時計を手にするきっかけなんて、いろいろあっていいじゃない! カルチャーな腕時計たち Vol.7 レッドブル・エアレースと腕時計

去る2019年9月7日〜8日、千葉市の幕張海浜公園で行われた大会を最後に、惜しまれつつもその歴史に幕を下ろした「レッドブル・エアレース」。それは、世界屈指の飛行技術を持つレースパイロットがレース専用機を操りながらタイムを競う、まさに“空のF1”。そして、このモータースポーツには、時計ブランドが深く関わり、チームや選手はもちろん、レースをもサポートし続けていた事実をご存知だろうか?

レースタイミングとハミルトン

レッドブル・エアレース最後の決勝ラウンドは、開催地である日本のファンにとって予想だにしない幕開けとなった。緒戦となるラウンド・オブ・14は、前日の予選で5位となった室屋義秀選手と予選10位のベン・マーフィー選手との対戦からスタート。過去、母国のレースで二度の優勝を果たしている室屋選手だけに、当日集まった約6万人の観客は、誰もが室屋選手の勝利を確信していたはずだ。しかし──。

結果は0.015秒差で、室屋選手がまさかの敗北。決勝ラウンド開始からわずか5分。会場はかつてないほどの重苦しい空気に包まれた。

レッドブル・エアレースは、空気で膨らませた高さ25mのエアゲート(パイロン)をすり抜けながらレーストラックを2周する競技(今回は全長約4km)。機体がエアゲートと接触してはいけないことはもちろん、水平ゲート(2本のパイロン)の間(約14m)を通過する際の高度や角度が設定され、さらには12G以上の負荷をかけると失格など、極めて厳格なルールが設けられている。

こうした厳しい条件のなかで、14名のパイロットたちはわずか1/1000秒を競い合う。そして、この公式タイムキーパーを2017年から務めていたのがハミルトンだ。

機体がパイロンと接触すると+3秒のペナルティが与えられたり、12Gを超える負荷をかけると失格となってしまうなど、レッドブル・エアレースにはいくつもの厳格なルールが存在する。パイロットの安全を確保するためであり、また、これによってゲームがよりエキサイティングなものにもなるのだ。

ハミルトンと航空界とのつながりは1918年にまでさかのぼる。ハミルトンの時計は精度が高かったためパイロットたちから絶大な信頼を得ており、この評価によってハミルトンはアメリカの定期航空郵便サービスで採用されることになる。1930年代には、TWAやイースタン、ユナイテッド、ノースウエストといった主要航空会社の公式時計となり、その後はアメリカ初の大陸横断便就航の計時用時計に選ばれるという輝かしい実績を残した。

現在も、アメリカの第40哨戒飛行隊をはじめ、スペインのパルトーラ・アスパ、オランダのアパッチやF-16デモチームがハミルトンの時計を採用するなど、航空界との強固なつながりを持ち続けている。ハミルトンがレッドブル・エアレースの公式タイムキーパーを務めたことは必然とも言えるのだ。

ハミルトンは2017年よりレッドブル・エアレースの公式タイムキーパーを務め、1/1000秒が勝負の明暗を分ける戦いにおける重要な役割を担っている。

レッドブル・エアレース・パイロットと時計ブランド

一方で、ハミルトンは2005年よりブランドのアンバサダーを務めるレッドブル・エアレース・パイロット、ニコラス・イワノフ選手のチームをスポンサードしている。イワノフ選手は、キャリアを通してエアロバティックの総飛行時間が6000時間を超えるベテランであり、レッドブル・エアレースのマスタークラスでは2番目に長いキャリアを持つパイロットだ。

世界屈指のエアレース・パイロットと、アビエーション(航空)を柱に掲げる時計ブランドとのパートナーシップ──。それは、実に自然な結びつきであり、両者にとって理想の形と言えるものだ。

ハミルトンがスポンサードするのは、マスタークラスのなかでも2番目に長いキャリアを誇るフランス人パイロット、ニコラス・イワノフ選手。2004年より出場し、通算5回のレース優勝を果たしている。

ハミルトン
カーキ パイロット パイオニア メカ
10万5600円

1973年から1976年にかけて英国王立空軍に支給され、当時のパイロットたちの間で人気を誇ったミリタリーウォッチ。その復刻モデルとなる「カーキ パイロット パイオニア メカ」はオリジナルのデザインを忠実に再現しつつ、最新の手巻きムーブメントを搭載することで約80時間の持続時間をマーク。手巻き、ステンレススチールケース、ケースサイズW33×H36mm。

ハミルトン
カーキ X-ウィンド オート クロノ
28万4900円

横風による行程への影響を、パイロットが正確に計算できる偏流修正角計算機能を搭載。プロフェッショナル仕様のモデルらしいテクニカルな表情を携えながらも、ブラックでまとめられたデザインによって精悍かつスタイリッシュな雰囲気を放っている。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径45mm。

もっとも、こうしたスポンサードを行なっているブランドはハミルトンだけではない。アルピナも2017年よりマイケル・グーリアン選手の公式パートナーを務め、3シーズンにわたってチーム グーリアンをサポートした。

アルピナは1883年に創業したスイスの時計ブランド。創業者のゴッドリーブ・ハウザーは「スポーツマンや技術者、冒険家にとって理想的な時計を作る」ことを目指し、1938年にスポーツウォッチ「アルピナ4」を完成させる。それは登山家やダイバーはもちろんのこと、パイロットからも高い支持を獲得した伝説的なタイムピースだったという。さらにアルピナは、さかのぼること1921年に軍のパイロットや軍用機に時間計測器を提供し、以来、航空機産業との密接な連携を持ち続けてきた歴史を持つ。つまり、グーリアン選手とパートナーシップを結ぶことは、これまた自然な流れだったのだ。

アルピナがパートナーシップを結ぶのは、アメリカ海軍ブルーエンジェルスの名誉メンバーでもある、マイケル・グーリアン選手。2018年は2レースで優勝し、年間総合3位に輝いた。

アルピナ
スタータイマー パイロット ヘリテージ オートマチック GMT
15万5000円

1970年に発売されたパイロット・ウォッチの復刻版で、クッション型のケースをはじめ、バーインデックスやデイト表示、さらに写真のモデルでは当時のカラーをも忠実に再現。オリジナルではアラーム機能が搭載されていたが、今回の復刻に際しては新たにGMT機能を付与するなど、現代的なアップデートが図られている。自動巻き、ステンレススチールケース、ケースサイズ42×40mm。

アルピナ
スタータイマー パイロット オートマチック
10万4000円

光の反射を抑えるマットな質感のダイアルに、時刻の判読性を高める大きなインデックスと時分針といった、パイロット・ウォッチに求められる条件を満たした、シンプルで実用的なモデル。マットなダークグレーのダイアルとチタンカラーPVDを施したケースの組み合わせがスタイリッシュな雰囲気。グーリアン選手の機体に描かれているモデルがこれだ。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径44mm。

室屋義秀とブライトリング

航空クロノグラフのオリジネーターとして知られるブライトリングは、とりわけレッドブル・エアレースと深い関わりを持ち続けてきたブランドだ。かつて大会の公式タイムキーパーを務めていただけではなく、2005年にはイギリス人パイロット、ナイジェル・ラムを擁するブライトリング・レーシングチームを結成し、以後9シーズンに参戦するなど、ワールドチャンピオンシップを盛り上げてきた。

ブライトリングがエアレースに関わるようになった背景には、やはり航空界との強いつながりがある。1936年、ブライトリングは英国空軍のためにフライト・クロノグラフを製造。これを契機として、各国の航空会社や航空機メーカーと公式なフライト・ウォッチのサプライヤー契約を結んでいく。そして1952年には航空用回転計算尺をベゼルに搭載した史上初のクロノグラフ「ナビタイマー」を生み出し、航空用クロノグラフメーカーとしての地位を決定的なものにするのだ。

時は経ち、1995年、ブライトリングは兵庫県の但馬空港でエアロバティックの国際大会「ブライトリング・ワールドカップ」を開催する。そしてこの時、同大会を観戦して衝撃を受け、エアロバティックのパイロットを本格的に目指したひとりの男性がいる。それが、後にアジア人初のレッドブル・エアレース・パイロットとして世界中を沸かせることになる室屋義秀選手だ。

アジア人初のレッドブル・エアレース・パイロットで、ブライトリングがスポンサードする室屋義秀選手。2016年に千葉大会で初優勝を果たし、2017年には年間総合優勝にも輝いた。次世代を担う人材育成プログラム「空ラボ」も運営する。

ブライトリング
クロノマット JSP ローマン インデックス リミテッド
99万円

1984年登場のクロノマットから2004年発表のクロノマット エボリューションまで採用されていた、ライダータブ付きのサテン仕上げベゼル搭載の日本向けスペシャルモデル。さらにこのモデルではローマンインデックスが採用され、スポーティールックのなかにもエレガントな雰囲気が漂う独創のデザインに。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径44mm。

ブライトリング
アベンジャー II GMT ブルー マザー オブ パール
51万7000円

高い強度と機能性を誇るアビエーション・シリーズ「アベンジャー」。その卓越した基本性能に加え、ダイアルにブルーのマザー オブ パールを採用したジャパン・スペシャル。第2時間帯はダイアルの24時間目盛りと赤いGMT針で表示し、さらに両方向回転ベゼルの目盛りを用いることで第3時間帯の読み取りも可能にした。自動巻き、ステンレススチールケース、ケース径43mm。

ブライトリングによる室屋選手のスポンサードは、レッドブル・エアレースの休止期間であった2013年にスタート。その後、2014年にワールドチャンピオンシップが再開されると室屋選手はメキメキと順位を上げ、2016年の千葉大会では初優勝、翌2017年は千葉大会での優勝に加え、年間総合優勝にも輝いた。それだけに、2019年千葉大会のラウンド・オブ・14で室屋選手が敗れたことはあまりにも衝撃的だったのだ。

しかし、ここで奇跡が起こる──。ラウンド・オブ・8は、ラウンド・オブ・14で勝利した7人と、ファステスト・ルーザー(敗れた選手のなかでもっとも好タイムを記録したひとり)の計8名で戦うのだが、優勝の最有力候補となる選手が敗れたことなどが重なり、室屋選手は次のステージに駒を進めることになったのだ。ラウンド・オブ・8、ファイナル4で室屋選手は圧倒的な力を見せつけ、結果、レッドブル・エアレースのフィナーレを飾る千葉大会で見事、優勝に輝いた。

ハミルトン、アルピナ、そしてブライトリングは、選手やチーム、そして大会をもサポートしてきた。しかし時計ブランドが果たした役割はそれだけではない。多くの時計ファンをエアレースの世界に引き込み、またアビエーションやエアレースのファンに時計の魅力を伝えることにも寄与した。それも、エアレースが他のモータースポーツにはない刺激を持っているからにほかならない。レッドブル・エアレースはこれで最後となったが、いつの日か国際的なエアレースの大会が新たに始まることを、今は願うばかりだ。

ファステスト・ルーザーで奇跡的な復活を果たし、その後は圧倒的な強さで千葉大会で優勝。年間ランキングは2位となったが、総合優勝を果たしたマット・ホール選手とはわずか1ポイント差。日本のファンにとっては実に感動的なフィナーレとなった。

問ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン●03-6254-7371 https://www.hamiltonwatch.com/ja-jp/
問フレデリック・コンスタント相談室●0570-03-1988 https://alpinawatches.com/jp/
問ブライトリング・ジャパン●03-3436-0011 https://www.breitling.co.jp