デジタルデータの「完全な死」とは?削除しても復活する「不死鳥サイト」の可能性

古田雄介の「インターネット死生観」

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人は死んだら生き返る?
耳目を集めた長崎県のリリース

2004年、県内で児童による殺人事件が相次いだことを背景に、長崎県教育委員会は県内の小中学生を対象とした「児童生徒の『生と死』のイメージに関する意識調査」を実施した。翌年の発表資料によると、そのなかの「死んだ人が生き返ると思いますか」という質問に対して、全体で15.4%の生徒が「はい」と答えたという。

「いまどきの子供は6人に1人が人は生き返ると思っている」「家庭の絆が希薄になって、テレビゲームの影響が強くなったせいだ」――そんな論調で多くのマスコミがセンセーショナルに報じた。

実際にはゲームだけでなく本や宗教観、願望などが混在したうえでの答えも少なくなかったようで、いささかゲームが悪者にされた感がある。とはいえ、同委員会がこの結果を受けて、生命に関する教育に改めて取り組んだのは事実だ。「個々人の宗教観や価値観は尊重するけれど、何でもかんでもパッと生き返るわけじゃないんだよ」、と。

この方針に違和感を持つ人はそんなにいないと思う。魂とか精神的な領域は個人の考えに委ねるとして、実体としての人間は死んだら蘇らない。それはまあ、現代の日本の常識といえるだろう。

では、インターネット上に残ったデータはどうか。消滅したあと復活することはあるのだろうか?

ある程度の年月、インターネットに親しんできた人なら経験則として知っていると思う。そう、ありうる。

たとえば、この意識調査の抜粋は長崎県の公式サイトにリリースとしてアップされていたが、ずいぶん古いためいまは見られない。しかし、国際的なアーカイブサイト『Internet Arcive』で同URLを調べると、当時のままの文面がいまも普通に閲覧できる。

本体が消滅しても容易に複製できるデジタルデータは、一度世に放たれれば発信者のコントロール外でコピーが作られる可能性が常にあり、何度でも蘇りうる。

だからこそ、ネット上に残存する特定の情報を抹消するサービスを高額で請け負う企業がたくさん存在しているし、データを消去するしないで裁判が起きたりもする。


▲Internet Archiveの「Wayback machine」で長崎県学校教育課が発表した当時のリリースを検索した。2008年頃にページを削除したようで、2007年以前のアーカイブでは全文がしっかりと残っている。

物理フォーマットしても
復活の可能性はゼロにならない

では、デジタルデータの完全な死とはなんだろう?

ネット上はもちろん、中継したサーバーや閲覧した端末にあるすべてのコピーが抹消されれば、死んだと言えそうな気がする。

しかし、デジタル遺品研究会ルクシーの共同設立者にしてデータ復旧技術者の阿部勇人は、「現在の技術では、厳密な意味でのデータの完全削除は無理だろう」という。

SSDなどのフラッシュ製品は書き込み位置に不良が発生した領域があると、自動で正常な領域にデータを移す技術があり、放棄された領域はOSから認識されなくなる。そのための予備領域は仕様上の容量の10%以上に及ぶこともあるという。HDDも容量比が小さいが似たような技術が組み込まれている。そうした放棄領域の残存データをつなぎ合わせることで、物理フォーマットしたドライブからでも元のデータが取り出せることがある。

十分なスキルと環境がないと不可能な方法だし、復活できるのは元のごく一部でしかない。ただ、それでも0%ではない。デジタルは有か無かの世界なので、ほんのわずかでも可能性が残っていれば、完全復活する余地を持ち続けることができる。そういう意味でロマンがあるし、また、怖さもはらむ・・・・・・。

サーバーが飛んでもなお、
復活する不死鳥サイトを夢想

5月、外付けHDDトップシェアのバッファローはデータ復旧事業の参入を表明した。自社のHDDやSDカードなどの物理障害や論理障害に対して有償でサポートする。その事業説明会の席上、傘下で老舗のデータ復旧会社・アドバンスデザインの本田正会長は、「将来的にはクラウドサーバーが破損した際のデータ復旧も構想している」と語っていた。

近い将来、サーバーが飛んでも、管理人やミラーサイト所有者のローカルドライブがフォーマットされても、しぶとく何度でも復活するサイトが見られるかもしれない。

復活を歓迎されるなら「不死鳥サイト」、困惑されるなら「ゾンビサイト」の呼称がつくかもしれない。いずれにせよ、実体としての復活を現実的に想像できるのは面白い。

文/古田雄介

古田雄介/利用者没後のネットの動きやデジタル遺品の扱われ方などを追うライターで、デジタル遺品研究会ルクシー理事。著書に『故人サイト』(社会評論社)など。8月9日に『[ここが知りたい!]デジタル遺品』(技術評論社)刊行予定。

※『デジモノステーション』2017年9月号より抜粋

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