変態的腕時計世界=ビザールウォッチVol.16 Jaeger-LeCoultre/アトモス・トランスパラント

●What’s ビザールウォッチ? 

針も読めなければ、現在時刻もわからない奇妙すぎる時計たち。変態的腕時計=ビザールウォッチ。腕時計とは「時刻を知り、また時間を計るのに使う、腕にのせる器機」である。ところが現代の高級時計の世界には、最高峰の時計技術を駆使しているにも関わらず、針も読めなければ、現在時刻もわからないという“ 奇妙な時計”が生まれている。それこそが「ビザールウォッチ」。誰もが忙しく暮らすスマートフォン時代に現れた、時間を豊かに楽しむための“ 最高の贅沢品”である。
機械式時計は、メカニズムが複雑であるほど時計の価値が高まり、価格にも直結する。しかし複雑な時計機構に遊び心を加えると、ビザール度がぐっと高まってくる。高級時計を知りすぎた人がたどり着く末路へようこそ!

<今月の時計>
Vol.16
Jaeger-LeCoultre
アトモス・トランスパラント

奇跡の時計と共に、家時間を楽しむ

外に出かけていようとも、家で過ごしていようとも、一日が24時間であることに違いはない。ではせめて、美しくて不思議な時計と共に、過ぎていく時間を楽しんでみてはどうだろうか?

Jaeger-LeCoultre
アトモス・トランスパラント

人類の夢に最も近づいた半永久機関

新型コロナウィルスの影響で、時計業界は大きな打撃を受けている。何せ家で仕事をしていると、そこら中に時計があるので腕時計を使う必要がない。ましてやビザールウォッチは、人に見せびらかし、驚かせてこそ価値がある時計である。となれば、ステイホームな状況では魅力は半減だろう。

しかし、そんな状況を憂いていてもしょうがないので、今回は自宅での時間を楽しむための、ビザールなクロック(置時計)を紹介したい。

スイス屈指の名門「ジャガー・ルクルト」は、1833年に創業し、1250以上のムーブメントを開発してきた技巧派。端正なクラシックウォッチが得意なので、ビザールとは縁遠いようにも思えるが、実は1930年代から制作しているクロック「アトモス」は、その美しい見た目からは想像できないビザールな機構を持っている。

時計の後ろにある大きなパーツが、ガスが入ったカプセル。アトモスのメカニズムを考案したのは、エンジニアのジャン・レオン・ルターであり、1928年に特許を取得。その技術を用いて、ジャガー・ルクルトが製品化を行った。

ポイントとなるのは時計の後ろ側にある巨大なカプセル。この中には特殊な混合ガスが密封されており、ガスが温度変化によって膨張と収縮を行う際に動力ゼンマイを巻き上げるという仕組みになっている。巻き上げに必要な温度変化は僅かでよく、1℃の変化でも2日分の動力を得られるという。どれだけ穏やかな気候であっても、温度変化が1℃以下という状況はありえないため、アトモスは、“ほぼ永久”に動き続けるということになる。

この“ほぼ永久”に、大きな意味がある。エネルギーなしで動き続ける機械=永久機関は、有史以来多くの天才科学者が挑んできた謎だった。今では永久機関は存在しないというのが常識だが、それでも永久機関の夢を追い求める人は少なくなく、「永久機関が完成しそうなので出資してください」という「永久機関詐欺」も起きている。いうなれば“錬金術”のような、怪しげで存在しない、眉唾のようなもの。それが永久機関なのだ。

一度動き出してしまえば調整は不要だが、きちんと作動させるためには、必ず水平に置く必要がある。

では「アトモス」はどうか? 大気の温度変化という外的要因が必要であるので永久機関ではないが、その変化量は極めて少なくていい。ただの一度もゼンマイを巻き上げる必要はなく、一度時刻をセットしてしまえば、静かに正確に時を刻んでいく「“半”永久機関」なのである。そのためジャガー・ルクルトの公式資料にも、パワーリザーブ(動き続ける時間)は“半永久”と書かれている。人類の夢であった永久機関に近い機械が、実は90年以上前から製作され、販売されているのだ。しかもこの時計は極めて性能が良いため、スイスのジャガー・ルクルト本社オフィスでも使用されている。世に稀な半永久機関なのに普通に使えるのだ。

歴史あるクロックであるため、クラシックデザインのタイプが定番だが、工業デザイナーのマーク・ニューソン×バカラという豪華なコラボレーションモデルも人気。アトモスは時計愛好家にとっては知られた存在なのだ。

サファイアクリスタルのボックスの中に浮かぶ時計。ぜひともこのデザインが生きる空間に置きたいものだ。

昨年発売された「アトモス・トランスパラント」は、クールでモダンなデザインが特徴。サファイアクリスタルのボックスの中に、ジャガー・ルクルト製のキャリバー563が浮かんでおり、シンプルな時刻表示が時を刻んでいる。時計下部にある大きな環状振り子がゆっくりと動いている様子は、なんとも上品で優雅である。

何もせずとも勝手に時を刻んでいく時計「アトモス」は、不可能なことなどないのだという人間の底力を、我々に示しているのだ。

Jaeger-LeCoultre
アトモス・トランスパラント

機械式半永久ムーブメント、サファイアクリスタル製キャビネット、サイズ縦25×横18.5×奥行き14.5㎝。1,004,000円。
問 ジャガー・ルクルト ☎0120-79-1833
https://www.jaeger-lecoultre.com/

篠田哲生が断言するビザール度!
視認性★★★★★5
メカニズム★★★★★5
コンセプト★★★★★5
プライス★★★★★5