川端由美のCES Asiaレポート
中国コネクティッドカー最新事情2019

我ながら、わずか1年でこれほど中国にどっぷり浸かることになるとは予想していなかった。記憶を遡ってみても、2010年の上海万博に前後して、やたら中国に渡航したものの、タクシーに乗っても英語が通じなかったり、道路がデコボコだったりと、それなりに大変だった記憶があって、中国という国から足が遠のいていたのは事実だ。ところが、だ。2018年6月に上海でイベントに登壇することになり、SNSにシェアしたところ、自動車業界の知人から続々と連絡があって、気鋭の人材が中国車メーカーやEVスタートアップに転職していることを知ったのだ。それ以来、縁が縁を呼んで、この1年の間に、毎月、時には月に2回も、中国の土を踏む生活になってしまった。

CES Asiaは単なるアジア版CESにあらず
世界の中心へと向けたテック競争の場だ

最大の転機は、アジア最大の家電ショーである「CES Asia」を訪れたときの驚きだった。世界最大級の家電ショーであるCES(= Consumer Electronics Show)が、毎年1月にラスベガスで開催されるのは、デジモノの読者諸氏であれば、ご存知の通りだ。125社以上のスタートアップを含む550社以上が出展し、5万人以上の来場者が見込まれるCESAsiaは、その規模の大きさはもちろん注目に値するが、単なるアジア版CESではないところが重要だ。アジアの中でもイケてる都市へと成長しつつある上海に、5G、AI、XR、自動運転といった注目のテクノロジーをひっさげて、アジアならではのマーケットを狙う企業やスタートアップが一堂に会している。中国スタートアップ企業の中には、2月にシリーズBで約30億ドルへと企業価値を高めることに成功した顔認証の技術で知られるHorizon Roboticsや、未来的なプロジェクター一体型インターフェイスのHachiなど、ホログラフのまるで映画『マイノリティリポート』のワンシーンを見るかのようだ。

中国にある画像認識のAIスタートアップの大手4 社の中でも、イベント会場などにオンデマンドでカメラを設置して、数万人のデータとクロスマッチできる特徴を持つのがHorizon Roboticsだ。

中国の特殊事情として、人口が多く、集まるデータもハンパない。それゆえ、AIによる画像解析やビッグデータ解析といった分野が進んでいるのは自明の理だ。なかでも、目立ったのが顔認証の技術の完成度の高さだ。エッジAIコンピューティング・プラットフォーム大手のHorizon Roboticsでは、コンサートなどの人が集まるイベントで9万人の顔認証が可能なんて話を聞くと、驚きを隠せない。ショー会場でも、道ゆく人たちの顔を認証していて、性別、年齢、メガネの有無といった情報が表示されるのだが、面白いことに、男性の年齢はかなりいいセンをいっている。一方で、女性の年齢を言い当てるのは、男性と比べると、難しそうだ。

実は、とある人気アーティストのイベントで同社の顔認証システムを活用して、犯罪者のデータと一致する人物を逮捕することができた(!)なんて事例もあるという。中国ではデータの権利は国民にないため、ビッグデータを比較的自由に扱えるため、AIコンピューティングのスタートアップには有利な環境が整っている。そのほかにも、うるさいところでも音声が聞き取れる骨伝導ヘッドフォンや、日本のアニメキャラのホログラフなんて、未来を感じさせるテックが満艦飾だ。詳細は専門家に譲るが、ハイアールのスマートハウス、ファーウェイの30倍ズーム対応の最新スマホ「P30」が登場するなど、地元中国の家電メーカーの発表も目立った。

中国版Google の「百度」は、自動運転のOSとなるアポロを開発中。開発者は、オープンソースコードなどのツールを無償で活用できる。

繋がっていないクルマなど未来のクルマにあらず
クルマの家電化は新興国中心に必然

ここら辺で、ふと、己の職業を自問自答してみると、そもそも自動車ジャーナリストがなぜ、家電のショーから目が離せなくなっているのだろうか? 自動車業界でも着々と電動化の波は押し寄せていたものの、数年前までは、誰もが「クルマの家電化」を嘆いていた。なんだかんだいっても、エンジン音とか、排気音みたいなものをありがたがる風潮は継続していて、電気じかけのクルマを嘆く自動車ファンは少なからずいる。しかしながら、ほぼ時を同じくして、4Gや5Gといった安定した通信回線を通してクルマがつながる時代になってきたことで、俄然、スマホに搭載される便利な機能を車載で使える時代になってきている。デジモノの読者諸氏であれば、素直に歓迎すべき技術進化である。

クルマがつながって、“コネクテッドカー”となることによって、我々のライフスタイルにもたらされる変化は非常に大きい。事実として、アメリカでも、欧州でも、そして日本でも、着々と進みつるあるのだが、ASEANや中国といった新興国では特に、社会の変化が急速なぶん、顕著に表れている。実際に、CESアジアの会場を歩いてみれば、誰もが心底そう感じるに違いない。CES Asiaの会場をそぞろ歩いていて一番目につくのは、個性的なEVが続々と登場している点だ。

アウディとディズニーが共同で出資して設立されたスタートアップ「ホロライド」は、オープンソースで使える車載VR のプラットフォームだ。「どの車もテーマパークに変えられる」と謳う通り、地図データの上に高度のデータやVR 用の背景を重ねて、車載VRを構築する。

メルセデス・ベンツ「EQ」、アウディ「e-tron」、吉利汽車傘下にあるボルボの「ポールスター」といった欧州勢の電動車ブランドも、現段階で、世界最大のEV市場である中国を見据えて開発している。加えて、地元中国のEVスタートアップが続々と登場していた。昨年、ニューヨーク市場で上場して一躍時の人となたNIOはあまりにも有名だが、約50万元という高級SUVであるが、天際汽車「NOVAT」、理想汽車「ONE」といった30万元台後半のより手が届きやすいEVブランドも続々と登場している。2016年に上海汽車の元CFOによって創業されたEVスタートアップ企業の「AIWAYS」が、今年3月のジュネーブサロンで発表されて話題になったのは、記憶に新しい。アウディスポーツに所属していた人物が車両開発を担当していることもあって、最新モデルとして、スポーティなSUVを持ち込んでいた。

中国EVスタートアップ「AIWAYS( アイウェイズ)」の車両開発を担当するのは、元アウディスポーツのエンジニアだ。
電咖汽車傘下のプレミアムEVブランドとして立ち上げられた天際汽車「NOVAT」は、高級SUV の「ME7」を持ち込んでいた。

ホンダの電動小型モビリティや
紅旗が5Gコネクテッド・バスと
アジアメーカーの先端ぶりも止まらない!

もう一つ、今回のCES Asiaで興味深かったのは、アウディとディズニーが共同で立ち上げた車載VRエンタテインメントのスタートアップ企業である「ホロライド」社である。実際に、車載VRを体験してみたところ、心配していたVR酔いも感じることなく、存外、エンタテインメントの世界に没入してしまった。車の加速Gを取得して、画像に反映しているから、VR酔いも予防しているという。

論より証拠とばかりに、VRデバイスを装着して、アウディ「A8」のゆったりとしたリアシートに乗り込む。最初は水族館の映像が流れるのだが、クルマが走ることで感じるGが映像と連動していることもあって、大きなサメやクジラが泳ぎ回る様子が妙にリアルに体験できる。実際には、クルマの後ろでVRデバイスを被っているだけなのだが、水中に潜る画像ではクルマが曲がるたびにイルカやクジラの泳ぎに翻弄されるような感覚になる。シューティング・ゲームにも挑戦したが、まるで4D映画に潜り込んだような感覚だ。筆者はあまりにも興奮して、クルマの天井にハンドセットをぶつけてしまった。

中国電動2輪車「VGO」や電動小型モビリティ「Transcooter」といった中国で人気を呼部であろう電動モビリティが並ぶホンダ・ブース。

日本勢では、ホンダが中国での存在感をアピールしていた。オープンイノベーションプロジェクト「Honda Xcelerator」の文字が掲げられたブースに足を運んでみると、電動2輪車「V-GO」や、電動小型モビリティ「Transcooter(トランスクーター)」といった中国で支持されそうな電動モビリティがずらっと並んでいた。コネクテッドシステムについても、ホンダ独自の開発を行っており、2019年に発売される新製品に搭載される予定の第2世代「Honda CONNECT」システムには、音声認識、オンライン決済、スマートナビゲーション、クルマの位置情報共有といった機能が搭載される。さらに、第3世代の「Honda CONNECT」システムは、アリババ・グループとAIボイスレコーダーなどで知られるスタートアップ企業のIflytek(アイフライテック)と共同で開発するという。

ホンダのオープンイノベーションプロジェクト「Honda Xcelerator」では、中国で生まれた成果を展示。発売を控えた第2 世代ホンダコネクトに続いて、第3世代はアリババと共同開発。

CES Asiaに先じて、中国政府が通信キャリアに5G営業ライセンスを発行したこともあって、コネクテッド・カーにも注目が集まった。思わぬ伏兵では、中国最古の自動車メーカーにして、国家主席専用車を製造する「紅旗」が、ファーウェイの5G技術を使って走るコネクテッド・バスを持ち込んでいた。ユーザーのデバイスとつながって、ライドシェアといった用途を想定してるだけではなく、デリバリーなどの商用用途にも対応できるように開発されている。中国のなかでも、もっとも伝統的な自動車メーカーといっても過言ではないだけに、5Gコネクテッドを前提にした次世代モビリティの発表をしたことには驚きを隠せなかった。EVスタートアップの威馬汽車では、自動駐車システム「ValetParking」をバイドゥと共同開発すると宣言。このコンセプトは、個人で所有する人もいれば、シェアリングに使われることも想定されていて、スマホ端末などによる遠隔操作で、出入庫や充電に対応できる。

1953 年に中国初の自動車メーカーとして生まれた第一汽車の中でも、国家主席専用車として生まれた高級車ブランド「紅旗」が、コネクテッド・バスのコンセプトカーを発表。コミュニケーション・ロボットも搭載される。

もはや、「クルマの家電化」を嘆く時代は終わったと言える。むしろ、家電やスマホで使いこなしている便利な機能を、移動中のモビリティの中で存分に楽しむ時代なのだ。

上海汽車は、第一汽車、東風汽車と並ぶ3大自動車メーカーに数えられる。CESアジアでは、コネクテッド・カーのコンセプトを展示。

profile:モータージャーナリスト/川端由美

自動車評論家/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行う国際派。エンジニア、女性、自動車ジ ャーナリストと いったハイブリッドな視点でリポートを展開する。国土交通省・有識者委員、同・独法評価委員会委員、環境省・有識者委員、警察庁・有識者委員、内閣府・有識者委員、内閣官房・有識者委員などを歴任。