変態的腕時計世界=ビザールウォッチVol.9 MB&F + L’Epée 1839/オクトポッド

 ●What’s ビザールウォッチ? 

針も読めなければ、現在時刻もわからない奇妙すぎる時計たち。変態的腕時計=ビザールウォッチ。腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという“ 奇妙な時計”が生まれている。それこそが「ビザールウォッチ」。誰もが忙しく暮らすスマートフォン時代に現れた、時間を豊かに楽しむための“ 最高の贅沢品”である。
機械式時計は、メカニズムが複雑であるほど時計の価値が高まり、価格にも直結する。しかし複雑な時計機構に遊び心を加えると、ビザール度がぐっと高まってくる。高級時計を知りすぎた人がたどり着く末路へようこそ!

<今月の時計>
Vol.9

MB&F + L’Epée 1839
オクトポッド

遊星からの物体X

現代のクロック(置時計)は、実家の片隅の置いてあった家具調のモノやベッドサイドの目覚まし時計、あるいは大企業の応接間にあるタイプなど要するに古臭くて、別段食指をそそる時計ではないというイメージだろう。だがそのイメージは、今回の時計で完全に打ち砕かれるに違いない。


MB&F + L’Epée 1839
オクトポッド

いま最も自由なのはクロックである!

太陽の動きや水の流れを利用して時間を計測し、時計が機械仕掛けになったのは13世紀のヨーロッパとされる。主な用途は教会のミサの時間を周囲の住民に知らせるためであり、教会に時計塔を作って、鐘(クロッシュ)を鳴らしていた。このクロッシュという言葉が転じて、時計のことをクロックと呼ぶようになったらしい。

クロックのメカニズムは、錘が重力に引っ張られて下に降りようする力を動力源として歯車を回転させ、均等に揺れる振り子を使って、その回転速度を制御していた。このメカニズムが徐々に小型化され、懐中時計や腕時計へと進化をしていった。つまり置時計は、現代の腕時計にとっては“祖父”のような存在なのだ。では、いかにも退屈そうに聞こえる“祖父の時計”がどうしてビザールなのか? それは時計業界屈指のヤバい技巧派がコラボレーションをしているからだ。

メカニズム部分を透明のガラスプレートで支えているため、まるで宙に浮遊しているような姿に。大きな分針の上に、精密なメカニズムが乗っている。

時計業界の有名人の無茶をクロックメーカーが受け止める

見るからに普通じゃないクロック「オクトボッド」は、2005年に創業した新進気鋭の時計ブランド「MB&F」がコンセプトを作った。創業者のマキシミリアン・ブッサーは、高級宝飾時計ブランドで辣腕をふるったあとに独立した時計業界の超有名人。3次元ケースの複雑機構を軸とした時計は、他の追随を許さぬ独自性がある。

彼らの創造力は腕時計だけにとどまらず、クロックを含めた精密なオブジェでも発揮された。2013年にはオルゴールメーカーと組んで宇宙船型のオルゴールを製作し、その後もロボット型やロケット型の置時計を製作。その美し過ぎる造形美で、マニアックな時計愛好家たちから称賛されている。

8本の脚はそれぞれに動くので、様々なポーズをとらせることが可能。球体の頭が傾いても、ジンバルのおかげでメカニズムは理想的な角度を保つ。

MB&Fがタッグを組んでいるのが1839年に創業した「レペ」だ。オルゴール(実はスイスの時計職人が発祥なんだそう)や時計パーツの製造から始まり、現在はスイス唯一の高級クロックメーカーである同社が、MB&Fの奔放な創造力を受け止め、美しいクロックへと作り上げるのだ。

タコだけに8本脚で8日間駆動のこだわり!?

「オクトボッド」のテーマは、もちろん“タコ”。球体の頭の中に時計機構が入っており、その頭を支える8本の脚は、自由に稼働するため斜めになった場所でも設置可能になっている。この時計はデザインだけが魅力ではない。斜めに置いても表示がきれいに見える角度を保つように、メカニズムをジンバルという回転台に乗せて角度を一定に保っている。

しかも巨大な分針の上に脱進機&テンプという重要パーツが乗っており、ここが60分で一周することで重力の影響をキャンセルする仕組みになっている。そのため、どんなポーズをとらせても時計の精度が安定するという、極めて秀逸なメカニズムを採用。しかもゼンマイの連続駆動時間は、タコの脚の数に合わせて8日間にしているのも面白い。

現在の時計業界は腕時計が主流であり、懐中時計はマニアのためのモノ。そして置時計は、どちらかといえばインテリアアイテムとして扱われている。しかしMB&F×レペという、超個性派コラボレーションによって、クロックでも精密なメカニズムを楽しみ、美しいデザインも堪能できるようになった。しかもこの圧倒的なビジュアルならリビングや書斎の主役にもなれる逸材であり、現代アートにも似た不思議な存在感と魅力がある。このクロックは、“時計を超えた価値”を持ったビザールクロックなのである。

例えばリビングに置いてみると、その普通じゃない存在感とインパクトに驚かされる。しかしながら、時計文化を継承する優れた時計でもあるのだ。

MB&F + L’Epée 1839
オクトポッド
手巻き、SS×ニッケル×パラジウムメッキを施した真鍮、長さ28cm x 高さ28cm(立った状態)、長さ45cm x 高さ22cm(かがんだ状態)。価格:5,550,000円。問ムラキ(レペ) ☎03-3273-0321
https://www.muraki-ltd.co.jp/watch/clock/lepee/

篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★3
メカニズム★★★★4
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★4