家電がもっとロボット化するには何が必要?fuRo所長 古田氏に聞いてみた

20150823_002_002

自動ロボット掃除機「ルンバ」のヒットや自分の感情を持った人型ロボット「Pepper」の登場で、家電のロボット化が巷で話題だ。そこで今回は、fuRo所長の古田貴之さんに、ロボット工学の視点から状況を分析してもらい、今後、家電がロボット化するためには、いったい何が必要なのかを教えてもらった。

fuRo所長 古田貴之氏
20150823_002_005
▲1968年、東京都生まれ。2000年、博士(工学)取得。同年、(独)科学技術振興機構でヒューマノイドロボットの開発に従事。現在は千葉工業大学未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長。8本足の電気自動車プロトタイプモデル「ハルキゲニア01」や、福島第一原発原子炉建屋内の調査用ロボット、未来の乗り物「ILY-A」などのロボットを開発。多くのSF作品において、ロボット出演シーンの監修/ロボット技術設定等も手がける。

 

“ロボット家電”の多くは真のロボット家電ではない

「現在、ロボット家電には大きく分けて2種類が存在します。一つは『ロボットメーカーの作ったロボット家電』、もう一つは『家電メーカーの作ったロボット家電』です。これらは、実は似て非なるもの。そして残念ながら、この差は埋め尽くしがたいほど大きく、後者はロボット工学の視点から言うと、ロボット家電と呼ぶにはやや厳しいという実情です」

開口一番、多くのロボット家電に対して手厳しい先制パンチを繰り出した古田さん。もちろん、そのロボット家電の例として、まず挙がったのが自動ロボット掃除機である。

「アイロボットの『ルンバ』はロボット家電です。ロボットを作る上でのルールやセオリーをしっかり踏襲しているからです。つまり、ロボット技術者が作ったものだというのが、我々から見るとすぐに分かります」

20150823_002_003

具体的にどういうところに、セオリーが込められているのだろうか?
「まず、ルンバは『安いハードウェアを使い、良いソフトウェアでミッションを達成すること』を隅々まで考えて作っています。そこが他の家電メーカーとの明らかな違いです。バンパーの接触型のスイッチがメインですし、安価な赤外線センサーを使うなど、設計自体がすごく割り切られています。ロボット掃除機としての耐久性も高いはずです。サイドブラシが右側にしかないのも、壁を必ず右側にして動くように設計されているからです。バンパーが家具に当たることが前提なので、衝撃吸収材もついており、結果的に家具も自分も傷つかないように設計されています。可動部分は消耗しますが、ルンバはバンパーの衝撃センサーに非接触スイッチを使い、物理的な接触を減らすことで故障を防いでいます」

さらに大きく違うのがソフトウェアだという。ロボット家電の根幹であり、逆に家電メーカーがロボット掃除機を作る上で、技術的にもっとも届かないところだと古田さん。

「ルンバはソフトウェアの仕上がりが他社とは違いすぎます。戦略プログラムに経験則が入っていて、障害物にぶつかった瞬間に、それがなにかを推測しているようです。1回ぶつかって、もう一度ぶつかると、『これはイスで、側にあるこっちは机だ』と気づき、すぐに動き自体を変えるのです。こういう人工知能的な部分は、ロボットメーカーとして長期間にわたり開発してきたからこそ実現できるもので、一朝一夕には真似できません」

それに対して、家電メーカー製のロボット掃除機はどういう評価なのだろうか? 実は古田さんは元々家電が大好きで、特に日本メーカーの家電は技術レベルで世界と比較にならないほどすごい! と賞讃している人物でもある。でもそれは家電の範疇であって、ロボットとなると話は別。だからこそ、愛ある叱咤が飛ぶ。

「各社ともルンバとの差別化を意識し、ルンバの弱点と言われる部屋の隅の掃除力を高めようとするばかりに、サイドブラシが長すぎるものが多い。おそらくすぐにへたってしまうものがほとんどでしょう。他の部分も全体的に耐久性が低く、長期間に渡って高い掃除力を発揮し続けられるものは少ないはずです。センサーを過信しすぎな感も見受けられますね。赤外線センサーは黒いものに反応せず、超音波センサーは形に依存するなど、世の中に万能センサーは存在しません。例えばパナソニックの『ルーロ』の場合、赤外線センサーと超音波センサーを搭載していますが、細かいものが識別できません。センサーとセンサーの間に死角があるのです。接触センサーもついてますが、おそらくルンバのような衝撃吸収材が入ったバンパーではないので、ぶつかると本体も家具も傷が付いてしまうでしょう。戦略プログラムも、僕らロボット技術者から見ると、ロボット開発の経験がない人が作ったのではないかと感じられます。東芝の『トルネオ』は、ホームに戻ると自動でゴミを吸引するのですが、そもそもホームに戻れないことが多々ありますね。海外のメーカーよりも日本のメーカーを応援したいのですが、私の視点からだとロボット家電に関してはどうしても厳しいことを言ってしまいますね」

 

筋がいいのはエアコン。冷蔵庫にも大きな可能性が

一方、既存のシロモノ家電には、ロボット化するうえで“筋のいい”ものが多いという。その筆頭がエアコンだ。

20150823_002_006

「ロボット家電というのは、自動で動き回るものだけではありません。ロボット家電の定義は『考えて、感じて、動く家電』です。エアコンはまさにこの定義にバッチリあてはまります。例えば、非常に高機能なセンサーを複数搭載していて、人やモノの状況を繊細に検知し、エアコン自らが最適な温度や気流を判断し、フラップで細かく制御します。これは、ロボット掃除機よりもロボット家電と言えます」

さらにロボット掃除機と同様に、「面倒な家事を代わりにやってくれる」という意味で期待したいものの一つが、「自動で畳んでくれる洗濯機」の登場だ。果たして“ロボット洗濯機”は実現できるのだろうか。

20150823_002_008

「衣類やタオルのような『やわらかいもの』を扱うのはロボットにとって最も難しい作業でしたが、ここ数年で実は可能になりました。衣類をタオルとシャツなどに仕分け、その後に畳むという作業も技術的には近い将来できるはずです。しかし作業スペースやコストの問題もあり、どう製品化するかが課題ですね。洗濯機自体に搭載するより、全く新たな“洗濯物畳み機”のようなものが生み出されるほうが早いかもしれません」

そして冷蔵庫へと話は飛ぶ。古田さん曰く、「なぜ冷蔵庫にロボット技術が入らないのか?」といつも思うとのこと。それはどういうことか?

20150823_002_007

「スーパーで買い物するとき、冷蔵室内の食品の在庫が気になることがありますよね。そこで使えるのが、掃除機と同じ『自動操縦』です。庫内の地図を作り、自動操縦するように庫内のどこに何があるかを調べるのです」

東芝は別売の庫内カメラを使い、外出先からスマホで冷蔵庫内の様子を確認できる機能を提供しているが、庫内を自動認識するというのがいかにもロボット技術らしい。

「僕のアイデアですが、庫内にレールを敷いて可動式のレーザーセンサーを設置することで、中の形状が手に取るように分かります。光源は必要になりますが、いくつかの角度でスキャンすれば中になにがあるかはもちろん、バーコードまでも読み取れるでしょう。Wi-Fi化すれば、スマホ経由で、冷蔵庫の在庫だけでなく、賞味期限まで確認できるようになります。装置自体はおそらく数千円で追加でき、冷蔵庫の本体価格から考えれば費用対効果は高いです。僕ならイオンなどと提携し、食品の在庫がなくなったら自動配送してくれるシステムと組み合わせてサービス展開しますね」

冷蔵庫の庫内を管理し、なくなりそうな食品をネット購入したり、食品からレシピを表示したり。コンセプト自体は古くからあるが、クラウドやビッグデータ解析などの基盤が確立した今だからこそ、ロボット技術との組み合わせで実現できそうだ。

 

ロボット家電の進化は3つの段階で進む

古田さんは家電がロボット化するうえでの進化について、大きくわけて3つの段階があると分析する。それはどういうことか?

「第1段階は、既存の家電にロボット技術が入ること。第2段階は既存の家事をルンバのように、先端的で見たこともないようなもので行なうこと。第3段階は、1と2を統合して何かを行うもの。極論すると、それは人間型ロボットかもしれないし、それにひも付いたコンピュータネットワークのことかもしれません」

第1段階は見た目が既存の家電と同じため、消費者が迷わず購入できることも大きな特徴だ。「これが抜きんでて成功しているのがエアコンで、テレビでも『人感センサーで省エネ』といった機能をソニーが以前から実現しています」。第2段階は購入するハードルが高いが、「ルンバのように認知度が上がれば売れます」とのこと。そして、第3段階はPepperなのか、それともさらに革新的な何かなのか。「それを使う生活が庶民に受け入れられるかが、大きな壁になりますね」と古田さんは語る。

 

ロボット技術を取り入れて日本独自のロボット家電を!

日本の家電メーカーが、ロボットメーカーに負けないロボット家電を作るためにはどうすればいいのか。古田さんには答えが見えている。
「専門家を入れるしかないでしょう。象印の炊飯器の作り方を見習うといいかもしれません。大阪の定食屋の“飯炊き仙人”に師事し、徹底的にご飯のおいしさを追求した。ロボット技術ならロボット技術者に徹底的に指導を仰げばいいと思います」

今のままで家電メーカーが、家電の流儀でロボット技術を取り入れても、「ロボットのような家電」にしかならない。特に自律的に動くロボット掃除機の場合、ロボットの流儀で作らなければ、数年以上も安定して活躍するロボット家電は作れないとのことだ。

さらに、最近はネットワーク経由でスマホと連携したり、遠隔操作ができる「スマート家電」も徐々に増えてきている。ロボット家電にもそのアプローチは有効なのだろうか。

「現実的には難しいでしょう。家電は工業用ロボットの世界と一緒で、各メーカーがユーザーを囲い込もうとするため互換性が生まれません。技術的には簡単ですが、機器同士を相互に接続するのは、今のままでは無理でしょう。ただし、各社がオープンソースのソフトウェアなどを使い、家中の機器を操作するホームオートメーションロボットを作ったとしたなら、そこには大きな可能性があると思います」

各社が持ちうる家電の技術は世界一であり、餅は餅屋、ロボット技術などをロボット技術者から上手に取り入れれば、日本のロボット家電はもっともっと飛躍する。

「日本のメーカーの家電技術はすごいんです。いくら外国の家電のデザインが良くても、僕は買う気になりません。しかしロボット技術はまだまだ未熟です。理想はロボット技術者を大量に雇い入れて研究所を創設すること。そこでしっかりとロボット技術を蓄積し、日本メーカーお得意の“かゆいところに手が届く”改良を加えていけば、海外のメーカーが太刀打ちできないロボット家電を生み出せると思います。今の製品を見て、日本メーカーが本気だというのはよくわかったからこそ、今後に期待したいです」

20150823_002_004

 

文/安蔵靖志 撮影/下城英悟 スタイリング/窪川勝哉 撮影協力/千葉工業大学東京スカイツリータウンキャンパス

※『デジモノステーション』2015年9月号より抜粋

関連サイト
fuRo(千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター)公式サイト