CES 2020で分かったフードテックの現状と課題

2020年1月、米ラスベガスで最先端のテクノロジーが数多く展示されるテクノロジーイベント「CES 2020」が開催された。今回個人的に注目していたのが「FoodTech」。食品や調理家電など、食に関するテクノロジーだ。従来のCESはPCや、AV機器が主流だったが、近年はスマートホームに関係する製品も数多く登場しており、その結果、白物家電の展示が急増しているのだ。早速、CESで見たFoodTechの現状と、課題について解説しよう。

毎年年始めに開催されるテクノロジーイベント「CES」。近年は自動車や家電・家など範囲が広がってきている。

宗教を超える可能性もある豚の代用肉が登場

FoodTechという視点で「CES 2020」を見たときに見逃せないのが、Impossible Foodsのプレスカンファレンスが開催されたことだ。同社は植物由来の代用肉を開発するFoodTechベンチャーで、すでに牛肉風の代用肉の開発を実現し、2019年にはBest of CESを受賞。バーガーキングをはじめとした17000軒の飲食店で「インポッシブル・バーガー」を食べることができる。

そんな同社が、「CES 2020」で発表したのが「インポッシブル・ポーク」、つまり豚肉を模した代用肉だ。

大豆由来の成分に様々なスパイス、食材を混ぜて作った「インポッシブル・ポーク」。

現在、全世界で最も食べられている食肉は豚肉だ。独立行政法人農畜産業振興機構によると、世界の牛肉生産量は6951万トンなのに対して、豚肉は1億1702万トンと倍近い(2017年・枝肉換算)。Impossible Foodsは、「豚肉の代用肉を開発することが、環境保護につながる」と語る。

プレスカンファレンス会場ではインポッシブル・ポークで作った料理が用意されており、実際に食べることができた。メニューはパンで挟んだバインミーや、パオサンド、汁なしのヌードル、シューマイなど。豚肉の消費が圧倒的に多い、東アジア圏のメニューだ。

甘辛く味付けしてパオで挟んだ中華バーガー。個人的にはこれが一番おいしかった。
油で揚げて辛めのソースをかけた一品。肉の味はあまりわからない。
汁なしヌードルも甘酸っぱい味付け。揚げたようなカリカリ感がいい。

 一口目の食感はまさに豚肉。想像以上のクォリティで、代用肉だと聞いていなければわからないレベルだ。ただし、実際の豚ひき肉と比べるとカロリーが62%、油脂分は40%に抑えられていることもあり、後半はややパサつきを感じた。油の少ない豚肉というイメージだ。また、味付けがかなり濃いめだったことも、豚肉との違いを判別させにくくしていたように感じた。

インポッシブル・ポークは1月中に、アメリカ国内での提供が開始する予定。現段階では牛肉風のインポッシブルミートも日本には上陸していないが、ポークの登場により、東アジア圏で食べられるようになる日も近そうだ。

現在、牛肉の代用肉は高級牛肉(プライムグレード)に近い価格で販売されており、健康や肉類を食べない食習慣以外では積極的に購入する理由がない。また、基本はハンバーグ、ミートボールなどの料理向けで、レシピがそれほど多彩とは言いがたい。しかし、代用豚肉の場合は大きく状況が変わってくる。

まず、イスラム教徒など、従来豚肉を食べていなかった人たちも食べられるため、さらなる消費の拡大が期待できる。また、中華料理をはじめとした東アジアの料理と親和性が高いため、料理のバリエーションも豊か。コストの問題に折り合いがつけば、既に進出している香港やシンガポールに加えて、日本でも食べられるようになるかもしれない。

スマートホームと白物家電の展示は増加傾向もフードテックは点在 

「CES 2020」の会場の一つである「Sands Expo」には「Smart Home」や「Sleep Tech」や「Family Tech」など、ある程度カテゴリーを分けて世界中のメーカーがブースを出している。ただし、いわゆる調理家電などを含むフードテックはまだ独立したカテゴリーとなっておらず、「Smart Home」や「Family Tech」の中に点在している状態だった。

しかし、それでも数は例年より増えており、白物家電の展示の多いドイツのIFAのようなエリアも登場し始めている。そして「CES 2020」では、展示されている調理家電の多くには、ただ、Wi-Fiやスマートフォンにつながるだけではない、その次の提案があるように感じられた。そんな新しい製品をチェックしていこう。

ANOVAの「Anova Precision Oven」。スマートフォン上からレシピを選ぶだけで調理できる。

低温調理ができるスティック型調理器具ブランドとして有名なスタートアップANOVAが新たに発表したのが『Aova Precision Oven』。きめ細かく温度を制御できるスチームで食材を加熱。さらにオーブン機能で焼き色をつけることもできる。スチームによる加熱のため、食材を乾燥させることなく、素早く調理可能。業務用スチームオーブンのような調理が手軽に、素早くできるようになるというわけだ。

日本市場にはシャープの『ヘルシオ』をはじめとした高精度のスチームオーブンがすでにあるため、参入は厳しそうだが、カウンタートップ型(非ビルドイン)の高性能オーブンは2020年の注目になりそうだ。

個人的に最も期待したいのが、電子レンジのように使えるMatrix Industries社のドリンククーラー『JUNO』だ。構造は非常にシンプル。内部に水を入れそこにビール缶やワインボトルを差す。ボタンを押すと水が回転し、ペルチェ素子による冷却がスタートする。缶ビールなら約2分で、720mlのシャンパンは約5分で4℃以下に冷やしてくれるというわけだ。

720mlのワインまで入れられる『JUNO』、短時間で冷やしてくれる。

非常に短時間で冷やせるため、ドリンク類を冷蔵庫に入れて冷やしておく必要がなく、保存時の電気代や場所を節約できるというわけだ。試作機は冷却機構の熱を逃がすため、強力にファンが回っていて動作音がかなり大きかったが、製品版では40dB以下に抑える予定。今年、北米でのクラウドファンディングを予定しており、定価299ドルのところ199ドルで出すそうだ。

まだ、製品版とは全く形状の異なる試作機でしか試せていないため、冷却性能や動作音のバランスの部分などに不安は残るが、これが実現したら、自宅の冷蔵庫に缶ビールや缶チューハイを入れる必要がなくなりそうだ。

「CES 2020」では日本のスタートアップも様々なFoodTech製品を展開していた。パナソニックの子会社であるシフトールは調理家電のプロトタイプとして「Cook’Keep」を発表。これは作り置きした料理を入れて置くことで適温で冷やして維持し、帰宅時間など設定したタイミングに温め直してくれるというもの。帰宅してすぐに暖かいご飯が食べられる。

シフトールの「Cook’Keep」。小さな炊飯器といったサイズ。

また、保管と温め直しだけでなく、低温調理にも対応。最大90℃まで加熱でき、真空パックなどに入れることなく、ローストビーフや鶏ハムなどが作れるという。2020年秋以降の発売を予定しているとのこと。

試作段階ではあるが、アプリのレシピページにはローストビーフなどのメニューが並ぶ。

現在、世界的に電気調理鍋がヒットしている。そのブームの中でも日本でヒットしている「ヘルシオホットクック」や北米で人気の「インスタポット」など、既存の製品とは違う立ち位置の製品になりそうだ。 

飲料系FoodTechで日本のスタートアップが存在感を示す

飲料系のFoodTechというと、世界的にコーヒー関係が中心。CESと同時期に開催されていたFoodTechイベント「FoodTech Live@2020」にも数多くのコーヒー関連企業が出店していた。面白いのがCESの会場に出展していた日本の飲料系スタートアップが2社ともコーヒーではなく、「お茶」だということだ。

World Matcha Inc.は大手飲料メーカーでペットボトルのお茶の企画開発をしていた塚田英次郎氏がサンフランシスコで立ち上げたスタートアップ。プロダクトである「Cuzen Matcha」は茶葉をセットすると、グラスに挽き立ての抹茶が落ちる仕組み。グラス内には抹茶を混ぜるためのマグネチックスターラーがセットされており、自動的に混ぜ合わせてくれる。

上部の筒の部分に茶葉を入れると粉末が下のグラスに落ちる仕組み。

後はそのまま飲んでもいいし、抹茶ラテなどにもできる。丸窓をしつらえた和室のような洗練されたデザインを採用し、「CES 2020 Innovation Awards Honoree」を受賞、北米市場での予約もスタートしている。

紅茶や緑茶を細かな設定で淹れられるティーポット「Teplo」は昨年に続いての出展。昨年のクラウドファンディングを経て、量産をスタートしているという。

内部に回転するティストレーナーを配置。指定した温度になるまでお湯に浸からないようにでき、適温になったら回転してお茶を抽出できる仕組み。ティストレーナーを回転させたり、揺らしたりでき、紅茶を淹れるときのジャンピングのような効果が得られるそうだ。

紅茶や緑茶、ハーブティをおいしく入れられる「Teplo」。

両製品に共通するのは、嗜好品である抹茶や紅茶、緑茶を手軽においしく淹れられる全く新しいプロダクトだということ。調理家電は国によって、文化によって違いが大きいため、全世界で共通して売れる製品は難しいが、嗜好品に関するこれらの家電は世界的なヒットが期待できそうだ。

大手メーカーのスマートキッチンは停滞?
冷蔵庫内カメラの実用性には疑問の声も!

CESのメイン会場であるLVCCには北米市場で生活家電を展開しているLGやサムスン、BOSCHなどのブースがあり、最新の冷蔵庫や、ロボットキッチンのデモなどを並べていた。ただし、どれも大きな変化はみられず、スマートキッチン視点では停滞気味の印象だ。

中でも特に実用性に疑問を感じるのが冷蔵庫内カメラだ。多くのメーカーのスマート冷蔵庫に装着されており、庫内の食材が見渡せるため、食品ロスが防げるとしている。

BOSCHの冷蔵庫内カメラ。このカメラはドア側を撮影する。
BOSCHによるスマートフードマネジメントの説明。こんなに食材が少ないわけがない。

しかし、実際の冷蔵庫は手前だけでなく、奥にも食材は収納されており、また容器や袋に食材を入れることも多い。そうした食材はカメラからは見えないというわけだ。

冷蔵庫内につけるカメラは、すでに後付けできる製品も登場している。ルンバを活用するために、床にものを置かなくなるように、冷蔵庫への食材の入れ方がカメラに写ることを前提になっていくのかで、庫内カメラの実用性は決まってきそうだ。

イギリスのスタートアップ「smarter」の後付けできるカメラ「FridgeCam」。日本での発売も決まったとか。

CES会期中に開催された「FoodTech Live@2020」は今年が2年目で、昨年より注目を集めたようだ。しかし、「CES 2020」としてみると、Impossible Foods以外では「FoodTech」の話題は薄く、やや期待外れだった。その理由の一つは、調理家電をはじめとした「FoodTech」なブースが会場内に点在していて、まとまって展示されていないからではないだろうか。

今後、会場内に「FoodTech」エリアができたときが、本格的な「FoodTech」普及の始まりになるのかもしれない。