自動運転時代にこそ輝く! ”運転手付き”の超高級車ロールス・ロイスのコンセプトカー

川端由美の「CYBER CARPEDIA」

進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

 
THIS MONTH’S CYBER CAR
 
Rolls-Royce VISION NEXT100 103EX

ショーファー・ドリブンではなく“ショーファーレス”の時代へ

「今ある中で最高のものを選び、より良いものにしなさい。なければ、生み出しなさい」とは、ロールス・ロイスの創業者の1人であるヘンリー・ロイス卿の言葉だ。100年以上を経た今でも、その信念が貫かれていることは、ロールスロイスの製品に触れれば誰もが感じることができる。最上級モデルの「ファントム」、ドライバーズ志向を目指した「ゴースト」、一昨年に登場した2ドア・クーペの「レイス」、そのオープン版となる「ドーン」のいずれもが、それぞれのセグメントで“最高のもの”なのは明らかだからだ。

ところが、そんな風に伝統を貫く老舗のロールスロイスが、100年後の未来を見据えたコンセプトカーを世に送り出して大きな話題を生んだ。実は、100年を越えるロールスロイスの歴史の中でコンセプトカーを打ち出すのは初である。ロールスロイスは元々、製品の一台一台が顧客の好みにあわせてビスポーク(オーダーメイドの意味)されており、すべてがコンセプトカーのような“超”が付く高級車ブランドなのだが、今回はあえて従来の高級車の概念を覆すようなコンセプトを打ち出した、というワケだ。

姿形からして、刺激的だ。なんといっても、ショーファー・ドリブン(運転手によるドライブ)を旨とするロールスロイスなのに、運転席がない。2050年ごろを想定して考えられているため、自動運転の技術を採用しているからだ。実のところ、一般的な自動車メーカーにとってドライバー=顧客だから、自動運転の時代になってもドライビング・プレジャーを謳わざるをえない。しかし、オーナーが後席に座るスタイルであれば、“ショーファーレス”として、クルマの中はプライベートな空間と割り切ることができるのだ。

ショーファー(運転手)・ドリブンを旨とするロールスロイスなだけに、自動運転の実現を想定して、リラックスした後席空間のみとした。巨大なスクリーンにヴァーチャルで映し出されるのは、人工知能のアシスタントである“エレノア”こと、フライング・ビューティーだ。
ショーファー(運転手)・ドリブンを旨とするロールスロイスなだけに、自動運転の実現を想定して、リラックスした後席空間のみとした。巨大なスクリーンにヴァーチャルで映し出されるのは、人工知能のアシスタントである“エレノア”こと、フライング・ビューティーだ。

リビングルームのようなリラックスした空間に座ると、ロールスロイスの象徴的存在である“フライング・ピューティー”のホログラムが現れる。本来、ボンネットの上に鎮座するカーマスコットなのだが、未来では彼女が人工知能によるバーチャルなアシスタントとして、オーナーの望みを聞いてくれる。

行き先を言えば目的地を設定するのは当然だが、「お腹がすいた」と伝えれば、付近のレストランを推薦するといった人工知能ならではの対応もしてくれる。

12気筒エンジンが搭載される現在のロールスロイスをイメージして、電動パワートレインの時代であっても、あえてロングノーズのスタイリングとした。ただし、ボンネットの内側にエンジンなどはなく、ラゲッジスペースに当てられている。
12気筒エンジンが搭載される現在のロールスロイスをイメージして、電動パワートレインの時代であっても、あえてロングノーズのスタイリングとした。ただし、ボンネットの内側にエンジンなどはなく、ラゲッジスペースに当てられている。

 

最新の生産技術と伝統工芸を融合させる

究極の高級車であるロールスロイスは、一体どんなところで作られるのか? 本社工場のある南イングランド・グッドウッドの辺りは、気候が温暖で、美しいビーチも近い。ロンドンや空港から小一時間という利便性もあって、日本では神奈川県・葉山町のような位置づけだ。実際、引退後のF1ドライバーが邸宅を構えたり、セレブが別荘を持つことで知られている。

実は、2003年に同じ英国の高級車ブランドであるベントレーと袂を分かった際に、ロールスロイスはいちから工場を建てなければならなかった。当然、高級別荘地にいきなりクルマの工場ができると聞けば、近隣の反対は否めない。が、このあたり一帯を所有する英国の王位継承権を持つマーチ卿が洒落た人物で、「我が家からみえない」ことを条件に新工場の建築を許可した。

自然と融合した建築を手掛けることで知られるニコラス・グリムショーは、周囲を緑の土手で囲み、屋上をグリーンルーフにして、見事にグッドウッドの丘を一望できるマーチ卿の邸宅から見えない工場を作り上げた。

ニコラス・グリムショーの手になる環境配慮型の工場は、2003年にグッドウッドに新設された。ウッドに覆われた優しげな外観の建物が、ブリティッシュ・ガーデンを取り囲むように立ち並ぶ。その間にある蓮の池は、観賞用ではなく、熱交換器の機能を持つ。頭上はヨーロッパ随一の広さを誇るグリーンルーフで覆われている。
ニコラス・グリムショーの手になる環境配慮型の工場は、2003年にグッドウッドに新設された。ウッドに覆われた優しげな外観の建物が、ブリティッシュ・ガーデンを取り囲むように立ち並ぶ。その間にある蓮の池は、観賞用ではなく、熱交換器の機能を持つ。頭上はヨーロッパ随一の広さを誇るグリーンルーフで覆われている。

エントランスをくぐると、手入れの行き届いた英国庭園が見える。周囲をウッドパネルで覆われた工場とは思えない建物の前には、蓮の花が咲き誇る池がある。観賞用ではなく、熱交換器の役割を果たしており、夏でもほとんどエアコンを必要としない。自然光が指す建物内に足を踏み入れると、“工場”と呼ぶのがはばかられるほどの静けさだ。ほとんどのクルマがビスポーク(特別注文)されるため、1工程にかかる時間が30~40分と長い。作業が済むごとに、人が台車を押して次の工程に進める。

自然光を取り入れた工場内は、明るい室内空間となっている。フラッグシップの「ファントム」が専用のラインで生産されることに加えて、“ベイビー・ロールス”の「ゴースト」、2ドアクーペの「レイス」、カブリオレ版の「ドーン」が同じラインで生産されている。
自然光を取り入れた工場内は、明るい室内空間となっている。フラッグシップの「ファントム」が専用のラインで生産されることに加えて、”ベイビー・ロールス”の「ゴースト」、2ドアクーペの「レイス」、カブリオレ版の「ドーン」が同じラインで生産されている。

ロールスロイスの真骨頂である豪華なインテリアもまた、人の手で丁寧に作られている。傷の少ない北欧の雄牛の革に限って取り寄せ、不具合のある部分をチェックし、レーザーによって高品質の部分を無駄なくカットする。さらに、工芸品のように丁寧なステッチが施される。

ストレッチマークや虫刺されの跡がつきにくい北欧産の雄牛の革のみを選び、さらに品質管理を行った上で、最新のレーザーによって最適な配置がなされ、高品質のレザーを無駄なくカットしていく。老舗らしい最先端技術の使い方だ。
ストレッチマークや虫刺されの跡がつきにくい北欧産の雄牛の革のみを選び、さらに品質管理を行った上で、最新のレーザーによって最適な配置がなされ、高品質のレザーを無駄なくカットしていく。老舗らしい最先端技術の使い方だ。

美しい木目を持つウォルナットやバーズアイメイプルといったウッドパネルは、選りすぐったものだけを使う。ブックマッチと呼ばれる模様合わせの工程は、天然の木目を左右対称に合わせるもので、これぞ、職人技だ。伝統を重んじつつも、肝心なところには最新の技術を投入するのが、ロールスロイス流の最高級の作り方なのだ。

「ドーン」のリアに設置されるウッドパネルは、カーブの多い大型パーツゆえに木目を合わせる作業に熟練の業を要する。ウッドの強度に注意を払いながら、丁寧に木目をあわせていく作業は根気が必要だ。
「ドーン」のリアに設置されるウッドパネルは、カーブの多い大型パーツゆえに木目を合わせる作業に熟練の業を要する。ウッドの強度に注意を払いながら、丁寧に木目をあわせていく作業は根気が必要だ。

 

地中海に浮かぶ島に現れるロールスロイスの世界

これほど丁寧に作られる最高級のクルマを手に入れるのは、いったいどんな人たちなのだろうか? ロールスロイスが、夏にだけ高級リゾートにオープンさせる“Summer Studio”と呼ばれるスペースがある。イタリアは地中海に浮かぶサルディニア島は、昔から成功したイタリア人にとって憧れの別荘地だ。なかでも、北部にあるポルト・チェルボはヨーロッパ中の富裕層が巨大なボートで乗り付ける寄港地として知られている。ロールスロイスを買えるような層の多くは“スーパー・リッチ”だが、“タイム・プア(時間がない)”な人だと、同社では分析している。それならば、リゾート地でリラックスした気分のときに、ロールスロイスの世界観に触れて欲しいと考えたのだ。

ロールスロイスのロゴが掲げられた"Summe Studio"のエントランスの前に止まる2ドア・クーペの「レイス」。室内の頭上に輝くのは、LEDを使った”星空”のオプションだ。希望すれば、生まれた日の夜空でも、記念日でも、将来のある日でも、自由に星を配置できる。
ロールスロイスのロゴが掲げられた”Summe Studio”のエントランスの前に止まる2ドア・クーペの「レイス」。室内の頭上に輝くのは、LEDを使った”星空”のオプションだ。希望すれば、生まれた日の夜空でも、記念日でも、将来のある日でも、自由に星を配置できる。

地中海に浮かぶ小さな島によくもこれだけの人が集まったと感心するほど賑やかな繁華街に、いきなりロールスロイスの最新作「ドーン」が停車している。アートギャラリーのようなスペースに、ロンドンのメンズファッションシーンを牽引するティモシー・エベレスト氏とのコラボによって生み出された2台の限定モデルが並べられている。創業者の1人であるチャールズ・ロールズ卿は、クルマだけではなく、飛行機も飛ばした冒険家であり、その彼にリスペクトしている。

ロンドンで活躍するテイラーで、日本でもブランド展開をしている「ティモシー・エベレスト」氏が、創業者の一人であるチャールズ・ロールズをイメージして手がけた限定仕様の「レイス」とビスポーク・スーツが並ぶ。その横に立つのは、ワイン・コノショアーかつジャーナリストであるトム・ハロー氏。
ロンドンで活躍するテイラーで、日本でもブランド展開をしている「ティモシー・エベレスト」氏が、創業者の一人であるチャールズ・ロールズをイメージして手がけた限定仕様の「レイス」とビスポーク・スーツが並ぶ。その横に立つのは、ワイン・コノショアーかつジャーナリストであるトム・ハロー氏。

もちろん、望めばテストドライブにでかけることもできる。最高級の「ファントム」の後席に座って、ショーファー・ドリブンでワイナリー巡りをするのもいいが、地中海の太陽が燦々と降り注ぐサルディニア島であれば、最新モデルの2ドア・クーペ「ドーン」のステアリング・ホイールを握るのもまた一興だ。

イタリア・サルディニア島の北部にあるポルト・チェルボの港には、贅を尽くしたメガヨットが係留されている。夏になると、太陽を求めてヨーロッパ全土やロシアから富裕層が地中海沿岸の港に集まるのだが、そのなかでもポルト・チェルボは大型ボートの停泊地として有名な存在だ。
イタリア・サルディニア島の北部にあるポルト・チェルボの港には、贅を尽くしたメガヨットが係留されている。夏になると、太陽を求めてヨーロッパ全土やロシアから富裕層が地中海沿岸の港に集まるのだが、そのなかでもポルト・チェルボは大型ボートの停泊地として有名な存在だ。

すっと走りだすときの滑らかな加速感は、大排気量エンジンで巨大なトルクを生み出すロールスロイスならではだ。カーブに差し掛かって操舵するときには、おおぶりなステアリングホイールを送ってやれば、弧を描くように曲がっていく。正直なところ、スポーツカーのようにやる気になるわけではないが、快適さと滑らかさでは抜きん出ている。50㎞/hまでならボタン一つでルーフを開閉できるのもいい。

実際、“The Bestー最高”という賛辞がロールスロイスほど似合うクルマはない。その根底には、ヘンリー・ロイス卿の言葉が、創業から110年以上が経つ今でも受け継がれているからだろう。

文/川端由美
 

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 
※『デジモノステーション』2016年10月号より抜粋

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