THE CUTLERY - 毎日の食事をもっと快適に

一日に一度は使うであろう、スプーンやフォーク、ナイフといったカトラリー。正直、どれも一緒で違うのは見た目だけと思っていたが、THEカトラリーを使ってその考えを改めさせられた。機能とデザインを追求した、これぞカトラリーのニュースタンダードだ。


「持ち手」と「先端」にこだわった
ニュースタンダード

THE CUTLERY / THE BOOK
THE CAKE FORK 価格:2200円/THE BUTTER KNIFE 価格:3300円/THE TEA SPOON 価格:2200円/THE DINNER FORK 価格:2750円/THE DINNER KNIFE 価格:3850円/THE DINNER SPOON 価格:2750円/THE SOUP SPOON 価格:2750円

より長く、より快適に使えることを考え抜いて作られたカトラリー。板状が多い持ち手を楕円形状にすることで、食事中の回転運動をスムーズに補助。それぞれの先端は、すくう、刺さる、切れるの機能に特化したデザインだ。写真のミラー加工のほか、マット加工もあり。

スプーンとフォークの持ち手は、現代のカトラリーでは珍しい楕円形状。新潟県燕市にある老舗金属加工会社の技術力だからこそ成せる技。

 

フォークの先端はラウンドしており、なおかつ中央2本が段差になった緻密な構造。これにより、刺したものが落ちにくく、小さなものもすくいやすい。

 

丸みがあるのに、肉の脂身もよく切れる刃先。職人が一番難儀したポイントだとか。

 

カップの底に残ったスープでもすくいやすいスプーンは、先端のみを薄く伸ばした形状で口当たりもよい。

THE FACTORY REPORT
歴史を紐解いてたどり着いた
語れるカトラリー

THEカトラリーの製造を行っているのは、新潟県燕市で創業76年を迎える金属加工会社・大泉物産。デンマーク王室御用達のカトラリー「カイ・ボイスン」も手掛ける名工であるが、今回のカトラリーには“普通”とは違う、数々の難題に頭を悩ませたようだ。

「THEから頂いたデザインを具現化するために、クリアしなければならない難題は山積みでした。伝統技法と工業技術を融合して、なんとか形になったので今はホッとしていますが、ここまで語れるカトラリーは見たことがありませんね」

世界に羽ばたく金属加工の街として有名な新潟県燕市で1943年に彫金として創業。現在は著名ブランドのカトラリーや建築パーツの製造メーカーである大泉物産の4代目社長・大泉一高さんは笑いながらそう語る。

スプーン、フォーク、ナイフはすでに様々なものが存在している。そんな中で、カトラリーの新たなスタンダードを定義するために、THEは数多くのカトラリーを使い倒したそうだ。そこで気付いたのが、食事中は回転方向の動きが多いということ。現在のカトラリーはステンレス素材が中心なので、持ち手はプレスで仕上げた板状のものが多い。しかし、カトラリーの歴史をたどると銀食器から始まっており、当時の職人たちは工芸技法を用いて楕円形状のものも多く作っていたそうだ。実際、楕円形状の持ち手だと、パスタを食べる時のフォークはもちろん、スプーンを傾けて使う時も使いやすく、接触面が指に程よく残る形状となっている。しかし……。

金属の板から地抜きしたナイフの原型を、ロールという作業で薄く伸ばしていく。首が曲がったり、割れたりしないように、少しずつ隙間を薄くして仕上げていくので熟練の職人技が必要とされる。

 

一番左がTHEディナーフォークの地抜き。右に進むにつれて工程が進んだ状態で、持ち手部分が楕円状になって、首が薄く広がっていることがわかる。

 

ステンレスの板からカトラリーの原型を打ち抜くための地抜き型。

 

左が地抜きした状態で、右が楕円形状に吸い込みした状態。

 

吸い込みするために作られた金型。最近はワイヤーやレーザーで金型を作ることができるため、無駄なく効率的にサンプルを作ることができるようになったという。

 

「この楕円形状というのが難題でした。銀は柔らかいから加工もしやすいのですが、これをステンレスでやるとなると工程が増えます。今回は吸い込みという鍛冶加工技術を応用して、金型を新しく作って解決できましたが、ここに至るまでの道のりは本当に大変でした。普通、ステンレスではやりませんよ」

経済効率を優先すれば、プレス加工のみで仕上げる板状のカトラリーが増えるのは当たり前だ。だが、THEが考えるスタンダードは本当に使いやすく、長く使えるもの。そのこだわりは、持ち手だけにとどまらず、ナイフ、フォーク、スプーン、それぞれの先端部分にも詰まっている。

「ナイフは別の意味ですごく大変でした。一般的なナイフは刃の部分が薄くなっていて切れ味を保っています。しかし、THEのナイフは丸みがあるデザインで、なおかつ切れ味を求められました。矛盾していますよね(笑)。この難題をクリアするため、刃付けには焼入れを行いました。包丁では普通の工程ですが、カトラリーでやるのは初めてでした」

結果、THEが追求した佇まいの美しさを保ちながら、ナイフの先端部分は肉の脂身もスーッと切れるほどの切れ味を手に入れた。相反するオーダーを、なんとか叶えたのだ。

「フォークも、普通は刃がまっすぐになっているのですが、THEのフォークはラウンドしていて、かつ中央の2本に段差があるんです。通常の加工だとラウンドにしようとすると刃が中央に寄ってしまいます。そこで、一度刃先を逆方向に曲げて、その後に正方向に曲げるプレスを行っています」

これにより、パスタが絡みやすくなるのはもちろん、刺した肉が抜け落ちることもなく、サラダのコーンもすくいやすくなっている。フォークを使っているときにありがちな、ちょっとしたイラッが見事に解消されたというワケだ。

「スプーンはすくいやすさを追求して、先端の方が薄く作られています。均一な厚さにするのは簡単なのですが、先端だけを薄くするために工程を増やしています。また、ステンレスは加工をしすぎると加工硬化を起こしてしまって次の工程に進めなくなります。ですので、一度1000度くらいの温度に入れて元の柔らかさに戻す“なまし”という工程を入れているところも、THEカトラリーの大変なところですね」

近代工業化の波が押し寄せる以前、カトラリーの製造は工芸としての鍛冶仕事が主だった。工業化が可能にした板状での製造は低コストで合理的だが、THEが求めた持ち手の形状や全体の重心バランス、それぞれの先端部の加工は、従来の製造方法では実現できないことばかりだった。それを旧来の工芸技法と近代の工業技術を組み合わせることで解決できたのは、大泉物産の技術力の賜物だろう。

一見するだけではわからないが、知れば知るほどTHEカトラリーには技術の粋が詰まっている。開発の途中、数々の難題の連続で社内からも「引き受けないほうがよいのではないか……」という消極的な意見があったそうだ。しかし、「ものづくりが好きですし、難しいことにも挑戦していかないと、ということで今回やらせていただきました」と大泉さん。

経済的合理性よりも原点回帰。カトラリー本来の使いやすさと佇まいを追求したTHEカトラリーは、毎日の食卓をより快適にしてくれることは間違いない。一度買うとなかなか買い替えないカトラリーであるが、ここまで機能とデザインにこだわり抜いたものはまさに一生もの。ちょっと奮発してでも、家族分を揃えたくなってしまうのは筆者だけではないだろう。

 

  • 大泉物産の4代目社長・大泉一高さん。初代は戦中に地元の燕市で彫金を創業し、その後ゼロ戦の部品作りからスタート。戦後、燕は外貨獲得のための特区に任命され、そこから洋食器製造が栄えたという。

 

最終的な仕上げの工程は、社内の職人たちが手作業で研磨を行う。

 

燕にしかないという、歴史を感じるプレス機。2つのペダルを足で操作することで、プレスの微妙な力加減を調整できるという。

 

刃先を逆方向にプレスされたTHEディナーフォーク。この工程を挟むことで、THEのこだわりが実現された。

 

研磨するためのバフは種類も形も様々。磨くカトラリーに合わせて、職人がひとつひとつバフを手作りする。

 

手で触って傷やバリがないかを最終確認。カトラリーは口の中に入れるものなので、触手・目視の確認は欠かせない。

 

フォーク先端の金型をメンテナンスする熟練の職人。