モータージャーナリスト川端由美が体験!
新型コロナウィルス感染拡大が加速させた
自動車メーカーの最新オンライン戦略

新型コロナウィルスの影響で、オンライン上の世界が活況だ。……というより、ビフォーコロナから描かれていたオンラインを活用した世界が、新型コロナウィルスによる外出制限や自粛に伴って、急加速した印象だ。私自身、自宅のリビングに居ながらにして、ジュネーブ・モーターショーの記者発表やランボルギーニのヴァーチャル発表に参加したり、アウディのハッカソンを見学して、トヨタの決算発表の記者会見に参加して、アウディのプレス工場で開催されたクラシックコンサートを聞いたり…と、割と大忙しだった。

ただ、もしSNSやZoomのようなオンラインカンファレンスができなかった時代に、今回のように外出が制限されたら、かなり辛かっただろうが、幸いにも今現在、以前にも増してオンライン上で仕事ができるようになっていることを実感した。

残念なことに、経済活動において、まだまだ「モノ作り」が主流を占める我が国ニッポンでは、自動車工場での生産が止まったことがニュースになっても、こうしたオンライン上でのポジティブな動きはほとんど報道されていない。もちろん、デジモノの読者諸氏であれば、「オンライン時代、カモーン!」といった心意気を持っているだろうから、今回は世のデジタルデ・バイデッドへの気兼ねなく、今、自動車ギョーカイで起こりつつあるオンライン上での変革をお伝えしようと思う。

ランボルギーニの最新モデルを
ヴァーチャル体験

欧米のロックダウンと比べると、日本国内では、多くの人が自主的に外出を控えているものの、散歩や日常品の買い物はほぼ自由だし、医療従事者や食料品供給以外のオフィスワーカーで出勤している人も少なくない。この原稿を執筆している5月上旬現在、ドイツやイタリアの自動車メーカーは徐々に生産を再開しつつあり、外出規制も徐々に緩和されつつあるとはいえ、まだ日本とは比べものにならないほど厳しい規制が敷かれている。

ただ、筆者の仕事に関していえば、新車の発表会や試乗会が軒並み延期/中止となり、東京都で緊急事態宣言が出て以降、試乗車を借りることもほとんどの企業が停止している。いささか個人的な意見となるが、筆者はかねがね「自営業は『自衛」業」と考えて、リーマンショック、東日本大震災といった課題に面するたびに、なんとかなるさの精神で新しいビジネスドメインを開拓して、なんとか乗り切ってきた。しかし今回ばかりは世界中の経済が停滞する中、”開店休業”を覚悟していたのも事実だ。

ところが、である。ロックダウンから程なくして、欧州の自動車メーカーがオンライン上で活発に動き出したのだ。なかでも特筆すべきが、ランボルギーニが拡張現実(=Augmented Reality,AR)を使って発表したことだ。オンラインへの切り替えではなく、オンラインならではという点が画期的である。ランボルギーニは3月に無観客開催されたジュネーブ・モーターショーで発表された「ウラカンEVOスパイダー」の後輪駆動版である「ウラカンEVOスパイダー RWD」の発表会をARで開催した。

COVID-19の影響を受けて、世界中の経済が停滞する中、自動車ビジネスもオンライン活用に大きく舵を切ってきた。ランボルギーニが行ったAR発表会を皮切りに、新たな自動車産業のあり方をみていこう。

「世界的な危機ではあるが、新しいテクノロジーの加速は進んでいます。ランボルギーニでは、新しいコミュニケーションや、刺激的な新しい可能性を開拓します。自宅にいながら、デバイスの上でランボルギーニを楽しむことができます」と、CEOを務めるステファン・ドメニカーリ氏は言う。

パソコンから公式ホームページにアクセスすると、QRコードが表示される。これをiPhone/IPadで読み込むと、自分のスマホやタブレット上で、ランボルギーニの最新モデルをARで体験できる。

「ウラカン」とは、ランボルギーニのエントリーモデルであり、直近にビッグマイナーチェンジが施されて、「ウラカンEVO」へと進化したばかりだ。今回は後輪駆動モデルである「ウラカンEVO RWD」とそのオープントップ版である「ウラカンEVO RWDスパイダー」の2機種が加わった形だ。ミドに搭載される自然吸気5.2リッターV10ユニットは、最高出力610hp/8000rpm、最大トルク560Nm/6500rpmもの強大なパワーを発揮する。アルミやカーボンなどの軽量素材を採用した結果、4520×1933×1165mmのスリーサイズとしては、”超”がつくほど軽量な1.5トンのボディ重量を持つ。それゆえ、停止から100km/hまでをわずか3.5秒で加速し、最高速は324km/hに達する俊足ぶりを発揮する。前245/35R19、後305/35R19とファットな専用開発のピレリP0タイヤを履く後輪駆動モデルとあって、当然のことながら、サーキット走行も意識して、カーボンセラミックブレーキがオプションで設定される。

実在するポルシェのミニカー(赤)とランボルギーニ「ウラカンEVO スパイダー RWD」を同じサイズに縮小して、ARで表示した画面のキャッシュ。

ハイパフォーマンス・モデルゆえに、リアルに試乗してみたい気持ちもないわけではないが、今回のAR発表会は、後輪駆動モデルのためだけに与えられたエクステリア・デザインや、電動ソフトトップならではの開放的なインテリア・デザインを堪能するには適していた。嬉しいことに、iPhoneまたはiPadを持っていれば、誰でも公式ホームページからAR体験が可能だ。ランボルギーニ公式ホームページにアクセスし、表示されているQRコードをiPhoneまたはiPadで読み込むと、最新のランボルギーニをARで体験することができる。

私自身、AR/VR/MRには慣れていて、現実の画像にヴァーチャルの画像を重ね合わせることができるのがARと頭でわかってはいるものの、やはり、自宅のリビングに最新のランボルギーニが乗り込んできたような感覚にはワクワクしてしまう。巨大に拡大して、ドライバーズシートに乗り込んだ気分を味わったり、ミニチュアカーと同じサイズにして、並べてキャッシュを撮ってみたり、カップのふちこさん風にお気に入りのマグカップの上に置いてみたり…と、子ども心を刺激される。もちろん、自宅に素敵なガレージがある人は、実車サイズに拡大して、愛車と並べてみてもいいだろう。

拡大して、運転席に乗り込むような視点でドライバーズ・ビューも楽しめる。スパイダー専用のインテリアの細部までよく見える。
お気に入りのマグカップに乗せて、「カップのふちこさん」風に。

このARによる体験は、アップルによる技術提供があってこそ、実現している。
「ランボルギーニとアップルは、デザインと革新への情熱を共有しています。アップルのAR技術を活用して、世界中のファンが自宅から安全に体験できることを嬉しく思います」と、アップルのワールドワイドマーケティング担当上級副社長であるフィルシラー氏は語る。

ステイ・ホームのあらゆる
可能性を提供するボルボ

ドイツ、フランス、イタリア、スペイン、オランダ、ベルギー、イギリスといったロックダウンされた地域を対象に、ディーラーに足を運ぶことなく、オンラインでクルマを買える「ステイ・ホーム・ストア」を開設したのは、ボルボだ。従来、アメリカではオンラインで購入する仕組みはあったのだが、今回はそのヨーロッパ諸国に対象を広げた格好だ。もちろん、たくさんあるオプションの中からあれこれ選んだり、営業マンと価格交渉するのは新車を買う醍醐味だという人も多いだろう。

「私たちは、このパンデミックの収束を待たずとも、お客さまが自らに最適なボルボを選ぶ好機をご提供したいと考えて、オンラインで使いやすいツールを開発しました」と、ボルボにてコマーシャル・オペレーションの責任者を務めるレックス・カースメーカーズ氏は言う。

ただ、現在のような状況下では、より使いやすいインターフェイスの提供や、顧客とインタラクティブなやりとりができる仕組みを備えることで、仕様の決定、値段交渉、購入手続きまでをオンラインで可能にしたことは、歓迎するべきだ。ユーザーインターフェイスの改良によって、たくさんのオプション装備の中から自分の好みの仕様が選びやすくなったり、インタラクティブなやりとりを行なえるなど、従来なら店舗でしかできないと思っていたことがオンラインで可能になったのは朗報だろう。アメリカ市場では、このほかにも、メインテナンスのためにボルボをディーラーに預けるオーナー向けに車両をピックアップするプレミアム・バレー・サービスも行っている。

ボルボでは、COVID-19対応として、子ども向けの塗り絵やスウェーデン料理のレシピも紹介している。

ハッカソン、遠隔ワーク、社内外に広がる
アウディのオンライン戦略

アウディは、社内外ともに迅速にオンラインの活用を進めている。4月中旬、操業を一時的に停止したプレス工場を会場にして、クラシック・コンサートを開催し、オンラインで配信した。このプレス工場では、近隣への配慮と日頃の協力のお礼を込めて、過去にもコンサートを実施していたが、今回は世界中にオンラインで配信するという粋な計らいを加えた。大きなプレス機を間に置いて、演奏者たちがソーシャル・ディスタンスを確保した状態で座って演奏する様子を見ると、再び、コンサートホールで演者たちが集まる公演が開催されることを祈るとともに、このような状況下で芸術を守る姿勢に感銘を受けた。

ミュンヘン在住の著名バイオリニストであるリサ・バティアシュヴィリ氏とオーボエ奏者として知られるフランソワ・ルルー氏らが出演し、ベートーヴェン、バッハ、ヘンデル、モーツァルトの作品を演奏。オンラインで配信された。

アウディでは、電動レーシングカーによるレース「フォーミュラE」に参加してるが、今年はシミュレーターを使って、本物のレーシングドラバーが参加して、世界中のサーキットをヴァーチャルで転戦して、全9戦を競う。

アウディが参加するフォーミュラEは、シミュレーションによるヴァーチャルなレースを開催し、本物のドライバーが世界のサーキットを転戦して、勝利を争う。

さらに、持続可能なモビリティについてのハッカソンなど、様々な活動をオンラインで行なっている。社内への取り組みにもスポットを当てよう。アウディでは、発売されたばかりの新型「A3」に関して、整備や営業の担当者に加えて、世界90カ国のサービス担当者向けのトレーニングも遠隔で行う。

アウディのTwitterアカウントでは、企業ロゴを使ってソーシャルディスタンスを訴えて話題を呼んだ。

最後に、実用的な遠隔ワークのための車内オフィスをご紹介しよう。日本でも、お子さんが小さかったり、リビングが手狭などの理由で、クルマで仕事をしている人もいるとの報道があったが、ドイツでも事情は似たり寄ったりのようだ。広大な室内空間にWiFiが飛んでおり、USBポートに加えて、オプションで230Vの電源も搭載しているのだから、遠隔ワークに最適だ。長時間勤務でパッテリ残量が気になる人は、「We Connect Go」なるアプリを活用して、車載バッテリーの残量を正確に知ることもできる。

3万5000人もの社員に加えて、ディーラーの教育もオンラインで行っている。

フォルクスワーゲンの売れ筋ミニバンである「シャラン」では、広大な室内空間と車載WiFiや充電装備が充実している点を生かして、遠隔ワーク時のオフィスに活用する提案を行った。カップホルダーやテーブルなどのオプション設定も充実している。

新型コロナウィルスとの戦いはまだ道半ばだが、今回の問題の前後で私たちの行動や生活様式は明らかに変わるはずだ。以前にように、カフェでたわいもないおしゃべりをしたり、気兼ねなく人に会うことができる日が来るのを祈ると同時に、オンラインならではの価値を模索していくことも重視するべきだろう。