ドイツの巨大部品メーカー・コンチネンタルのテックショーでクルマの未来をイッキ乗り!

川端由美の「CYBER CARPEDIA」

進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

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THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA
CONTINENTAL

1871年創業の老舗タイヤ・メーカーであるコンチネンタルは、今では世界第2位の巨大部品メーカーへと成長した。ドイツ北部にある“世界一混んでいる自動車テストコース”として知られる同社のテストコース「コンチドローム」にて、モビリティの未来をイッキ乗りしてきた。

世界で一番、予約が困難!? コンチドロームでイッキ乗り

クルマとタイヤは切っても切れない関係である。いや、クルマというより、自転車やバイクやモノレールといったモビリティ全体を支えていると言っても過言ではない。そもそも“モビリティ”とは動きやすさであり、人が社会活動のために空間移動することである。つまり、人々が移動すればするほど、たくさんタイヤを使うから、タイヤ・メーカーにとってモビリティの未来を考えることは非常に重要なのだ。

コンチネンタルがモビリティに向かって動き出したのは、1990年代後半のことだ。丸くて黒いタイヤを作る会社から、“インテリジェントな企業になる”と宣言した。当時はまだ、記者発表に参加したメディアですら、真っ黒な丸いタイヤがどうインテリ化のするのか? 首を傾げるばかりだった。

しかし、20年を経た今になって振り返ると、ようやくその真意が理解できるようになった。電気系やセンサー類といった自動車用ハイテク部品を開発することに加えて、リチウムイオン電池やEV用電気モーターまで手を広げ、なんと2012年からは公道での自動運転の実証試験までスタートしたのだ。これを“インテリジェントな企業”と言わずして、なんと言うべきか。


▲BMWとインテルとモービルアイですでに結んでいた提携に、コンチネンタルが車載インテグレーターとして参加すると発表された。また、中国のインターネットサービス企業「百度」とは、自動運転で手を組むべく戦略的提携を行う。

その実力を試すべく、ドイツにある本社へと向かった。目的地は、世界で最も混雑しているともっぱらの噂の有名なテストコース、「コンチドローム」である。世界中の自動車メーカーが、まだ開発段階のクルマを持ち込んで、タイヤのテストはもちろん、最新のテクノロジーを搭載して、試験走行しているからだ。そんな混雑したスケジュールの中、メディア向けにコースを解放する。それが、今回開催された「テックショー2017」なのだ。最新テクノロジーを積んだテスト車が、ずらりと並んで待ち構えていた。


▲エルマー・デゲンハート/コンチネンタル取締役会会長 1959年生まれ。シュトゥットガルト大学にて航空宇宙工学を学んだ後、機械工学にて博士号を取得。フラウンホーファー研究所などを経て、1998年にコンチネンタルに入社。その後、ボッシュ・シャシー・システム部門社長、レカロ・グループCEO、シェフラー・グループ社長を歴任し、2009年から現職。

 

一歩進んだ自動運転に備えたクルマと人の関係の構築

まずは、最大の目玉である自動運転から試してみよう。“クルージング・ショーファー”と名付けられたテスト車には、「レベル2」にあたる自動運転の機能が搭載されている。これは既にテスラ「モデルS」やメルセデス・ベンツ「Eクラス」に搭載されているのと同様、車線変更を自動で行うことができる。加えて、自動運転時のリスクを減らす機能が盛り込まれている……と言われても、イマイチぴんとこないだろう。平たく言うと、高速道路で運転をクルマに任せている時、なんらかのエラーが発生したり、高速道路の終点といったことに遭遇すると、操作を人間に戻さなければならなくなる。その時、クルマがドライバーの注意を喚起して、スムーズに操作をハンドオーバーすることが重要だ。

実際にテストしてみると、その効果は絶大だ。フロントガラスに備わるカメラを使って、「高速道路の終わり」という標識を検知すると、ダッシュボードとフロントガラスの間がブルーに光って警告を発する。あくまで“テスト”なので、あえて警告を無視し続けると、今度は警告音と共に赤く点滅して、盛大に警告をする。これで気づかないドライバーがいるはずもない。だからこそ、それでも無視し続けると、ドライバーが緊急状態にあると判断して、自動で速度を下げて路肩にクルマを寄せて止める。いわゆる“デッドマン・コントロール”と呼ばれる機能だ。日本同様、高齢化の進むドイツでは、最近、運転中に心臓発作でドライバーが倒れて、クルマが暴走するという事故が多発している。ドイツのアウトバーンは、オーバー200km/hで突っ走ることも普通なので、ドライバーが意識をなくしてしまうと、深刻な事故に繋がってしまう。


▲「レベル2」の自動運転機能を搭載したテスト車。フロント・カメラで標識などの周辺環境を検知し、高速道路の終わりなどでは自動運転からドライバーへのハンドオーバーを促す。

もうひとつ面白かったのが、ドライバーの状況を把握する“ドライバー・アナライザー”という機能だ。現在、市販されている「レベル2」の自動運転では、事故を起こした際の責任はドライバーにあるが、次の「レベル3」になると、クルマの責任となる。運転中にハンドルから手を離してよくなれば、よそ見もしがち。いざ、クルマがお手上げの状況でドライバーに運転を戻そうとしたとき、ドライバーがあらぬ方向を向いているようなら、早めに警告をしなければならない。

※「レベル3」は条件付自動運転のこと。限定的な環境下、例えば高速道路上などで、システムが加速・操舵・制動を行う。通常時はドライバーは運転から解放されるが、緊急時やシステムが扱いきれない状況下には、システムからの運転操作切り替え要請にドライバーは適切に応じる必要がある。事故時の責任はクルマが負うとされている。


▲顔のパーツの位置に加えて、視線の行き先を見ることでドライバーが脇見や居眠りをしていないか分析。ナビ画面を触るなどの視線が大きく移動すると、警告を行う。


▲非接触で充電できる“オートメーテッド・ワイヤレス・チャージング”が搭載されたルノー「ゾエ」。電磁誘導で充電ができる。


▲駐車位置を学ぶ“トレインド・パーキング”は、遠隔で最適な自動駐車ができる。車両幅プラス数十センチといった車庫でも各種カメラや超音波センサーで360°を検知する。

 

誰もがワクワクして楽しい。便利で楽しい移動のあり方

コネクティビティの進化にも目を見張るものがある。すでに2017年に発売される新車のうち、約50%が繋がっているという。2020年にはほぼすべての新車が繋がり、公道を走るクルマの約20%が繋がると予測されている。

驚くことに、コンチネンタルはバックエンドクラウドまで連携して、適した時に、適した人に、適した情報を配信する方針を打ち立てた。それって、AmazonやGoogleがやっていることのクルマ版である。それが、“eHorizon”というコンセプトであり、リアルタイム・デジタルマップのHEREが提供するロケーションクラウドとIBMのクラウドと接続して、天気、事故、渋滞などのリアルタイムで起こっている出来事を把握したうえで、ルート選択や走行の制御する。……と書くと複雑だが、実際のテスト車で試すと、むしろ、高度な情報を誰もが気軽に使えるように洗練されたシステムだ。特に、混雑する町中のようなシーンで自動運転をする際に、より自動運転の精度を高めることにつながる。


▲カメラなどの情報を集め、クラウド上に蓄積して、ウェブでインタラクティブに配信する「eHolizon」では、カメラで白線や標識を認識し、そのデータをクラウド上でインフラ情報として統合されて、配信される。

居並ぶテスト車の中で異彩を放つのが、「eHorizon.Weather」の機能を積んだ“Holistic Connectivity”のテスト車シトロエン「カクタス」だ。ドイツ企業でなぜフランス車か?というと、フランス気象局と共同で実証試験を行っているから。走行中のクルマから車載データを集めて、ゲリラ豪雨や霧といった局所的な天気予報をして、情報を提供する。もちろん、自動運転が苦手な霧のような悪天候を避ける走行ルートの提案などにも役立つ。


▲フランス気象局と共同で実証試験を行っている「eHorizon.Weather」。ワイパーの稼働やカメラなど、クルマから得られるプローブ情報によって、ゲリラ豪雨のような局所的な天気予報を行う。

大型タッチパネルとボイスコマントで、スマホ風に操作できる。好みの音楽のリコメンドはもちろん、車載ディスプレイとドアフォンが連携して、遠隔で玄関のロックを解除できる。ガソリンスタンドのクーポンまで表示する。


▲共鳴によって音が発生するところを見つけ出し、それを音響システムに応用するというユニークな発想で開発されたスピーカレス・オーディオ。シートなどが音と振動を発する。

さらに、つながっていないクルマを繋げるデバイスもあって、アメリカのレンタカー「ハーツ」と共同で試験中だ。スマホでのキーレスの貸し出しが可能で、走行ルート情報やデジタル領収書による出張精算までサポートする。


▲「ハーツ」はノキア、SAP、デルといったIT企業やスタートアップが手を組んで、コネクテッド・カー・デバイスを後付けしての実証試験を行う。

タイヤ・メーカーからメガサプライヤーに成長を遂げたコンチネンタルだが、自動運転、コネクテッドといった分野を支えつつ、次世代のモビリティを支えるサービス・プロバイダへと変貌しようとしている。クルマだけではなく、他の移動手段ともシームレスにつながり、ストレスない移動ができる未来を想像すると、移動はまだまだ楽しいものになりそうだ。

文/川端由美

川端由美(かわばたゆみ):環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。

『デジモノステーション』2017年10月号より抜粋