ベルリンで電動キックボード「LIME-S」を体験! 日本でブレイクする可能性は?

ガソリンを必要とせず、環境に優しいモビリティとして注目される電動キックボードを使ったシェアリングサービスが欧米で注目されている。筆者も今年の秋にパリとベルリンで「LIME-S」が展開するサービスを体験してきた。日本の都市でも同様のサービスが普及する可能性はあるのだろうか?

通信できるスマホがあれば観光客も利用できる

今年の9月にドイツ・ベルリンに2週間ほど取材のため滞在した時に、筆者が仕事を忘れてハマりそうになったサービスがある。乗り捨てスタイルの電動キックボード「LIME-S」のモビリティシェアリングだ。

LIME-Sは米カリフォルニアに拠点を置くスタートアップによる、電動キックボードを利用した都市型モビリティシェアリングサービスだ。筆者が滞在したベルリンのほかにもヨーロッパの多くの都市に同社のサービスが広がっている。筆者は毎年9月にベルリンを取材のため訪れているが、昨年に比べて今年はLIME-Sをはじめとする電動キックボードや自転車のシェアリングサービスが一気に広がった印象を受けた。

パリ市内で利用者が増えている電動キックボード「LIME-S」のサービスを体験してきた。

LIME-Sというサービスが最も特徴的なところは、ネットワークに接続できるスマホさえ持っていれば、旅行者も含めて誰でも手軽に利用できることだ。これまでに筆者はLIME-Sをパリとベルリンでしか利用したことがないが、どちらの街でも運転免許やヘルメットも不要(着用は推奨されている)で電動キックボードが利用できる。LIME-Sの電動キックボードが出せる最高速度は時速24km前後と、だいたい自転車で飛ばした時のスピードぐらいだ。

自転車で慣れない街を旅する気分も爽快だが、自力でこがなくても良い乗り物でパリやベルリンの街を滑走する快感は味わうとやみつきになる。今年の滞在中にUberが展開する乗り捨てスタイルの電動自転車を使ったシェアリングサービス「JUMP」も試してみた。移動手段であるという点ではLIME-Sと変わらないし、自転車にはカゴも付いているからより実用的ではあるのだが、感動はLIME-Sよりも薄かった。やはり“こぐ労力”がオールドスタイルに感じられてしまったのかもしれない。

ベルリン市内で撮影。中央の赤い電動自転車がJUMPのシェアサイクリング。利用者は電動キックボードに比べて少なめだった。

公共交通に比べて利用料金は妥当?

電動キックボードの乗り方についてはもう世界の各所で体験した方々のレポートが検索するとすぐに見つかるので、そちらを参照して欲しい。使い方を要約すると、街に乗り捨ててある電動キックボードは誰でも自由に乗れる。近くにあるLIME-Sのキックボードはスマホアプリを使うとマップ上でトラッキングできる。フリーのキックボードを見つけたら、スマホのカメラとアプリを使って車体に貼られているQRコードをスキャン、解錠する。レンタル料金は解錠する際に、そして後は利用時間に乗じて課金される仕組みだ。

キックボードのQRコードをアプリのカメラで読み取ると解錠される。解錠に1ユーロが必要。

例えばベルリン市内でLIME-Sを2.1km/9分間、利用した際にかかった料金は2.80ユーロ(約330円)だった。ベルリン市内の中心部(A/B区間内)は鉄道・バスのシングルライドチケットがどこまで言っても2.80ユーロ/回である。LIME-Sの場合はたった2.1km=地下鉄2駅ぶんぐらいの利用で同じ料金がかかる計算だ。

ベルリン市内のアレクサンダー広場からジャンダルメンマルクト広場までLIME-Sを約2.1km乗って2.80ユーロだった。
天気が良かったのでバスや鉄道を使うよりもかなり早く目的地に到着できた。

ちょうど電車やバスが通っていないルートを目的地に向かってまっしぐらに進めたので、筆者にとっては300円は妥当なコストとして感じられたのだが、冷静に考えればLIME-Sを利用する頻度が高くなるほど、ベルリン周遊券のような公共交通のチケットを買った方が割安だし、雨の日も使えるのでベターだと思う。

ヨーロッパでは「My・電動キックボード」もブレイク中

実際にLIME-Sをどんな人が利用しているのか、よくよく観察してみると筆者のようにその街にとってはビジターである観光客ばかりだ。パリに長く住む友人に「ライムってどうよ?」と訊ねると、「あんな高いもの、地元の人は誰も乗らない」のだそうだ。だからといって市民は電動キックボードに関心がないわけでは全くない。よりパワフルな「My・電動キックボード」を所有して、スクーターぐらいのスピードを出してビュンビュンと街中を飛ばしている。

ちなみの私の友人の愛車はシャオミの電動スクーターだ。馬力があってコスパも良いそうだ。シャオミと言えば、日本では現在スマート家電を販売中で、これからスマホも上陸すると言われている中国の大手エレクトロニクスブランドだが、欧州ではいま電動キックボードも若者に注目されている。そのシャオミやセグウェイをはじめ先行する人気ブランドを追って、現在アウディやフォルクスワーゲン、BMWなどトラディショナルな自動車メーカーも電動キックボード市場に参入するタイミングを見計らっている。

IFA2019の会場にマセラッティが電動キックボードや電動自転車を出展していた。

観光客としてLIME-Sがとても魅力的に感じられるのは、面倒な手続きが要らないことの他に、基本的には乗り捨てができるサービスであるところだ。だが、当然ながらその街に暮らす人々にとってマナーの悪い乗り捨て利用は迷惑行為になる。有名な観光スポットの周辺には乗り捨てられた電動キックボードがあふれかえることも多い。ベルリンではシェアリングモビリティのために専用のスタンドやパーキングエリアが設けられていたので、ある程度秩序を保ったオペレーションが出来ていたように見えたが、それでも道ばたに転がっているかわいそうなキックボードも時折見かけた。

パリ市内の大手百貨店の玄関に乗り捨てられたLIME-S。パリ市内ではやはりLIME-Sの上陸後からずっとユーザーの利用マナーが問題になっているという。

電動キックボードは充電やメンテナンスが必要な乗り物だ。LIME-Sの場合は「Lime Juicer」という、電動キックボードのメンテナンスに当たる有志によるコミュニティがある。Juicerたちがバッテリーの切れかけているパックをチャージしたり、タスクをこなすと報酬が支払われる仕組みなっているようだ。

ただしサービスの利用者や台数が増えてくると、どうしても管理が行き届かなくなる場合も出てくるし、有志によるサポートのみだとメンテナンスの品質にも山谷が出てくる。フリーのキックボードを見つけたら、解錠する前にバッテリーの残量やアクセルペダル、タイヤなど本体の破損がないことをしっかりと確認することをおすすめしたい。

電動キックボードのシェアリングサービスが日本に上陸する可能性は?

電動キックボードによるモビリティシェアリングのサービスが今後日本に上陸する可能性はあるのだろうか。現在日本の法律では電動キックボードは「原動機付き自転車」、つまり“原付バイク”に該当してしまうため、もし公道で走行ができたとしても電動キックボードにナンバープレートや前照灯、番号灯、方向指示器等の装備を付けて、さらにライダーはヘルメットの着用が義務づけられる。だったら自転車でいいやと思ってしまう。アメリカやヨーロッパの街中のように電動キックボードを自由に乗り回せるようにするためにはまず道路交通法の整備が求められる。

現在福岡市に拠点を置く日本のスタートアップ、mobby rideはナンバープレート等を付けない手軽な移動手段として電動キックボードに着目して、これを利用するシェアリングサービスの実現に向けた取り組みを進めている。10月下旬には九州大学と共に、九州大学伊都キャンパス内で電動キックボードによるサービスの実証実験を行っている。また“世界最速の男”として知られる陸上選手のウサイン・ボルト氏が電動キックボードのビジネス「BOLT Mobility」を引っ下げて来日し、日本でローンチすることを高らかに宣言したことも報じられたばかりだ。

日本のスタートアップ、mobby rideは九州を中心に電動キックボードによるシェアリングサービスの実証実験を精力的に行っている。

筆者は東京在住である。今後東京都内にもLIME-Sのような電動キックボードを使ったモビリティシェアリングサービスが誕生する可能性と、その際に想定される課題についてもイメージしてみた。

やはりベルリンやパリと同じように乗り捨てスタイルのサービスとして普及させることを前提とするのであれば、その管理を誰が徹底して行うのか、厳しいルールを取り決めておく必要があるだろう。筆者が学生だった頃に比べて、現在はようやく駅付近に放置されている自転車が減って、街がきれいになった実感がわいてきた。ここに電動キックボードが割って入るスペースはもうないように思う。

そもそも都内は鉄道・バスなどの交通手段が既に発達しているし、運行時間は正確で欧州のようにストライキで長期間運行が止まるようなこともほぼ考えられない。ただ、一方では現在公共交通がカバーし切れていないエリアもある。もし生活者の足として、日本の大都市に電動キックボードによるシェアリングサービスを普及させるのであれば、現在セブン・イレブンが展開する自転車によるシェアリングサービスのように、乗り捨てできるステーションを明確に定めた上での運用が現実的ではないかと思う。

法律・道路の整備が先決

まずはカーシェアリングサービスを展開する事業者が新しいアイテムに電動キックボードを追加して展開する方法が考えられるだろう。日本の都市部にはドリンクの自動販売機があきれるほどに遍在している。これほどまでに自動販売機を普及させた仕組みを応用して、電動キックボードに関連する法整備が済んだ後に、モビリティシェアリングのサービス事業者と清涼飲料のメーカーがタッグを組むという手もないだろうか。

あるいは法律が整った後に、まずは電動キックボードの個人利用から推進していくアプローチもありそうだ。でもこの場合もやはり電動キックボードを安全に活用するためのルール作りには手を抜けない。電動キックボードはかなりのスピードが出せるうえ、自転車ほどには小回りが効かない乗り物だ。自転車と同じ感覚で歩道を走ることは認められるべきではないと筆者は思う。

パリ市内は自転車専用通行帯が急速に拡大中。LIME-Sを快調に飛ばすライダーも多く見かける。

特に都心部は自転車専用通行帯の整備も併せて行う必要があるだろう。ヨーロッパではLIME-Sのようなモビリティシェアリングを単純に便利だからというわけではなく、世界全体で取り組むべき課題である二酸化炭素排出量を減らすための有効な手段の一つとして注目しているということを忘れてはならない。今年の夏にパリを訪問した際に、市内の至る所で道路工事が行われていた。友人に聞くと、これは自動車が走るための幅を減らしてでも、自転車やキックボードを優先して走らせるための専用通行帯を拡張しているのだという。クルマという便利な交通手段を犠牲にしてでも、エコな社会を実現しようとするパリの強い意志を感じた次第だ。

東京都心部の自転車専用通行帯。車道にかなり接近している危険な場所が多かったり、路駐している自動車もいるため、実際には自転車を歩道に乗り上げながら進むしかない場合がほとんどだ。

地球上で人類が活動できるスペースにはきっと限界がある。新たな利便性を手に入れるためには何かしらのトレードオフが必ず伴うということを肝に銘じながら、電動キックボードという乗り物の可能性に今後も注目したいと思う。