普通、だけどそれがいい。『プロマスター×mont-bell』はシチズン史上最高傑作だった!

デジタル世代の身の丈に合った腕時計選び

腕時計はなんとなく欲しいけど、何を買っていいのか分からないという読者のために。業界で“ハカセ”と呼ばれる、腕時計ジャーナリスト広田雅将の腕時計選び指南書『デジタル世代の身の丈に合った腕時計選び』。

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タウンにもタフにも対応。万人向けの実用時計

日本の時計メーカーにはそれぞれ個性がある。カシオはごつい時計を得意とし、セイコーは高級品を作らせると上手い。ではシチズンはどうか。普通の時計を手がけると、抜群に上手いのである。もちろんシチズンの高級品や、「カンパノラ」といった複雑なモデルにも魅力がある。しかし名は体を表すの通り、普通の人、つまり市民が使う時計のジャンルで、シチズンは他社より頭ひとつぬきんでている。バランスの取れた、実にいい時計を作るのだ。今回取り上げるのは、そんな時計のひとつ、というよりも、シチズン史上最高傑作のひとつ、かもしれない。

筆者が時々買う時計のジャンルに、チタン製のマルチパーパスウォッチがある。見た目はオーソドックスだが、スポーツウォッチ並みの頑強さを持ち、しかも軽くて使いやすい。スイスやドイツにもこういった時計はあるが、筆者の経験を言うと、日本メーカーの物がベストだ。というのも、スイスやドイツの時計メーカーは、チタンという柔らかい素材の加工が、どうも上手くない。仮によくできてても、それらは途方もなく高価なのである。日本のメーカーはチタンの加工が上手いだけでなく、値段も控えめだ。

2016年に発表された、シチズンとアウトドアメーカーのモンベルがコラボレートして作った『プロマスター×mont-bell』は、そういう筆者の好みにどんぴしゃだった。適度な大きさで、防水性能は20気圧、そして軽いチタン製のケースを持ちながらも、価格は3万円台だったのだ。しかし各モデル限定550本。少なすぎると思っていたが、案の定、どの店でも完売とのことだった。筆者は慌ててモンベルの専門店に出かけたが、ついぞ手に入れることができなかった。

シチズン
プロマスター×mont-bell
価格:3万7800円
シチズンお客様時計相談室 TEL:0120-78-4807

2016年に発表された限定版をレギュラー化。チタン製の2ピースケースに、光で発電する「エコ・ドライブ」を採用する。アウトドアでの使用を考慮して、ケースは軽く薄く作られている。20気圧防水という性能も十分以上だ。価格は驚異的で、レザーストラップのモデルは3万8880円(ナイロン替ストラップ付)、チタンブレスでも4万3200円だ。エコ・ドライブ。Tiケース。20気圧防水。

筆者以外にも悔しがる人は多かったのだろう。今年、シチズンはこのモデルのレギュラー化を決めた。違いは、ストラップが茶色になったことのみ。それ以外、何も変わっていない。

このモデルの魅力は、実用時計として、理想的なパッケージングを持つ点にある。ケースのサイズは、直径39.75mm、厚さ11.65mmと、普段使いにジャストだ。また時計をひっくり返せば分かるが、このモデルは、裏蓋とボディを一体加工した2ピースケースを持つ。裏が滑らかなため装着感は良いし、裏蓋がないためケースはいっそう頑強なのだ。加えて表面に硬化処理の「デュラテクトTIC」を施してあるため、傷もつきにくい。


▲このモデルの魅力が、アウトドアウォッチらしい高い視認性。針はやや細いが、大きなインデックスを持つため、時間はかなり読み取りやすい。

裏蓋を持たない2ピースケースにできた理由は、このモデルが光で発電する「エコ・ドライブ」のためだ。光を当てれば時計が動き出すため、エコ・ドライブは、交換バッテリーを持たない。そのためバッテリーにアクセスする裏蓋を省けたのである。


▲驚くべきは、裏蓋を持たないこと。防水性は高まるが、製造コストは上がる。3万円台という価格で2ピースケースを採用したのは驚異だ。

またこのモデルは、電波を受信して時間を修正する機能を持たない。月に1度は時間を合わせなければならないが、値段は抑えられた。上位機種の『PMD56-2952』は電波受信機能と曜日表示を持つが、価格は約倍だ。機能を押さえて買いやすくしたのは、いかにもシチズンらしい。

文字盤の下に太陽電池の「ソーラーセル」を持つエコ・ドライブは、文字盤がポリカーボネート製である。そのため金属文字盤のような高級感は与えにくいが、価格の割に作りはいい。少なくとも、プラスチックっぽい、テカテカした光り方をしないのは好感が持てる。ギザギザ加工を施したリュウズも、丁寧な加工を証明するかのように、肌を刺激しない。こういう細やかな配慮は、日本メーカーならではだろう。

昨年、筆者はこの限定版を買いそびれた。今年のモデルは非限定だが、すぐ売り切れてしまったら困る。というわけで、見た瞬間注文してしまった。時計を衝動買いする習慣はないが、このモデルは例外だ、というのも、普段使いに最高のパッケージングを持ち、しかもチタンケースとエコ・ドライブが乗っているのに、価格はたった3万8880円なのである。つくづく上手い時計と感心させられた、『プロマスター×mont-bell』。こんな時計を作れるシチズンは、本当にイイ会社だと思う。

文/広田雅将 撮影/下城英悟(GREEN HOUSE)

広田雅将(ひろたまさゆき):1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

『デジモノステーション』2017年11月号より抜粋