「おみやげ時計」と侮るなかれ。プロも認めるスイス製モンディーンの実力

デジタル世代の身の丈に合った腕時計選び

腕時計はなんとなく欲しいけど、何を買っていいのか分からないという読者のために。業界で“ハカセ”と呼ばれる、腕時計ジャーナリスト広田雅将の腕時計選び指南書『デジタル世代の身の丈に合った腕時計選び』。

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専門家にも好まれるモンディーンの実力

時計好きならば、モンディーンという名前は聞いたことがあるだろう。スイス国鉄の駅時計を模した、ウォッチやクロックを作るメーカーである。いかにもスイスっぽいデザインの時計が魅力で、筆者は何度目かのスイス取材のとき、ジュネーブの土産物屋で買った。しかしこれを、ベタなお土産時計と考えるのは早計だ。


▲モンディーンのベースとなったのは、スイス国鉄のいわゆる「駅時計」。チューリヒ駅のモンディーン ミーティングポイントは、同駅を代表する待ち合わせスポットである。

時計ジャーナリストの端くれとして見ると、モンディーンの魅力は、スイスっぽいデザインが、決して飾りになっていない点にある。太い時分針と赤い秒針のおかげで時間が見やすい上、薄くて軽いため、長時間付けてもストレスにならないのだ。だから意外にも、時計関係者にモンディーン好きは少なくない。

フランソワ=ポール・ジュルヌといえば、泣く子も黙る世界屈指の独立時計師である。かつて彼に、腕に巻いているモンディーンを見せてくれ、といわれた。人の時計に興味を示さない彼が、モンディーンを見たがるのは意外だった。彼は筆者の時計を一通りチェックした後、こう評した。「モンディーンはよく考えられた時計だね。新作のヒントを得たよ」。モノにうるさいジュルヌが、人の時計を褒めたのはたぶん初めてだろう。あるメーカーのプロダクトマネージャーも、やはり筆者のモンディーンを見て「これは見やすくていいね。個人用に買う」と激賞していた。つまりプロに褒められるほど、モンディーンの時計はちゃんとしているわけだ。

もっともこれには理由がある。モンディーンは創業1951年の結構な老舗であり、タフなスポーツウォッチで知られるルミノックスも今やその傘下だ。同社がきちんとした実用時計を作れるのも納得ではないか。

モンディーンには様々なモデルがあるが、今回取り上げるのは、ベーシックな「ニュークラシック デイデイト メンズ ホワイトダイアル」である。

モンディーン
ニュークラシック デイデイト メンズ ホワイトダイアル ブラックレザー A667.30314.11SBB
価格:3万1000円
yDKSHジャパン TEL:03-5441-4515

モンディーンの中で、もっとも標準的なモデル。3時位置にデイデイトを持つため、実用性は高い。またケースの直径が36㎜、厚さは8mmしかないため、取り回しも実に優秀だ。ムーブメントは汎用のロンダ製クォーツ。そのため、どこでも修理可能である。個人的な希望をいうと、ブレスレット付きのモデルがあればなお望ましい。3気圧防水。

このモデルを選んだのには理由がある。機械式ムーブメントを載せたモデルも完成度は高いが、値段が10万オーバーのため却下。実用性を考えるとクロノグラフやアラーム付きのモデルもありだが、ケース厚が11mを超えるので選ばなかった。10気圧防水の「スポーツライン メンズ デイデイト」はどこでも使える魅力的な時計だが、直径が40mmと筆者にはやや大きかった。また10気圧防水ならば、風防の素材はミネラルではなく、硬くて割れにくいサファイアクリスタルにすべきだろう。ラージデイトは圧倒的に見やすいが、日付をちゃんと修正しないと、32日や33日が表示されてしまうのは気に入らない。結果、一番ベーシックな本作が残った。

とはいえ、このモデルには「素時計」ならではの魅力がある。ケースの直径は36mm、厚さも8mmしかないため、シャツの袖に引っかからないのだ。また37gと軽いため、ストレスも感じにくい。加えて本作には、現行品では珍しいデイデイト表示(日付・曜日表示)がついている。実用時計としては、十分以上ではないか。それに機械式でないため、磁気帯びで壊れる心配も少ないはずだ。

もっとも、意地悪く見ると、この時計にも弱点はある。ひとつは、秒針の動きがはっきりしないこと。搭載するロンダのクォーツは、ETAなどに比べてトルクが弱い。そのため太い秒針を動かすと、先端がわずかにぶれるのだ。もっともオタクしか見ない些細な弱点だから、普通の人は気にならないだろうが。そしてもうひとつが、風防がミネラルガラス製であること。ミネラルでも問題はないが、硬いサファイアクリスタルならば、実用性は上がったはずだ。価格は最低でも数千円は上がるだろうが、同グループのルミノックスもサファイア製の風防を使うようになったのだ。モンディーンにも採用を期待したい。


▲高い視認性をもたらす、太い針とインデックス、そして赤い秒針の組み合わせ。インデックスも、プリントではなく立体的だ。

今や日本やスイス製を筆頭に、どの時計も素晴らしい完成度を持つ。しかしモンディーンのように普通に使える「素時計」は、もはや絶滅危惧種だろう。正直、モンディーンには、一種の土産物感がつきまとう。しかし色眼鏡を外してみたら、実に素敵な時計なのだ。個人的な意見を言うと、ダニエル・ウェリントンを買うよりも、モンディーンを着けた方がずっとスマートに見えるだろう。

広田雅将/1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

文/広田雅将  撮影/下城英悟(GREEN HOUSE)

※『デジモノステーション』2017年9月号より抜粋