これからのマツダ車の中核技術『G-ベクタリングコントロール』って?【解説】

川端由美の「CYBER CARPEDIA」

 

進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

 
THIS MONTH’S CYBER CAR
 
MAZDA G-ベクタリング コントロール
今年4月、マツダが突然、「将来の中核となる技術」と銘打って発表を行った「G-ベクタリング コントロール(GVC)」。クルマを走らせるときに身体に感じる加速度(G)を滑らかにつなげることで、ハンドルやアクセルの操作に対して素直にクルマが動いていると感じられるようにする技術だ。

マツダ独自の人馬一体感を可能にするGVCとは?

ハッキリ言わせてもらえば、これまでのこの連載で取り上げてきた自動車メーカーと比べると、マツダは地味だ。市販車にITをバリバリ活用したハイテクを満載しているわけでもなければ、電動パワートレインを積んでいるわけでもない。むしろ、内燃機関だけでよくぞここまで頑張っていると思うほどだ。しかし、その手のハイテクや電化の技術は、スパイスのように風味を効かせる要素となるが、自動車の基本となるのは、毎日の白米にあたる部分で、それはやはりシャシーやエンジンといった基礎だ。

マツダは2012年に発表した『CX-5』では、SKYACTIV(スカイアクティブ)なる技術群を満載してガソリンとディーゼルの両方を刷新し、同時にプラットフォームなる基本骨格までも刷新した。定食に例えるなら、おかずの味付けを変えたのではなく、白米をアップグレードしたのである。しかも、ただただお金をかけて南魚沼産コシヒカリを買ってきたというわけではなく、“モノ造り革新”と銘打って、工場の生産プロセスを見直し、全社が一丸となって、標準米の価格でウマい白米が食べられるようにした、というワケだ。その努力が実って、今年の決算発表では売上高、経常利益ともに4期連続のプラスを叩きだした。

広島にあるマツダの本社工場では、日々、モノ造り革新が進められている。SKYACTIVE-Gでは、従来のエンジン設計の常識を越えてレーシングマシン以上の圧縮比を実現することで、低燃費で応答性の高いエンジンを実現したのだが、ワンオフのレーシングマシンではなく、市販車でそれを実現できたのは、モノ造り革新による現場の協力も大きく貢献している。
広島にあるマツダの本社工場では、日々、モノ造り革新が進められている。SKYACTIVE-Gでは、従来のエンジン設計の常識を越えてレーシングマシン以上の圧縮比を実現することで、低燃費で応答性の高いエンジンを実現したのだが、ワンオフのレーシングマシンではなく、市販車でそれを実現できたのは、モノ造り革新による現場の協力も大きく貢献している。

そして今回、鳴り物入りで登場した技術が「G-ベクタリング コントロール(GVC)」である。Gとは、カーブを曲がる時などに感じる力のことだ。たとえばブレーキをかけた時に感じる減速感は0.2~0.3G程度ではあるものの、それほど大きくないGであれば、クルマでの移動中には常に身体にGが掛かっているといっても過言ではない。マツダでは、常に変化するGに着目して、Gを制御することによって、マツダが目指す「人馬一体」のリニアな操作感を実現しようと考えた。そのために開発されたのが、「GVC」であり、マツダ曰く、「エンジンでシャシー性能を向上させる」技術だ。

マツダの研究開発部門を率いる専務執行役員の藤原清志氏。普段は完璧主義で厳しいとの評判だが、この日ばかりはGVCの仕上がりに満足してか、満面の笑みを浮かべていた。神奈川工科大の安部正人教授と山門誠教授とともに、GVCの科学的立証も行った。
マツダの研究開発部門を率いる専務執行役員の藤原清志氏。普段は完璧主義で厳しいとの評判だが、この日ばかりはGVCの仕上がりに満足してか、満面の笑みを浮かべていた。神奈川工科大の安部正人教授と山門誠教授とともに、GVCの科学的立証も行った。

従来の常識ではエンジンとシャシー(車体)は別々に制御するのだが、GVCでは、エンジンとハンドルを連携して制御し、横と前後のGが滑らかにつながるように統合的に制御する。これまでブレーキで制御するのが一般的だったが、マツダではエンジンからのトルクの増減でボディの安定性を制御するというのがユニークだ。具体的には、ハンドルの切り始めには、エンジンのトルクを絞ることで、荷重が前輪にかかって、応答性が高まる。その後にトルクを戻してやると、後輪に荷重が移動して、安定した姿勢でカーブを曲がれる。これがGVCの基本的な考え方で、極めてシンプルだ。

「GVC」の作動イメージ。ハンドルの切り始め(ターンイン)では駆動トルクを減らし、曲がり始めてからは増やすことでスムーズに曲がれる。
「GVC」の作動イメージ。ハンドルの切り始め(ターンイン)では駆動トルクを減らし、曲がり始めてからは増やすことでスムーズに曲がれる。

ミリ秒単位の計算でクルマの姿勢を自然に制御

GVCを搭載したテスト車を実際に走らせてみた。はじめにノーマルの「アクセラ」に乗って、未舗装の道を30㎞/hで試走する。ホイールベースが長めで、路面の荒れをいなすフラットな乗り味で、欧州のメディアからも評価が高い。ハンドルから伝わる情報も豊かで、いわゆる“リニアなハンドリング”だ。

アクセラは、ノーマルでも欧州での評判が高く、キビキビとしたハンドリングの良さと高速での走行安定性には定評がある。素性のいいクルマであるにもかかわらず、GVC制御を“あり”にすると、明らかに安定感やリニアな操舵性が高まることが体感できた。
アクセラは、ノーマルでも欧州での評判が高く、キビキビとしたハンドリングの良さと高速での走行安定性には定評がある。素性のいいクルマであるにもかかわらず、GVC制御を“あり”にすると、明らかに安定感やリニアな操舵性が高まることが体感できた。

ノーマルでもいいクルマじゃん! と思ったのも束の間、テスト車の赤いボタンを押すと、同じクルマなのにGVC制御を“あり”にしただけで、クルマが安定して走るように感じる。コーナリング時には、明らかに身体が左右に振れにくい。最初と同じ速度で走るように指示されたが、自分の感覚以上に速度域が高くなりがちだったのも面白い。クルマが安定して感じるので、同じ速度で走っているつもりでも、ついつい速度が高めになってしまうからだ。

MT車でハンドリング路を走ってみると、GVC制御“あり”と“なし”との違いはさらに明確になる。ハンドリングを意識したスポーティモデルに最近搭載される「トルクベクタリング」(編集部注:駆動輪にかかるトルクを左右で差を付けるようにコントロールすることでクルマを曲がりやすくする技術)と、GVCの違いを体感できた。トルクベクタリングは積極的にボディを曲げてくれて、ジェットコースターのように振り回されても曲がるので、それはそれで楽しい。一方、マツダのGVCは、(トルクではなく人にかかるグォ基準としているため)運転している人も気づかないくらい自然にボディを曲げていくので、テクノロジーのおかげでクルマが曲がるという感覚はなく、自分の運転がうまくなった気がする。もちろん、助手席や後席の人も(Gの急な変化によって)振り回されずに済むので快適だ。

コーナリング時における舵角とGの関係を図で表した。Gの変化が左右に加えて、前後もあり、さらに3次元なのがわかるだろう。従来のトルクベクタリングでは、左右のトルク配分を行うのみだったが、GVCでは前後のGに配慮して、3次元でのGの変化にも着目した制御をしている。それゆえに自然な姿勢制御が可能だ。
コーナリング時における舵角とGの関係を図で表した。Gの変化が左右に加えて、前後もあり、さらに3次元なのがわかるだろう。従来のトルクベクタリングでは、左右のトルク配分を行うのみだったが、GVCでは前後のGに配慮して、3次元でのGの変化にも着目した制御をしている。それゆえに自然な姿勢制御が可能だ。

なぜ、これほどGVCによる制御は自然なのか? その秘密はエンジンにある。人間は0.05Gというわずかな変化すら感じていて、1000分の20秒以下で起こる変化も感じ取っている。逆にいうと、1000分の5秒ごとにクルマの動きを計算したり、ハンドルの切れ角を検知するなどして、それにあわせてエンジンから出すトルクを変えることで、前後のタイヤにかかる重みを変化させて、姿勢を安定させなければならない。

これはSKYACTIVエンジンの応答性が高いからこそできる制御なのだ。気が遠くなるほど細かく計算と検知を繰り返し、エンジンからのトルクの細やかな制御を繰り返すことで、乗員が気づかないうちに運転を快適かつスムーズなものにしている。

GVCを搭載したアテンザでコーナリングしてみる。ノーマルでも充分乗り心地よく感じたが、GVCを作動させると、コーナリング中でも安定した姿勢を保っている。一旦、GVCオンを体験してしまうと、ノーマル車がバタバタと落ち着かない印象になるほどの違いが感じられる。
GVCを搭載したアテンザでコーナリングしてみる。ノーマルでも充分乗り心地よく感じたが、GVCを作動させると、コーナリング中でも安定した姿勢を保っている。一旦、GVCオンを体験してしまうと、ノーマル車がバタバタと落ち着かない印象になるほどの違いが感じられる。

 
文/川端由美

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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