『モデルS』『モデルX』がずらりと並ぶテスラの本社工場「TESLA FACTORY」

川端由美の「CYBER CARPEDIA」

進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

 

THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA

TESLA FACTORY

カリフォルニア州フリーモントにあるテスラの本社工場。テスラ・チャージャーに接続された『モデルS』と『モデルX』がずらりと並ぶ。正面が工場で、新車のピックアップに来た顧客は、右手にあるカスタマーセンターで納車される。

19世紀の電気工学者ニコラ・テスラの信念が蘇る

アメリカの電気工学者であるニコラ・テスラをご存知だろうか?19~20世紀にかけて、今日の我々のデジタルライフの礎となる交流発電機をはじめ、電力インフラの礎となる分野に多大な貢献をした人物だ。当時はまさに、世界中で”電化によるイノベーション”が巻き起こっていた時代である。パリの街角のガス灯が炯々と灯る電気に変わり、暮らしが徐々に電化した時代だ。

実のところ、今日の主役であるエンジン車に先んじて、世界初の自動車は”電気仕掛け”だったのだ。100年以上の時が過ぎた今、長年続いてきたエンジン車全盛の風潮に棹さすかのように、再びEVが台頭してきている。フォルクスワーゲンがEV専用プラットフォームを採用した「I・D」なるコンセプトカーを発表したかと思えば、メルセデス・ベンツはEV専用ブランドの「EQ」を立ち上げると宣言したのだ。

この背景にあるのが、テスラの存在だ。2003年に創業し、最初の一台となる『ロードスター』を世に送り出したのは、2008年のことだった。当時、今もパロアルトにあるオフィスの一角に、当時はファクトリーも併設されており、丁寧に一台一台組み立てられていた。累計販売台数はわずか2500台という希少なモデルだ。その後、『モデルS』の量産化を眼目に、同じカリフォルニア州にあるフリーモントにあった元NUMMI(GMとトヨタの合弁)の工場を購入し、リノベーションして、現在のフリーモント工場へと生まれ変わらせたのだ。


▲アルミ製パーツをふんだんに使ってボディを設計している。押出材で構造を作り、パネルもアルミをプレスして整形する。加工が難しい部分も多いが、テスラでは軽量化にこだわり、あえてアルミを多用している。


▲贅沢なことに、『モデルS』のサイドバネルもすべて、アルミをのプレスして作れられる。大型部品の加工が難しく、アルミを多用したモデルでは、大型パネルにはスチールを採用することも少なくないだけに、テスラの軽量化へのこだわりを感じる。

当時、筆者はオープン間もないフリーモント工場を訪れたことがある。ほぼ白に近いライトグレーに塗られた工場内には、当時最新のドイツ製KUKAのファクトリー・オートメーションがずらっと揃っており、独立した車台が組み立て中のクルマを載せて工場内を移動する、最新の生産設備に圧倒された。

ここで作られるセダンの『モデルS』が爆発的なヒットとなったのはご存知の通りだ。さらに昨年、SUVの『モデルX』が登場したことにより、年間の生産台数は8万台へと、大幅に成長を遂げている。創業からわずか十数年で、老舗自動車メーカーを脅かすほどの存在になったのだ。

 

明るい工場のラインからスポーティな乗り味を想起

今年のはじめ、数年ぶりにフリーモント工場に足を運んでみた。アメリカの国旗とカリフォルニア州の旗がはためく横に、テスラのマークの旗も掲げられている。オープニング時には、GMとトヨタの合弁工場”NUMMI”の跡地といった感じでガランとしていた敷地内には、びっしりと従業員のクルマが並び、立派なピックアップセンターまで建てられていた。テスラのロゴが入ったマーチャンダイズが並ぶエリアで、新車を受け取る手続きをする人たちに笑顔が溢れる。

ひとたび、工場内に足を踏み入れると、旧来の自動車工場とは違う光景に驚かされる。壁はオフホワイトで、フロアが明るいグレーに塗られている。一般的な工場では、オイルの汚れを気にして、濃いグリーンやグレイで塗られていることが多いため、どこかどんよりとした印象なのだが、テスラの工場は、クリーンなEVゆえに汚れを気にせずに明るい色で塗られている。自然光が入ることもあって、工場内、全体が明るい。

オープン当時は、ドイツのKUKA製ロボットが多数採用された贅沢なライン構成だったが、今回の見学では、『モデルX』の生産をスタートするに伴って、『モデルS』の増産も見越して設計された混走の生産ラインでは、日本の産業機器が大活躍していた。日本のファナックが誇る世界最大のロボットがラインで大活躍していた。実は、このロボットには、CEOのイーロン・マスク氏が好きなコミックの登場人物に由来するニックネームが付いているらしい。


▲テスラのイメージカラーである深紅に塗られたファクトリー・オートメーションが並ぶ工場内。創業当初から使われているドイツ製KUKAに加えて、アイダのプレス機、ファナックのファクトリー・オートメーションなど、日本メーカーの生産設備が加わっていた。


▲最新の生産ラインでは、セダンの『モデルS』とSUVの『モデルX』が混走で生産することができるようになった。『モデルS』と比べて、『モデルX』の方が、発売直後のデリバリーがスムーズに行われたのも、このあたりに秘訣がありそうだ。

アルミのロールから、完成車まで一貫して作られる工場というのも珍しい。テスラのデザイナーは、エッジの効いたラインにこだわりがあり、大型のプレス機まで導入して、すべて自前で制作しているのだ。アルミの場合、鉄と比べて、加工がしにくいこともあって、表面の荒れが問題になることがあるのだが、テスラでは表面の塗装品質にこだわるがゆえに、アルミの表面の荒れを検査し、丁寧に修正をかける。


▲アルミ製ボディパネルが並ぶ工場内の光景を眺めていると、重量の大きな電池を積むだけに、テスラがいかに軽量化に力を入れているかが垣間見れる。

最大の見所は、マリッジと呼ばれるパワートレインを組み込む工程だ。通常のエンジン車では、エンジンとトランスミッションのパワーパックを、フロアの下に組み込む。テスラでは、バッテリをフロアに内蔵し、前後にモーターを抱え込むような設計だ。それ故、重心が低められて、テスラ一族に共通するスポーティな乗り味が実現するのだ。


▲工場内は自動化が進んでおり、大型パーツの取付はほぼファクトリー・オートメーション化されている印象だ。残念ながら、写真撮影は許されなかったものの、世界で最も大きなファナック製ファクトリー・オートメーションも採用されている。

 

テスラが受け継ぎ続けるカッコいいEVという精神

JBストローベル氏とイーロン・マスク氏、2人の若きエンジニアが、自分たちが乗りたくなるようなカッコいいEVのスポーツカーを作ろう!という信念の下、生まれたのがテスラだ。

当時エコでカッコいいスポーツカーという概念は、非常にアヴァンギャルドだった。いや、今でもまだ、エコカー=スローカーという雰囲気はないわけではない。だが、満を持して、テスラが放った第一弾となった『ロードスター』は、外観だけではなく、走りもピュアなスポーツカーであった。ドアを開けて、スポーティなシートに滑り込むと、道路に寝転がってしまったと感じるほど低い姿勢で座る。スタートボタンを押すと、メーターパネルに明りが灯り、静かに目覚める。アクセルペダルを踏み込むと、強大なトルクが唐突にデリバリーされて、カラダがシートに押し付けられる。


▲ロードスター:EVヴェンチャーとして注目を浴びていたテスラが、最初に世に問うたのが、この『ロードスター』だ。全長4m足らずの短いボディを持ち、低く地をはうようなスタイリングだ。215kWの強力な電気モーターで後輪を駆動するピュアなスポーツカーであった。エコカーがスポーティでいいのか?カッコいいエコカーに乗りたい!と賛否がわかれたものの、世界中で衝撃を持って迎えられた。

第二弾となった『モデルS』では、セダンということもあって、少しおとなしくなるかと思いきや、まったくそんなことはなく、いつもの”テスラ節”よろしく、強大なトルクでボディを加速していく。ルーディクラスモードでは、スタート時に最大のトルクを発揮できる電気モーターの特性を活かして、圧倒的な加速感を与えてくれる。『P100D』では、0-100㎞/h加速を2.7秒でこなすという、公道市販車として最速のスーパースポーツカー並みの加速を発揮する。


▲『モデルS』:流麗なスタイリングを持ち、4ドアセダンというより、クーペ風のサイドビューが印象的だ。当初は、375kWの電気モーターによる後輪駆動のみの設定だったが、その後、すべてのサイズで『モデルX』と同じ4輪駆動の「デュアルモーター」を採用する。デュアルモーターでは193kWの電気モーターが前輪に追加されている。新型プリウスに積まれる電気モーターの出力が53kW/162Nmであることと比べると、パワフルさがわかりやすい。

『モデルX』では、SUVボディであるものの、『ロードスター』や『モデルS』といった兄貴分に負けず劣らずの加速性能だ。従来のエンジン車とは異なり、重量物である電池をフロア下に敷き詰める構造ゆえに、室内が広々している割に重心が低く、コーナリング時の身のこなしもシャープで、とてもSUVとは思えない。頭上に、ファルコンウィングなる大型のドアを持つにもかかわらず、ひらひらとした身のこなしに、驚きを隠せない。


▲『モデルX』:全長×全幅×全高=5037×2070×1680㎜と、SUVとしては低くワイドなディメンションを持つ。フロア内に大容量バッテリを収納し、前:236ps、後:510psの電気モーターを配置する。システム出力539ps/850Nmを誇り、0−100㎞加速を3.1秒でこなす。バッテリの容量は、75-100kWhの間に3種の設定が用意される。

そして間もなく、次なる急先鋒となる『モデル3』が登場する。既に30万台を超える予約を受けており、これが実現すれば、これまで”EVヴェンチャー”とされてきたテスラを、”自動車メーカー”と呼んでも遜色ない規模になる。


▲モデル3:『ロードスター』、『モデルS』、『モデルX』に続く、”第4のテスラ”として発表された『モデル3』は、BMW「3シリーズ」やメルセデス・ベンツ「Cクラス」を仮想的に開発されたプレミアム・コンパクト・セダンだ。一回の充電で、345㎞の走行が可能であり、自動運転の機能を搭載する予定。発売後まもなく、40万台とも、50万台ともされる大量の予約が殺到している。いずれにしても、量産EVの代表格である日産『リーフ』の累計販売台数を凌ぐ数字になっているらしい。日本でも、東京・青山にある販売店に、長蛇の列ができたほどだ。

テスラ創業の精神である“自分たちが乗りたくなるカッコいいEV”を、これからも作り続けることに期待したい。

文/川端由美

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

※『デジモノステーション』2017年4月号より抜粋

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