ロボット中毒が社会問題に!? 元Pepper開発リーダーに聞く「人とロボットの未来像」

かつて人型ロボット「ペッパー」の元開発リーダーを務め、現在は新たなロボットメーカー・GROOVE Xを起ち上げた林 要さん。ロボットと、そこに搭載するAIについて、長年に渡り思考を続けた末に辿りついたロボットの未来像を聞いた

 

ガチャ系ゲームのようなロボットが必ず出てくる

「ロボットは人間にとって、中毒性の高いもの」そう注意を促すのは、ソフトバンク在職時にペッパーの開発を主導した、林 要氏だ。

「ロボットやAI(人工知能)はこれから進化のスピードを上げながら進歩していくでしょう。成熟期には、人にとってすごく良いものになるのですが、その過渡期では、いろいろな問題が起こると考えています」

今後、ハードウェアもソフトウェアも、確実に進化していくだろう。そんな進歩を続けていけば「今みたいに単純なロボットと、単脳なAIだけじゃなくなってくる」と林さん。「パーツや性能が上がれば上がるほど、人に与える影響は大きくなっちゃうんですよね」。ロボットを悪用して商売するのも簡単になっていくということだ。
今後、ハードウェアもソフトウェアも、確実に進化していくだろう。そんな進歩を続けていけば「今みたいに単純なロボットと、単脳なAIだけじゃなくなってくる」と林さん。「パーツや性能が上がれば上がるほど、人に与える影響は大きくなっちゃうんですよね」。ロボットを悪用して商売するのも簡単になっていくということだ。

今後より高度な人工知能が組み込まれ、さらに人や動物に近い動きができるようになるであろうロボットたち。人は、そんなロボットに魅了されていくことになるだろう。

「そういう(人を魅了する)ものっていうのは、人に悪い使いかたをさせれば間違いなく中毒にできるわけです。結局、過去にあった嗜好品と同じなんです。アヘン戦争が起こったように、あるパターンに陥ると、人は簡単に中毒になってしまいます」

言うまでもなくアヘンは、古来から鎮痛剤などの薬剤として使われている一方で、低くない中毒性を持つ麻薬としても知られている。19世紀、その麻薬としての側面を利用して荒稼ぎしていたのが、イギリス(東インド会社)であり、それが元となって起こったのがアヘン戦争だ。代表的な例としてアヘンがあげられたが、人はアヘン以外にも様々なものの中毒になってきた。身近なものでも、アルコールやタバコ、ゲームなどに、誰もが時間やお金を浪費した記憶があるだろう。

薬剤として使われていたアヘンは、中毒性が高いこともあり、嗜好品として認められていなかった。もちろん19世紀の中国、当時の清でもアヘンは違法だった。そんな清にイギリス(東インド会社)は、大量のアヘンを密かに輸出し続けた。それが発端となり、1840年に清とイギリスの間でアヘン戦争が勃発したのだ。
薬剤として使われていたアヘンは、中毒性が高いこともあり、嗜好品として認められていなかった。もちろん19世紀の中国、当時の清でもアヘンは違法だった。そんな清にイギリス(東インド会社)は、大量のアヘンを密かに輸出し続けた。それが発端となり、1840年に清とイギリスの間でアヘン戦争が勃発したのだ。

「ロボットに関しても、そこ(中毒性)を狙ってくる人たちが必ず出てくるはずなんです」

例えばガチャ系のスマホゲームのように、ただひたすらガチャを回したくなるような仕組みが、ロボットに組み込まれることもあるということ。

「企業の最大のミッションが、利益の最大化であるとします。その過程で長期的な利益を目指すのであれば、企業と購買者はウィン・ウィンになるはず。でも企業が短期的な利益を目指すのであれば、必ずしもウィン・ウィンにはならないんです」

もちろん、この考え方はすべての製品やサービスに当てはまる。だが、誰もが魅せられ中毒性の高いものだからこそ、ロボットを選ぶ際には細心の注意が必要になるというのだ。このようにロボットを含めた製品やサービスの真贋を見極めるのが難しくなる時代がやってくることを見据えている林さん。彼が率いるGROOVE Xでは、どんなロボットを目指した開発をしているのだろうか?

「GROOVE Xでは、“人を癒すようなコミュニケーションロボット”を開発しています。加えて、“人のパフォーマンスを上げるロボット”を作りたいと、必ず言及するようにしているんです。なぜわざわざそんなピンと来ない言葉を付け加えているのでしょう。たしかに多くの人が、ぼくらが作るロボットを好きになってくれるだろうとは思います。でも、ひたすら好きになってもらうだけでは、そのロボットの存在がユーザーにとってプラスなのかマイナスなのかわからない」

そこで林さんは、“人のパフォーマンスを上げるロボット”を求めたユーザーにとって、明確にプラスとなるロボット作りを目指す。

「人にとってプラスになるロボットとマイナスになるロボットの違いというのは、道徳的な善悪とかの問題ではないんです。人がどういう時に落ち込んだり、モチベートされたり、元気になったりするかという心の動きを、認知科学的にとらえてプラスの方向に持って行きたいという意思が宿ったロボット。あるいは、いかにお金を使わせようかとばかり考え、人に貢献することを二の次に作られたロボット。その違いなんですよね」

危険なのは、この「いかにお金を使わせようか」、というところの“手前”までは、両者のアプローチが似ている点だという。

「一生懸命に勉強するようになるための何かと、一生懸命にゲームをするようになる何かは、仕組みとしてはそれほど変わらないかもしれない。それは将棋とガチャ系のゲームとの違い、と言えばわかりやすい。どちらも勝負師としての中毒性がありますが、ガチャを回すことがゲームの目的になった瞬間に、その延長線上に人のパフォーマンスの向上はないと思うんですよ」

今後のロボットは大きく2つの方向性に分かれていくという。お掃除ロボットや空調機器などは、進化するにつれてその存在感をユーザーの前から消していく。一方で、「人を癒したり、魂の拠り所となるようなロボットは、その存在感が必要になります」。そして、今後のロボットはどちらかに軸足を置くことになるという。
今後のロボットは大きく2つの方向性に分かれていくという。お掃除ロボットや空調機器などは、進化するにつれてその存在感をユーザーの前から消していく。一方で、「人を癒したり、魂の拠り所となるようなロボットは、その存在感が必要になります」。そして、今後のロボットはどちらかに軸足を置くことになるという。

人のパフォーマンスを上げるロボットブランドだけが残る

ここまで聞いていると、林さんは警鐘を鳴らしてばかりにも思えるが、彼はロボットの未来について悲観しているわけではない。悪用する勢力が出てくるのが必然なら、有用なものにしようというカウンター勢力があらわれるのもまた必然だからだ。

「ロボット文化も競争がすすめば、やがては人々に害がなく、ポジティブな方向へと働きかけるコンテンツを社会全体が求めるようになるはずです。これはアニメの流れを見れば分かること。初期のアニメは、親が子どもに見せないようにしていた。それが今では、ディズニーやジブリの作品など、親が率先して見せようとしていますよね」

つまり林さんの考えでは、ロボットの進歩とともに玉石混交の時代がやってくることは確かだが、良質なものを求める人々の意思によってやがては有用なロボットだけが残るだろう、という見立てのようだ。

「最終的に生き残れるのは、人のパフォーマンスを上げ、ポジティブな方向に持っていけるロボットブランドだけ。私たちは、そういうブランドになることを目指しているんです」

さらに林さんは、ロボットを進化させ続けることで広がる人類の可能性についても次のように語った。

「ロボットやAIを知ることは、一周まわって人間自身を知ることになるんです。いわば僕らはAIと同様に、脳の神経回路であるニューロンのネットワークに脳内分泌物質のバイアスをかけたコンピューターであるとも言えるわけですよね。そんな我々とAIやロボットとの対比というのを、僕らは意識することになるんですよ。その思考を経た先でわかるのは……たぶん自分自身なんだと思います。ロボットやAIという対比する相手がいて初めて、自分についてちゃんと考えることができる。だからAIやロボットが進歩するにつれて、自分を知るチャンスは、どんどん増えていくことになる。そして、自分のことを知ることができれば、自分に何が必要かもわかってくるわけですよね」

僕らはロボットやAIが進化するにつれて、単に自分たちの生活がラクになる、もしくは自分たちの仕事が脅かされる、というようなことばかりを考えていたのではないだろうか。しかし、道具としてのロボットは、ロボットのひとつの形態でしかない。やがてロボットは「道具としてのロボット」と「ユーザーとの関係構築が必要なロボット」とに二分化していくという。進化するにつれてお掃除ロボットやエアコンのような前者のタイプが存在感をなくしていく一方で、後者のロボットは、存在自体が必要であり続ける。そんなロボットやAIの進歩は、人を一段と前に進ませるきっかけになり得るのだ。

ロボットが進化するにつれ、ユーザーにポジティブまたはネガティブに働きかける様々なロボットがあらわれ、そのなかからどのロボットを選ぶかが重要になる。ゲームに例えるなら「将棋を選ぶか、それともガチャ系ゲームなのか」という状況になっていくのだ。この選択が与える影響は、ユーザーの生き方に大きな違いをもたらすだろう
ロボットが進化するにつれ、ユーザーにポジティブまたはネガティブに働きかける様々なロボットがあらわれ、そのなかからどのロボットを選ぶかが重要になる。ゲームに例えるなら「将棋を選ぶか、それともガチャ系ゲームなのか」という状況になっていくのだ。この選択が与える影響は、ユーザーの生き方に大きな違いをもたらすだろう
林 要さん
「GROOVE X」CEO。トヨタ自動車のエンジニアを経て、ソフトバンクにてペッパーの開発を主導した。近著に『トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法 ゼロイチ』がある。

文/河原塚英信 撮影/下城英悟

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