時計を手にするきっかけなんて、色々あっていいじゃない! カルチャーな腕時計たち Vol.5 モダンアートとグラハム

20世紀前半に誕生したモダンアートや、1950年代にイギリスで誕生し、その後、アメリカで続々とアーティストが登場するにしたがい世界的なブームを巻き起こしたポップアート──。こうした近現代アートへの情熱を腕時計に取り入れているブランドがある。それが、スイスのグラハム。いずれも一見してインパクトの強いタイムピースだが、それは単にアート作品にインスパイアされたものではない、ブランドの哲学を具現した形なのだ。

“クロノグラフの父”へのリスペクトから誕生したグラハム

グラハムは1995年にスイスで創設されたブランド。その名は、世界で初めてクロノグラフを完成させたイギリスの時計師ジョージ・グラハム(1673〜1751年)の名前に由来する。ブランドの創設者であり役員でもあるエリック・ロト氏は2017年11月に来日した際、ジョージ・グラハムの名を冠したブランドを立ち上げた理由について次のように説明した。

「時計史において初めてクロノグラフを作った偉業はもちろんですが、ジョージ・グラハムは、クロノグラフをはじめとする自身のさまざまな発明に対して特許を取得せず、多くの人々が使えるようにしたのです。そのような、エモーショナルで理知的な人物像に感銘を受けたことが、グラハムをスタートさせたきっかけです」

エリック・ロト氏は、グラハムのオーナーであり役員という立場でありながら、現在も時計のデザインや製作に携わっている。クルマへの造詣も深く、グラハムのコレクションにはモータースポーツに着想を得たものも多い。

そんな、ジョージ・グラハムに対するリスペクトからブランドが掲げたのは、「これまでの時計業界にはないクロノグラフを製作する」という理念。そして創設から6年後の2001年には、“クロノグラフ(Chronograph)”と“空軍の飛行機(Fighter)”というふたつの言葉を掛け合わせたコレクション「クロノファイター」を発表する。これは、第二次世界大戦時にイギリス空軍パイロットのために開発されたクロノグラフ・ウォッチをデザインモチーフとしたもので、ケース左側に大型のレバー(クロノグラフトリガー)を装備した、存在感のあるルックスが目を惹くコレクションだ。

そして、この「クロノファイター」は2001年に誕生して以降、徐々にバリエーションを拡充。現在はグラハムの旗艦コレクションのひとつになっているが、なかでもひと際異彩を放つのが、2017年に発表された「クロノファイター ヴィンテージ ノーズアート」だ。

身に着ける人を“見守る”ノーズアート・コレクション

ノーズアートとは、航空機の機体に描かれたイラストのこと。主に軍用機に用いられているカルチャーで、機首(=ノーズ)に描かれることが多いためにこの名が付いた。描かれるモチーフも、機体をサメに見立てたシャークマウスをはじめ、コミックやアニメのキャラクター、さらにはピンナップガールなど実にさまざまだが、これらは乗組員たちの士気を高めるために描かれていたという。

「このコレクションをスタートさせたのは、私が、アート──とりわけモダンアートやポップアートが好きで作品をコレクションしているほどなのですが、アートのいちジャンルとしてノーズアートにも興味を持っていたことが理由です。これはアメリカで生まれ、イギリスやドイツ、イタリアにも広がったカルチャーですが、そこには“パイロットたちを見守る”という意味もありました。ですから、それを腕時計に描いたら、身に着けている人を見守ってくれるような役割が与えられるのではないかと考えたのです。いわば“ラッキーチャーム”のようなものですね」(エリック・ロト氏)

2017年に発表された「クロノファイター ヴィンテージ ノーズアート」は、まさにノーズアートを想起させる4人のピンナップガールが、1本1本ハンドペイントで描かれたタイムピース。発売された全4モデル各100本という限定本数はたちまち完売となったが、続く2018年には「1950年代のロックンロール」をテーマとしたモデルを発表。新たに生み出されたキュートなピンナップガールたちが、身に着ける人たちの目を存分に楽しませてくれる。

グラハム
クロノファイター ヴィンテージ ノーズアート 2018年限定モデル
各76万6800円

 

軍用機などに描かれたノーズアートをダイアルに施したコレクションの第2弾。2018年モデルのテーマは「1950年代のロックンロール」で、当時のロックシーンをイメージした4人のピンナップガール(リンダ、クロエ、ベル、ルシア)が、直径35mmの小さなダイアルにハンドペインティングで艶めかしく描かれている。世界各100本限定。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径44mm。

実用性よりインパクトを重視したアートな新作

そして2019年、グラハムはノーズアート・コレクションとはアプローチを異にする新たなアーティスティック・ピースを発表した。それが「クロノファイター グランド ヴィンテージ リミテッド」。ブラックダイアルにスカルのモチーフが浮かび上がっているかのような視覚効果をもたらすモデルだが、なんとこれ、サファイアクリスタルの内側にスクラッチ加工を施して描かれているのだ。

グラハム
クロノファイター グランド ヴィンテージ リミテッド
各87万4800円

とりわけ硬度が高く加工が難しいドーム状のサファイアガラスの内側に、レーザーでスカルのスクラッチを施した限定モデル。判読性は決して良いとは言えないが、その大胆なクリエイションにブランドのアーティスト・マインドが感じられる。また、購入後24カ月以内であれば、ガラスが割れた場合などは無料でガラス交換が可能だ。世界各50本限定。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径47mm。

サファイアクリスタルは硬度が高いため加工に手間がかかるのはもちろんのこと、何よりもガラスにイラストなどを入れてしまうと時刻の判読性が損なわれてしまうため、こういった処理は行わない。しかしグラハムは、あえてこのような表現を行うため、自社のアトリエにサファイアクリスタルを切削する設備を導入し、アーティスティックなタイムピースを作り上げた。

それもそのはず、グラハムは“NOT EVERYBODY’S WATCH(=通好みの時計)”を哲学に掲げているブランドで、これまでの時計づくりの常識にとらわれない姿勢を持ち続けている。ゆえに、インパクトのある意匠をはじめ、時計のバックグラウンドやこだわりの製造工程など、その独創性に惹きつけられた人にとって、グラハムは魅力的に映るのだ。

問GRAHAM/グラハム(DKSHジャパン)●03-5441-4515
www.graham1695.com