創業100周年イヤーに“次の100年”を見据える『BMW VISION NEXT100』コンセプト

進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

 

川端由美の「CYBER CARPEDIA」

 
THIS MONTH’S CYBER CAR
 
BMW VISION NEXT100
 

次の100年を見据えた戦略的コンセプト・モデル

1916年に創業したBMWにとって、今年は重要な年だ。当然、本拠地のあるミュンヘンで100周年を祝うイベントを華々しく開催し、そこでは過去を振り返るだけでなく、未来を予測させるコンセプトカーを発表し、今後100年を見据えた成長戦略を描いてみせた。

100周年を祝うグランド・フ ィナーレに登場した『BMW Motorrad VISION NEXT100 Concept』は未来的なデザインだが、実はBMWのモーターサイクルの伝統に基づいている。黒いトライアングルは、1923年 に設計された『R32』からの引用で、ボクサーエンジンを彷彿とさせる形状のパワートレインを搭載する。
100周年を祝うグランド・フ
ィナーレに登場した『BMW Motorrad VISION NEXT100 Concept』は未来的なデザインだが、実はBMWのモーターサイクルの伝統に基づいている。黒いトライアングルは、1923年 に設計された『R32』からの引用で、ボクサーエンジンを彷彿とさせる形状のパワートレインを搭載する。

BMWに加えて、傘下にあるMINI、ロールス・ロイスの将来を占うコンセプトカーにはすべて、電動化、コネクティビティ、自動化、シェアの技術が盛り込まれている。ユニークなのは、ブランドごとにその表現が異なる点だ。BMWブランドの未来を占うコンセプトカー『BMW VISION NEXT100』は、究極のドライバーズマシンを標榜して作られたコンセプトだ。イノベーションによって、自動運転の未来を見据えつつ、BMWの真骨頂である”駆け抜ける歓び”も両立することに精力的に取り組んだ秀作だ。2つの走行モードを備えるうち、「Ease(イーズ)モード」では自動運転に切り替わって、ステアリングホイールが収納されて、安全かつ快適に目的地まで運んでくれる。BMWのコアコンピタンスである走りの魅力を堪能するには、「ブースト・モード」に切り替えればいい。

注目すべきは、ダイナミック・ホイール・アーチなる機構だ。言葉で説明するのが難しいが、要はタイヤを覆うカバーが伸び縮みする機構を備えていて、そのことで空力性能が高まって燃費が良くなるのだ。特殊な素材ゆえに、ステアリング・ホイールを左右に切ることに対応する。もちろん、未来的なスタイリングにもつながっている。

心臓部がエンジンか、電気モーターか、という言及はされていないが、”高効率化されている”という。BMWの取締役会会長を務めるハラルド・クルーガー氏によれば「電化、コネクテッドカー、自動運転、そしてシェアの4つが、次の100年における基本戦略となる」という。その次世代戦略に則れば、電動化される可能性は高い。

ハラルド・クルーガー氏 BMW取締役会会長 1992年にBMW AGに入社、2008年12月に取締役に就任。2012年 まで人事および福利厚生を担当し、MINI、Motorrad、ロールス・ロイスおよびBMWグループ・アフターセールス部門担当取締役を務めた。2013年よりBMWグループ生産部門担当取締役を務め、2015年5月より現職。
ハラルド・クルーガー氏
BMW取締役会会長
1992年にBMW AGに入社、2008年12月に取締役に就任。2012年 まで人事および福利厚生を担当し、MINI、Motorrad、ロールス・ロイスおよびBMWグループ・アフターセールス部門担当取締役を務めた。2013年よりBMWグループ生産部門担当取締役を務め、2015年5月より現職。

もう一つの見どころは、”フューチャー・インテリア”と呼ばれる室内空間だ。ウインドスクリーンがディスプレイとなり、様々な操作が可能になる。イノベーションによって、高度な機能を積んだクルマとそれを使いこなす人間との関係がスムーズになるような将来を、BMWは生み出そうとしているのだ。

『BMW VISION NEXT100』の室内を覗くと、フューチャー・インテリアと呼ばれる空間が広がる。自動運転のイーズ・モードではハンドル部分は収納されて、リラックスできる空間になる。ウ インドスクリーンがディスプレイとなり、様々な操作ができる。
『BMW VISION NEXT100』の室内を覗くと、フューチャー・インテリアと呼ばれる空間が広がる。自動運転のイーズ・モードではハンドル部分は収納されて、リラックスできる空間になる。ウインドスクリーンがディスプレイとなり、様々な操作ができる。

自動運転、コネクティビティの次にある“未来のインテリア”

そんな未来を描くBMWのイノベーションを探る前に、いったん、過去を遡ってみよう。BMWは日本のゼロ戦の対抗馬となるフォッケウルフに搭載された航空機エンジンに端を発し、地上では高性能のモーターサイクルで一世を風靡した。戦後になって、モータリゼーションが花開くと、コンパクトなクルマを提供し、1970~80年代には魅力的なレーシングカーを数多く送り出した。1990年代以降、上級モデルへと食指を伸ばし、一気にプレミアム・ブランドへと成長して、今日に至っている。

だが、BMWがスゴいのは過去を振り返るだけでなく、自らの歴史をリスペクトし、将来に向けたイノベーションを紡いでいるところだ。

パリ・モーターショーでは、手前の赤いボディのコンパクトSUVである「X2」の最新モデルの発表に加えて、その背後にある電動バイクなどを並べて、殿下の方向性を強化すると謳った。PHVモデルのラインナップを7シリーズまで拡大し、「iパフォーマンス」なるグレード名で統一する。背後に見えるブルーのコンパクトカーは、新型「i3」だ。
パリ・モーターショーでは、手前の赤いボディのコンパクトSUVである「X2」の最新モデルの発表に加えて、その背後にある電動バイクなどを並べて、殿下の方向性を強化すると謳った。PHVモデルのラインナップを7シリーズまで拡大し、「iパフォーマンス」なるグレード名で統一する。背後に見えるブルーのコンパクトカーは、新型「i3」だ。

BMWが目指すコネクティビティを語るには“フューチャー・インテリア”の考え方を知らなくてはならない。自動運転の時代を見据えた室内空間のアイデアで、今年のCESで「iヴィジョン・フューチャー・インタラクション」として発表された。映画『ミッション:インポッシブル/ゴーストプロトコル』でトム・クルーズが駆って話題になった『i8』のカブリオレをベースにした「iビジョン・フューチャー・インタラクション」なるコンセプトカーを発表し、“デジタル・プレミアム・モビリティ・サービス”を提供すると宣言した。

「iビジョン・フューチャー・インタラクション」では、オーナーむけに“デジタル・プレミアム・モビリティ・サービス”を提供する。顧客の行動パターンや嗜好を学び、つなぎめのないユーザー体験を提供する。クラウド経由でデータがアップデートされて、乗降後もスマホやパッドで情報を見られる。
「iビジョン・フューチャー・インタラクション」では、オーナーむけに“デジタル・プレミアム・モビリティ・サービス”を提供する。顧客の行動パターンや嗜好を学び、つなぎめのないユーザー体験を提供する。クラウド経由でデータがアップデートされて、乗降後もスマホやパッドで情報を見られる。

運転中も、それ以外の時間も、ユーザー体験を提供する。しかも、顧客の行動パターンや嗜好を学んでいくというのだ。さらに、クラウド経由でデータがアップデートされていき、クルマを降りた後でも、タブレットやスマホで情報を見られる。
「電化、デジタル化、コネクティビティの時代になると、将来を見据えた“フューチャー・インテリア”が登場すると考えています。クルマが走ることに変わりはありませんが、顧客のデジタルライフが中に入ってきて、クルマがデジタルライフとの接点となるでしょう」というのは、デジタルサービス・ビジネスモデルを担当する上級副社長ディーター・メイ氏だ。

ディーター・メイ氏 BMW デジタルサービス&ビジネスモデル担当 上級副社長
ディーター・メイ氏
BMW
デジタルサービス&ビジネスモデル担当
上級副社長

BMWでは、クルマがインターネットの一部になると考えている。今後、クラウドを経由して顧客情報が集積されていくと、パーソナライズされた情報に対応した新しいドライビング体験へ進むと予想する。クルマとデジタルライフはもっとイージーにつながっていくだろう。

エンジン屋のBMWが放つ電動モデルのブランド

BMW=Bayerische Motoren Werke AGという社名からして、バイエルン・エンジン製造所という意味であり、ミュンヘンにある本社社屋は、エンジンのシリンダーの形だ。そんな自他共に認める“エンジン屋”のBMWが、電気モーターで動くクルマだけのサブブランド「i」を立ち上げたのだから、当時、世界中が驚いたのも無理はない。

最新の『i3』に試乗する好機を得た。サムソン製リチウムイオン電池が第2世代となり、EVでの走行距離が300mへと延長された。2016年4月の販売台数が前年同月比で50%増加の4500台を達成したばかりだが、新型『i3』は欧州だけで7000台を越える受注を獲得した。

「i」シリーズは、生産プロセスだけではなく、商品の企画から販売まで一貫して、環境に配慮したサステナブルな手法を取り入れたため、従来のクルマ作りとは一線を画している。車載コネクテッドシステムの「BMWコネクテッド」では、iPhoneやスマートウォッチのアプリが用意されており、遠隔で充電状況などの車両情報を知ることもできる。
「i」シリーズは、生産プロセスだけではなく、商品の企画から販売まで一貫して、環境に配慮したサステナブルな手法を取り入れたため、従来のクルマ作りとは一線を画している。車載コネクテッドシステムの「BMWコネクテッド」では、iPhoneやスマートウォッチのアプリが用意されており、遠隔で充電状況などの車両情報を知ることもできる。

アクセルペダルを踏み込むと、電気モーターで駆動するクルマならではの鋭い加速感を堪能できる。アクセルを緩めると減速して、エネルギーを回収して電池を溜め込む。EVとして走れる距離が伸びたので、エアコンを使って快適に走っても、安心してアクセルを踏み込めるのが好印象だ。

新型『i3』では、進化したサムソン製リチウムイオン電池を搭載し、容量を94Ah/33kWhまで拡大。その結果、EV走行距離が従来の190km(NEDC)から300kmに延長できた。PHV版は、390kmまで走行距離を伸ばせる。急速充電で45分、自宅での充電も可能だ。
新型『i3』では、進化したサムソン製リチウムイオン電池を搭載し、容量を94Ah/33kWhまで拡大。その結果、EV走行距離が従来の190km(NEDC)から300kmに延長できた。PHV版は、390kmまで走行距離を伸ばせる。急速充電で45分、自宅での充電も可能だ。

今回はドイツの高速道路、アウトバーンを使って、郊外の町を巡るコースだった。走行距離の制限があって、町中をちょこちょこ走るというイメージだったEVがすっかり成長して、長距離を走れるようになり、郊外まで足を伸ばすことができるようになったのだ。

BMWでは、「i」シリーズで得た電動パワートレインやカーボン複合材などの最新技術をBMWの市販モデルに取り入れたPHVモデルを、「iパフォーマンス」というグレード名で設定した。従来、「2」シリーズ、「3」シリーズ、『X5』にPHV版が用意されていたが、今回、旗艦モデルである「7」シリーズにPHV版が追加された。ロングボディに4WD機構を積む「740Le xDrive iPerformance」のアクセルを踏んだ途端に巨大なトルクが発生し、わずか2リッターの小さなエンジンだということを忘れそうだ。市街地でも、中低速トルクが豊かで乗りやすい。

フロントに2L直4ガソリン(190kW)を搭載し、8速ATとの間に電気モーター(83kW)を組み込む。0-100km/h加速はわずか5.3~5.5秒だ。充電ができる他、燃料タンクは後輪の間に設置し、荷室の床を下げて、420Lの荷室を確保した。パワフルな「AUTO eDRIVE」、高性能EV走行の「MAX eDRIVE」、EV走行の「BATTERY CONTROL」から走行モードを選べる。
フロントに2L直4ガソリン(190kW)を搭載し、8速ATとの間に電気モーター(83kW)を組み込む。0-100km/h加速はわずか5.3~5.5秒だ。充電ができる他、燃料タンクは後輪の間に設置し、荷室の床を下げて、420Lの荷室を確保した。パワフルな「AUTO eDRIVE」、高性能EV走行の「MAX eDRIVE」、EV走行の「BATTERY CONTROL」から走行モードを選べる。

創業から100年を迎えたことを祝うだけではなく、次の100年に向けたイノベーションを提案する。それが、BMWという企業の姿勢であり、これからの100年への道標となるのだ。

ドイツ・ミュンヘンにあるBMW本社は、エンジンの重要なパーツであるシリンダーの形をしている。その手前にあるのは博物館だったスペース。今では向かいにカール・シュヴァンツアーの設計によるミュージアムが新設されている。
ドイツ・ミュンヘンにあるBMW本社は、エンジンの重要なパーツであるシリンダーの形をしている。その手前にあるのは博物館だったスペース。今では向かいにカール・シュヴァンツアーの設計によるミュージアムが新設されている。

文/川端由美
 

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

 
※『デジモノステーション』2017年1月号より抜粋

関連記事

川端由美の「CYBER CARPEDIA」連載一覧