【レポート】世界中のものづくりが集まる香港展示会と深センで世界の今を知る!

毎年10月中旬に香港では様々なエレクトリックショーが開催される。今回はその中で代表的な2つの展示会を訪れ、世界の『ものづくり』の現場を家電ライター、ベンチャー経営者、ジャーナリスト、ネットウオッチャー、漫画家の異業種混在パーティでリサーチしてきた。
今回のパーティメンバー、右から本誌でも活躍中のモータージャーナリスト川端由美氏、ネットウォッチャーで炎上対策・リスク分析アドバイザーとして知られるおおつねまさふみ氏、家電ライターの著者コヤマタカヒロ、モバイルバッテリー「cheero」などをプロデュースする株式会社トーモの東智美氏、漫画家のたきりょうこ氏。中央はInsta360のRhea Liaoさん。

デザイン性が飛躍的に向上した
香港・深センのクリエイティブ

家電やデジタルデバイスの展示会は米ラスベガスで開催されているCESを始めとして、様々なものがある。年始に開催されるCESがこれからの未来のトレンドや可能性を見せてくれるのに対して、香港で開催される展示会はより現実的だ。出展しているのは中国深センなどに居を構える工場やOEM・ODMメーカーの数々。そのため今深センの工場がどういった製品を作ろうとしているのか、リアルなものづくりの現場が見えるというわけだ。

香港へのフライトはスタートアップの定番香港エクスプレスの深夜1時便。1日で深セン往復できる便だ。

10月某日、台風一過を経てようやく飛び始めた飛行機に乗って、早朝の香港国際空港にたどり着いた。 最初に行くのは空港の隣駅にある展示会場AsiaWorld-Expoで開催される、「Global Sources Consumer Electronics」だ。香港展示会マスターである、シフトールの岩佐琢磨氏の先導で広いブースを効率よく見ていく。

空港横の展示会ではオーディオやEV関係、デジタルガジェットが勢ぞろいしていた。

空港横の展示会は比較的、家電よりもデジタルガジェットの出展が多い。プレス登録後、最初に向かったのはMaaS(Mobility as a Service)関連のエリアだ。ここで一気に増えていたのが、電動キックボードだ。それ以前は電動自転車やEVバイク(国によって線引きが異なるため混在)が多かったのだが、今年の主役は完全に電動キックボードだった。

今年の主役の一つは電動キックボード。デザインや搭載部品などの違いによって様々なモデルが並べられていた。

すでにアメリカの一部やドイツなどでサービスが始まっていることもあり、期待値の高さが見て取れた。日本人だと伝えると、ミラーやウィンカーなど、日本で必要な保安部品の話がすぐに出てくるなど、各国への対応も進んでいるようだ。

オーディオエリアで面白かったのはAirPodsモドキを展示するメーカーが多数あったこと。これは後日移動した深センの電気街でも数多く見られた。そんな中でも骨伝導イヤホンや、ノイズキャンセル対応の完全ワイヤレスイヤホンなど、ワンランク上の機能を搭載する気になる製品もいくつも見つけられた。

スタイリッシュなワイヤレス骨伝導イヤホン。サンプル価格は5000円程度とのこと。

ガジェット周りで多かったのはUSB Type-Cに対応したモバイルバッテリーやマルチACアダプターなど。60Wや100Wの高出力に対応した製品や小型を売りにした製品が数多く見られた。これから半年ぐらいの期間で日本市場にも出回りそうだ。

USB Type C に対応した出力アダプターも数多く見られたアイテムの1つ。来年には100W出力が当たり前になっていそうだ。

欧州でデザインを学んだ中国人
洗練されたデザインを手掛ける

2日目は場所を変更。香港島にあるHong Kong Convention & Exhibition Centreで開催されている「HONG KONG ELECTRONICS FAIR」を訪れた。ここも何度も来ている岩佐琢磨氏の先導で広い展示会場を見ていく。こちらは前日の展示会と比べると白物家電も多く、さらにスイッチやケーブルなどパーツレベルで展示されている「electronicAsia 2019」も同時に開催されている。

香港島の湾仔(ワンチャイ)にあるHKCEC(香港会議展覧中心)が香港展示会の本番。

今年、2つの展示会を見て感じたのがデザイン性の向上だ。昨年訪れたときは少なくともデザインの良さで目を引く製品やブースはそう多くなかった。香港の展示会は、あくまでOEM、ODM向けの工場の出展が多いため、デザインは二の次の印象だったのだ。

中国市場で非常に人気の高い空気清浄機のデザイン性の高いモデルが多く並んでいた。

しかし、イヤホン、ヘッドホンなどのデジタルガジェットや空気清浄機などの白物家電のデザイン性は飛躍的に向上していた。中にはそのまま、日本の量販店でそれなりのブランドのアイテムとして売っていても違和感がないレベルの製品も多かった。一緒に展示会を回ったジャーナリストの川端由美氏によると、すでに欧州でデザインを学んだ中国人スタッフが洗練されたデザインを手掛ける、というケースが増えているそうだ。

個人的に気になったアイテムの1つ「スマート杖」 。GPSなどが内蔵されており、居場所もわかるようになっている。

さらに岩佐氏によると一昨年からスタートしたスタートアップブースの規模が大きくなり、今年は「これならお金を出して出展してもいいかもと思えるレベル」(岩佐氏)になったという。今後は、製造や量産だけでなく製品を生み出す企業を育てる部分にも注目が集まりそうだ。

スイッチメーカーの展示。「electronicAsia 2019」にはこのような部品メーカーがたくさん出ている。

香港・深センでのものづくりにある、安かろう悪かろうのイメージはすでに昔のものになりつつあることがはっきりと感じられた。

潜入! ダンボーバッテリーで
大人気のcheeroのバッテリー工場!

香港の展示会を終えて、一行は翌日からの工場視察のために深センを目指すことに。ホテルで荷物を拾ってMRTに乗り、国境の駅、ラオ湖を目指す。香港から深センまでの所要時間はイミグレーションの混み方などにもよるが約1時間。慣れればスムーズだ。香港でのデモの影響も懸念していたが、問題なく深センに入ることができた。深センのホテルで一泊した後、早速、深センの工場取材に向かう。

工場見学するためにタクシーで移動。場所や会社名は明かせない

最初に向かうのは、ダンボーバッテリーなどを手がけるcheeroのモバイルバッテリー工場だ。伺ったのは深セン郊外の住宅地の一角。残念ながら工場の会社名や場所がわかるような情報は出せない。信頼できる工場の情報はトップシークレットなのだ。

工場は雑居ビルの中にあり、オフィス機能のフロアと工場のフロアで分かれていた。さらに違うフロアには別の衣類工場などがあり、ビル全体に複数の工場が入っているようだ。この工場では、cheeroの製品だけでなく、欧米のメーカーからの発注を受け、バッテリー関連の製品を手がけているという。

2本の製造ラインに工員が座り流れてくる部品を加工していく。

工場には2本のラインがあり、その両サイドに10人ほどの工員が並んで作業を行っていた。その時作っていたのは、日本だけでなく中国市場でも人気だという「にゃんぼー」バッテリー。回路にコードがはんだ付けされ、バッテリーモジュールと接続していく。

奥に流れていく度に新たな部品が取り付けられ、最終的にケースに入れて固定される。一人一人の作業は省力化されており、次々にモバイルバッテリーが組み立てていくのがわかる。組み立て工程では、複数のUSB端子に実際にコネクタを差して入出力のテストも実施されていた。

バッテリーモジュールにケーブルを半田付けする工程では、ハンダの煙が吸い取られるようになっていた。

さらにcheeroは工場内に専用部屋を確保。そこに3人の専従スタッフを配置し、工場の検査とは別に、モバイルバッテリーの全品検査を行っている。こうすることで出荷前にエラーや動作不良などのトラブルを見つけられるという。

工場スタッフにcheeroについて聞くと、「欧米メーカーは担当者が香港の展示会の時期にちょっと立ち寄ることがある程度だが、cheeroは何かあると社長自ら乗り込んできてトラブルが解決するまで帰らない。その姿勢に刺激を受けている。へんなものは作れない」と語る。

cheeroスタッフによる検査部屋。全品検査を行うことで信頼性を担保している。

cheeroのモバイルバッテリーは、工場スタッフだけでなく、cheeroの専門スタッフによる複数回によるチェックと、エージング処理を経て、日本に輸出され、量販店やオンラインストアで販売されるというわけだ。

深センの北にあるドンガン市
グループセンスのODM工場を見学

深セン2日目も工場見学だ。訪れたのは深センの北、ドンガン市にあるグループセンスの工場だ。グループセンスは80年代に電子辞書を開発・製造し、香港および中国市場で大ヒットを巻き起こしたメーカー。90年代以降は日本市場向けの電子辞書やEメール端末などの企画・開発・製造を数多く手がけるなど、ODMメーカーとしての姿も持っている。

ドンガン市にあるグループセンスの工場。同社は香港系のため、オフィスなど経営部門は香港にあるそう。

グループセンスの役員でもあり、日本向けのODMビジネスを統括する、グループセンス・ジャパンの代表取締役でもある大谷氏には過去に取材させて頂いたことがあり、香港でディナーの約束をしていたのだ。そこで、大谷氏に急遽「明後日、工場を見せてくれませんか?」とお願いしたのだ。

グループセンスの代表的な製品である電子辞書。当時はカテゴリー名になるほどの人気商品だった。

快くお引き受けいただき、朝から工場を訪れた。グループセンスの工場は非常に大きい。工場の敷地は約6.6万m2。そこに複数の工場棟と工員たちが住む寮が建っており、数百人の工員たちが寝泊まりし、働いている。まさにものづくり深センの工場だ。

グループセンスにはODMメーカーとしての製造受託部門とタッチパネルなどのデバイス製造部門があり、工場敷地内でそれぞれ組み立てや製造が行われている。見学に訪れたとき、製造受託部門は製造のピークを終え、日本に製品を梱包出荷する準備をしていた。

電子基板の自動製造ライン。この日は大量生産が終わった直後のため、半分しか稼働していなかった。

配送用のパレットの上に数十台の製品が段ボールに入れて積み上げられ、それが梱包用ビニールで巻き上げられていく。訪問したのは10月中旬だったが、これから輸出手続きを経て、日本のクリスマス商戦に向けて船便で日本に向かうという。

続いてタッチパネルディスプレイの製造工場。ここはクリーンルームになっており、中に入っての見学はできなかった。廊下から窓越しではあるが、液晶パネルにタッチセンサーを貼り付けるためのラインをわずかに見ることができた。ここで製造されたタッチパネルが、大手メーカーのタブレット端末や絵を描くための液晶タブレットとして採用されているそうだ。

デバイス事業部で製造している様々なタッチパネル。見慣れたメーカー名も数多く並んでいた。

今回、グループセンスの工場を訪れたのにはもう1つの目的があった。それが「工員さんが食べている社食を食べてみたい!」ということだ。深センやドンガンの工場では、優秀な工員を確保するために、予算内でできる限り美味しい社食を用意しているという。実際に、社食の美味しさやボリュームなど、福利厚生の良さで工員が他の工場に流れてしまうことがあるという。このため、社食には気を配っているのだ。

そこで「工場のそばにある美味しい店に」というお誘いを断り、グループセンス工場の食堂にお邪魔した。ここでは工員、技術者や専門職の社員、そして幹部社員の食堂に分かれている。通常、取引先が社内で食べる場合は幹部食堂に行くらしいのだが、今回はあえて全部! に行くことにした。

工場棟ごとに時間を分けているという工員用の食堂。階段まで行列ができていた。

数百人の工員の胃袋を満たす食堂は非常に広い。メニューは日替わりで3品。青菜炒め、トマトと卵の炒め物、野菜炒め、そしてご飯とスープだ。ご飯とスープは盛り放題なのでお腹いっぱい食べることができる。肝心の味だがおかずは驚くほど!ではないもののおいしかった。特に卵とトマトの炒めは非常に好みの味だった。

取材した日のメニュー。炒め物は見た目よりあっさりしていて、野菜も多く美味しい。南の方なのでごはんは固め。

続いて移動して社員の食堂を覗いてみる。工員用食堂と同じ建物の別フロアにあり、メニューもほぼ同じだ。ただ、ちょっと豪華なおかずが一品増えていた。工員でもライン長など偉い立場になるとここで食事できるようになるという。

そして最後に幹部の食堂。ここはビュッフェスタイルとなっており、メニューも完全に異なっていた。エビや大きなスペアリブなどもありまるでホテルのようだった。これが毎日食べられたら、仕事にも精が出そうだ。工場の食堂からも中国のものづくりパワーの源が垣間見えた。

幹部食堂のランチ。ビュッフェには骨付き肉や魚のすり身、エビなどがあり、すごく豪華な内容だった。

第二のDJIと注目を集める
insta360の創業者JK氏に聞く

深セン取材旅の最後は工場見学ではなく、深センを代表するハードウェアメーカーに取材することができた。 Shenzhen Arashi Vision(シンセン・アラシ・ビジョン)は360度カメラ『Insta360』シリーズやウェアラブルカメラ『Insta360 Go』を手がける新進気鋭のスタートアップだ。すでに360度カメラでは世界シェアNo.1、アクションカムでも世界シェアNo.2に位置している。創業者のひとりJK Liu氏は南京大学を卒業後、南京で起業したあと、深センに移転し、数多くの製品を生み出してきた。そんなJK Liu氏にいまの深センについて伺った。

Insta360(Shenzhen Arashi Vision)創業者のJK Liu氏。ソニーのような企業になりたいと語る。

「今でも深センは世界の工場といっていいと思っていますが、今はバージョン2.0になった。中国にはいまでも膨大な労働力があり、コスト優位性があります。さらに近年は労働力の質も上がっているように思う。今後、発展しすぎると日本やアメリカのように労働力が高騰し、利益が確保できなくなるかもしれませんが、深センは国からの支援が非常に強い。そこに優位性があると考えています」(JK氏)

深センではテック系企業への税制面での支援が厚く、一般企業の税率は25%だがテック企業は15%と安い。実際、Shenzhen Arashi Visionには今年、1.6億円の補助が国から得られ、研究開発に投資できているという。さらに優秀な地方人材は、深センに来ると深センの戸籍が得られるといった人的なサポートも用意されている。このため、深センには東京都と変わらない、1000万人以上の人口がいるのに、平均年齢は20代と若いのだ。これが大きなパワーを生み出している。

元々JK氏は日本のTVドラマが好きで映像製作に興味があったという。しかし、映画やドラマを撮るにはプロのカメラマンと編集のスキルが必要となる。それを専門家に依存することなく誰でもできるようにしたいというのがカメラ事業を始めたきっかけだ。

「一般のユーザーがどうしたら良い作品がつくれるか考えたときに、360度カメラにいきつきました。すべての空間、360度撮れば撮り漏れはありません。これからは撮ったあとに自由に編集できます。さらに編集もAI技術を投入することによって、一般ユーザーで良い作品を作れるようになると考えています」(JK氏)

実際に最新のウェアラブルカメラ『Insta360 Go』では前方180度を正方形で撮影したあと、16:9の映像を書き出す仕組みになっている。さらにAIによる自動編集機能もすでに搭載している。

超小型のウェアラブルカメラ『Insta360 Go』。カメラ向きを気にせずに装着できる自由さも新しい。

深センを代表するメーカーを率いるJK Liu氏は現在29歳。オフィスにも2、30代のスタッフが所狭しと机を並べて、製品開発を行っていた。量産拠点だった深センがだんだんと、開発拠点になり、世界的なメーカーが生まれていく。今まさにその時期なのかもしれない。

オフィスの一画。高層ビルの2フロア借りていて、そこに300人を超えるスタッフが勤務。設計や開発を行っていた。

たった1年でどんどん変化する
深センのパワーに圧倒される

 深センを訪れたのは1年ぶりだった。たった1年でも様々な場面で変化を感じられる、そんなスピード感を体感できた。上記3件の取材以外の時間は深センの秋葉原といわれる電気街、華強北(ファーチャンペイ)や、シャオミやファーウェイの旗艦店が軒を連ねるテックエリアの南山地区などを訪れた。

どんどん変わっていく電気街の華強北(ファーチャンペイ)。今年は街を挙げて5Gをアピールしていた。

華強北はどんどんキレイになってはいるが、圧倒的な数の電気店、パーツ店が建ち並び、深センのエコシステムを下支えしていた。逆に南山地区は六本木ヒルズや、ミッドタウンのような洗練された町並み。深センの生活レベルが東京並みに向上していることが体感できた。また、街のあちこちで工事が行われており、急速な発展はまだまだ続くことが見て取れた。

スタイリッシュな南山地区にあるシャオミの旗艦店。中国市場で最も注目されているメーカーの1つだ。

人件費の高騰や香港のデモなど、ネガティブなニュースが多い、香港と深セン。まだまだエネルギッシュで右肩上がりの成長が見られそうだ。