マッチョなスポーツカーもEVも百花繚乱! 川端由美のロサンゼルスモーター2019ショーレポート

アメリカの国民的な大型連休のうち、クリスマス休暇はよく知られているが、春のイースター休暇と晩秋の感謝祭の連休は日本人には馴染みが薄い。しかしながら、自動車ギョーカイに身を置くものとしては、この二つの休暇に合わせて開催される国際モーターショーとして、春のニューヨーク、秋のロサンゼルスは見逃せない。東西の湾岸部は都市部でリベラルな地域であることもあって、輸入車のシェアが高く、富裕層が集まることからプレミアム・ブランドの発表も多いからだ。冬模様の日本を飛び出して、春のような暖かさのロサンゼルス空港に降り立つと、抜けるような青空が迎えてくれた。このショーの最大の魅力はなんといっても、プレミアム・ブランドがこぞって華やかなオープンカーやスポーツカーを持ち込むことだ。加えて、エココンシャスの高い人が多く住む地域ゆえに、最新のエコカーも登場する。

1907年から開催されているという古い歴史を持ち、全米では3カ所しかない国際格のモーターショーのうちの1つだ。世界有数の富裕層マーケットにおける次世代モビリティの動向とは?

最新のコックピットには天然素材を使用

まずはショー前夜にロサンゼルスの人気観光スポットでもあるピーターゼン自動車博物館で開催された、フォルクスワーゲンの新型EVコンセプトの発表会から紹介していこう。フォルクスワーゲンの電動モビリティの総称である「IDシリーズ」に、7番目となるモデルのコンセプト「ID. Space Vizzion」が登場したのだ。ここは元々、ロールスロイスをはじめとするラグジュアリーなクラシックカーのコレクションで知られているが、最近ではハーレーダビッドソンの電動モーターサイクルなど、最新モビリティの展示も見るべきものとなっている。

「私たちは、電動モビリティの可能性を探求し、完全に新しく『電動モビリティ』というセグメントを生み出しました。『ID. SPACE VIZZION』においては、次世代モビリティにおける”グリーン・デザイン”を表現しました」と、チーフ・デザイナーのクラウス・ビショフは語る。

実際にコンセプトカーを眺めてみると、エンジンの冷却に必要だったフロントグリルがなく、フラッシュサーフェイスのいかにも空力の良さそうなスタイリングを与えられている。こうした新時代のモビリティらしいデザインを可能にしたのは、電動モビリティ専用に開発されたプラットフォーム、「MEB(=Modular Electric Drive Matrix)」のおかげだ。単なる電動プラットフォームというだけではなく、フルコネクテッドとなり、最新のデジタル・コックピットが搭載されている点も見逃せない。りんごジュースを生産した残渣を使った持続可能な天然素材「アップルスキン」なる人工皮革を採用するなど、手で触れる場所への工夫も余念がない。

ハッチバックの「ID.3」はビートル、ゴルフに続く、フォルクスワーゲンの中核モデルであり、それに続くSUVモデルも世界的な人気車種だが、今回発表した「IDスペース・ヴィジョン」はワゴンボディであり、どちらかといえば、80年代に一世を風靡した懐かしいボディ・タイプだ。あえてワゴンを選んだ理由を、フォルクスワーゲンUSのCEOを務めるスコット・キーオ氏に訊いてみた。

ロサンゼルスショー開幕前夜に開催されたフォルクスワーゲンのよる「ID. Space Vizzion」のプレビューインベントでは、チーフデザイナーのクラウス・ビショフ氏、フォルクスワーゲンUSのCEOであるキーオ氏が登壇した。

「最大の理由は、車高が低い方がEVで最も重要な巡行距離を確保できます。SUVより背の低いワゴンの方が空気抵抗を抑えることができて、同じ電池の搭載量でもより長い巡行距離を担保することができます。とはいえ、SUVのお客様が欲する使い勝手の良さも犠牲にしていません。EV専用プラットフォームであるMEBを採用しているため、低床を実現したことで、全高を低く抑えても、広大なキャビンスペースを確保することができるからです」

加えて、キーオ氏は、アメリカ・チャタヌーガ工場でもEVを生産すると宣言した。この直前に、旧東ドイツにあるツヴィッカウ工場で「ID.3」の量産がスタートしたばかりだ。ドイツ国内の4工場に加えて、チェコ、中国の2工場など、合計8工場がEVの生産を行う予定であり、2020年には年間60万台ものEVが生産可能になる。日産「リーフ」2019年3月にようやく40万台の累計販売台数を達成したばかりだし、あのテスラでも2018年の売り上げ台数は24万5240台である。今、世の中に売っているEV全部を合わせた台数以上を、フォルクスワーゲン一社でドーンと作ると宣言していることに驚きを隠せない。ディーゼル車の排ガス不正問題の影響もあって、今後いかにフォルクスワーゲン・ブランドを再生できるかは、電動モデルの「IDシリーズ」がカギを握っていると言ってもいいだろう。

リアのハッチゲートを開けると、ラストワンマイルの移動に使える電動スケーターが備わっている。電動化と同時にデジタル化も進化させており、コックピットや内装に使う素材にも最新のテクノロジーが採用されている。

マッチョなマスタング マッハ1もスマートに電動化

ロサンゼルスに登場したニューモデルの中で最大の話題が、マッスルカーの代名詞であるマスタングまでもが電動化したことだ。フォードの金看板である「マスタング」にEV版となる「MACH-E」が登場しただけでも大きな話題だが、さらにクルマ好きの間では伝説的な存在である70年代の名車「マスタング マッハ1」からその名を頂戴したのだ。気になる価格は、500ドルのデポジットを払ってオンラインで予約ができ、500万円以下のエントリーモデルから用意されている。さらにフォードの充電網を使えば、2年間は無料で充電ができる。

フォードが放つ電動化の急先鋒である「マスタングMACH-E」では、永久磁石同期式モーターを採用し、最大出力459ps/最大トルク820Nmもの大出力を発揮し、0-96km/h加速は3秒台半ばという俊足ぶりだ。

ベースとなる後輪駆動に加えて、4輪駆動がラインナップさている。リチウムイオン電池は、75.7kWhと98.8kWhが用意される。フロア内に電池を抱え込むようなレイアウトを最奥しており、前者が288個、後者が376個の電池セルを搭載している。98.8kWhのバッテリ容量を備える後輪駆動モデルでは、約300マイル(EPA)以上の巡行距離が担保されている。2022年までにEVに110億ドル以上を電動化に投資する計画を発表しており、グローバルで40車種の電動モビリティを発売するうち、16車種をピュアEVにする計画だ。

EVスタートアップのボリンジャーからも、迫力あるニューモデルが登場していた。ちょうどロサンゼルス・ショーの開催に合わせて、確信犯的にテスラが「サイバートラック」を発表したこともあって、地元アメリカのメディアの注目が注がれていた。まだコンセプトの段階ゆえに、ボディの細部の作りが荒削りな印象は否めないが、昨年のロサンゼルスショーでリポートした「リヴィアン」同様、アメリカの自動車産業における新しい息吹を感じることができる。

創業者であるロバート・ボリンジャー氏は、アメリカの名門であるカーネギー・メロン大で工業デザインを学んだのち、広告代理店に勤務し、独立後にEVスタートアップを創業した。当初、ニューヨーク郊外のホーボーケンで創業されていたが、「自動車製造のサプライヤーチェーンが充実している」こと理由に、現在はデトロイトに本拠地を移している。

同社初のモデルである「B1」の発売からまもなく、1万台を越える予約を得たことが話題になったが、今回はピックアップトラックの「B2」がラインナップに加わっていた。クラシックなスタイルのオフローダーだが、あえてSUT(=Sports Utility Truck)なる呼称を掲げている。スクエアな外観から期待される通り、本格的なオフロード性能を担保しつつ、4輪独立懸架の足回りには電子制御式のセルフレベリングハイドロニューマチックサスペンションを採用しており、オンロードでの乗り心地も悪くなさそうだ。負荷のない状態から最大で約4.5トンまでの重量の変化に対応できる。手動の車高調整機能も備えており、10〜20インチの範囲で車高を変更できる。

EVのメリットとして、フロア内に電池や電気モーターといったパワートレインを搭載できるため、室内の使い勝手は従来のエンジン車以上だ。前後に2基の永久磁石式交流モーターを搭載しており、最高出力614ps/最大トルク905Nmもの大トルクを発揮し、4輪を駆動する。フロント/リアにロックデファレンシャルを備えており、ハイ/ローの2段変速ギアボックスと組み合わされる。ギアの変速比はハイスピードが11.4:1、ロースピードが22.5:1となる。気になる価格は125,000ドル(約1350万円)と決して安くはないが、そんじょそこらのエコカーでは物足りないという人には朗報だ。

スポーツカーも電動化で百花繚乱

冒頭から寄り道をしてしまったが、このショーの大本命がポルシェ初のEVとして、9月のフランクフルトショーで発表された「タイカン」の上級モデルである「ターボ」「ターボS」に続く、エントリーモデルとなる「4S」である。リチウムイオン電池の搭載量は「ターボS」と同じ93.4kWhもの大容量バッテリを積む「パフォーマンスバッテリープラス」など、選べる仕様が幅広い。

ポルシェ初の電動モデルである「タイカン」のエントリーモデルとなる「4S」では、最高出力530PS/最大トルク320Nmと巡行距離303kmの標準モデルから、420ps/620Nmの強大な出力を持つ最上級モデルまで広いラインナップを持つ。

前後のアクスルに電気モーターを備える「e-Axle」を搭載し、4輪を駆動する。リヤに搭載される電気モーターには2段変速機が組み合わされる。誘導モーターと同期式モーターの2種が一般的だが、誘導モーターは効率が高く、マグネットが不要なため低コストに抑えられるが、大型になり、高熱に弱い。今回、ポルシェが永久磁石同期モーターを採用した理由としては、小型・軽量で、サーマルマネージメントもしやすいため、高負荷時にも高出力を得られるからだ。

マスタングと並んで、アメリカのスポーツカーの代名詞であるシボレー「コルベット」は、電動化やエコなどどこ吹く風で、あえて6.2リッターV8 OHVの大排気量エンジンをミッドに搭載する伝統的なスポーツカーで勝負をかけてきた。しかも、世の中のエンジンが何もかもターボ化する中、あえて自然吸気のまま、スポーツカーらしいドライサンプオイル潤滑システムを採用しているのも、クルマ好きにとっては泣けるほど古風な仕様だ。「パフォーマンスエグゾースト」を備えるモデルでは、最高出力495hp/最大トルクは637Nmを発揮する。パドルシフト付きの8速ディアルクラッチトランスミッションとの組み合わせも含めて、この時代にあえてスポーツカーらしいスポーツカーをデビューさせたGMの心意気に、一人のクルマ好きとして拍手を送りたい。GMが思い切ってピュアなスポーツカーを作れる最大の理由は、すでにGMは2010年から「ヴォルト/ボルト」の電動モビリティをラインナップしている点にある。だからこそ、あえてコルベットのようなスポーティなモデルは、時代に逆行しようとも、従来のクルマ好きの心を掴むことを重視したのだ。

アメリカン・マッスルカーの真骨頂であるシボレー「コルベット」は、あえて時流に反して、6.2リッターの自然吸気大排気量V8エンジンをミッドに搭載し、あくまでスポーツカーであることを貫いた。今回からハードトップ・ルーフとなり、開閉にかかる時間はわずか16秒で、48km/h以下なら、走行中も開閉可能だ。

圧倒的なパフォーマンスを誇るスポーツカーが登場すると同時に、電動モビリティが続々と登場するのもまた、ロサンゼルス・ショーらしいと言える。なぜなら、カリフォルニア州の経済規模は約3兆ドルと、国でいえば、ドイツに匹敵する規模なのだ。アメリカや世界をリードするマーケットであり、消費者も変化に敏感な地域である。だからこそ、ロサンゼルス・ショーを俯瞰しても、カリフォルニア州から世界の自動車マーケットの変化を見渡すことができるのだ。

BMWも、電動化は傘下にある「ミニ」ブランドに任せて、あえてスポーティな「M」シリーズの発表に特化している。アメリカ・サウスカロライナにある工場で作られるSUVの「X5 M」と「X6 M」に加えて、最上級モデルの「M8コンペティション・グランクーペ」を登場させている。最もパフォーマンスの高い「コンペティション」仕様を選ぶと、4.4L V8 Mツインパワーターボ・エンジンが最高出力625psを発揮し、0-97km/h加速を3秒でこなす。
アウディも電動化に向けて加速している。3月に開催されたジュネーブ・サロンで発表した「e-tron」に、SUVルックの「e-tron sportsback」を追加した。なお、リアに備わる「55クワトロ」の文字は、245kwh以上のリチウムイオン電池を搭載するAWDモデルの意。2020年春に市場投入予定だ。
  • Text川端由美