西田 ただ、それをもって失敗というのはちょっと厳しすぎるかも。ワンセグに関しては、DRMが比較的緩く、結果的に「ガラポンTV」などのようなユニークな製品を生み出した功はあったと考えてます。
――さて、今年からいよいよ試験放送が開始された4K放送についてはいかがでしょうか? 今年試験放送が始まるなどしていますが、実際のところどうなんでしょうか?
麻倉 韓国との熾烈な競争によって計画がどんどん前倒しになるなど、予想以上にヒートアップしています。現時点では2016年にBSデジタルで4K放送を始める予定に。その次の8K放送も2年前倒しの2018年放送開始となりました。地デジへの移行に約10年かかったことを考えると、これは驚異的な急ピッチと言えるでしょう。テレビメーカーとしては超解像技術を駆使してBDやBSデジタルなどの2Kコンテンツを美しく4K化して楽しむタイプの4Kテレビをもう少し売りたかったようですが、思ったよりも早く“本番”が来てしまいそうです。それもハイビジョンの時と違うのは、放送以外のインターネットや生撮り分野で、4K化がすごく進んできたこと。スカパーJSATの4K放送が始まるのは来年春ですが、すでにOTTのNTTぶららの4K配信はこの10月に正式にはじまっています。
――それはそれで素晴らしいことだと思うのですが、8K放送開始がすぐそこまで迫っていることを考えるといつテレビを買い換えればいいのか分からなくなってしまいますね。
西田 そこで知っておいてほしいのが、今後、スマホも含めた多くのディスプレイから「ドットバイドット」という概念がなくなっていくであろうということ。既にスマホでは始まっていますが、コンテンツとディスプレイは解像度が違っていて当たり前で、それを縮小するなり、拡大するなりして楽しむという時代がやってくるでしょう。
麻倉 これまではSDのテレビはSDのコンテンツだけを、2Kのテレビは2Kのコンテンツだけを美しく表示できれば良かったのですが、そういう時代はもう終わり。“マルチ解像度”の時代では、より低い解像度のコンテンツをどれだけ美しく表示できるか、あるいはその逆など、垂直方向の変換能力が問われます。つまりアップコンバート、ダウンコンバートで画質を測る、まったく新しい時代に突入するのです。
西田 テレビが放送の解像度に縛られなくなることで、今後、5Kテレビや6Kテレビなどが出てくる可能性もあるでしょうね。
麻倉 すでに韓国メーカーは21:9アスペクトで5Kテレビを提案していますね。

次世代のカメラはソフト面の発展が最重要

――デジモノステーションでは毎号幅広いジャンルの製品を紹介していますが、中でも安定して人気が高いのがカメラのジャンルです。その過去と未来についてはどのようにお考えでしょうか?
西田 デジタル化以前も含め、これまでのカメラはいかに光を忠実に取り込み美しく再現するかが重要でした。「画質」こそがカメラの命題だったのです。結果、一眼レフ、コンパクトカメラ、携帯電話内蔵カメラという明確なヒエラルキーが成立。センサーやレンズが大きいカメラほど“良い”というシンプルな評価軸ですね。しかし裏面照射型センサー搭載モデルが登場した2009年から、これが一転。指先ほどの小さなセンサーでもしっかりした写真が撮れるようになったことで、“画質以外”の部分に光が当たるようになったのです。どれで撮っても満足できる画質なら、撮ったその場で加工してSNSなどにアップロードできるスマホの方がありがたいという価値観ですね。この価値観は既にコンパクトカメラなどにも流入しており、撮った後にピント位置を変更できる『Lytro』(国内未発売)のようなカメラが注目を集め始めています。センサーの出力したデータをソフトウエア処理でより面白い形に加工するというのが今後のカメラトレンドの1つになっていくでしょう。
石野 2つのセンサーで撮影した超広角写真をソフトウェア処理で合成して周囲360度を一望できるようにしたリコーの『THETA』などもその枠組みの製品ですよね。
――“ソフトウエアで面白くする”というのはいかにもスマホ的な発想だと思いました。王道のカメラは存在しつつも、確かに今後その流れが加速していくように感じます。
石野 もっともスマホはスマホで、大型センサーや高品質なレンズの搭載、AF高速化など、画質をより良くする方向を目指しています。ですから、相互に影響を受けていると言った方が正確でしょう。
石川 パナソニックのAndroid搭載カメラ『DMC-CM1』などはその究極形かもしれません。ああいった製品が登場したことで、さらに流れが加速しそうです。
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“正解”が見えてきた次世代スマート連携

――さて、ここまでは個別の製品ジャンルについてお伺いしてきましたが、近年の誌面で特に象徴的なのがジャンルを超えた機器の連携です。その中心となっているのはもちろんスマートフォン。この辺りの最新事情について教えてください。
麻倉 現時点でもA&V機器のリモコン的な活用がなされていますが、今後はセカンドスクリーン的な活用が活発になっていくでしょう。そう遠くない未来では次世代ハイブリッドキャストでのより積極的な活用が予定されています。例えばゴルフ中継でテレビ画面にはプレイの様子だけを表示し、手元のスマホ画面でコースやスコアなどを確認できるといった具合です。ほか、もう少し先の話になりそうですが、海外では全方位カメラで撮影した映像の任意の一部分だけをスマホ画面に映し出すなどといった活用法も実験中。家の中でもスマホを手放せなくなる時代が来るかもしれませんね。すると元の撮影もより広い画角が求められます。
――A&V以外の活用法も今後活発化していくのでしょうか?
西田 生活家電との連携は今後ますます強化されていくでしょうね。その点で力を入れているのがパナソニック。スマホから遠隔操作できるエアコンが特に有名ですが、先日もNFCを内蔵しスマホと連携できる洗濯機を発売しました。これ、一部では失笑を買っているようなのですが、実は思った以上に画期的。最近の生活家電って、どれも驚くほど多機能化しているのですが、その割にUIは旧態依然としたままだったんです。この製品はその操作の面倒くささをスマホを活用することで解消しようというもの。ユーザーはスマホの画面で細かい設定を行ない、それをNFC経由で読み取らせるだけで良いんです。かつての「インターネット家電」は、家電の側に高度なネットワーク機能を持たせようとしていましたが、今のスマート家電はむしろその逆。スマホを優秀なコントローラーとして活用するという発想ですね。ですので今後のスマート家電に求められるのは、洗濯したり、米を炊いたり、掃除をしたりといった本質的な部分。その機能をスマホで十全に使いこなすというのが本筋になっていくでしょう。それぞれの家電がネットワーク機能を強化するという方向ではありません。ネットワークに繋がる必要もない。そこはスマホがやればいいんです。
石川 全ての家電がネットワーク機能を備え、例えばSiriのように個別にしゃべり出すようなのはちょっとゾッとしますよね(笑)。
西田 でもそういう未来をかつての「ホームオートメーション」は夢見ていたわけです。今のスマート家電はむしろその逆。これはスマホが興した革命の1つと言っても過言ではないと思っています。
石川 Googleやアップルが次に狙っているのもそこですよね。
石野 今のスマート家電は全て家電メーカーが独自に実装しているもので、メーカーごとにそれぞれ別のアプリが必要になります。ですので、そこに業界統一のプロトコルが欲しい。アップルの「HomeKit」などはその一例ですね。Googleやクアルコムも似たような取り組みを行なっています。ただ、ここで大きな問題となるのがスマホと生活家電のリプレース期間があまりに異なること。冷蔵庫や洗濯機をスマホ間隔で買い換えていくわけにはいきませんから、本格的な普及にはかなり時間がかかりそうです。
西田 例えば冷蔵庫なんかは人生で3回しか買い換えないそうですからね。しかも日本の家電は壊れにくいでときています(笑)。
石川 それでも私達みたいにそういうのが好きな人は飛びつくと思うんですが、例えば私の母親が興味を持つかというと……。一般ユーザーが興味を持つような機能や仕掛けが必要になるのは間違いないでしょう。
石野 その点でちょっと面白いと思ったのがLGの「LG HomeChat」という機能。対応家電とLINEを使ってコミュニケーションできるというもので、デモでは冷蔵庫の中にビールが何本残っているかをまるで友人とチャットするかのような感覚で教えてもらう様子を見せていました。とても親しみやすいインターフェイスだと思います。
石川 洗濯機が「洗剤がなくなりそうだからAmazonに注文しておいたよ」とか言い出すようになって初めて普及するのかもしれません。
西田 そんな中、奇跡的に普及していると言えるのがロボット掃除機でしょう。あれを当初日本のメーカーが出せなかったのは、完璧を求めすぎたから。実は「ルンバ」はその辺、けっこういい加減なんですけど、それで充分実用的だよねという空気を生み出したのが巧かった。
――なるほど確かに。そう考えると次世代家電成功の秘訣は完璧を目指ささないというところにあるのかもしれませんね(笑)。
石川 ただ、日本人って消費者もメーカーも“完璧”が大好きですよね。やっぱり日本からはそういう成功は出てこないように思います。「ルンバ」が成功したのも、あれが海外の製品でまずとんがった人が飛びついたからでしょう? 部屋を丸くしか掃けないのに舶来品だからって許してしまう(笑)。実のところiPhoneのヒットにだってそういうところがあったと思いますよ。
麻倉 ルンバやアップル、そしてダイソン、GoProなどに共通しているのは、製品に“物語”があるということでしょう。技術はもちろんですが、その背景に開発やブランディングのお話がある。日本人はそういうのにものすごく弱い(笑)。
石野 日本のメーカーも昔はそういうことができていたと思うんですよ。ただ、最近は本当にそういうものが伝わってこない。物語がないのか、伝え切れていないのか……損をしていますよね。日本メーカーではありませんが、最近のアップルにもそんなイメージを持ちつつあります。
石川 元情報誌編集者として深く反省しているんですが、やはりスペックを追いすぎたな、と(苦笑)。機能のあるなし、数字の多い少ない、そういうので評価しすぎた結果が、今の日本の機能偏重なモノ作りに繋がってしまったのかもしれません。
麻倉 商品企画はライバル機との○×で進んでいるのが普通の現状ですね。
西田 その点で光明と言えるのが某社で聞いた最近の商品企画の方向性の話。そのメーカーではかつて、平均的なスペックよりも少し良いものを少し安く作るという方向性が基本だったそうなのですが、最近では開発者の自由な発想を許容するようになったのだとか。実際、それで面白いものが出始めているんですよ。
石川 個人的には先日パナソニックが発売したテープレコーダー風デザインのICレコーダーに衝撃を受けました。スペックだけを追っていたらああいう製品はでてきませんから、これも1つの光明といえるのではないでしょうか。こういう製品が出てくるなら今後に期待がもてそう。
――キーワードは“物語”を取り戻すということでしょうか?
西田 そこで勘違いしてはいけないのが、誰も“オシャレなストーリー”を求めているというわけではないということ。わけも分からずファッショナブルなイメージを追うのではなく、地に足の付いた物語を提供していただきたいですね。それでこそ未来に希望が持てるのだと思います。

インタビュー・文/山下達也(ジアスワークス) 撮影/増原秀樹