今こそ知るべき!デジタル遺品の正しい扱い方と死後の相続環境

古田雄介の「インターネット死生観」

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デジタル遺品の特異性は
デジタルという表層にしかない

スマホやパソコン、オンライン上のアカウントなどが遺品化した際の対応をまとめた実用本『ここが知りたい!デジタル遺品』を8月に上梓した。デジタル遺品を残された家族側と、デジタル資産を残していく本人側の双方で役立つことを意識して、デジタル遺品の初歩から個別の対応策まで総合的にまとめている。

「死んだ家族のFX口座が借金爆弾になるんじゃないか」や「スマホを処分されたらすべてが墓の中に葬られるんじゃないか」など、デジタル遺品という正体不明な存在に怖さを感じているなら、ぜひ手に取ってほしい。面倒な問題は確かにはらんでいるけれど、そこまで恐れる存在でもないことが分かると思う。

執筆にあたり、デジタル遺品をさまざまな視点で総ざらいしてみたが、結局のところ、本質的なところは従来からある普通の遺品と変わらないと再確認できた。放置しておくことで発生するリスクも、デジタルだからと特段跳ね上がるわけではないし、デジタルだから必ずしも未来永劫拡散し続けるわけでもない。

違いがあるとしたら2つだ。表層をデジタルのベールで覆っているか否か。そして、死後の相続環境が成熟しているか否かだ。

どういうことか、ちょっと説明させてほしい。

デジタルのベールは本質的な価値に影響を与えない

家族写真を例にしたい。

紙焼き写真なら、何の道具も使わずに誰でも観賞できるが、フィルムがなければまったく同じ状態で複製するのは難しく、経年劣化も起こる。

デジタルデータの写真の場合は、スマホやパソコンなどの情報端末を介して観賞することになるため、それらを操作するスキルが必要になる。端末ロックをかけている場合はその鍵も欠かせない。一方で、元データは簡単にコピーできるうえ、写真共有サイトなどにアップすることもできる。端末自体は経年劣化するが、データを移していくことで元の状態を長年保っていける。

こうやって違いを書き連ねると、まったく別物を取り扱っている感覚になるが、どちらも思い出が詰まった写真であることに変わりはない。本質的な価値は同じで、取り扱い方という表面的な部分に違いがあるだけだ。従来の遺品と比べるとデジタルのものはちょっと違和感がある。そう、表面のちょっとだけ。それを私は“デジタルのベール”と呼んだ。

大切に保管しておきたいなら、別に何のことはない。それぞれにあった手を打つだけだ。紙焼き写真は直射日光が当たらないように保管したり、フィルムがあれば焼き増ししたりすればいい。デジタル写真ならバックアップをとりつつ、現役で使っている端末にきちんと整理して保存しておけばいい。

途中で通る道が違うだけで目的地は変わらない。抹消したい場合も、隠したい場合も同様だ。

デジタルが一般化した歴史を振り返れば、未整備も致し方なし

もうひとつの違いに挙げた“死後の相続環境”の差は、デジタル遺品を生み出す企業や業界がまだ若いということに帰結する。

たとえば、亡くなった家族のスマホを解約する場合、そのキャリアのショップや窓口に遺族が出向くことになる。死亡診断書など必要書類を持って行ったらマニュアル通りに対応してくれるが、そのあたりの説明が不十分だったり、散々待たされた後で書類不足を指摘されたりという不満の声はいまだよく耳にする。くわえて、対応してもらえる範囲は契約の引き継ぎや抹消のみで、端末内のデータはや各種アプリのアカウントまでは面倒を見てもらえないのが普通だ。一部のキャリアは契約の引き継ぎ(承継)も対応しない。

また、オンラインサービスの遺族対応も未整備のところが多く、金融系や一部の大手プロバイダーを除いて、遺族対応の道筋が整備されているところはほとんどない。アフィリエイトや仮想通貨取引所など通貨や準通貨を扱うサービスであっても、会員死亡時の処遇が会員規約に記載されていないことがザラにある。

未成熟の理由は単に遺族からの問い合わせがまだほとんどないからだ。現場経験が蓄積されないから、ノウハウも上積みされない。何しろ一般化して四半世紀そこらの世界だから、近代から百年以上の蓄積がある業界と同程度の環境を求めること自体に無理があると思う。

ただ、差は急速に埋まっている。肌感覚だと5年以内には十分な遺族対応のガイドラインができそうだ。そして、もう5年もあれば相談現場でも柔軟な対応ができるくらいに練れているのではないかと思う。今回の本は、その頃まで役に立てばいい。


▲利用者の死後の対応環境が未整備な世界では、遺族が手探りで解決方法を見つけ出したり、本人が生前準備したりと当事者が頑張らなければならない。※イラストは著書より。


▲整備された世界では提供側のサポートが充実しているので、専門家の助けを求めやすい。近い将来にデジタルの世界もこちらの環境になると思う。※イラストは著書より。

文/古田雄介

古田雄介(ふるたゆうすけ):利用者没後のネットの動きやデジタル遺品の扱われ方などを追うライターで、デジタル遺品研究会ルクシー理事。著書に『故人サイト』(社会評論社)『[ここが知りたい!]デジタル遺品』(技術評論社)など。

『デジモノステーション』2017年10月号より抜粋


最期の言葉 (文庫ぎんが堂)”]