【実録】香港で新型コロナウウイルスの検疫を通過後
スマホアプリで24時間居場所を管理される山根博士の今

新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を防ぐため、世界各国は他国からの入国者の受け入れ制限を行い、水際での対策を実施している。香港に居住している筆者は4月下旬に日本から香港に帰国。空港到着後に強制検疫と14日間の強制自宅待機を受けることとなった。香港では2020年4月時点で香港国際空港からの入国は香港居民のみ許可され、非居民は一切入国できない。ここでいう居民とは香港永久居民の資格を持つものと滞在VISAを持つもの。筆者は香港永久居民の資格を持つため、国籍以外は香港人と全く同じ扱い(選挙権、就業の自由など)を所有している。そのため香港への入国に制限はない。

日本から香港へようやく帰国

4月26日 5:30(日本時間)
筆者は2月末のヨーロッパ取材のあとに日本で仕事があったため、3月から4月は友人ライターの自宅の離れに居候をさせていただいていた。日本人ではあるものの生活拠点は香港だ。しかし香港に戻ると強制検疫、つまり新型コロナウイルス(COVID-19)の検査を受けねばならず、万が一陽性だった場合は日本で会った人たちにも迷惑をかけてしまう。そのため香港への帰国前14日間を居候先での自宅待機とし、なるべく人に会わない状態を14日間過ごしたのち香港へ飛ぶことにしたのだ。居候先の横浜から成田空港へは公共交通機関の利用は避け、ライター氏の自家用車で向かった。途中コンビニで朝食を買った以外、ノンストップで向かった。

4月26日 7:00(日本時間)
途中渋滞は一切なく車の数も少なく1時間半で成田空港へ到着。駐車場はガラガラ、車から降りる人の姿も数組しかおらず閑散としている。ターミナルビル内に入るとJALのカウンター以外はほぼ閉まっている。

JAL以外のカウンターはほぼ閉まっていた成田空港ターミナル2。

4月26日 7:05(日本時間)
筆者はマイレージ会員のためビジネスクラスカウンターでチェックインするが、同じ時間帯に出発する大連行きと香港行き、ダラス行きの客は数組のみだった。なお、チェックイン手続き時は普段見せない香港IDカードの提示を求められる。非居民を乗せるとJALが送り戻すことになるため、居民かどうかを確認するわけだ。チェックイン後にエコノミークラスのカウンターを見に行くと50名くらいの乗客が並んでいたが、普段を考えればその数は極端に少ない。

4月26日 7:30(日本時間)
チェックインはすぐに済んだが出国受付が始まっておらず、若干待たされる。なお全身を不織布の防護服のようなもので身をまとった人が数名いたが、いずれも中国人のようだ。中国では飛行機に乗る時はそこまで気を付けるということなのだろう。中国国内での新型コロナウイルス(COVID-19)の深刻度合いを改めて感じさせられる。さて、7:30にX線検査を受けて出国審査。ガラガラですぐに制限エリア内へと入る。

出国後の制限エリアの朝。店も開いておらず乗客もほとんどいない。

4月26日 8:00(日本時間)
出発時間は9:50なのでラウンジで時間をつぶそうにも、今は営業時間が朝8:00から。入り口付近で数十分待つことにする。現在はファーストクラスラウンジしか開いておらず、ビジネスクラスラウンジは閉鎖。おかげで筆者も普段入れないラウンジに入ることができた。ラウンジへ入った客は10数名程度。普段のビジネスクラスラウンジなら人が多く「3密」まではいかないにせよ、他の人との距離を保つのは難しい。しかし今回はファーストクラスラウンジの上、客もまばらだ。なお、食事はカウンターで注文式だった。

4月26日 9:30(日本時間)
搭乗開始20分前に搭乗口へ。客の数は20名を切るくらいで少ない。日本人は数名で他は香港人と西洋人、子供を連れた家族もいる。観光客のような姿はもちろん見られない。

4月26日 10:30(日本時間)
機内では食事もあり、普段通りにいただく。また入国時に必要な書類も2通配られる。1通は香港政府衛生署に提出する書類で、氏名、住所、電話番号、香港IDカード番号を記載。もう1通は健康状態通知書で健康具合を記載。なおこの通知書はSARS以降しばらくの間利用されていたもので、今になって再び見ることになるとは思わなかった。

健康状態通知書はスマホでも利用できる。機内Wi-Fiを使って記入した。

香港に到着、物々しい雰囲気の中で検疫受付

4月26日 13:45(香港時間)
香港国際空港へ到着。飛行機を降りそのまま入国審査場へ向かう。普段は多くの乗客が同じ方向へ歩いていくが、この便の客以外は見かけない。そして入国審査場の手前に近づくと防護服を着た係員がずらりと並んでおり、深刻な状況の中で移動してきたことを思い知らされる。ここからは自由に動けず、区画で分けられたエリアに入り順を追って検疫に向けての受付が行われる。書類もいくつか記入するが、大まかな流れは以下の順だ。

1.スマートフォンに専用アプリを入れる
2.検疫書類受領
3.腕にリストバンドを装着(以降取り外し不可)
4.申告した携帯番号の確認(その場で着信を受ける)

香港空港に到着、飛行機も人の数も少ない。

4月26日 14:30(香港時間)
自動入国ゲートを通過後、荷物を受け取る。乗客が少ないためすぐに荷物は出てきた。なお、到着便一覧案内を見ると、同じ時間帯に到着したフライトは3便だけ。どおりで空港内が閑散としているわけだ。そして荷物を受け取ると出口の先は到着ロビーではなく、柵で区切られた通路を進むように言われる。そしてエレベーターを5階から3階(4階は無い)で降りて、検疫所行きのバスに乗り込む。

4月26日 15:00(香港時間)
空港の隣にあるアジアワールドエキスポ展示会場に到着。ここが検疫所だ。空港のすぐ横に巨大で天井もひろい空間があるのは検疫に適しているだろう。ここから先は一切の写真撮影は禁止である。なお、4月上旬までは検疫所はここ以外にももう1か所あったようだが、4月末時点ではこの場所のみ。おそらく香港へ帰国する人の数が減ったため、ここだけで対応できるようになったのだろう。到着後はバスを降り、荷物をカートに乗せて検疫所(展示会場)の中に入る。中に入ると大きな空間の中に防護服を着た係員の姿が目立つ。まずは手をアルコール消毒したのち、カートのまま荷物を預ける。

4月26日 15:15(香港時間)
再びバスに乗り別のホールへ向かう。いよいよ検査の準備だ。検査キットを受け取ったのち、巨大スクリーンで自分で行うサンプリング方法を確認する。なお、ここでは航空券の控えも提示が必要だった。念には念をということだろう。ホール内には椅子が用意されているが、それぞれの間隔は2メートル。展示会場なので空間には余裕は十分あるわけだ。

4月26日 15:20(香港時間)
ビデオを2回見て検査方法を理解したのち、出口前でまずアルコールで20秒以上手を殺菌してから隣のホールへ移動する。こうしてホールを移動するたびにここに展示会場があってよかったと何度も思う。これが街中の狭い病院であれば、ソーシャルディスタンスを取るなんてことは無理だろう。そしてここまで「海外からの帰国者」の扱いに気を使うことで、空港到着後の感染拡大も防いでいるわけだ。

4月26日 15:30(香港時間)
検査キットにもアルコール消毒布が付属しているなど、サンプル取得に関しては徹底的にノイズがはいらないようになっている。検査方法は鼻の奥の粘膜取得ではなく、のどからの唾液採取。唾液を検査キットに入れた後の紙の漏斗の捨て方までビデオで教えられたとおりにする。サンプル瓶は袋に二重にして投入して提出。その後はビデオの説明の通りトイレで手を洗い、隣のホールへ移動する。

サンプル提出袋にはバイオハザードのマークが(この袋は自宅待機中の提出用にあとでもらった同じもの)。

4月26日 15:35(香港時間)
検査サンプルの取得を終えても開放はされず、今晩は1泊強制隔離となる。そして検査結果は明日にでるとのこと。これは4月上旬の施策とはだいぶ異なっている。

筆者が事前に調べて知っていたのは、検疫所でサンプルを取って提出した後はそのまま帰宅し、3日以内に陽性の連絡があれば施設へ隔離、3日以内に連絡が無い場合はそのまま14日間自宅待機ということだった。しかし前述したように今は帰宅は認められず1泊隔離となる。このホールでは隔離施設への入所手続きが行われるというわけだ。ここにも椅子が置かれ間隔は2メートル。椅子の数は1000近くあるだろう。一時はそれだけ多くの帰国者がいたということなのだろう。

4月26日 16:00(香港時間)
かなり待たされてから名前を呼ばれる。ここで強制隔離施設(ホテル)の滞在案内がされる。

4月26日 16:30(香港時間)
隔離施設へのバスに乗りこみ出発。乗客は10名程度。後から検疫を受けた人も一緒に乗り込む。同じホテルへ宿泊する客をまとめているのだろう。

政府借り上げのホテルに隔離、ドアから出ることも禁止

4月26日 17:00(香港時間)
ホテルに到着。入り口は壁で覆われ、防護服を着た係員の間を通って中へ入る。ここで部屋の鍵を受け取るが「一度ドアを閉めると、このカギは二度と使えない」と注意を受ける。つまり部屋から出ることは一切許されない。

夕食として弁当(豚肉か魚)を受け取りエレベーターで部屋に向かうが、弁当を配るスタッフ(おばちゃん)はここに来て初めて広東語しかできない人だった。香港は中国語(広東語)と英語が公用語のため、ここまですべて英語で案内を受けてきた。それは「外国人の対応があるから英語ができるスタッフを配置する」のではなく、公用語であるから英語だけでもあらゆる指示や案内をするようになっているからだ。しかし隔離施設となると地元感が出てしまい、英語不得意な人もいるのだろう。まあこのあたりは普段香港に住んでいても同様で、我が家の区役所の受付の警備員は英語ができない人が多い(もちろん区役所のスタッフは英語だけで対応してくれる)。

隔離施設となるホテルに1泊。見晴らしがいいのが救いだ。

4月26日 20:00(香港時間)
夕飯を食べ、気が付けば寝てしまう。部屋のWi-Fiは無料でログインIDとパスワードはカードキーを入れた袋に明記されているためネットアクセスに困ることは無い。

4月27日 6:00(香港時間)
空腹で目が覚める。そういえば昨日は軽い朝食、機内食、弁当しか食べていない。8:00に朝食が配られるというがその気配もない。また検査結果は24時間以内に判明するということで、遅くとも15:00くらいには何かしら連絡がくるだろう。仕方なくシャワーを浴びるが、取り外ししてはいけないリストバンドが防水とはいえお湯がかかるのには気を使ってしまう。その後は空腹のままベッドで寝ていることにする。

リストバンドはおそらくGPSやBluetoothが入った機器。説明書によると防水らしい。

4月27日 11:00(香港時間)
部屋の電話が鳴り「チェックアウトしてください」。すなわち新型コロナウイルス(COVID-19)の検査結果は「陰性」だったということだ。荷物をまとめてドアを開けると、朝食が置かれていた。せめてノックかベルで知らせてくれればいいのに。フロント階へ降りると名前などの最終チェックをして外へ。しかしここから先はすみやかに自宅へ帰宅しなくてはならないため、タクシーに乗ることにする。もちろんタクシーのナンバープレートは記録しておかなくてはならない(移動記録書を昨日受け取っているのでそこに記載)

72日ぶりの自宅に到着、スマホアプリで位置登録

4月27日 11:15(香港時間)
自宅に帰宅。入り口にいた守衛のおじさんに「ひさしぶりだな、帰ってきたか」と声をかけられる。彼との会話も広東語で、おぼつかないが身振りも交えて応対、ポストに入った2か月分の郵便物を受け取りエレベーターで部屋に戻る。

タクシーで帰宅。だが途中で店に立ち寄ることもできない。

4月27日 11:20(香港時間)
2月16日の朝に香港を出て以来、72日ぶりの自宅に入る。日本で言えば4畳程度の狭い家だが、身の回りのものすべてが置いてある場所だけに落ち着く。しかしここでのんびりしている暇はなく、自分の居場所登録をしなくてはならない。スマホに入れたアプリ「Stay Home Safe」を起動し、「家にいる」ボタンをタップしたら、部屋の中を1分間歩き回るのだ。これにより腕につけたリストバンドとスマホの位置が登録されるのである。なお、外出し自宅待機を破った場合は罰金2万5000香港ドル(約35万円)と6か月の禁固の罰則となる。本日から午前、午後の検温記録を開始する(自宅待機の手引きをもらい、そこに記載する欄がある)。

リストバンドとスマホアプリを連携させる。

4月28日 10:45(香港時間)
衛生署スタッフから電話がかかってきて「家にいますね?」「体調悪くないですか」と質問。抜き打ち電話がかかってくるとは聞いていたけど、施設を出て翌日とは、守らない人もいるのかなあ。

4月28日 16:00(香港時間)
衛生署スタッフから電話があり「場所の登録信号が今朝から来ていない」とのこと。もしかしてそれで電話があったのかな。スマホのアプリを見るとなぜか初期画面に戻っている。おそらく昨晩、SIMカードを入れ替えたのでそれでリセットがかかってしまったのかも。さすがにSIMの交換までは先方も考えていなかったのか。メッセンジャー(WhatApp)で指示を仰ぎ再登録を無事済ます。

以上、これ以降は衛生署からの連絡もなく、5月9日の23:59まで自宅待機をすることになった。なおリストバンドデバイスは待機終了後は自分で破棄。つまり使い捨てということだ。

ここまでの様子を読んで「スマホが無い人はどうするのか?」「自宅から緊急で出なくてはならないときはどうするのか?」と思った人もいるだろう。だが、この世界的な危機の状況下で、下調べや準備もせずに帰国することはありえない。例えば筆者は一人暮らしのため、14日分の食料はすべて日本から購入して持ち込んだ。また、この原稿を執筆した現在も、自宅から出ることは一切禁止されているため、自分が自宅にいることを証明できる手段の無い人は香港居民であっても帰国できない(スマホアプリにはリストバンドを複数登録できるので、親のスマホに子供のリストバンドも登録できる。なお、幼少の子供にリストバンドを付けさせるかどうかまでは筆者は知りえない)。しかしここまでやらなければ、水際での感染拡大防止を行うことはできないのだ。

香港は2003年春にSARSの爆発的な発症を起こした前例がある。集合住宅が密集する狭い都市国家の香港では、強力な疫病が発生すると一気に広がってしまうのだ。筆者はSARSの時も香港に住んでおり、毎日のように患者数が急増する状況を実際に見てきた。このままでは香港が滅びてしまうのではないだろうかという悪夢・恐怖を実体験しているのだ。今回の検疫を受け、香港政府はその過去の経験を今回の新型コロナウイルス(COVID-19)の対策で十分生かしていると感じられた。

狭い我が家の机まわり。規則正しく日々執筆しながら過ごしている。