仕事が奪われるって本当? ロボット導入で「ヒトの働き方」が変わる

経産省の予想では、日本のロボット市場は2035年に約10兆円へ成長するという。そんな景気のいい話がある一方で、オックスフォード大学のオズボーン教授は「日本の労働人口の49%がロボット、AIに取って代わられる」というショッキングな論文を発表している。私たちの仕事は本当にロボットに奪われてしまうのか? あらゆる仕事を横断的に見てきた“仕事のプロ”、リクルートワークス研究所の中村研究員に話を伺った。

少子高齢化+人手不足で、日本のロボット活用は「まったなし」の状況

–いきなりですが、現在はまだロボットを導入していない企業も、これからは積極的に導入するようになるのでしょうか?

「これからの10年、20年を考えると、企業のロボット活用は避けて通れない大きなテーマです。少子高齢化で労働力が不足するなか、企業では労働力の確保が大きなテーマになっています。なかでも関心を集めているのがテクノロジーによって生産性を向上させることで、現在はふたつの領域でロボット化が進みつつあります。ひとつめは投資力があり、新しいことへ積極的に取り組む各業界のビジネスリーダーと言われる会社でのロボット導入で、トヨタのAI研究などがその一例です。もうひとつは、人材不足だからこそテクノロジーに頼ることが重要な介護や農業の領域です。しかしながら十分な資金で投資を行えるわけではないため、関心はあっても業界全体で積極活用を……というところまでは到達していないのが現状です」

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–現在の日本はそこまで人手不足なんでしょうか?

「今は本当に人材不足で、例えばコンビニでは24時間店を開けておくための店員確保にとても苦労しています。そうした状況で効率化を求めていくと、やはり店舗の無人化というのは進んでいくでしょう。単純なことは無人店舗で、客とのやりとりが煩雑な手続きはいくつかの集中店舗だけが対応するといった、すみ分けが進むのではないでしょうか。そして、人手不足のなかでテクノロジーを導入するにあたって、利用者はある種の“便利ではないこと”を受け入れなければなりません」

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–コンビニが無人化するように、ロボット化が進むと私たちの仕事もなくなってしまうのでしょうか?

「2000年代にインターネットが普及したとき、たくさんの雇用がなくなると言われました。しかし、失業率の変化はさほどなく、現在も多くの方々が働いてなおかつ人手不足でもあるという実態があります。海外の論文には、20年後に半数近くの仕事がなくなると書かれていますが、リーマン・ショックで失業率が1、2%上がっただけで大問題になるわけです。だからもし、10%の仕事がなくなったら仕事以前に社会システムが破綻してしまう。ロボットやAIによる代替も起きますが、雇用が半分なくなるということはないでしょう」

–それを聞いて安心しました(涙)。

「ただ、インターネット時代にEメールが打てなければ、それだけで仕事の機会を逃してしまいますよね。あらゆるビジネスがインターネットで変わったように、ほとんどの仕事がロボットやAIと絡むようになって、人々にさまざまな変化を要求するようにはなると思います」

「AIの時代になると、考えたり判断することがテクノロジーによって一部代替されて、単純な事務作業やデータ入力の仕事はなくなるかもしれません。こうした知識労働をロボットがする時代に、大切な仕事はふたつあります。ひとつは、新しいビジネスフローの設計やスキルの教育など変革を促進する仕事です。だれがテクノロジーを導入するのか、いくらで入れられるのか、入れたあとどう仕事を回すのか? これらを推進する人材がたくさん必要になります。もうひとつは、交渉する必要があったり、相手の反応によって対応を変える必要がある仕事です。AIがどんなに高性能でも、過去の蓄積がなく判断がシステマチックにできないケースも考えられます。経営、マネージメント、交渉、教育といった分野を担う人材は今後も必要になるでしょう」

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–データの蓄積と判断という面では、裁判官がロボットに代替されるような可能性もあるのでしょうか?

「まさにビッグデータ&AIの得意分野ど真ん中ですよね。でも、そこはやはり補助的な使い方になると思います。人の代替か補完かという視点では、意思決定に責任を伴うようなものは完全代替ではなく補完的な活用となるでしょう。ロボット活用によって意思決定の精度やスピードを上げることはできますが、ロボットはその影響に対する責任をとれません。“テクノロジーと倫理のあり方”を考える機会は、これからもどんどん増えていくでしょう」

–ロボット時代ならではの事件やトラブルも考えられます。法律面を最初に整えるべきでしょうか? 

「法整備も大切ですが、新たな社会システムを作るときは私たち一人ひとりの価値観がすごく重要になると思います。たとえばマイナンバーはどこまで使っていいのか? インターネットのログはどこまで使っていいのか? そうしたことは一人ひとりがそれをどう評価、判断するかが非常に大切です。まずは国民の合意形成というのがとても重要なテーマで、そこをクリアしていくことが、法整備にあたっては必要になります」

–いまや高齢者も仕事をせざるを得ない時代ですが、彼らはロボットとうまく共存できるでしょうか?

「今、駐車場管理の人材が不足しているのですが、駐車場のシステム基盤は高齢者が制御するにはちょっと複雑です。ロボット技術と働く人の持つスキルセットに差が生じてしまっている。だから今後は、お年寄りや体力のない方、障がいを持つ方でも働けるユーザーインターフェースがどれだけ出てくるかというのが勝負になってくるのではないでしょうか。テクノロジーのノウハウがなにひとつわからなくても、押せば動くレベルのユーザーフレンドリーなロボットの製作がエンジニアには期待されています。テクノロジーを使いやすくするために、もっとやりようはあると思うんですよ」

「エンジニアの方と話をしていると、アトムやガンダムが会話に自然に出てきて、“テクノロジー立国日本の原点はロボットにあったんだ”と感じます。日本人の小さいころからのロボットに対する親和性と、手先の器用さや細かい制御のできる技術力にとても期待したいです。さすが日本! と言われるものを作ってほしいですね」

中村研究員イチオシ! ロボット時代の最先端ワーク
なくなりそうな仕事もあるけれど、ロボット時代だからこそ重宝される仕事もある。ここでは、インタビュー中に出てきた“今後くる!”な職業を3つ紹介。今から始めても遅くはありません!

データクリーニング
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「AIに取り込む素となるデータをどう持ち、どう統合していくかを考え、設計していくのがデータクリーニング。現時点では企業内にばらばら存在するデータを、中長期的に料理していくロジカルな能力が求められます」

インフラ整備
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「Wifiがどこでもつながる環境や、データが今より快適にやり取りできるインフラ整備なくデータは有効に活用できません。比較的単純ですが、それがないとAIなどを活用する手前で確実に引っかかるので重要な仕事です」

ロボットメンテナンス
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「今でいう携帯ショップのようなロボットショップは増えてくるでしょう。いくらロボットでも、うまく動かないトラブルは明らかに起きます。メンテナンスに関するリソースはこれからどんどん必要になっていきますね」

 

AKIE NAKAMURA
中村 天江さん
東京大学大学院数理科学研究科修士課程終了後、1999年リクルート入社。就職・転職サービスの企画や、エンジニア向けキャリア形成支援サービス「Tech総研」の立ち上げなどを経て、2009年リクルートワークス研究所に研究員として異動。2016年労働政策センター長に。専門は人的資源管理論、博士(商学)。

 

文/森谷穂七

※『デジモノステーション』2016年12月号より抜粋