ポーランド女性店員まさかの「塩対応」にビックリ仰天!?【山根康宏のケータイ西遊記: 第7回】

ケータイ西遊記 -第7回- ポーランド/ワルシャワ編

携帯電話研究家・山根康宏が、世界各地でお宝ケータイに出会うまでの七転八倒デジタル放浪記。

夜行列車でワルシャワへ
初めての旧東欧圏訪問

ヨーロッパでイベントや展示会があるときは、せっかくなので会期の前後に周辺都市を訪問するようにしている。陸続きのヨーロッパは飛行機を使わずとも、国際列車を使えば簡単に国境を超えることができるからだ。しかもシェンゲン協定国間ならば入出国手続きの必要もない。各国巡りの目的はもちろん現地の携帯電話ショップを訪問すること。これは趣味を超えてライフワークになっている。

リスボン、チューリッヒ、ストックホルム、ルクセンブルクなど、北欧から南欧まで、そして小国など様々な国をこれまで訪問してきた。しかし旧共産圏国家はなかなか訪れる機会がなかった。西ヨーロッパの方が治安的にも安心できるという思い込みがあったうえに、東ヨーロッパは直通列車が少ないなど西側からはやや訪問しにくい。とはいえ西側の国をほとんど訪問してしまうと、新規開拓国はおのずと東側となる。世界地図を見ればドイツの右にはポーランドが接しており「ベルリン–ワルシャワエクスプレス」と呼ばれる列車が走っている。名前の通りベルリンからポーランドの首都、ワルシャワを結んでおり、これに乗れば簡単にワルシャワ入りできるのだ。

初めてのワルシャワ入りは夜行列車。意外にも快適だった。
初めてのワルシャワ入りは夜行列車。意外にも快適だった。

しかしベルリンの展示会が終わってからワルシャワ入りすると、到着が夜中になってしまう。深夜のワルシャワ市内をスーツケースを引きずって歩き回るのもちょっと不安だ。調べてみると、ドイツとの国境に近いシュチェチンからワルシャワまで、ポーランド国鉄の夜行列車が走っていることを発見した。しかも個室で約7000円と、値段も安い。ベルリンからシュチェチンまではドイツ鉄道で1本で行ける。初のポーランド入りはちょっとした長距離旅行気分を味わうこととなった。

夜行列車の旅は悪くなく、早朝のワルシャワ中央駅に到着後は駅のファーストフード店で眠気を覚まし、トラムに乗ってホテルへ移動した。客の数も少なく朝からチェックインできたのでしばし休憩。その後はさっそくワルシャワ市内の携帯電話ショップ巡りを開始することとした。ワルシャワ中央駅には現地通信キャリアの大型店舗があることは到着時に下調べ済みだ。ポーランドはプリペイドSIMの購入も簡単と聞いていたので、真っ先にその店を訪れることにした。

ドアを開けて店内に入ると、ショーケースにはスマートフォンやSIMが陳列されており、その雰囲気は他の先進国とあまり変わらない。プリペイドSIMの料金を見るとだいぶ安い。鉄道料金もそうだったが、旧東欧圏は社会インフラに関わる料金は安いのかもしれない。あらかじめユーロから現地通貨のズウォティにいくらかを両替しておいたが、これならクレジットカードを使わずとも手持ちの現金でSIMを買うことができそうだ。ところがワルシャワ到着早々、ここではすんなりとSIMを入手することが出来なかったのである。

女性スタッフは気難しい?
買物するのに一苦労

先客の用事が終わるまで十数分ほど待ち、ようやく自分の番になったのでカウンターに向かうと、担当は40歳台と思われる女性のスタッフだった。神妙な顔つきでこちらを見るので、笑顔でハローと英語で話しかけ、続いてプリペイドSIMが欲しいと伝えた。ところが彼女はぶっきらぼうにポーランド語で一言いうと、次の客を呼んだのだ。自分はポーランド語ができないので何を言われたかわからない。なんとなく「イングリッシュ」に似た発音の言葉は聞こえた。おそらく英語の意味だろう。つまり英語はできない、とむげに断られたのだ。

キャリアでは女性スタッフからまさかの販売拒否を受ける。
キャリアでは女性スタッフからまさかの販売拒否を受ける。

初訪問の都市でプリペイドSIMを販売してくれないという経験はこれまでなかった。パリでは「SIMは50ユーロ、これしかない」とフランス語で返され面食らったことはあったものの、英語否定派のスタッフから四苦八苦しながら購入したこともある。非英語圏の都市でも店員はお金を落としてくれる外国人客を追い返すことはない、それが当たり前だと思っていた。

ところがワルシャワのキャリア店舗の女性スタッフは「英語はできない」と、こちらをまるで相手にもしてくれないのだ。これがスペインやイタリアならば、大げさな表情と陽気な口調で「ごめんね、英語できないんだよ」と語りかけてくれるだろうが、ここポーランドでは笑顔ゼロ。しかも取り付く島が全くない。

SIMが無ければ通信手段が確保できず、街歩きを楽しむことも出来ない。なによりもホテルのWi–Fiが調子悪ければ仕事すらできない。とはいえこのおばちゃんに英語でクレームしたところで、相手にすらしてくれないだろう。しかもこの店舗がこんな調子なら、他の店へ行っても同様に追い返されてしまうに違いない。

おばちゃんは次の客の接客を始めており、顔の表情には軽い笑みがあふれている。根っから不愛想な人ではなく、できないことはできないとはっきり言われただけなのだろう。恐らく旧共産圏の昔の国営企業の店員はこんな態度が当たり前なのだ。もはや自分がここにいても何もできないと思い、すごすごと店を後にしようとした。するとここで神の一声がかかったのだ。

「自分のお客さんが終わったら対応するから、そこのソファーで座って待っていてください」。話しかけてくれたのは、隣のカウンターにいた若い男性スタッフだ。彼は片言の英語が話せるようであり、こちらの窮地を見てなんとかしてあげようと思ってくれたようだ。まさかの申し出に涙が出そうになったが、それほどまでにおばちゃんの応対はワルシャワ初心者の自分にはきついものだったのである。

彼の接客は長く、結局一時間近く店内で待機することになってしまった。しかしその間もそばを通りかかった別の男性スタッフが「ごめんね、もう少しだから」と話しかけてくれた。もしやポーランドの店では女性より男性の方が優しいのだろうか。そういえば夜行列車の礼儀正しい車掌も男性だったし、コーヒーを注文した朝のファーストフード店の店員も男性だった。その後で訪れた家電店の女性スタッフは愛想が無く、それからは店に行ったら男性店員を探すようになってしまった。ポーランドの女性は優しいという評判を後から聞いたのだが、こと年配で店で働いている人の中にはそれに当てはまらない人の割合が高いのかもしれない。自分がたまたま運が悪かったのかもしれないが、ワルシャワ滞在中にお店で雑談を持ちかける相手は、男性ばかりになってしまった。

道端で花を売る老婆の悲しみ
携帯電話に秘めた思いとは?

ワルシャワ市内の街並みは、旧共産国家を思わせる古い建物があるなど趣きの深さを感じさせるものだった。家電店や携帯電話ショップ、キャリアの店などを回りつつ、当てもなく街中を歩き回るだけでも十分楽しめる。また線路のそばで見たことも無い列車の車両を眺めるのも面白いものだった。ちょうどホテル近くにある駅は掘割状の構造になっており、道路から駅を通過する列車がよく見えた。売店もあったので、夕方にホテルに戻る前にはそこでパンを買って、列車を眺めながら軽い夕食とした。

地下鉄は今でも古めかしい車両が使われている。
地下鉄は今でも古めかしい車両が使われている。

そういえばワルシャワにはモスクワからの直通列車もやってくる。その車両は暗い灰色に塗られた色気のないもので、いかにもロシア製という外見だ。ロシアからはるばるワルシャワへ、そしてプラハまでを結ぶ長距離列車の旅と言うものも一度経験してみたいものである。

滞在中の昼食はフードコートで適当な地元ご飯で過ごす。
滞在中の昼食はフードコートで適当な地元ご飯で過ごす。

ワルシャワ滞在前のベルリンでの展示会取材はハードワークだったため、駅のこの場所では30分くらい列車を眺めてぼーっとしていた。翌日も同様に売店でパンを買って夕食。この日は別のプリペイドSIMを買っており、それを入れ替えることを忘れていたのでベンチに座ってカバンからスマートフォン数台を取り出してSIMの入れ替えを行うことにした。普段香港で使っているSIM、現地で買った2枚のSIM、ドイツで使っていた数枚のSIM。それを手持ちのスマートフォン5台に入れ替えていく。傍から見るとちょっと怪しい作業だろうが、自分にとってはいつものこと。ただし、道端でやっているのであまり目立たないように、こっそりと作業を行った。

ワルシャワ市内を適当に歩く。他国と違う色遣いの建物を見るのも面白い。
ワルシャワ市内を適当に歩く。他国と違う色遣いの建物を見るのも面白い。

そんなことをしていると、向かいの方からなにやら大声が聞こえてきた。海外に出て自分に話しかけてくる人間は基本的に悪人だと考えているので、気にせず見ないようにしていた。ところがその声は一分近くも止まらない。ちらりと顔を上げてそちらを見ると、道に座った老婆がこちらに向かって声を上げている姿が目に留まった。

その老婆は売店の横の道路の空いたスペースに座り、花を売っていた。こちらに一生懸命話しかけてくるということは、花を売りつけようとしているのだろうか? ところが老婆の様子を見ると、携帯電話を持った手を振ってこちらを呼んでいる。しかも顔の表情は何かを頼んでいるようだった。どこかに電話をかけてほしいのだろうか?

ベンチの上のスマートフォンをカバンにしまい、老婆へ近づくと携帯電話をこちらに差し出してくる。しかしポーランド語なので何を言っているのか見当もつかない。怪しい商売をしているのだろうか? 落ち着いてその老婆の姿を観察してみると、身に纏った服装は質素だが、花の柄のスカーフなど身なりは綺麗に整っている。しかも髪型もまとまっており、道路の花売りをしているには何かわけがあるに違いない、と思わせるような風貌だった。

老婆は携帯電話を耳に当て何かを訴えている。仕方なく自分がその携帯電話を受け取り、自分も耳に当てるなど同じ動作をしてみた。するとそこに電話が一本かかってきたのだ。だが設定がマナーモードになっており、着信音はならなかった。「どこからか電話がかかってきているよ」と老婆に画面を見せると、彼女は慌てて電話を掴み、着信に出ようとした。ところが出る前に電話は切れてしまったのである。

すると彼女は再び携帯電話を手に何かを訴えた。着信音が鳴らず電話を受けられなくて困っているということなのだろう。そして彼女の向かいのベンチに座ってスマートフォンを出してごそごそとやっている自分なら、直せると思って声をかけてきたのだろう。

マナーモードの解除はキーの長押しだけと簡単だ。彼女の目の前で操作を行い、画面表示が変わることもボディーランゲージで説明。すると再び電話がかかってきた。しかも今度は着信音もしっかりと鳴っている。彼女はすぐに電話に出て、感情のこもった大きな声で何かを話し始めた。通話は数分続いただろうか。電話を切ると彼女は涙を流しながら「ジンクイエ、ジンクイエ」と何度も言いながら、こちらの手を握ってきた。言葉はわからなくともこれは「ありがとう」の意味だろう。

ポーランド女性への苦手意識は
バラの花束を引き替えに消えた

彼女は自分の売っていた花の中から、バラを一本取り出して自分に差し出してくれた。お礼にこれをくれるというのだ。まだ涙は流れたままだったが、その表情からは先ほどまでの悲しみは消え、美しい笑顔に変わっていた。しかし自分はそれを受け取らず、彼女が売っていた花をすべてを買うことにしたのだ。手書きで書かれた値札を見てもその金額は大したものではない。ワルシャワ到着直後から、自分にはポーランド女性に対しての苦手意識が生まれてしまった。しかし今の彼女の表情には、ポーランド人女性の美しさがあふれかえっていたのである。「ビューティフル、フラワー」と話しかけたものの、その英語が通じたかどうかはわからない。あっけにとられる彼女に現金を渡すと、いろどり溢れる花束をかかえてホテルに戻っていった。その足取りは宙を浮かぶように軽快だったことを今でも覚えている。

花売りの老婆からバラを買う。彼女はなぜここにいたのだろうか。
花売りの老婆からバラを買う。彼女はなぜここにいたのだろうか。

彼女がそこで花を売っていった理由はもちろんわからない。見た姿からも、お金に困っているとも思えなかった。そして携帯電話が通じずどんなに大変だったのだろうか。翌日気になって再びその場所を訪れたが、老婆の姿はそこにはもうなかった。たまたま目の前で自分がSIMの交換をしていなかったら、彼女の辛く悲しい日々は永遠に続いていたのかもしれない。携帯電話が大好きで渡航先では必ずプリペイドSIMを買う。マニアックな趣味だろうが、時には人助けに繋がることもあるのである。
 
文/山根康宏

※『デジモノステーション』2016年12月号より抜粋

やまねやすひろ/香港在住の携帯電話研究家・ジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1400台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

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