車いすが福祉の枠を超える日に向けて。株式会社RDSが発表したボーダレス社会へつながる3つの取り組み

埼玉県に本社を置くRDSは医療・福祉機器の開発にとりわけ力を注いでいる。そこで生み出された3つのプロジェクトは、車いすの障害者や高齢者向けという概念を大きく変えていく可能性を秘めている。その取り組みをご紹介したい。

「ひと目みただけでかっこいい」という価値

近年、ボッチャや車いすラグビーといったパラスポーツが注目を集めているとはいえ、車いすと聞くとどこか「足の不自由な人のための道具」だとか「自分たちには縁遠いもの」と感じがちではないだろうか。実際、使用するのは障害者や高齢者。どうしても医療や福祉といった堅いイメージが先行してしまう。

しかし、日本では2025年に65歳以上の人口が30%を超える。日常の中で車いすを目にする機会はこれからどんどん増えていくことは間違えない。

そうした未来を見据え、RDS代表取締役社長である杉原行里氏は

「そんな時代が来るころには、車いすのことをモビリティと呼んでいるかもしれません」

と語る。

RDS代表取締役社長の杉原行里氏

RDSは3Dスキャニング、構造解析などに加え、カーボン成形をはじめとする高い加工技術でものづくりを行う企業だ。その優れた技術力でこれまでも世界最軽量の「ドライカーボン松葉杖」や最高時速50kmを発揮する電動車いす「WF-01」などの独自性の高いプロダクトを生み出してきた。そのいずれも挑戦的な性能や機能を持つだけでなく、“かっこいい”や“かわいい”といった素直な感性を大切にするデザインが貫かれており、一般的な医療・福祉機器メーカーとは一線を画すアプローチを続けている。

バックランプやカーボンのカウリングなど、まるでスポーツカーのような電動車いす「WF-01」

そんなRDSが新たに発表した3つのプロジェクトは車いすの見方を変えるものになるかもしれない。

車いす陸上の競技人口を健常者にまで広げたい

その一つが車いすレーサー「WF01TR」の開発だ。パラリンピック北京大会で金メダル、ロンドン大会で銀メダルを獲得した伊藤智也選手を開発ドライバーに迎え、その“走り”を分析することで最適なマシンを設計した。開発は困難を極め、エンジニアと選手との間で意見が合うことのほうが少なかったという。

その障害となったのが、伊藤選手の感覚とデータとの間の齟齬。RDSは改善の裏付けとなるデータを取るために、マシンの動きや走行フォームを3Dスキャナーやモーションキャプチャーなどの機器を使って計測して数値化していったが、必ずしもそれが伊藤選手の感覚や経験とマッチするものではなかったのだ。

実際、完成したWF01TRで試走した際ですら伊藤選手は驚きを感じたという。

「全力を出してヒーヒー言っているわけでもないのに、タイムはどんどん良くなる。とにかく軽く車輪を動かすことができてつかれない。最初はその感覚との違いに違和感を感じてしまったほどです」(伊藤選手)

車いす陸上アスリートの伊藤智也選手。2012年に引退したが2017年から復帰に向けて開発ドライバーとなった

目下の目標は2020のパラリンピックで伊藤選手が金メダルを獲得することだというが、杉原氏はその先をすでに見つめている。

「伊藤選手の活躍が刺激となって、もっと車いす陸上の競技人口が増えてほしい。いつかは健常者にも使ってもらえるようにしたいです」(杉原氏)

あらゆるシーティングポジションを最適化

車いすレーサーの開発の中で、一番の気づきとなったのが「シーティングポジション」の重要性だった。ほんの数cm変わるだけでも伊藤選手が発揮するパフォーマンスが異なったのだ。

座る位置によって人間の引き出せる力が変わる。その気づきをきっかけに生まれたのが、千葉⼯業⼤学未来ロボット技術研究センター(fuRo)と共同開発したシーティングポジションシミュレーター「SS01」だ。背もたれや座面、ホイールのチャンバー角などが可変していき、あらゆる着座姿勢に対応しているだけでなく、車輪のスピードなどを計測するセンサー、ホイール負荷の動的制御を駆使することで、リアルタイムなデータ取得ができる。

その恩恵は、車いすレーサーに限らない。一般的な車いすはもちろんのこと、自動車のシートやオフィスチェアなど、“座る”ものであれば、どんなものでも個別の使用者の用途や大家に最適なシーティングポジションを見つける助けになるのだ。データの取得が用意になれば、こうしたプロダクトのカスタムオーダーが一気に大衆化する可能性がある。

クールなVRレーサーが“自分ごと化”を助ける

自分とは縁遠いものを身近なものとして捉えるためには、なにがしかのきっかけが必要だ。その効果的なもののひとつは“楽しさ”に訴えかけることだろう。

 

互いの車いすレーサーでラップタイムを競うVR通信対戦ゲーム「CYBER WHEEL X」はまさにエンターテイメントの力によって車いすを“自分ごと化”するツールだ。映画「TRON」のようなLEDのラインが目を引く車いす型筐体のカッコよさも目を引くが、プレイしてみるとゲームのつくりこみに驚く。

競技に使われるコースは近未来化されているものの、実際の新宿・渋谷・東京駅・お台場などの町並みが忠実に再現されているのだ。街並みはいうまでもなく、道路の勾配やちょっとした段差にさしかかれば、ホイールの負荷が変わり、あたかも本物の道路を走っているかのように錯覚してしまう。視覚だけのVRでは難しい臨場感と言える。見慣れた景色の中をかなりのスピードで駆け抜ける爽快感もたまらない。

現在は車いす陸上だけだが、今後はウィルチェアーラグビーや車いすバスケなどへの転用も可能だという。全国のゲームセンターに普及するころには、車いす競技が多くの人にとって“やるスポーツ”になっていそうだ。

車いすが万人のものになる日に向けたRDSの新プロジェクト。今後の展開から目が離せない。