電力+ガソリンのハイブリッドでラリーに挑む【よろしくデジテック】

01

エンジンで発電し、モーターで走行するというシリーズハイブリッドで長距離ラリーに参戦。電気モーターの新しい可能性を追求する意欲的なマシンの実力とは?

三菱自動車
アウトランダーPHEV
レース車両
02
市販車をベースに全幅を拡大し太く大きなタイヤを装着。サスペンションのストロークやドライブシャフトも延長されたラリー仕様車。10月にポルトガルで行なわれる「バハ・ポルタレグレ500」に参戦する。

モーターの加速力をいかし
エンジンは発電に集中する

風見 今回モデルチェンジされた『アウトランダー』はガソリン車ではなくPHEV(プラグインハイブリッドカー)でラリーに参戦されると聞いて驚きました。

03
▲メカドックの風見潤氏(左)。漫画『よろしくメカドック』(作:次原隆二)主人公。作中ではチューニングショップ「メカドック」のメカニック兼ドライバーとして活躍。

増岡 実はモデルチェンジ前の型も「アジアクロスカントリーラリー」には参戦していたのですが、メーカーとしてワークス体制で参加するのは、今年10月の「バハ・ポルタレグレ500」からです。弊社では昨年まで「パイクスピーク」というヒルクライムレースに電気自動車(EV)で参戦していたのですが、次は市販車のPHEVでやろうということになり、参戦が決まりました。

04
▲三菱自動車工業 経営企画本部 広報部 開発本部 車両実験部 上級エキスパートの増岡浩氏。2002年、2003年のパリ・ダカールラリーを連覇した実績を持つ。参戦するバハラリーでは監督兼ドライバーを務める。

風見 PHEVで参戦される理由は何だったのでしょう?

増岡 私も色々なマシンに乗って来ましたが、モーターの加速はどんなガソリン車よりもすごい。その可能性を追求したいと考えました。バッテリーだけで走るEVだと、航続距離に限りがありますが、エンジンで発電しながら走るPHEVなら長距離のクロスカントリーラリーも走れますし、それこそ世界中を旅することもできる。そういう意味で大きな可能性を感じています。

風見 なるほど。PHEVには色んな走行モードがありますが、基本的にエンジンを発電機として使うシリーズ走行モードで走るのですか?

上平 そうですね。スタート時にはバッテリーだけで走ることもありますが、基本的にエンジンは一番効率の良い回転数で回し続けて発電。その電力でモーターの駆動力をメインに走ることになります。

05
▲三菱自動車工業 開発本部 C&D-seg商品開発プロジェクト 主任の上平真氏。『ランサー エボリューションX』の開発を経て『アウトランダーPHEV』では技術構想書を作成する段階から手がける。

風見 それはなぜですか?

上平 ラリーでは最高速よりも加速の良さが求められるからです。「アジアクロスカントリーラリー」でのデータを見ると、特にフラットな路面でモーターにアドバンテージがありました。「バハ・ポルタレグレ500」はフラットな部分が多いレースなので、モーターで走るのが有利なんです。

風見 そうなんですね。加速以外にもモーターが優れている部分はありますか?

増岡 トルク変動がなくシームレスなことですね。アクセルを踏めば、どの回転域でも同じトルクが引き出せるので、クルマを自分の思うような姿勢にしやすい。あとは、コーナーの途中で変速をしなくてもいいですし、やっぱり静かだし。すっかりモーターの魅力にはまっています。

上平 PHEVはエンジンで発電しているから静かではないですけどね(笑)。スタート時はバッテリーだけを使うので静かなのに、途中からエンジンがかかって急にうるさくなるので、見ている人から「何だ? あれは?」と言われることがあります。

風見 ラリー仕様は外観も随分違いますが、市販車とはどんな部分が違うのですか?

増岡 車体の幅を広げて大きなタイヤを履けるようにしています。サスペンションのストローク量も伸ばしていますね。後はバッテリーの容量やエンジンの発電量も上げることで電圧を上げて、モーターがより大きな出力を出せるようにしています。

上平 それとソフトウェアの部分ですね。制御に関してはセッティングを細かく変更しています。

加速が良く制御しやすい
モーターが今後の主役に

風見 ソフトで制御を変えているのは、どんな部分ですか?

上平 このクルマは「S-AWC」というシステムで4つのタイヤの駆動力と制動力を制御しています。市販車では曲がる際にコーナーの内側に来るタイヤに軽くブレーキをかけることで曲がりやすくしているのですが、ラリーでは減速してしまわないように、そのブレーキのかけ方を調整しています。また、市販車では片側のタイヤの空転が大きいと、そのタイヤにブレーキをかけたり、駆動力そのものを落として空転を止めるようにするのですが、ラリーではタイヤが空転してもクルマを前に進めることが大事ですので、駆動力は落とさないようにしています。

風見 そんなに細かく4輪の制御をやっていたんですね!

上平 はい。クルマはどんなにパワーがあってもタイヤは4つ。接地している面積はハガキ4枚分ほどです。駆動力も制動力もそのわずかな面積で地面に伝えなければなりません。それをいかにコントロールするか? というのが「S-AWC」の考え方です。私も関わっていた『ランサー エボリューションX』でも「S-AWC」で4輪をコントロールしていましたが、それに比べるとPHEVは楽に高度な制御ができます。

風見 楽になったというと?

上平 「ランエボ」ではエンジンの出力を前後輪に分割して、さらに左右のタイヤに伝わる駆動力を制御していましたが、PHEVでは前後にそれぞれモーターを搭載しています。ですので前後の駆動力配分は簡単ですし、モーターはレスポンスが良いので指示の信号を送ればすぐに反応して駆動力を制御できますから。

風見 なるほど。「ランエボ」シリーズもラリーに参戦していたクルマですから、ラリーでのノウハウもあるということですね。

上平 そうですね。ラリーは悪路から舗装路までありとあらゆる路面がありますから、その状況に合わせてどうやって駆動力を伝えるか? といったノウハウは蓄積されています。「ランエボ」は今年の『ファイナルエディション』で終了することになりましたが、その技術や思想は『アウトランダー』に受け継がれているんです。

風見 「ランエボ」の遺伝子が受け継がれていると考えると、ラリーへの参戦も自然なことに思えますね。

上平 そうですね。このクルマを担当してみて感じたことですが、今後はレースの世界でも加速が良くて制御しやすいモーターが主力になっていくと思います。

増岡 これまでハイブリッドやEVというと、燃費や環境性能のために走りの楽しみを我慢するというイメージがあったかと思いますが、『アウトランダーPHEV』は何も我慢する必要がなく、モーターならではの胸のすくような加速が味わえる。それでいて燃費も環境性能も良いですから。

風見 確かにモーターは環境性能だけでなく、走りの性能も高いことをアピールするにはラリーは最適ですね。本日はありがとうございました。

eye
メカドック風見の眼
モーターの可能性を一気に拡大するシステム
モーターの加速力やコントロールしやすさをいかしながら、エンジンを発電機として使うことで航続距離の問題を解決。長距離ラリーにも対応しているのがすばらしい! このシステムを使えば、モーターの可能性が一気に広がると感じた。4輪制御技術にも脱帽!

イラスト/次原隆二 文/増谷茂樹 撮影/松川忍

※『デジモノステーション』2015年10月号より抜粋

関連記事
安心をプラスする最先端の予防安全技術【よろしくデジテック】

関連サイト
アウトランダーPHEV
三菱自動車モータースポーツ