欧州では普及目前! スマート家電がいよいよ普通になる

インターネットにつながって日常生活に様々な豊かさを実感させてくれる「スマート家電」は日本よりも欧米の方が進化していると言われてきた。特に欧州ではボッシュやシーメンスをはじめとするエレクトロニクス業界をリードするトップブランドが数年前からスマート家電に本格的に力を入れはじめて、今年は蒔いた種が大きな花を咲かせようとしていた。
大勢の来場者で賑わうボッシュのブース。ホームアプライアンス系メーカーのブースはジャーナリストとバイヤーのほか、一般のファミリー来場者も多く訪れる。 

スタンダードモデルにも広がるスマート家電のラインナップ

「IFA」は最先端のスマート家電が集まる見本市・展示会としても注目されている。筆者はインターネットにつながることで新たな価値をつくるスマート家電の、ヨーロッパにおける最新事情をIFAで取材してきた。日欧の間でスマート家電の今後の普及に向けた基礎体力の差がまた一段と開いてしまったことを目の当たりにして、焦りを感じずにはいられなかった。

「冷蔵庫や洗濯機がインターネットにつながったところで何が便利になるのだろうか? そもそも必要があるのか」という議論を、筆者もこれまで周りの人たちと幾度となく繰り返してきた。その議論の行く先はいつも「結局、試してみないとわからないよね」という方へ向かうことが多い。スマート家電もキャッシュレス決済や音楽・映画配信サービスのように、スマホにアプリを入れて「お試し」できる感覚で、例えば一般のコンシューマーも最初に借りて試してから、気に入れば月額固定料金を支払って長期レンタルできる仕組みがあれば良いと思う。

話題をIFAに戻そう。今年はスマート家電を展開するメーカーと商品の数がまた増えていた。大手のボッシュやシーメンス、ミーレといったドイツのコンシューマーに人気の高いブランドのブースに足を運び、スタッフにラインナップの概略を聞いてみると、各社ともにプレミアムクラスだけでなく、スタンダードクラスの製品まで“スマート化”がほぼ完了しているという答えが返ってきた。つまり、ヨーロッパではこれからコンシューマーが洗濯機や冷蔵庫を買い替えてみたらスマート家電だったということが普通になるはずだ。

シーメンスのレンジフード。こちらもWi-Fiでホームネットワークにつながるスマート家電だ。
ボッシュが発表した2019年のスマート家電の新製品。左の洗濯専用機で洗濯から乾燥までのプログラムを一括入力すると、自動的にコース設定を引き継いでくれる「Intelligent Dry」機能を搭載。洗濯から乾燥まで効率よく家事ができる。

ヨーロッパの家電ブランドは、スマート家電の良し悪しをコンシューマーに判断してもらうために、まず広い商品カテゴリや価格帯にまたがって家電をスマート化することに腐心してきた。筆者が記憶する限り、IFA2015の頃から会場にスマート家電のコンセプトモデルが立ち並ぶようになり、一昨年頃から各社のプレミアムモデルがスマート家電として商品化されるようになった。以降もスマート家電のラインナップを拡充する戦略を粘り強く推し進めてきた各社の道のりは平坦なものではなかったはずだ。今年のIFAでは一般来場者がスマート家電に関する説明を展示スタッフから熱心に聞く姿をそこかしこで見かけた。

5Gがスマート家電の普及をあと押しする

ヨーロッパではイギリスやドイツ、スイスにイタリアなどの国々で次世代高速通信の5Gに対応するサービスが始まりつつある。5Gネットワークがスマート家電の普及を押ししそうなムードも漂いはじめた。

ドイツの最大手通信事業者、T-モバイルもIFAに毎年出展する常連。今年のブースは5G一色に染まっていた。

ドイツではIFAの開催に合わせて通信事業社の最大手であるT-モバイルがベルリン・ミュンヘン・ケルン・ボン・ダルムシュタッドの5都市で、家庭向けの5G通信サービスを年末までに提供することを発表した。

9月からプレサービスをドイツの5つの都市で順次スタートさせる。5G時代の新しいエンターテインメントの形として高速動画ダウンロードやゲーム、VR/AR体験などを事例としてIFAで紹介してみせた。

5G通信サービスのメリットについては「高速・大容量」「低遅延」の方に関心の目が向きがちだが、実はスマート家電やセンサー系のIoTデバイスも含めて、身の回りにある様々な電子機器がインターネットに「多数同時接続」ができるようになることにも注目すべきだと筆者は考えている。今は家庭のWi-Fiルーターに接続する手間が掛かるスマート家電も、5Gの時代に通信キャパシティが拡大する恩恵を受けて、家電単体でネットワークにつなげられるようになり、面倒な設定を行わなくても「置いて電源を入れるだけ」で様々なスマート機能が使えるようになるかもしれない。

実はドイツのT-モバイルは昨年から既にスマート家電普及のための施策をスタートしている。同社は「Magenta(マゼンタ)」というネットワークサービスの新ブランドを立ち上げて、今年のIFAでもまた大々的にアピールしていた。Magentaにはスマートホーム向けのサービスもある。T-モバイルの回線契約と99ユーロ(約12,000円)で2個のドア開閉センサーとセットで販売されているスマートハブを購入すれば、毎月4.95ユーロ(約590円)の利用料金を支払えば、スマートホーム専用のインターネット回線を自宅に敷くことができる。さらに自社開発のAIアシスタント「Magenta」を搭載するスマートスピーカーも149ユーロ(約17,000円)で商品化している。

T-モバイルが独自に開発したAIアシスタント搭載スピーカー「Magenta」はシーメンスのスマート家電の音声コントロールなどに対応している。シーメンスのブースでデモを体験できた。

もうひとつの欧州の大手通信事業社であるボーダフォンは、昨年のIFAでサムスン電子とのパートナーシップによるスマートホームのパッケージ展開「V-HOME」を紹介していた。だが今年サムスンのブースに展示が見当たらなかったため、スタッフに聞いてみたところ、残念ながらパートナー展開が終了しているという説明だった。

ボーダフォンは昨年の秋からパナソニックと共同でLPWA(省電力広域ネットワーク)の技術を活用したスマート家電向けサービスの開発をヨーロッパでスタートさせている。このことと関係しているのかもしれない。そして来年のIFA2020にはボーダフォンとパナソニックによる具体的な取り組みの成果が発表されることを期待したい。

今年は残念ながらサムスンとボーダフォンによるスマート家電の共同プロモーションは終了していたが、スマート家電のラインナップは増えていた。だが詳しい説明を聞くと欧州ではまだ発売の予定もないものが含まれている。

スマート家電を便利に使える「サービス」も芽吹いている

ドイツをはじめとするヨーロッパの国々では、ユーザーが手頃な価格のスマート家電が選んで、快適なインターネットにつないで活用できる環境が整いつつある。一般コンシューマーにとって「スマート家電のインフラ」が整備されたら、次に関心の目が向くのは「サービス」だ。来年のIFAでは各社が熱心に「スマート家電向けのサービス提案」を提案してきそうだ。

今年のIFAでは大手各社による前哨戦がもう始まっていた。ボッシュとシーメンスが推進するスマート家電のプラットフォーム「Home Connect」のモバイルアプリは、年末までにユーザーインターフェースの大幅改善と、Kitchen Storiesなどコンテンツベンダーによる料理レシピの大量投入など強化を図る。会場にはプロトタイプによるデモンストレーションが紹介されていた。

ボッシュとシーメンスのスマート家電が対応するサービスが「Home Connect」。
モバイルアプリによるスマート家電の操作機能だけではなく、料理レシピの配信など年末からコンテンツ強化も図られる予定だ。
Home Connectに参画するハードウェアやソフトウェアのベンダーも年々拡大している。

ミーレは2020年の春までに、同社のキッチン向けスマート家電と連携する調理アシストサービス「Cook Assist」の機能をさらに強化する。現在もアマゾンのAIアシスタントであるAlexaとスマート家電の連携を整えているが、ブースではディスプレイ付スマートスピーカーの「Echo Show」シリーズの画面に選んだレシピの調理進行を表示しながら調理方法のガイドをしてもらえる機能が完成間近を迎えていた。ナビゲーションと連動してAIアシスタントがIHクッキングヒーターやオーブンのタイマーを自動でセットしてくれる。キッチンに立つユーザーの負担がリアルに軽減されそうだ。

ミーレのキッチン向けスマート家電と連携する調理アシストサービス「Cook Assist」のデモンストレーションも終始ひとだかりが絶えない注目度の高い展示だった。

高性能なプロセッサを持つスマートフォンと連携すれば、現在のスマート家電に高度なAIによるディープラーニング機能を取り込めることを照明したブランドもあった。2019年の1月から中国の大手家電メーカーのハイアールの傘下に加わったイタリアの家電メーカー、キャンディである。

同社のスマート洗濯機は、無造作に置かれている洗濯ものの写真を撮影して、専用アプリ「simply-Fi」に統合されているクラウド連携型の画像解析エンジンで解析をかけると、洗濯物の色や素材を瞬時に識別して自動で最適な洗濯・乾燥コースを設定してくれる機能を備えている。この機能が既に洗濯機のトップエンドからエントリーモデルにまで幅広く展開されている所に注目したい。そしてキャンディから発売されている12種類のスマート家電がsimply-Fiアプリによる統合管理・コントロールに対応しているというから驚きだ。

イタリアの家電メーカー、Candy(キャンディ)のスマート機能を搭載する洗濯機。独自の「Simply-Fi」アプリの完成度が秀逸だった。
スマホのカメラで洗濯物を撮影してSimply-Fiアプリのクラウドに送る。AIが洗濯物の種類(タオル、Tシャツなど)と素材や色を素速く自動で判別して、最適な洗濯コースを洗濯機にプログラミングしてくれる。

高性能なAIエンジンを載せた「アシスト家電」に活路あり

AI(人工知能)やディープラーニングによる学習・解析技術をスマート家電に積極的に取り込もうとする動きは数年前からIFAに出展する各社のブースで見つけることができた。今年はいよいよスマートフォンやクラウドの力を借りずに、スマート家電単体でこれを実現することを宣言したメーカーがあった。LGエレクトロニクスである。

同社は5Gスマホの開発で密接に連携するアメリカの半導体メーカー、クアルコムと組んでスマート家電専用の高性能なSoC(様々な機能をシステム化した統合ICチップ)の開発に乗り出した。

LGはスマート家電専用の高性能SoCをクアルコムと一緒に開発することを発表した。

本来、白物家電はPCやAV機器に比べると商品のライフサイクルが長く、ユーザーの買い替えペースも緩やかであるため、大規模な開発資源を投じてまで専用のICチップを開発して、これをビルトインするという判断には色んなリスクが伴う。そこでLGがIFAのカンファレンスで行った提案は、高性能なAIエンジンを載せた「アシスト家電」を後付けして、スマート家電のパフォーマンス向上を図るというものだった。

LGエレクトロニクスがプレス向けに開催したカンファレンスでは、日本でも発売されているスチームウォッシュ&ドライホームクリーニング機のLG Stylerに後付けできる「VISION PACK」というコンセプトがお披露目された。LG Stylerのキャビネットの中にこれを装着すると、VISION PACKが搭載する各種センサーが衣類の種類や色を読み取り、デバイスに内蔵されているAIエンジンが最適なクリーニング方法を瞬時に解析、LG Stylerのモードを自動設定してくれる。

LGエレクトロニクスがプレスカンファレンスで紹介した、家電をアシストするAI対応デバイスの「VISION PACK」。

スマート家電に求められる機能やライフスタイルのトレンドが今はまだ確定していないのであれば、将来の機能拡張性にも柔軟に対応できるモジュール構成にしておけばいい。高性能なSoCを内蔵するVISION PACKのようなアシスト家電を「後付け」するというアイデアは理にかなっていると思うし、メーカーにとって開発コストの負担を軽減できるメリットも生まれる。またクラウドに頼らないことによってユーザーのプライバシーがより安全に管理できるだろうし、インターネット接続にかかる通信の負担を軽減できる意味も大きい。

日本でも発売されているスチームウォッシュ&ドライホームクリーニング機のLG StylerにVISION PACKを後付けできる。
衣類の素材や色合いを自動判別してLG Stylerのコース選択をアシストしてくれる。

ヨーロッパと日本、どちらも現在の状況を表層だけ見ればスマート家電の周知はそれほど進んでいないと見ることもできるだろう。だが、多くの一般コンシューマーがそれを気軽に買って試せる環境が整ったことのアドバンテージは、今後大きな差として顕在化していくのではないだろうか。来年に世界の先進国で次々に5Gの商用サービスがスタートした後、魅力的なスマート家電によるライフスタイルを提案できる“勝者”は誰になるのか。日本国内の家電メーカーの奮闘を祈りたい。