高級時計を知り過ぎた人がたどり着く 変態的腕時計世界=ビザールウォッチVol.8SCHAUMBURG WATCH/グランドパーペチュアルムーン メテオライト

●What’s ビザールウォッチ? 

針も読めなければ、現在時刻もわからない奇妙すぎる時計たち。変態的腕時計=ビザールウォッチ。腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという“ 奇妙な時計”が生まれている。それこそが「ビザールウォッチ」。誰もが忙しく暮らすスマートフォン時代に現れた、時間を豊かに楽しむための“ 最高の贅沢品”である。
機械式時計は、メカニズムが複雑であるほど時計の価値が高まり、価格にも直結する。しかし複雑な時計機構に遊び心を加えると、ビザール度がぐっと高まってくる。

<今月の時計>
SCHAUMBURG WATCH

ムーン メテオライト

ロマンティックが止まらない

 機械式時計における付加機能というのは、本来であれば“実用”が伴うべき。そして、そういった実用性を超越しているのが「ビザールウォッチ」ということになる。今回紹介する時計は、文字盤上に巨大な月が浮かんでいるだけ。これはロマンティックである事だけに特化した、とても優雅な時計である。

SCHAUMBURG WATCH
グランドパーペチュアルムーン メテオライト

宇宙の神秘を封じ込めた時計は、愛を語るためにある。

英語教師時代の夏目漱石が、「I LOVE YOU」を、「月がきれいですね」と和訳したという話がある。どうやら出所があやふやらしく、ひょっとすると都市伝説という可能性もあるようだが、この話が広まったのは月を絡めた妙訳が日本人の琴線に触れたからであったことは間違いない。好意を寄せあう二人が、ぽっかりと浮かぶ月を眺めながら、静かに語らう……。それはもう「好き!」って言っているのと同じこと。はっきりとは言わないけど心が通じ合うという奥ゆかしい表現には、とても日本らしい味わいがある。

こういった月を愛でるロマンティックな感覚を楽しむ時計機構が、月の満ち欠けを表示する「ムーンフェイズ」だ。そもそも“時間の概念”は、太陽とその光が作り出す影の動きから生まれた。そして“暦(カレンダー)”は、正確な月の満ち欠けを観測することから生まれた。月は約29.5日周期で、正確に満ち欠けを繰り返す。そして、この周期が12回繰り返されると、再び同じ花が咲き、大雨が降り、暑くなる事を知った。こうやって人類は暦を作り、文化を発展させてきたのだ。つまり月の満ち欠けというのは、宇宙が作り出した、巨大な時計機構なのだ。

リアルさを追求した美しい月が、12時位置へと収まる。夜光塗料のおかげで、夜空で月が輝いているような視覚効果に。

こういった歴史的な背景があるため、時計業界ではムーンフェイズ機構が大好きだ。教会の塔時計の時代から現代の腕時計まで、数百年も使われ続けている付加機構はこれしかないのだから、時計史上最も愛されている時計機構といってもいいかもしれない。しかも実用性はほとんどない。強いて挙げれば、月の満ち欠けと潮の満ち引きには相関関係があるが、これが必要なのはごく一部の人だけだろう。つまり、必要がないのに、“月のロマンティックさ”だけで愛されてきたということ。それこそが、本当の人気機構なのである。

ドイツの小さな時計ブランド「シャウボーグ ウォッチ」は、このムーンフェイズをロマンティックに楽しむブランド。通常の時計のムーンフェイズ機構は6時位置などに小窓を作って、さり気なく表示するのがセオリーだが、「ムーン メテオライト」はとにかく月が大きい。その直径はなんと13.4㎜もあり、しかも実際の月の表面の写真を転写することでリアルな表現を引き出した。月には夜光塗料が塗布され、その上を丸いディスクが移動して月の一部を覆い隠すことで、月の満ち欠けを表現する仕組みだ。

しかも月の満ち欠けをより正確に表示するために特別な歯車を使用しており、122.5年で1日分しか誤差が生じないという。そもそも実用機構ではないので、これだけの精度が必要かどうかは不明だが、とにかく本気度合いは伝わってくるではないか。

ナミビアに落下した隕石を、薄く加工してダイヤル素材に。時計業界では人気の手法である。

さらにこのモデルは徹底的に宇宙にこだわるために、ダイヤル素材にアフリカのナミビアで採取した本物の隕石を使用している。貴重な隕石を薄くカットすると複雑な模様が現れるのだが、どれもが個体差があるため、時計には一点ものの価値がある。それもまたロマンティックな魅力に繋がっている。

この時計を眺めるのは、時間を知るためではない。宇宙に思いを馳せ、美しい月を愛でるためにある。暑かった夏が終わり、夜の空気が少しひんやりしてくるこれからの季節がやってくる。この時計を腕に意中のあの人を誘い出せば、「月がきれいですね」というセリフも自然と出てくるだろう。

ケースバックに設けた小窓は、さり気なく三日月形。こういう細かな遊びも、満足感を高めてくれる。

SCHAUMBURG WATCH
ムーン メテオライト

自動巻き、SSケース、ケース径43㎜。82万円。
問ユーロパッション ☎03-5295-0411
http://www.europassion.co.jp/schaumburg/

篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★★4
メカニズム★★★3
コンセプト★★★★★5
プライス★★★3