地獄突きをくらえ! 昭和のプロレスには「夢とロマン」が宿っていた

テーマ=『デジタル×価』

“最強のよそ者”として、数々の業界でビジネスに変革をもたらし続けてきた伊藤嘉明が、”趣味も仕事もフルスイングする価値”について考える連載コラム『伊藤嘉明の「人生万事振り切るが価値」』。希代のゾンビマニアにして、アブドーラ・ザ・ブッチャーの十八番「地獄突き」を得意技とする彼が、今回は夢とロマンとツッコミ所が満載だった昭和のプロレスを振り返ります。

 

九州といえば湯布院? いや、ブラジルでしょう

昔の湯布院は良かったらしい——。今は悠々自適な生活を送るビジネスの大先輩がそう呟いた。農作業が終わる頃になると、健全な青少年たちがソワソワし出す。夕方5時を目指して共同風呂に向かう。いわゆる混浴だ。老若男女、皆、心清らかに一日の疲れを取り、体を清めるために風呂に浸かる。一部のやましい気持ちを持った者たちを除いて……。

大先輩の話を聞きながら思った。ああ、昔の湯布院はきっと南米のようなおおらかな感じだったのだろうな、と。まあ、南米には行ったことないですがね。

さて、ここからが今回の本題。南米といえば、私にとってボボ・ブラジルだ。実は九州にとても縁のある昭和の名プロレスラー。「プロレス・スーパー・スター列伝」世代ならば、“黒い魔神”の異名を持つことでおなじみだろう。米国ミシガン出身、元はニグロ・リーグで野球選手だったアフリカ系アメリカ人。人種差別のないブラジルで生まれたかった、というところから“ブラジル”と名乗った悲しきヒーローだ。“黒い魔神”なんて、もう少しクリエイティブな呼び方はなかったのか、当時の日本人。

ところで、なぜそんなボボ・ブラジルが九州に縁のあるレスラーかというと、彼の地では“ボボ”というと女性器、あるいは性行為そのものを指すから。当時、ボボ・ブラジルが巡業に来た時の話。あまりにも直接的な名前だったために、“ブラジル”とだけ名乗っていたという有名な逸話もあるほど。そりゃあそうだろう。テレビ中継を想像してみていただきたい。

「ボボ・ブラジル選手、いつにも増して激しい攻撃! お! あの手この手で攻めている! これは大変なことになった! ボボ、ボボ、とうとう失神だぁ———」

いや、これはさすがにいただけない。なんていう悲劇のヒーロー。ということで、湯布院の素晴らしい情景を眺めつつ、やはり昔の湯布院は良かったんだなぁと、出張中の昭和のプロレス好きは思ったわけで……。ボボ万歳! 湯布院はよかった! 人生万事振り切るが価値!

よく話がワカンねぇよ! という方たちは、いつものようにググっていただきたい。ちなみに「プロレス・スーパー・スター列伝」とは、梶原一騎原作のプロレス漫画で、本人が逮捕されたことで連載打ち切りとなった問題作だ。だが、それ以上に、実は中身が事実に基づいていないということを、大人になってから知って大きなショックを受けた。

ジャイアント馬場よりもさらにデカい“人間山脈”ことアンドレ・ザ・ジャイアント。フランスの森の中で木こりをしている巨人がいる、という噂から発見されたはずなのに、実はデビュー前は普通に家具屋に勤務していた……。おい、こら! 全然普通じゃないか! 少年の夢を返せ! マーケティングとはいえ、そういう子供騙しなやり方では子供しか騙せないぞ!!

そして、私の一番のヒーローである、“黒い呪術師”ことアブドーラ・ザ・ブッチャーも同じ。“スーダン出身の呪術師”の異名を持つ名ヒールだと子供の頃は信じていたのに、普通にローレンス・シュリーブという本名でカナダ出身……。スーダンどころかアフリカ自体ともなんの縁もない。しかも呪術師でもないし! まあ、それは別に呪術師マニアというわけでないから、今となってはどうでもいいが(前回のコラム参照)。

なぜブッチャーが好きだったかというと、彼の得意技である「地獄突き」に心底惚れこんでいたから。あまりにも気に入った必殺技だったため、タイで過ごした小学校、中学校当時はもちろん、社会人になった今でも、私の得意技は「地獄突き」だ。知らない人もいるから説明するが、手刀で首をつく反則技で、これをやられると息ができなくなる、とても恐ろしい技である。

映画の筋書きを言う輩に、地獄突きをみまってやりたい

ところで、前回の本連載では呪ってもらうという行為について書いた。だが、実は今、呪ってやるどころか、猛烈に直接「地獄突き」をみまってやりたい奴らがいる。それはこの時期になると必ず現れる、テレビドラマの筋書きをインターネット上に書き込む馬鹿野郎のことだ。

先日、ゾンビ好きにとっての祭りといっても過言ではない、ドラマ「ウォーキング・デッド【シーズン7】」がいよいよ始まった! 本連載の読者であれば、当然私が無類のゾンビマニアだということはご存知のはず。私はこの半年間、このゾンビドラマを観るために、ゾンビのようにしぶとく生きて来たのだ。

「ウォーキング・デッド【シーズン7】」はいつものように衝撃的なストーリー展開だが、現実はそれ以上の悲劇的な幕開けだった。私の友人(当然ゾンビ好き!)が、アメリカのケーブルテレビチャンネル「AMC」のサイトに放映時間を確認しに行った際、なんと! 先に番組を観た馬鹿野郎がストーリーを書き込みしていたのを目撃してしまったのだ。当然友人は、ああ、一体何のために、この半年間自分自身が生ける屍となって待っていたのか! とすっかり落ち込んでしまった。今までの人生で、この時ほど英語ができたことを悔やんだことはないだろう。気の毒な話だ。

なぜ、ホラー映画を観た後に、お風呂でシャンプーをする時みたいに、「うっすら片目を開けて、目の前に怖い顔が急に出てきても大丈夫なように、心の準備を整えておくシャンプー術」を思いつかなかったのか? 嗚呼、哀しき私の友人よ……。

というわけで、私は映画の筋書きとかを平気でしゃべる輩が大嫌いなのだ。そんな奴らには一人残らず、自称“ブッチャー直伝”の「地獄突き」をお見舞いしてくれよう。ということで、これからしばらくは、月曜の夜に会食や飲みの約束を入れてくる人たちにも当然「地獄突き」だ。なぜなら帰宅してゾンビドラマを観ないといけませんからね。人生万事ゾンビるが価値! では、ご機嫌よう!

 
文/伊藤嘉明

※『デジモノステーション』2017年1月号より抜粋

連載バックナンバー: 伊藤嘉明の「人生万事振り切るが価値」

いとうよしあき/X-TANKコンサルティング 代表取締役社長。数々の外資系企業での事業再生、マネージメント経験を生かし、可能性のある組織や人材を有機的に結合させたり、資金を投入することで、日本国内はもちろん、生まれ故郷である東南アジアでイノベーションと変革を巻き起こす。著作に『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社)など。