家ごと旅する新しいライフスタイル MOBILE HOUSE
モバイルハウスとは!?
移動できる
小さな家に住むという
ライフスタイル
トラックの荷台などに小さな家を乗せたものがモバイルハウス。その名の通り、家ごと持ち運ぶように移動しながら暮らす生活スタイルだ。持ち物を最小限に抑えるタイニーハウスなどの考え方にも通じる。とはいえ、住居を持たないという人はまだまだ少数派で、移動可能な部屋を1つ持っておくという感覚の人が多い。部屋ごと持ち運ぶことで宿泊場所に縛られず、旅の自由度が飛躍的に高まる。
基本は自作!
費用はキャンピングカーの
半分以下
キャンピングカーとは異なり、モバイルハウスは自作するのが基本。キャンピングカーを購入すると安いものでも300万円程度の出費になるが、自作するのであれば材料費は数十万円程度に抑えられる。また、室内のレイアウトや内外装などを自分好みに仕立てられるのもメリット。自分だけの落ち着く空間を自らの手で作り上げる喜びが味わえる。反面、断熱や雨漏りなどの対策も自分でする必要がある。
荷物扱いなので、
改造車検などは必要ない
トラックに積むスタイルなので、部屋といっても法的には荷物と同じ。車検のときには降ろしておけば、改造申請などは必要なく、車検にかかる費用や手間も通常の軽トラと変わらない。ただ、走行して移動するものだけに、荷台への固定はしっかりしておきたいところだ。
安曇野の地に全国からモバイルハウスが集結!
CAMPER FES 2019
キャンパーフェス2019 REPORT
年に1度、モバイルハウスのオーナーたちが集まるのが「キャンパーフェス」。好事家たちの集まりだったが、今年は一気に規模が拡大。その様子をお伝えしよう。
オーナーが思い思いに手をかけたモバイルハウスが全国から集まるのが、長野県の安曇野で開催された「キャンパーフェス」。今年で3回目を迎えるが、今回は一気に参加車が増え、75台以上が集まった。何か特別な催しが行われるわけではないが、オーナー同士で自作の際のこだわりや、使用している素材などについての情報交換がそこここで行われていた。屋台として使っているモバイルハウスのオーナーが、ケータリングを提供したり、子どもたちが屋根の上で遊んだり。なんともピースフルな空気が漂っていた。
自らの手で作ってきたオーナー同士だけに、熱いモバイルハウス談義は夜更けまで続き、その後はそれぞれ自作の部屋に戻って眠りに就く。翌朝も早くから活動を開始した参加者たちは、イベント終了後、それぞれ帰路についたり次なる目的地へ出発して行った。家ごと移動できるからこそ広がる新たなスタイルの可能性を感じたイベントだ。
- イベントの主催者は自らのモバイルハウスの屋根に登って肉声で司会を務める。このイベントらしい光景だ。
- 暗くなってくると、それぞれの”家”に明かりが灯る様子は、まさにモバイルハウスの”村”という風情だった。
- 開催場所は長野県安曇野市の「イラムラカプテ(旧シャロムヒュッテ)」前の広場。森に囲まれた雰囲気のいい場所だ。
- 多くのモバイルハウスは屋根に人工芝などを敷き、屋根の上でくつろげるようになっている。子どもたちにも良い遊び場だ。
- 部屋ではあるが、元は荷台なので遊び道具も積み込める。子どもと一緒に遊びに出かけるのに最高のツールだ。
MODEL HOUSE CASE 1
1年かけて仲間と作り上げた
モバイルハウスが人生を変えた

見ているだけで、こちらも笑顔になってしまいそうなモバイルハウスのオーナーは、今回の「キャンパーフェス」主催者でもある河野恵子さん。イベントが開催されたのと同じ場所で行われたモバイルハウスのワークショップに参加し、仲間と一緒に1年がかりで作り上げたという1台は、外観だけでなく内部にも女性らしい細やかな配慮が感じられる。製作中にはモバイルハウスの屋根から落ちて入院する経験もしたというが、時間や手間がかかった分、完成したときの喜びも大きかったという。
「板1枚から自分の手でトライ&エラーを繰り返しながら、自分の理想を形にできるところがモバイルハウスの醍醐味だと思います。自分が居心地のいい空間を自らの手で作りあげ、それを見た人も笑顔になってもらえるのが一番の魅力ではないでしょうか」という言葉にも力がこもる。
モバイルハウスの完成を期に30年間勤めた大手百貨店を退職し、新たな生活のスタイルを模索している最中だという河野さん。ペーパードライバー講習も受け、その活動の場はさらに広がっている。



- 屋根の上には人工芝を敷きくつろげるようになっている。ソーラーパネルも置いて電力も供給。
- ひさしを閉じると、円形の窓は太陽に見える工夫が。開くと雨もしのげて前が庭のようになる。
- 作りがしっかりしているので、屋根の上には大人が何人か乗っても大丈夫。天窓から登るしかけだ。
MODEL HOUSE CASE 2
モバイルハウス生活のために
クルマの免許も取得した強者

ひと目見たら忘れられないインパクトを与えるのが、ウロコのような外装が個性的なモバイルハウス。オーナーの赤井さんは、モバイルハウス製作のワークショップに参加したのをきっかけに、クルマの免許を取得したというくらい、この”移動する家”での生活にハマっている。
「ワークショップでは10人がかりで1台を作ったので1週間で完成しましたが、1人で作業するとやはり時間がかかり、完成まで3ヶ月かかりました」と話すが、自分で手間をかけて作り上げた愛着はやはり段違いに大きいという。
製作にあたり、こだわったのは朝日が眺められる天窓を作ることと、狭い空間を広く見せる横長の窓を設けること、それに縁側のように座れる場所を作ることだったという。また、冬の北海道でも暮らせるように5cm厚の断熱材を入れており、その効果は2月に氷点下の金沢で泊まった際に実証済み。現在は、住民票は実家におき、年間のほとんどをこのモバイルハウスで旅をしながら過ごしているという。モバイルハウス製作の講習会も近日中に開催予定。




- ウロコのような形状の板を貼った外観は、このモバイルハウスの大きな特徴となっている。
- 大きく開いた横長の窓は、室内空間が限られるモバイルハウスを広く感じさせるための工夫。
- 開口部の下側には大人2人腰掛けても平気。縁側のように座れることを目指したという。
MODEL HOUSE CASE 3
自作の“移動する茶室”で
全国を旅する伝道師

今回の「キャンパーフェス」参加車の中でも、かなり異彩を放っていたのがこのクルマだ。オーナーの為さんは、過去に裏千家で10年以上修行を積んだ茶道家で、陶芸家でもある人。現在は全国を回ってお茶を点(た)てており、このクルマはいわば”移動する茶室”であるため、生活空間であるほかのモバイルハウスとは異なる雰囲気を醸し出しているのだ。
「茶道には元々”野点(のだて)”といって屋外で茶を点てる様式がありますし、僕も以前から行った先の環境に合わせて茶室を組み立てることをやっていた。このクルマには、そのときの茶室の道具を使っています」と為さんが語るように、室内には随所に茶室らしいディテールが見られる。
素材に使われている板はJパネルと呼ばれる間伐材を使った合板だが、釘を使わずに板を組み合わせる手法は日本の伝統工法と共通するもの。為さんは建築を学んだことはないと言うが、茶室を組んだ経験が多いだけに、これを見た建築会社の人が驚いたという完成度だ。中でお茶をいただいたが、屋内とは一味違った味わいだった。




- 壁となる板を組み合わせる伝統工法に習った手法で組まれ、剛性も十分に確保されている。
- 「お茶は本来、自由度の高いもの。モバイルハウスとの相性もいい」と語る為さん。
- 伝統的な茶器と、アウトドア用のコンロを組み合わせたスタイルでお茶を点ててくれた。
MODEL HOUSE CASE 4
自作のトレーラーを
家族で楽しむ

今回の参加車の中では少数派のトレーラータイプのモバイルハウスで京都から家族で参加していた橋ヶ谷さんとそのご家族。市販品のような完成度の高さだが、お仕事が自動車検査員だと聞いて納得させられた。このトレーラーを牽いて、毎週のようにキャンプに出かけているアウトドア好きでもある。
「ベースのシャーシだけ買ってきて、居室部分は自分で作りました。最初は木造にしようと思っていたのですが、強度を高めたいのと、小さい子が夜泣いても周りに迷惑にならないよう、アルミでフレームを組んで建材を使うことにしました」とのこと。実はまだ製作途中なのだというが、そうは見えない仕上がりだ。
車内では家族5人が寝られるようになっているが、料理は外でしたいのでキッチンは装備していない。このように、自分のスタイルや家族構成などに合わせて必要な形に作れるのが自作のいいところだろう。ちなみに「Light Camper Factory」という屋号で、今後は製作も請け負っていきたいとのことなので、気になる人は検索してみては。




- 横長だが高さを抑えた窓は、キャンピングカー用のパーツを購入して使っている。
- 制作段階の1枚。自身でアルミを溶接したフレームは、かなりしっかりした作り。
- お子さんたちもこのトレーラーがお気に入り。京都から秋田まで足を伸ばしたこともあるとか。
MODEL HOUSE CASE 5
出張中は数ヶ月暮らす家は
建築家ならではの完成度

建築士としてログハウスメーカーに勤務していたという蓮本さんが製作した1台は、さすがプロという完成度。外壁は耐候性を考慮し、木材ではなくガルスパンという素材を使用しており、ソーラーパネルを備えるほか、外部から100V電源を取り入れられるようになっている。
ログハウス製作に携わる際は、数ヶ月このモバイルハウスに泊まり込む生活をしているとのことで、今年はすでに6ヶ月以上、泊まっているという。
「自分で作った空間なので居心地がいいし、移動も楽なので毎日違う温泉に行ける」と、その生活を満喫している様子。今後は電装系をさらに強化したいとのことだ。


- 仕事で使う工具やヘルメットなどもすっきり収まるように作られている。
MODEL HOUSE CASE 6
エアストリーム風の
モバイルハウスを自作

アルミパネルを貼り付けた外壁は、輸入車のトレーラー「エアストリーム」を模したもの。「本物がほしいけど高いし重いし、それなら自分で作ってしまおうと思いました」と語るやっとくさんは自作の過程をYouTubeで公開中。内壁のFRPを作るところから自分でやったというから筋金入りだ。その甲斐もあって、車検時には1人で荷台から降ろせる軽さに仕上がっているという。
壁の内部には断熱材のスタイルフォームが詰め込まれているため、冬でも快適に車内で泊まれるとか。「アルミを貼らなければ、もっと軽くできたと思いますが、そこはこだわりです」と話してくれた。


- 換気扇はリトラクタブル式という手の込んだもの。角がないためこの手法に。
MODEL HOUSE CASE 7
災害時にも役立った
ソーラー完備の1台

建築士である平瀬さんが、モバイルハウスを構想し始めたのは10年以上前とのこと。千葉と横浜を行き来する生活を送っていたため、泊まれるクルマがあれば便利だと考えていたそうだ。そして、実際に作業に取り掛かったのは2年前。プロとはいえ、このサイズの家を作ったことはないため、トライ&エラーを繰り返しながら約2ヶ月で作り上げたという。
「こだわったのは電気で、ポータブル電源を3つ積んで、ソーラーパネルも100Wを2つ。走行充電もできるようになっています。おかげで、先日の千葉県内の停電でも電気には困りませんでした」。そのために電気工事士の資格も取ったというから仕上がりは完璧だ。


- 電装系にこだわっており、先日の停電でも電気に困ることはなかった。
MODEL HOUSE CASE 8
カラフルにペイントした
モバイルハウスで2人旅

元々、車中泊で旅行を楽しんでいたという大久保さん。数年前からモバイルハウスに興味をもっていたが、自作することにハードルを感じていたため、2年前に知り合いが作ったものを購入した。購入後は自分の手で壁面に絵を描き、内装なども少しずつ自分仕様にカスタム。完成品を購入しても、そうやって自分好みにカスタマイズできるのもモバイルハウスの魅力だろう。
特にこだわったというのが電装系。ソーラーパネルを2つ積み、バッテリーも合計5個搭載している。「寒いところに長期出かけることもあるので、電気毛布が使えるように」との考えからだ。この日も寒さの増した安曇野の地でも暖かく過ごせたという。


- 床下にはバッテリーやインバーターを収納。バッテリーは合計5つ積む。
MODEL HOUSE CASE 9
TVチャンピオンの番組で
優勝したモバイルハウス

10月に放送された「TVチャンピオン」の「軽トラ王決定戦」で優勝した山田さんが、番組の中で製作したのがこのクルマ。製作期間はおよそ1週間というから驚きだ。それもそのはず、山田さんは40年以上前からキャンピングカーなどを製作してきた経験の持ち主。マイクロバスの車体を切ってキャンピングカーを作ったりしてきたが、今は小さなモバイルハウスの製作が面白いとのことだ。
ポリカーボネート製のボディは軽量で、外光を取り込み室内を狭く感じさせないための工夫も行き届いている。外壁のペイントはスプレー塗装のアーティストの手によるもので3Dになっているとか。


- ベッドの下にはトイレが収納されている。実用性もきちんと考慮されているのだ。
MODEL HOUSE CASE 10
スライド式で拡大可能な
ユニークな構造

部屋の一部が大きく外側にせり出すユニークな構造を持つモバイルハウスは、上で紹介した山田さんが手掛けたもの。スペースが限られるモバイルハウスを、少しでも広くするための工夫で、手動で押し出すことができる構造だ。製作から10年を経過しているというが、可動部分も含めて全くヘタリが感じられないところはさすが。アルミ外壁の内側には断熱材も詰め込まれ、冬でも暖かいという。
ほかにも荷台左右のあおりを閉じた形状に合わせて作られた外壁や、車体後にオーニングを装備するなど、軽トラの荷台という限られたスペースを有効活用する工夫が随所に見られる。


- せり出した部分は外側から押すと、収納できる構造。レールを上手く使っている。
MODEL HOUSE CASE 11
“奥様の丁寧な暮らし”を
イメージしたメルヘンな1台

絵本の中から出てきたような小さなお家はメルヘンチックな仕上がりだが、製作したのは男性。テーマは”奥様の丁寧な暮らし”だとのことだが、もっぱら1人で車中泊を楽しんでいるという。
車体は35年前のマツダ『ポーターキャブ』で、かわいらしいデザインに合うようにとイメージして製作したとのこと。断熱材のスタイルフォームをモルタルで固めるという手法で作られており、屋根の瓦もしっかりと再現。スペース的には広いとはいえない室内だが、このルックスで子どもたちには大人気だった。木造の部分にもアンティーク風に見えるように汚しを施すなど、細かい部分にも手間がかかっている。


- 外側に開く窓の部分には、棚も造り付けてありコンロなども置くことができる。
MODEL HOUSE CASE 12
作りかけの状態でも
我慢できずに参加

オーナーの”旅する漫画家”シミさんは、このイベントに参加したくてモバイルハウスを作り始めたというが、完成に至らず、作りかけの状態で駆けつけた。室内はまだ断熱材がむき出しの状態。それでも使用する板の厚みなど、情報が仕入れられ有意義な時間だったようだ。
MODEL HOUSE CASE 13
冬の暖かさを重視し
太陽光を取り入れる

横からの写真だとわかりづらいが、屋根の部分は全面が天窓のように素通しになっていて太陽光を取り入れる構造。室内を暖かく保つための工夫で、実際にこの日も昼間に太陽光で温めておけば夜も寒さを感じることはなかったという。今後は雨水を貯める雨樋を付ける予定。