ヨーロッパ人が考えた「遊べる&使える」スマートガジェット

9月にドイツ・ベルリンで開催されたエレクトロニクスのイベント「IFA」にはヨーロッパのベンチャー、スタートアップ企業が数多く集まるIFA NEXTという特別展示がある。筆者はここに出展される遊び心いっぱいの、そして実用性満点のスマートガジェットを取材できることが毎年とても楽しみなのだ。

今最も熱いエリア「IFA NEXT」は遊び心いっぱい

世界最大級のコンシューマーエレクトロニクスとホームアプライアンスの展示会・見本市「IFA」に、3年前の2017年に欧州を中心とした世界のスタートアップやベンチャー企業が集まる特設エリア「IFA NEXT」がオープンした。

エレクトロニクスショー「IFA」に3年前から加わったスタートアップの祭典「IFA NEXT」。

IFAには毎年、世界の名だたるエレクトロニクスのブランドがブースを出して、年末商戦の主力になる新しい製品やサービスを一堂に出展する。そのためIFA NEXTには世界のスタートアップやベンチャーが手がけたハードウェアも多く集まるのが特徴だ。

しかも、出展する各社が製品やサービスの試作品、またはモックアップ(模型)を展示するので、それらに触れながら、彼らが形にしようとしているアイデアを具体的に見て・触れることもできる。その評判を聞きつけて、近年は世界各国のトレードビジターもIFA NEXTに多く訪れて熱い商談を繰り広げているのだ。

欧州スタートアップがIFA NEXTに展示する製品の中には、遊び心に富んでいるものが数多くある。IFA2019に出展した欧州のスタートアップ、ベンチャーの個性豊かな展示をピックアップしながら、熱気あふれるIFA NEXTの模様を振り返ってみたいと思う。

まるで本物のドラムを叩いているようなシミュレーター

フランスのRedisonが開発した「Senstroke」は電子ドラムセットのシミュレーター。ドラムスティックや足の先に加速度センサーを搭載した小さなデバイスを装着して、スティックや足先を動かすと、デバイスの動きに合わせてペアリングしたスマホからシンバルやバスドラムの軽やかな音色が聞こえてくる。

ドラムスのスティックにセンサーを装着する。
アプリでドラムスセットの音色をセットアップする。

会場でデモンストレーションを体験させてもらったが、スティックや体の動きに対する音の遅延がほとんどなく、まるでホンモノのドラムセットを打ち鳴らしているような爽快な気分を味わった。

たたく場所はどこでも良いのだが、周囲の迷惑になったり、家具を傷つけないよう厚手のゴムパッドなどを用意するとよい。

同社のスタッフは楽器の練習用、またはエンターテインメントとして楽しむために本機を商品化したと語っていた。フランスでは楽器店やオンラインショップで220ユーロ(約26,000円)で販売されている。今年初めてIFA NEXTに出展したところ、日本を含む世界各国のトレードビジターから多くの引き合いがあったそうだ。筆者もこれが今年のIFA NEXTで見つけた展示の中で、最も日本に上陸してほしい製品のひとつだ。

映画や音楽を“振動”で楽しむウェアラブルベルト

IFA NEXTの会場で強烈なインパクトを放っていた製品がもうひとつある。ベルリンで2018年に起業したばかりという若いスタートアップの「Feelbelt」というウェアラブルデバイスのコンセプトモデルだ。

腰に装着しているアイテムがFeelbelt。Bluetoothでペアリングしたスマホで映画や音楽を再生するとベルトが激しくバイブする

こちらは見た目にもかなりサイバーでパンクなガジェットだ。何をするものかというと、本体をBluetooth経由でスマホにペアリングしてから音楽や映画を再生する、音に合わせてベルトが振動するという「体で音を感じるベルト」である。まずは体験してみないとその良さがわからないだろうと思い、筆者も腹部に試作機を巻き付けて試させてもらった。Spotifyでディープ・パープルの「Smoke on the Water」を再生してみたところ、冒頭の有名なギターのリフにFeelbeltが反応してビリビリを振動が体の芯を突いてくる。これは想像していた以上に刺激的だ。

パンクなデザインのベルト。重さもそれなりにあった。

でも、さすがにこの激しい振動を体に注入しながら、映画を1本終わりまで見続けるのはつらそうだ。同社のスタッフへ率直に感想を伝えたところ、このFeelbeltをエンターテインメント用途にだけでなく、例えば聴覚支援やヘルスケアの分野にも応用できそうな道筋が、IFA NEXTに出展したことがきっかけで見えてきたと嬉しそうに語っていた。まわりの評価を踏まえて、またブラッシュアップした後にどんな形で商品化されるのか楽しみだ。

スマートの定義は欧州の食文化とも密接につながっている

IFAがホームアプライアンスの展示会でもあることから、IFA NEXTにも欧州の台所に縁のあるスタートアップのユニークなアイテムが並んでいる。

イタリアのトスカーナ州は上質なワインの産地としても世界に広く知られている。そのトスカーナに生まれたスタートアップのnexmaが開発した「Albicchiere」は、いつもワインをベストなコンディションに保ちながら、グラスに1杯単位でサーブできるスマート・ワイン・ディスペンサーだ。

イタリアのスタートアップが開発した、ワインの質を劣化させることなく、長く一杯ずつ楽しめるディスペンサー「Albicchiere」。

本体は冷却素子にペルチェを使ったワインクーラーになっている。専用の紙パックで提供されるワインの銘柄をスマホアプリを経由してディスペンサーに読み込ませると、タンク内の残量にも合わせながらワインをベストコンディションにキープしてくれる。

ワインの種類に合わせて最適な管理温度などをクラウドのデータベースで調べて簡単に設定できる。

筆者もワインは嫌いではないのでもう少し日頃から飲み比べもしてみたいのだが、アルコールに弱いのでボトルを1本空けて一晩の間に飲み干せない。だから滅多にワインを買えずにいる。Albicchiereのようなスマートな家電があればワインの魅力をより深く知ることができそうだ。

個人の自給自足を即すスマートガーデニングキット

フランスのVeritable Potagerが開発した「Veritable」は、家庭でミニ野菜やハーブを簡単に育てられるコンパクトなガーデニングキット。自分が必要なぶんだけ食料を自給自足しようというコンセプトから生まれたという。欧州で再びブームが巻き起こるエコロジーをメインテーマに掲げたスマートデバイスだ。

フランスのスタートアップが開発した水耕栽培キット「Veritable」。

ミニ野菜やハーブの種は、肥料も一体になった状態でココナツ殻の繊維から作られたという専用カートリッジになった状態で販売されている。このカートリッジを本体にセットして、底面のタンクに水を貯めておく。あとは植物の生育を促すLEDライトを照射するだけで、1カ月ほどで収穫が楽しめる。専用アプリからはLEDライトをコントロールしたり、植物の収穫期の確認もできる。

種を植えたカートリッジは肥料と一体になっている。まるごと交換すれば様々な植物が育てられる。

収穫できる食品は微量だし、趣味の家庭菜園の領域を抜けていないと、本機のアイデアを笑い飛ばすこともできるだろう。だが、一方でこのまま世界の人口が増え続ければ、やがて肉やコーヒーなどの嗜好品から食料の入手が難しくなる時代はすぐそこまで来ているとも言われている。今から一人ひとりの食生活を見直そうというメッセージがこのVeritableの開発者の真意なのだとすれば、エレクトロニクスのチカラで社会の意識を変えていくことができる、とても意義深い挑戦だと思う。

心を穏やかに整えるメディテーション(瞑想)用スマートグラス

ベルギーのLucimedはスマートグラス「Luminette(リュミネット)」を展示していた。スマートグラスといえば情報ディスプレイとしての用途を想定しがちだが、こちらは「光」を浴びて心を整えることを目的とした「メディテーション=瞑想」のためのガジェットだ。

メディテーションのためのスマートグラス「Luminette」

毎日、20〜45分間装着して光を浴びて過ごせば、効果は4・5日後から表れる。期待できる効果としては睡眠サイクルや不眠症の改善、飛行機の旅による時差ボケ解消、そして夏場以外の日照時間が短い北欧州に暮らす人々の共通の悩みである「冬の季節性うつ」を防ぐことだという。筆者も会場で試させてもらった。光を直視するわけではないので、寝る前に本を読みながら、体操をしながらでも心地よく使えそう。メガネの上からでも違和感なくかけられるのもいい。スマホアプリから使用履歴と期待できる効果のレクチャーなどの情報も確認できる。

寝る前などに光を浴びて心のコンディションを整える。
めがねの上にも装着できるので実用性が高い。

本機は同社のお膝元であるベルギーで医療機関にも安全性を認められている。2016年に最初のモデルを発売してから改良を重ねて、既に3世代目になる製品だ。欧米では生活のストレスを貯めずに、心を健康に保つためのマインドフルネス瞑想がとても注目されており、その波は日本にも少しずつ押し寄せている。筆者も本機を体験してみて、少ない時間でもクオリティの高い睡眠を確保して健康になれそうな期待がわいた。価格は199ユーロ(約23,000円)で販売されている。日本にもぜひ入ってきてほしい。

最後にIFA NEXTの会場でひときわ異彩を放っていた製品を紹介しよう。イタリアのスタートアップ、VITESYが開発した「Natede(ナテイデ)」だ。外観はただの植木鉢と観葉植物のように見えるが、実は人が日常生活のほぼ9割を過ごすといわれている室内環境の空気を磨くために開発された空気清浄機だ。価格は495ユーロ(約58,000円)。ヨーロッパでは11月から量産販売が始まる予定。

イタリアのスタートアップが開発した植木鉢のようなデザインの空気清浄機「Natede」。

欧州は世界の中でも空気がきれいな地域という印象もあるが、個人の生活者のあいだでも人の健康や環境に悪影響をもたらす大気中の微粒子、アレルギー物質を空気清浄機を活用して除去することへの一般的な関心は高まっている。Natedeは「生活空間に溶け込むデザインを意識した製品」であると同社のスタッフが語っている通り、ファンやボタンの類いが目立たないルックスが興味深い。植えられているのは本物の観葉植物のサンセベリアだ。

空気を吸い込むファンは本体上部の植物が植えられている側に搭載されていて、ボトム側のスリットから排気する。筐体内部には光触媒フィルターが搭載されていて、空気中のバクテリアやアレルギー物質、微小粒子状物質のPM2.5を除去する。同社のスタッフによると「1台で最大36平米の部屋の空気を約3時間でキレイにしてくれる」そうだ。

リサイクルプラスチック製の鉢を開くと中から水をためるタンクと、交換可能な光触媒フィルターが顔をのぞかせる。

鉢の正面側にはハンドジェスチャーに反応するセンサーが内蔵されていて、手をかざすと電源のオン・オフが切り替わる。専用のスマホアプリ「IAQ」をBluetoothでペアリングして使うと、ファンの吸引力を4段階からスイッチしたり、部屋の空気のコンディションをグラフにして可視化もできる。Wi-Fi機能も内蔵されているので、近くホームネットワーク内にあるスマートスピーカーから音声で操作することもできるようになりそうだ。

アプリから部屋の空気のクオリティをチェックしたり、本体の運転モードの切り替えなど操作ができる。

プロダクトデザインについてはミニマリズムを徹底的に追求したものから、Natedeのようにユースケースを真剣に考えつつも、どこか遊び心が垣間見える突飛なものまでひっくるめて、多様であることに寛容なところがヨーロピアンテイストの神髄と言えるのではないだろうか。

今回取材したIFA NEXTの出展者たちは「ハードウェアを作って売る」という、スタートアップやベンチャー企業にとって最大の難関に立ち向かっている。でもその表情に疲れの跡はなく、むしろ目を輝かせながらモノヅクリに前のめりになっている姿勢には好感が持てた。欧州にはスタートアップの支援に力を入れている国や地方の行政機関がある。メッセ・ベルリンの関係者に訊ねると、今年のIFA NEXTも展示エリアに対する申し込み数が早々とオーバーブッキングになってしまったため、早々に応募を締め切らざるを得なかったのだという。ますます勢いづく欧州のスタートアップ、ベンチャーの活躍を来年のIFA NEXTが開催されるまでの間も可能な限り注目していきたいと思う。