プジョー『3008』とシトロエン新型『C3』に、フランス自動車メーカーの底力を見た!

川端由美の「CYBER CARPEDIA」

進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

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THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA
Peugeot 3008

この春、日本上陸を果たしたプジョー『3008』は、プジョー・シトロエン・グループの新世代を担うSUVだ。最新のプラットフォーム「EMP2」を採用し、最新のアクティブ・セーフティ機構を搭載。デザインやヒューマン・マシン・インターフェイス「i-cockpit」も一新した。

個性を放つフランスのテクノロジー

フランスのテクノロジーをナメてはいけない。近頃、そう痛感することが多い。例えば、アメリカに次ぐ世界2位のゲーム大国であり、アングレーム国立ビデオゲーム・双方向メディア学校やゴブラン映像専門学校といったコンピューターゲームを専攻できる教育機関もある。

DJIの一人勝ちの様相を呈していたドローン業界に、物をつかめるミニ・ドローンを発表して一石を投じたパロットのように、個性的な発想を持つスタートアップも登場している。また、パリの駅構内に「ステーションF」のようなスタートアップ支援キャンパスがオープンするなど、話題に事欠かない。

そんなフランスにおいて、200年を越える歴史を刻む自動車メーカーがPSAプジョー・シトロエン・グループだ。15世紀にはすでに存在していたプジョー家は、製粉業をなりわいとして成長した後、織物業に転じ、独自の手段で工業化に取り組んだ。さらに、1810年に「プジョー兄弟とジャック・マイヤール・サラン」が設立されると、製粉業から製鋼所へと変貌し、さらなる工業化へと歩を進めた。

今日でも支持されているプジョーのコーヒーミルは、19世紀に生産をスタートし、今でも連綿と作り続けられている製品である。現在まで続くプジョーのトレードマークであるライオンも、この頃から一貫して使われている。


▲フランスの家庭には、必ずあると言われるほど普及しているプジョーのコーヒーミル。1840年に初のRモデルが登場して以降、機構面では大きな変化なく、連綿と生産され続けている。

プジョーの名を冠した自動車が開発されたのは、1889年のことだ。エンジンはなんと(!)蒸気機関であった。翌年には、エンジンを積んだ自動車の発明者として知られるダイムラー製エンジンを積んだ、ガソリン車第一号『Type 2』を開発している。

商用車の製造にも進出し、蓄音機用のスプリングといった時代に沿った部品も生産し、第一次大戦の頃には、自転車6万3000台、オートバイ1000台、自動車3000台、トラック6000台に加えて、飛行機用エンジンを1000基、戦車用エンジンを1400基も製造する規模へと成長していた。第一次大戦後の好景気もあって、年産2万台を越える規模へと、急速に成長する。プジョー伝統の『0』が付く車名として、『201』が生まれたのも、この頃だ。


▲プジョーの伝統である、真ん中に『0』が入る車名は、経済危機に世界が苦しんだ時代となる1931年に登場した『201』から始まった。前輪独立懸架式のサスペンションを採用し、当時としてはモダーンな構成だった。

第2次大戦の終焉は、ヨーロッパに明るさをもたらすと共に、景気に影を投げかけた。が、’70年代には、プジョーはシトロエンを傘下に収め、今日につながる礎を構築したのだ。


▲1912年に発表された『べべ』は、オープン2シーターにコンパクトなエンジンを積んだミニマムな設計だ。自動車エンジニアとして鬼才を放つ、エットーレ・ブガッティの手になることも、話題のひとつだ。

 

クールなデザインとホットなプロダクト

自動車というより、フランスの工業史を垣間見るかのようなプジョー・シトロエン・グループの歴史だが、近年のダイナミックな産業の変化に個性的な動きが再び、加速している。

元々、コーヒーミルや胡椒挽きから、自転車やバイクといった2輪部門、そして自動車までと、プロダクト・ポートフォリオが広い。さらに、プジョー・デザイン・ラボなる工業デザインを手がけるチームの存在もユニークだ。最近では、レッド・ドット・デザイン賞を獲得した『eキック』は、マイクロ社と共に手がけた電動キックスケーターである。リチウムイオン電池を採用し、25km/hまで加速ができる。ブレーキをかけると、ハイブリッド車のようにエネルギーを回生する。キックの強さによって、アシスト量を調整するなど、メカニズムも超クールだ。


▲人気のキック・スケーター・メーカーであるマイクロと共同で開発した電動キックスケーター『e-kick』。エネルギー回生を行うだけでなく、キックする力からライダーがどれだけ加速したいかを察して、アシスト量を調整。

エアバスのヘリコプター部門が手がける中型ヘリ『H160』のデザインもまた、プジョー・デザイン・ラボの手になる。『5008』のカーゴスペースにちょうど収まる折りたたみ式電動アシスト自転車『eF01』も、クルマより自転車の歴史が長い企業らしい発想だ。


▲エアバス・ヘリコプターズの中核を担う、高速かつ長航続距離の中型機『ドーファン』の後継機『H160』のデザインを担当したのもプジョー・デザイン・ラボ。機種名は時速160kmで巡航可能なことに由来。

今年、日本に上陸を果たしたばかりの『3008』では、そんなプジョーの前衛的な姿勢が垣間見れる。デザインがカッコいい!と飛びつく前に、このクルマの基盤となるプラットフォームである「EMP2」に注目したい。フォルクスワーゲンの「MQB」、トヨタの「TNGA」といったモジュール化されたプラットフォームが最近の流行だが、この「EMP2」はさらに進化したモジュールだ。

ハッチバック、セダン、クーペ、カブリオレ、ワゴン、ミニバン、SUV…と、どんなボディにも対応できるマルチプレヤーである。ハイテン鋼はもちろん、アルミや複合材などの軽量素材を活用し、70kgものダイエットに成功している。アイドリングストップ機構や電動パワステといった電化を進め、低転がり抵抗タイヤを装着するなどにより、CO2排出量を22%も削減できる。加えて、ヨーロッパの最新の排ガス規制に対応する。


▲1800年代後半まで遡る自転車の歴史があり、現在も複数の電動アシスト自転車を発売。最新作『eF01 e-Bike』は約30kmまで航続が可能で、10秒程度で折りたためる。

最初にプラットフォームの話をしたのには理由がある。エンジンを低い位置に搭載できるため、ボンネットが低く、精悍なスタイリングができる。同時に、重心を低くできるため、プジョー一族に共通する美点である“キビキビとした走り”は失われない。

 

ドライブ体験をシェアする車載“デジモノ”

もう一方のシトロエン・ブランドからも、魅力的な一台が日本の土を踏んだ。世界中のシトロエンの新車のうち、3台に1台、日本ではなんと(!)5台に1台が『C3』というほど、売れ筋のモデルだ。第一印象は、かなりの個性派。ボディとルーフの色が異なる組み合わせが選べるのは、従来の『C3』から続くユニークなところだ。フロントウインドーがぐっとルーフまで入り込んでいて、室内に乗り込むと、自然光が指して明るい。


▲初代「C3」は、累計で350万台を販売したシトロエンの基幹モデル。新型「C4カクタス」の個性的なデザインを取り入れつつ、初代同様にブラックアウトしたAのピラーなどにより、フールが浮かび上がって見える個性派の外観を持つ。

見た目からして、“超”がつくユニークさだ。LEDランプが並ぶシャープな目つきとコロンと丸いフォルムが、コントラストしていて、どことなく愛嬌がある。ボディサイドにある“エアバンパー”は、その名の通り、空気の層で衝撃を吸収するバンパーなのだ。紫外線や雨などの気候による劣化を抑える特殊な強化ポリウレタン製の6つのカプセルに空気が閉じ込められていて、ちょっとした衝撃なら吸収してくれる。


▲「C4」カクタスから採用されたエアバンパーは、「C3」ではよりキュートで洗練されたデザインに。6つのエアが入ったカプセルのうち、先頭だけ赤いアクセントがほどこされている。

デジモノ好きにたまらないのが、ルームミラーに備わるオンボードカメラ「コネクテッドカム」である。クルマの前から見える景色が写真やムービーで撮影できて、スマホ経由でシェアできる。なんてクール!!!


▲シトロエン・コネクテッドカムは、フロントガラスに搭載されたオンボードHDカメラで、ドライブ中にフロントウィンドーから見えるものをとらえて、写真やビデオでシェア。

タッチスクリーンでサクサク操作ができる「i-Cockpit」も、日本市場向けに最適化されて投入されている。大きなスマホ風に直感で使えるのが、イマドキな雰囲気だ。楕円形のハンドルの上から、その向こうにある横長のディスプレイが見える。ここには運転に必要な情報を集めて表示し、センターパネルにある大型ディスプレイにはインフォテインメントやナビが、未来的なグラフィックで表示される。


▲「i-cockpit」は楕円型の小径ステアリングホイールを採用し、その向こう側に見えるメーターパネルと中央のタッチスクリーンで、車載インフォメーションをオーガナイズして表示する。

こんな風に、同じ企業の傘下にあって、プラットフォームやデジタルデバイスを共有して、高効率化をはかると同時に、スタイリングの表現や乗っていて楽しいと思わせるポイントは、プジョーはプジョー、シトロエンはシトロエンと独立独歩なのが、このグループの特徴である。

創業から200年以上を重ねた歴史があるにもかかわらず、その上にあぐらをかくことを知らない。むしろ、常に前衛的に、時代の最先端に立つ姿勢を見せてくれる。それがフランスの自動車メーカーの底力であり、個性的な部分でもある。

文/川端由美

かわばたゆみ/自動車評論家 環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。

※『デジモノステーション』2017年9月号より抜粋