日本人は世界一のキーボードオタクだった?
本格的なキーボードスマホが日本に上陸

一昔前はちらほらと存在した、PCのようなフルキーボードを搭載したスマホ。今ではブラックベリーが細々と販売される程度となり、すっかりとマイナーな存在になってしまった。ところがここに来て超小型のノートPCのようにしっかりとしたキーボードを備えたスマホが日本に上陸する。またクラウドファンディングに登場したキーボードスマホも日本のマニアの間で話題となっている。ブラックベリーとは一味違うキーボードスマホ、日本でブレイクする可能性はあるのだろうか?

開けば超小型ノートPC、閉じればケータイ
2つの製品を合体させたCosmo Communicator

イギリスのPlanet Computersが開発したスマホは他社製品とは形状からして大きく異なっている。2018年に発売された「Gemini PDA」は、閉じた状態では金属製のペンケースのような形をしているが、横のヒンジから開くと6インチの大型画面と指先でしっかりタイプできる本格的なキーボードを備えたスマホなのだ。Wi-FIモデルだけではなくLTEモデルもあり、本体だけで通信もできる。カメラは内側にXXX万画素のものを搭載、外側のケース部分には後からXXX万画素のカメラを装着可能だが、品質的には「おまけ」程度と考えたほうがいいだろうか。Gemini PDAは「とにかく長文を打つ必要がある」「ノートPCよりもっと小さいモバイル端末が欲しい」という人をターゲットにした製品なのである。

Planet Computers最初のスマホ、Gemini PDA。

このGemini PDAはクラウドファンディングで資金調達に成功した後、日本でもリンクスインターナショナルが代理店となって正規販売が行われた。家電量販店の一部でも店頭販売がされているという。キーボード付きスマホなんてかなりニッチな製品だろうから、その存在を知らない人もいるかもしれない。ところがPlanet Computersによると、Gemini PDAの販売数が世界で最も多かったのは日本だったとのこと。具体的な販売数は非公開だが、Gemini PDAの全販売台数の約25%が日本で、アメリカは約18%、イギリスが約13%、ドイツが約9%。キーボード文化のアメリカやPlanet Computersの母国イギリスより日本のほうで売れたとはなかなか興味深い。

Gemini PDAの販売実績。世界で最も売れたのが日本だ(日本の発売発表会にて)。

そのPlanet Computersから2機種目のスマホが日本に上陸する。今度の製品は「Cosmo Communicator」。初代はPDAだったが2世代目はコミュニケーターという名前になった。その理由はGemini PDAがキーボード入力に特化した製品だったのに対し、Cosmo Communicatorは閉じた状態でもコミュニケーションツールとして使うことができるからだ、Cosmo Communicatorの本体サイズはGemini PDAとほぼ同等。上蓋を開いてキーボードを表示するとその外観もほとんど変わらない。

Gemini PDA(左)とCosmo Communicator(右)。開いた状態では両者ほとんど差はない。

ところが蓋を閉じた状態を見てみると、Cosmo Communicatorは上蓋部分に2インチのディスプレイを搭載し、通話などの通知を表示することができる。しかもディスプレイにタッチして着信を受けることもできるのだ。また電話帳を開くことも可能で、閉じたまま携帯電話として使えるのだ。さらには2400万画素の高画質なカメラも搭載。SNS用に食事や風景、自撮りなど様々な写真をアップしてシェアすることもできる。コミュニケーターという名前が付けられた理由がわかるだろう。なお噂ではこのCosmo Communicator、世界に先駆け日本で発売するそうだ。

Cosmo Communicatorは閉じてもケータイとして使えるようにタッチパネルディスプレイを搭載する。

突然現れたブラックベリースタイルの
キーボードスマホ「Titan」

クラウドファンディングを使い新しいタイプのスマホをの開発資金を調達する例も増えているが、Unihertzが資金調達に成功した「Titan」は世界中のキーボードスマホ好きを狂喜乱舞させた。縦型ボディーの下半分をキーボードとするスタイルは一昔前のブラックベリーとよく似ている。現在販売されているブラックベリーは本体サイズが縦に長くなっており、昔とはだいぶイメージの違う製品になってしまった。その分使いやすくはなっているが、ポケットに気軽に入れるサイズではなくなってしまっている。

Titanは正方形のディスプレイの下にキーボードを備えており、キーボードの表面がタッチパネルになっているため、指先を滑らせることで画面スクロールやジェスチャー操作によるアプリの立ち上げなども可能だ。さらに本体はIP67の防水防塵に対応、本体も落下に強い形状になっており、タフネス仕上げになっているのだ。ラフに使っても壊れない安心感も備えている。さらに価格は初期オーダー分が199ドルと安く抑えられている。キーボードスマホそのものが珍しいのに、格安スマホ感覚で買えるのだから世界中の特定の層が一気に注目したのである。

UniherttzのTitan。ブラックベリーを思わせるデザインだ。

Unihertzは過去に超小型スマホ「Jelly Pro」や小型ながらタフ仕上げの「Atom」などを開発しており、大手メーカーがやらない製品を得意としている。それだけにこのTianも期待できる製品に仕上がると期待されたのだ。7月末から行われた資金調達では目標に対して700%以上もの投資を集めた。もちろん日本からの出資も多かったに違いない。ブラックベリーの先行きは悲観的な意見ばかりが聞かれるが、もしもブラックベリーが今後新製品を出してくれなくとも、Titanの売れ行きがよければUnihertzも後継機を出してくれるかもしれない、そんな期待も集めたのだ。

キーボードだけが特徴ではない。IP67の防水防塵に対応したタフなスマホなのだ。

ところがUnihertzはミスをやらかしてしまった。資金調達中にもかかわらずクラウドファンディングのWEBページで製品のスペックをこっそり書き換えてしまったのだ。クラウドファンディングは出資者が製品に納得したうえで出資を行う。メーカーが自社で開発中の製品スペックを、途中で仕様変更するのとはわけが違う。スペックが違うのであれば出資しなかったという出資者もいるはずだろう。

しかも仕様変更はTitanの最大の武器であるキーボードに行われたのだ。キーボード表面のタッチ操作は非対応となり、代わりに中央上部のホームボタンがタッチセンサーとなった。キーボード全体という大きい面積の上で指先を動かして操作できれば、ノートPCのトラックパッドのように細かい操作も可能になる。しかしホームボタンだけでは指先の微妙な動きは検知しにくく、細かい操作はできなくなったのだ。さらにはディスプレイも1400×1400ピクセルの正方形だったものが、1438×1430とわずかに解像度が下がり、しかも縦横のピクセル数も同じではなくなってしまった。どちらも部材の調達がうまくいかなかったのだろうが、出資中にこのような重要な仕様を無断で変更するのはルール違反と言えるではないだろうか。

ミニミニサイズでタフなスマホ「Atom」を出したUnihertzを信用する出資者も多かったはずだ。

このような状況にも拘わらず、クラウドファンディングでの資金調達に成功したのはキーボードスマートフォンを求めている「難民」と言えるユーザーが世界中にいるからだろう。Cosmo Communicatorがわずか1年で後継機種を出せたのも、根強いキーボードファンがいるからに違いない。スマホはフリック入力が楽という人がほとんどだろうが、PCの代わりに使いたい人にとってはキーボードのほうが入力しやすい。キーボードスマホを好きな人は、1機種でも市場に製品が出てくるようならばすぐに飛びついてしまうのだ。

キーボードスマホが出てくるだけで飛びついてしまうのがファン心理だ。

そういえばサムスンはここ3年ほどスマホの表面にカバースタイルで取り付けられるキーボードを純正アクセサリとして販売していた。しかしそれも去年後半のモデルから廃止されてしまった。キーボードはしっかり通しやすく片手間で作ったものではなかったが、キーボード需要そのものが期待するほど大きくなかったのかもしれない。またGalaxy S、Galaxy Noteというハイエンドスマホ向けのアクセサリだったため、キーボードを使いたくともスマホ本体が高すぎて手が届かなかったという消費者も多かったのかもしれない。Titanは定価でもXXXドルと4万円を切る価格で登場する予定なので、キーボードスマホを使いたいと思っている人も気軽に手を出せそうだ。

サムスンが出していたGalaxy用のキーボードカバー。

それでも「スマホにキーボード」をあきらめられない!

日本でも数年前にはシャープがキーボードスマホを出しており、キーボードの需要は一定数あった。そういえばまだiPhoneもAndroidも無い時代、ウィルコムから登場したW-ZERO3は日本に登場した本格的なスマホとして大きな人気を博した。その後後継機が何モデルもでたほどだった。だが近年になりスマホのディスプレイサイズが大きくなり動作も高速になると、フリック入力でも早い文字入力が可能となりキーボードの必要性は薄れていったのだ。

それでもスマホでキーボードを使いたい人は無くならない。サムスンのようにスマホに後からキーボードを付ける方法として、モトローラの合体スマホ「moto Z」シリーズ向けの外付けモジュール「Keyboard Mods」もクラウドファンディングで資金調達に成功したほどだ。しかしmoto Zの販売数そのものが少ないこともあってか最終的に販売はキャンセルされてしまった。消費者の熱意とは裏腹に、開発元としては一定数の売り上げが見込めなければビジネスにならないと判断したのだろう。

モトローラ用の合体型キーボード。デザインも優れている。

海外を見ればスマホではなくフィーチャーフォン、いわゆるケータイならばまだキーボードを搭載した製品も多い。SNSが使えるわけではなくSMS(ショートメッセージ)しか使わない低スペックなケータイなら、文字入力はキーボードから行ったほうが速いからだろう。またスマホとケータイの合いの子である「スーパーフィーチャーフォン」にもキーボード搭載モデルが存在する。このようにキーボードを搭載したモバイルデバイスそのものはまだ絶滅していないのである。

スーパーフィーチャーフォンと呼ばれるKaiOSをシステムに搭載した「Jio Phone 2」。

キーボードスマホを求める人たちが一番願っているのはブラックベリーの復活だ。ポケベルのようなページャーからスタートしたブラックベリーは、一時はメッセンジャー端末として世界中で多くの愛用者を集めた。ニューヨークやロンドンのビジネス街ではだれもがブラックベリーを使い、海外のトレンディードラマや映画でも小道具的に使われることもあった。そんな栄光の日を知っている人たちは、ブラックベリーからあっと驚くようなキーボードスマホが出てくることを今も願っているのだ。キーボードスマホのユーザーがゼロになることは永遠にない。ブラックベリーの奮起に期待したい。

キーボードファンの望みはブラックベリーの復活だ。

ちなみに筆者も重度のキーボードスマホファン、いや「マニア」である。Gemini PDAは電車で移動中などちょっとした空き時間に原稿を入力できる最強の仕事のパートナーとして使っている。これまでもキーボードスマホは何機種も買ってきたし、サムスンのキーボードカバーは全モデルを買ったほどだ。そんな筆者が今でも「史上最強」と感じたキーボードスマホがノキアの「E90」である。2007年登場のこのスマホを筆者はかなり長い期間使っていた。閉じても開いても使え、押しやすいキーボード、高級感あふれるボディー、もちろん日本語も使えたので仕事にSNSにと大活躍したのだ。筆者の墓石はこのE90の形にしてほしいと友人たちに伝えているほど、今でもE90を超えるキーボードスマホ、いやスマホは温材しないと思っている。最後にそのE90の写真を掲載してこの原稿を終わりにしよう。

筆者にとっていまでも史上最強と思えるスマホがノキアのE90だ。