マン島レースを連覇で制した電動バイク『神電四』【よろしくデジテック】

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100年以上の歴史を持つマン島TTレースの電動クラスで2年連続1-2フィニッシュを決めた無限の「神電」。電動バイクの最先端を走るマシンの実像に迫る!

無限
神電四
レース専用車両
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2012年よりマン島TTレースの電動バイク部門である「TT Zero」クラスに参戦するマシンの4代目。油冷式の三相ブラシレスモーターを搭載し、最高出力は110kWで最大トルクは220Nm。車重は250kg。

 

ライダーがスイッチ1つでマシンの性能を変えられる

風見 無限と言えばF1にもエンジンを供給したりと、主に4輪のレースで実績を残してきたコンストラクターだと思いますが、バイク、それも電動でマン島に挑戦されているのは、どういう理由なんでしょうか?

宮田 今はF1でも回生エネルギーを使ったモーターアシストが導入されていますし、ル・マン24時間などの耐久レースもハイブリッド車でなければ勝てなくなっています。レースの世界でも電気のことがわからないと通用しなくなっているんです。そのため、電動マシンでのレースに対する技術を、人や設備も含めて高めるために、まずは電動バイクでレースに挑戦してみようということになりました。無限も過去にはモトクロスに参戦していたりと、バイクも知らない世界ではないので。

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▲メカドックの風見潤氏(左)。漫画『よろしくメカドック』(作:次原隆二)主人公。作中ではチューニングショップ「メカドック」のメカニック兼ドライバーとして活躍。
▲無限(M-TEC)モータースポーツ事業部電装開発課の宮田明広氏(右)。F3000やF3、スーパーGT等のレースカーの電装担当を経て、「神電」シリーズのプロジェクトリーダーを務める。

風見 マン島TTレースを挑戦の舞台に選ばれたのは、なぜですか?

宮田 ちょうど良いタイミングで電動バイクのクラスが設立されたからというのもありますが、ホンダと関係の深い会社ですので、かつてホンダが世界にその名を轟かせたレースだということも当然意識しました。

風見 確かにホンダは歴史あるマン島で輝かしい結果を残したことで、その後世界に羽ばたいて行ったメーカーですもんね。でも、バイクレースの経験があるとは言え、電動バイクを1から作るのは大変だったのではないですか?

宮田 確かにまだ確固たる完成形がある世界ではありませんから、試行錯誤の連続でした。とりあえず、ジオメトリー(設計時の基準となる数値)についてはガソリンエンジンのバイクを踏襲することにしました。本当は電動バイクならではのカタチがあるのかも知れませんが、そこから考えている時間はなかったので。初年度はとにかく、どこにモーターを積んで、どこにバッテリーを乗せるのか? に一番苦労しました。結果としてシートカウルの中など、本当なら重量物を積みたくない場所にまでバッテリーを収めています。

風見 確かに重心位置から離れたところに重い物を乗せたら運動性に影響しますもんね。それでもバッテリーを多く積むことが大事だったということですか?

宮田 そうですね。モーターの出力を上げるためにはとにかくバッテリーは多いほうがいいですから。現状の仕様で、出力を抑えればマン島のコースを3周くらい走ることはできるのですが、少しでもタイムを削ろうと全周フルパワーで走るとバッテリーが1周持ちません。そのために出力のマッピングを数種類用意して速度の出ないテクニカルな区間ではパワーを抑えてバッテリーを持たせるようにしています。

風見 やはりコンマ1秒を削るような走り方だとバッテリーの消費も激しいんですね。マップの切り換えはどこでやるんですか?

宮田 ライダーが手元のスイッチで行ないます。ボタン1つでマシンの性格が激変するので、ライダーも驚いていましたね。

 

サスペンションやチェーン、電動バイク専用の部品も

風見 ボタン1つで切り換えられるというのは電動ならではですね。ほかにもライダーから電動に対する驚きの声はあったりしますか?

宮田 押して歩いている時はこんなに重いのに、走り出すとすごく軽く感じるということに驚いていましたね。エンジンのバイクは、クランク以外にもカムだったりミッションだったり、回転しているパーツが非常に多いんです。それら1つ1つが慣性力を発生するので、加減速や車体を傾ける際に、その抵抗で非常に重く感じる。電動の場合、回転しているのはモーターだけですから、慣性力が少ないので軽く感じるのです。

風見 エンジンとモーターだと、そんな違いもあるんですね。車体を傾けて曲がるバイクだからこそ感じられることなのかも知れませんね。それ以外にも電動ならではのパーツや機能はありますか?

宮田 使用しているパーツも、パーツメーカーさんに電動専用に作ってもらったものが数多くあります。例えば、動力を伝えるチェーンもエンジン車に比べるとはるかに薄くて軽いものを使っています。変速のショックがありませんし、パワーの出方がフラットなので薄いチェーンでも大丈夫という判断です。確かに一度も切れたことはありませんし、軽い分抵抗も少ないので、パワーを有効に使えているはずです。フロントのサスペンションもエアサスにして少しでも軽量化をしています。バッテリーが重いので、ほかの部分は少しでも軽くしたいので。

風見 電動専用のレース用パーツがすでにあるんですか!?

宮田 いえ、パーツメーカーさんにこのマシン専用に作っていただきました。パーツメーカーさんも電動バイクという新しいカテゴリには興味を持っていただいているようで、色々と積極的に提案してくださるので助かっています。見た目ではわかりませんが、ブレーキも車重の重い電動バイクに合わせて専用設計されたものなんです。

風見 パーツを作る側も電動になると新しいノウハウが必要になりますもんね。バッテリーは、どこのメーカー製なのですか?

宮田 日立マクセルさんから供給いただいています。乗りモノ系で採用されている例は少ないので、知名度は低いですが電動工具用のバッテリーでは高い技術をお持ちで、瞬間的に大きな出力を出せるんです。「神電」の出した結果はこのバッテリーの性能に寄るところが大きいです。

風見 最後にメカニックとして電動バイクに関わっていて、一番面白いと感じられるのはどこですか?

宮田 プログラミングで自在に走りをデザインできることですね。パワーの出方だけでなく、乗り味についてもいくらでもアレンジができる。すごくパワフルにもできますし、ライダーのクセに合わせて乗りやすくすることも、プログラミングだけでできる。その自由度が面白いです。

風見 なるほど! エンジン車で乗り味を変えようとしたら、エンジンを載せ替えないといけないですもんね。本日はありがとうございました。

 

メカドック風見の眼

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新しいジャンルだからこそ新しい発見があって面白い!
電動バイクは車重に比べて軽く感じるとか、電動バイク専用のパーツチョイスなど、レースに挑戦したからこそわかる話、新しいモノを試行錯誤しながら作る話が面白かった! お話の中で出てきた「電動バイクならではのカタチ」があるのなら早く見てみたい!

 

イラスト/次原隆二 文/増谷茂樹 撮影/松川忍

※『デジモノステーション』2015年11月号より抜粋

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